――菅首相の超党派協議は民主主義政治に於ける政権交代の手続きを否定するものではないか――
菅首相が6日のテレビ東京の番組だそうだが、今度は法人税引き上げに言及したという。民主党2010年参院選マニフェストで法人税に関して、「法人税率引き下げ――法人税制は簡素化を前提に、国際競争力の維持・強化、対日投資促進の観点から見直しを実施します。あわせて、中小企業向けの法人税率の引き下げ(18%→11%)、連帯保証人制度、個人保証の廃止を含めた見直しを進めます」と謳っているのだから、言及は不思議でもないし、これまでも首相は法人税引き下げにたびたび触れてもいるが、実施時期に言及したのは初めてではないだろうか。
《首相、法人税来年度引き下げに意欲 所得税最高税率引き上げ検討も》(MSN産経/2010.7.6 23:31 )
菅首相「今年暮れには来年度の税制のトータルの絵を政府税制調査会で出す。その中に盛り込まれる可能性は十分にある」
これは、〈早ければ来年度からの実施を目指す考えを示した。〉ものだという。
菅首相「今法人税率が他国に比べて少し高い。間違うと工場が(海外に)移ってしまう。日本の中でしっかりと雇用を守るためには、高い水準ではまずい」
日本の現行の法人税率は40%。税負担をさらに身軽にして、国際競争力に振り向ける。
記事は首相の狙いを、〈「少なくとも2、3年先」としている消費税増税に先行して法人税引き下げを実現し、経済成長を促す姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。〉としている。
同じ6日の日本テレビ番組では所得税の現行40%の最高税率引き上げを検討する意向を示したという。
菅首相「所得再配分機能が低下している。・・・・(消費税と)連動する議論が必要ではないか」
要するに所得税の課税比率を上げて、低所得者の消費税負担とのバランスを取るということなのだろうが、では、消費税増税の場合の年収別税還付はどうなったのだろう。
どうもマニフェストで並べた料理を説明するのに場所を変えた先々で思いついた料理を取り出しては最初の料理の説明不足を補おうとするのだが、どれもつまみ食い程度の説明で終わっている印象をどうしようもなく受ける。
だから、釈明する必要が生じる。
〈自ら提起した消費税増税が参院選の最大の焦点となったことについて〉――
菅首相「やや唐突に受け止められたのはちょっと申し訳なかった。・・・・責任を持った政党は議論に入っていただけるのではないか」
だったら、「参院選が終わったなら、国民が十分に納得のいく、消費税を含む税制の抜本改革のあるべき具体像を描く超党派協議を各党に申し込み、承諾され次第開始したいと思います」で十分だった。
同じ「MSN産経」の別記事――《「法人税来年度下げ」首相発言 実現に疑問符 財源捻出が課題》(2010.7.7 00:22)が題名どおりに首相の法人税引き下げ発言に関して、その実現性にクエスチョンマークをつけている。
〈菅直人首相が所得税の最高税率の引き上げに続き、法人税率の引き下げを来年度にも実施する意向を示した。選挙戦で消費税増税を争点にしたものの内閣支持率が凋落(ちょうらく)する中で、産業界が強く期待する法人税減税を慌てて持ち出した格好だ。ただ、巨額の税収減をどう埋めるかといった課題も多く、実現に向けて首相が指導力を発揮できるかどうかはみえてこない。〉――
かなり疑いの目で見られている。ちょっと甘いのではないのか、甘菅・・・ということなのかどうかは分からない。
日本の法人税の実効税率は40%超で、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均26・3%。国際競争力確保策として菅政権発足後に政府がまとめた新成長戦略に法人税を「主要国並みに引き下げる」と明記。経産省が法人税「5%引き下げ」の明記を要求。対して財政再建を優先する財務省が反対。具体的な税率に踏み込めなかったと記事はこれまでの経緯を解説している。
菅内閣が発足したのは6月8日、日が浅いことを差引いたとしても、少なくとも具体的な税率提示に菅首相の指導力は及ばなかった。
法人税率を5%下げると1兆円もの税収が失われるという。1%で2000億円。確か消費税1%増税で2兆5千億円程度の税収増ということだったと思うが、「自民党案10%」、「自民党案に右へ倣え民主党案」同じく10%なら、+5%で12兆5千億円。法人税5%下げが余程の景気回復につながらなければ、12兆5千億円の予定金額は巨額の赤字解消・財政健全化に捕らぬ狸の皮算用となる。
法人税引き下げの税収減を特定業界を優遇する租税特別措置(租特)の廃止・縮小などで補う考えを示したということだが、〈昨年末の税制改正では、各業界の反対もあって、租特廃止などによる財源捻出(ねんしゅつ)はわずか1千億円程度にとどまった。〉ということなら、あと9倍の指導力が菅首相には必要になる。期待可能な指導力なのだろうか。
記事は最後に最大のクエスチョンマークで以って締め括っている。
〈今回の発言は、減税を歓迎する産業界へのアピールの側面も強く、首相の言葉通り、来年度にも実施される保証はなさそうだ。〉――
「今法人税率が他国に比べて少し高い」から下げる。だが、確か社民党の福島党首だったと思うが、テレビで日本の法人税は決して高くないと言っていた。この高くない理由を「毎日jp」記事――《選択の手引:10参院選 成長戦略 法人減税の大合唱 応分負担、視点欠ける》(2010年7月3日)が解説している。
日本の法人税は約40%(実効税率)だが、欧州連合(EU)各国やアジア諸国では20%台まで引き下げが進んでいる。「このままでは日本企業の競争に不利」となる。
民主党 ――「国際競争力と対日投資の促進」を目的に引き下げ
自民党 ――「国際的整合性の確保」を目的に20%台への引き下げ
公明党 ――引き下げ
新党改革 ――25%引き下げ
みんなの党――20%台
立ち上げれ――10%台
民主党は政権党でありながら、目標値を示していない。政権党としての指導力・責任能力を兼ね備えているからに違いない。
記事はだが、企業の社会保険料負担分も加味して比較すると「決して負担は重くはない」との側面が生じると書いている。
主要国の1月現在の法人税の実効税率(国税の法人税、地方税の法人事業税などの合計)
日本――40・69%・・・国税分30%は99年以来据え置かれたまま
米国――40・75%
英国――28・00%
中国――25・00%、
韓国――24・20%
欧州――04年のEU加盟国の拡大と資本移動の自由化で企業の国外移転を防ぐため税率引き下げ競争が起
きた。
但し記事は、〈研究開発費の一部を控除する「試験研究費税額控除」や、国境を跨いで活動する企業が他国に支払った税額を控除する「外国税額控除」などの減税制度があるため〉、〈実効税率と実際の税負担との間には大きな開きがある〉としている。
税理士の菅隆徳氏(第一経理グループ)による07年3月期の実際の税率調査。
トヨタ ――30・5%
ホンダ ――32・1%
三菱商事――20・1%
三井物産――11・4%
理由は、〈自動車メーカーは試験研究費が控除され、商社では外国税額控除が実際の税率を軽くして〉いるためだという。
加えて、日本の企業は社員の社会保険料の負担が国際比較で相対的に軽いために税負担と合計した場合、法人税率をただ単に機械的に当てはめた程の重税感はないとしている。
財務省がまとめた企業の利益に対する法人税と社会保険料の負担の国際比較(06年3月)(図)
自動車製造業
英国 ――20・7%
日本 ――30・4%
フランス――41・6%
ドイツ ――36・9%
〈社会保障の手厚い欧州の一部と比べれば、まだまだ「身軽」という日本企業の財務構造も浮かび上がる。〉と記事は書いている。
いわば日本の法人税40・69%が実効税率と言っていても、見せ掛けの数値に過ぎないことになる。
これに他国と比較した日本の自動車の売り上げを加えたなら、少なくとも日本の主たる外需産業である自動車産業に関しては国際競争力は低いと言えるのだろうか。
尤も電気産業は薄型テレビやその他の電気製品では韓国勢に押されていると聞くが、法人税の問題だけだろうか。
記事は二人の経済専門家の声を載せている。
第一生命経済研究所・熊野英生主席エコノミスト「法人減税、消費増税ならば福祉国家としては奇妙なあり方になる。企業の活動実態に応じて課税する外形標準課税の導入など、法人税の課税ベースの拡大も必要になるのではないか。・・・・減税だけで成長するわけではない。企業の余裕資金を前向きな投資に振り向けさせる政策が必要だ」
中央大法科大学院・野村修也教授「企業の活力を引き出すためにはさらなる規制緩和が必要。このままでは税率引き下げだけの小手先の成長戦略に終わりかねない」
そして記事の纏め。
〈一律の法人減税ではなく、新たな分野への資金流入と成長を妨げない規制緩和が求められている。〉――
もし民主党や自民党、その他の野党の「国際競争力確保」を名目とした法人税引き下げが正しい政策だとするなら、「試験研究費税額控除」や「外国税額控除」などの減税制度、さらに外国と比較した軽い社会保険料負担等を加味した場合の法人税の実勢課税率をさらに低くして国際競争力をなおのこと高める目的からの引き下げと言うことになる。
消費税を増税した場合、これは一方的な大企業優遇とならないだろうか。
どちらが正しいか経済の素人には分からないが、しかし法人税引き下げを言う場合、単に法人税率を並べるのではなく、企業の税負担の実際の姿を説明すべきであろう。
何ら説明しないままに法人税率を並べて、日本は高い、高いと言っている。これが日本の政治の説明責任なのだろうか。
経済のド素人ではあるが、どうしても法人税を下げる必要があると言うなら、単に税率を下げるのではなく、各企業の法人税額が決まった段階で軽減された法人税額に見合う新株をそれぞれの企業に発行させて、それを政府が買い取る形とする制度は意味はないだろうか。
いわば一種のペーパー取引を行う。
勿論新株発行と売買にそれなりに経費はかかるが、それを前以て差引いた新株発行とする。企業から見た場合、新株発行と売買の経費は差引かれるが、法人税の軽減額の大部分は軽減されたままとなる。税金として取られるわけではない。
政府は単に税収が減るというだけで終わらずに、株券として残る。企業の経営が上向けば、価値がプラスされるし、株主配当として何がしかを得ることもできる。株の価値が相当上がって買い手数多となれば、将来的には売って、税収減を補うこともできる。
例え政府が買い取った株券のうち、企業経営が悪化、倒産等で価値がゼロの紙切れ同然となる株券が生じたとしても、元々税収減となる、“ないカネ”だっただから、問題はないはずだ。
民営化した日本郵政の株式を政府が3分の1とか保有する方針だということだが、それが許されるなら、法人税減額分の株式を発行させて、それを保有しても不都合はないと思うが、素人考えということなのだろうか。
株発行が大量化して、市場価格が相対的に下がる恐れが生じるのだろうか。
意味もない無効な考えだから、日の目を見てないということなのかもしれない。