「どっこいしょ たちあがれ日本」の与謝野馨共同代表が7月14日のテレビ朝日の番組で民主党と自民党の大連立が今後の日本の針路に価値ある貢献をする・・・という言葉を使ったかどうか分からないが、そういった趣旨の発言をしたそうだ。
《「“ごめんと言え”ばかりでは進まぬ」与謝野氏が自民に》(日本経済新聞電子版/2010/7/14 10:43)
与謝野馨「民主党と自民党がしっかり政策調整し、ものを決める(ことが大事)。自民の若い有為な人たちのことを思うと、政権に参加し仕事する状況を作ることが谷垣禎一総裁をはじめ幹部の責任だ。・・・・『マニフェスト(政権公約)を撤回してごめんと言え』と言っていたら何も進まない」――
確か鳩山邦夫が与謝野のことを「頭がいい」と褒めていたと思ったが、多分、鳩山邦夫の頭と比較した“頭の良さ”だと思うが、さすが頭脳明晰の政策通だけのことはある。
自分の願いが実現した場合、自身の進退はどうするのだろうか。そのように働きかけた功績と引き換えに、一度離党し、除名処分を出した自民と民主が大連立した政党に名誉の復帰を図る気なのだろうか。
記事は以上の与謝野の発言と次の結びの解説のみの短い内容となっている。
〈民主党の参院選の大敗については政権交代後10カ月間の運営への批判と指摘。消費税を巡る菅直人首相の一連の発言については「正直」と評価した。〉
与謝野は消費税増税派の立場にあって、自身の利害と一致することから、菅首相を「正直」と褒め称えることができるのだろう。だが、読売新聞社の7月12~13日実施緊急全国世論調査(電話方式)を見ると、自己利害のメガネを通しただけの、物事の全体を見ない解釈に過ぎないことが分かる。
《内閣支持急落38%、不支持52%…読売調査》(YOMIURI ONLINE/2010年7月13日22時39分)
(前回調査7月2~4日実施)
菅内閣の支持率 38%(前回調査45%)
不支持率 52%(前回調査39%)
〈支持率は内閣発足直後(6月8~9日実施の調査)の64%から、1か月余りで26ポイントも低下・・・〉
民主が議席を大きく減らした理由
「菅首相の消費税発言への批判」 37%
「民主党の公約への不満」 31%
「民主党政権の実績への不満」 20%
自民の議席増の理由
「民主党政権への批判」 71%
みんなの党の躍進について
「民主党と自民党への不満」 45%
確かに「民主党の公約への不満」と「民主党政権の実績への不満」をプラスすると51%と半分を超えるが、菅首相の消費税発言から支持率を下げていった事実は事実として残る以上、また、民主党が議席を大きく減らした理由として「菅首相の消費税発言への批判」が最も多い37%を占めている事実と合わせると、今後の政権運営に関係するカードとなった過半数割れを前にして、消費税発言を「正直」とばかり言っていられないはずだ。
にも関わらず、「正直」と言うのは、やはり自己利害の一致以外には理由を考えることはできない。
しかも、その「正直」を裏切って消費税議論の2010年度内取り纏めの約束を先送りする方針を示してさえいる。
但し与謝野が国民の判断は間違っている、自分の判断こそが正しいとした場合のみ、菅首相に対する「正直」評価は的を得ているとすることができる。
だが、そうした場合、国民を愚民視することになる。
例え与謝野の言うとおりに「正直」が事実であったとしても、7月13日午前の参院選後の初閣議で菅首相は閣僚に対して消費税発言を謝罪し、「毎日jp」記事――《菅首相:消費税争点化で党に迷惑かけた--稲盛氏に》(2010年7月14日)によると、14日午前、首相官邸で内閣特別顧問の稲盛和夫日航会長と会談、「唐突に消費税問題を挙げたからこういう結果になり、(民主)党全体に迷惑をかけた。大変反省している」と反省の態度を示すことを「正直」の代償としている。このことを考えると、「正直」と評価するだけでは収まらない問題が生じる。
記事は菅首相が会談した稲盛氏に話したこととして、〈小沢氏との面会を調整しているが具体的な日時は決まっていないと説明した。〉と書いている。
参院選で与党過半数を維持すれば、自身の権力基盤、政権基盤を強固にし、長期政権も視野に入れることができたはずだが、面会が実現した場合の小沢前幹事長に対しても消費税発言を謝罪し、ご協力を願って党の結束を求めて自分から弱めることとなった権力基盤、政権基盤の維持に努めなければならない自ら招いた事態は党人事と閣僚人事から可能な限り小沢派を排除した決定に反する、あるいは自己意志に反する無節操の表現となるはずである。
《【民主党代表選】菅出馬会見詳報》(MSN産経/2010.6.3 23:41)
6月3日の民主党本部での代表選出馬会見――
〈--小沢氏を要職につけるかどうか
菅直人「まあ、文書の中でも申し上げたように、鳩山総理としてですね、やはり政治とカネの問題で自らの問題もあって辞職をすると。同時に、小沢幹事長についても問題があったので、話し合って辞職をするということになったということを話をされていました。そういう意味ではですね、やはりその鳩山代表の思いを大事にしなければならない。もちろん時間の長さということはありますけれども、少なくとも一昨日ですか、昨日ですか、鳩山総理の辞任表明があったわけでありますから、そういう意味では小沢幹事長についてもですね、ある意味ではしばらくそうした国民の皆さんにとってのですね、ある種のこの不信を招いたことについて、少なくとも暫くは静かにしていただいたほうが、ご本人にとっても、民主党にとっても、日本の政治にとっても良いのではないかと、このように考えております」
“日本の政治のため”まで持ち出して、ポイ捨ての遠ざけを行っていながら、小沢前幹事長側からしたら、日本の政治のためにならないとされて蟄居謹慎並みの扱いを受けることとなったのだが、それ程のことを行っていながら、「暫く」が1ヵ月半そこそこで終わって、自分の方から近づこうとしているのである。何のためのポイ捨てだったのか、何ための“日本の政治のため”だったのか、すべてが意味を失う無節操でなくて何と言ったらいいだろうか。
これが与謝野馨が評価する菅首相の「正直」の一つの成果でもある。
与謝野馨の民主・自民大連立発言を扱った同じ「日本経済新聞電子版」――《与謝野氏「民・自連立が一番」 みんなは「デマゴーグの典型」》(2010/7/14 12:35)は与謝野の発言を微妙に変えている。
理解しやすいように最初の記事の発言を再掲。
与謝野馨「民主党と自民党がしっかり政策調整し、ものを決める(ことが大事)。自民の若い有為な人たちのことを思うと、政権に参加し仕事する状況を作ることが谷垣禎一総裁をはじめ幹部の責任だ。・・・・『マニフェスト(政権公約)を撤回してごめんと言え』と言っていたら何も進まない」――
次の記事――
与謝野「民主、自民両党が連立を組むのが一番いい。民主は10人程度の少数政党に頼って振り回されてはいけない。・・・・みんなの党のようにデマゴーグ(大衆扇動家)の典型みたいな政党と組むと、国民が不幸だ。自民党は常識の党だ」――
「自民党は常識の党だ」はどういった意味で言ったのだろうか。
2010年3月10日発売の「文芸春秋」4月号に、《新党結成へ腹はくくった 日本経済を救う「捨て石」になる》と勇ましく題して論文を掲載、〈執行部を交替して新生自民党を立ち上げるのか、それとも新党という旗を掲げて新しいパラダイムを求めていくほうが日本を救うための近道なのか、時間は差し迫っており、私が決断を下す時期はそう遅くはないだろう。〉とこれまた勇ましく散りばめた言葉にふさわしく、散々に自民党谷垣執行部を批判、3月10日発売だから、2月中に原稿を仕上げていただろうから、1カ月以上経過した4月7日付で離党届を提出、コチコチの頭の硬い平沼赳夫と共に平均年齢70歳前後とかの新党「どっこいしょ たちあがれ 日本」を結成、自民党から除名処分を受けておきながら、「自民党は常識の党だ」と平気で言える。
では、何のための美しい言葉を勇ましく散りばめた勇ましい離党だったのだろうか。自身は「常識」の上を行く優れた特異な政治家と位置づけているということなのだろうか。だとしたら、「常識」の意味は「平凡」ということとなって、言っていることに矛盾が生じる。
当然、褒め言葉としての「自民党は常識の党だ」でなければならない。但し褒め言葉とした場合、自身の政治姿勢の終始一貫性を否定することになる。褒めていながら、党執行部を散々に批判して、離党し、新党を結成したことになるからだ。あるいは党執行部を批判し、離党した後になって「自民党は常識の党だ」と気づいたことになって、自身の判断能力、あるいは洞察能力の狂いを逆に証明することになる。
新党「どっこいしょ たちあがれ日本」は今回の参院選で74歳の平均年齢を尚上げることとなる元自民党片山虎之助の比例区1議席獲得の「新党結成へ腹はくくった 日本経済を救う『捨て石』になる」にふさわしい勇ましい成果を上げることができた。
参議院非改選と合わせて3議席、衆院3議席。政治は頭数でもあるから、所詮、政界再編のおこぼれに預かって少数を多数に見せかける必要が生じる。だが、政権党の民主党が連携対象として食指を動かしているんはみんなの党であって、平均年齢が70歳前後と高い「どっこいしょ たちあがれ日本」ではない。例え部分的政策連合であっても、みんなの党と連携を組むことになった場合、頭数を確保できない場合の「どっこいしょ たちあがれ日本」はお先は真っ暗となる。そんなことをさせるくらいなら、あるいはそんなことになるなら、民主・自民大連立を提唱、既に触れたようにその労を取って、その功労者として自民復帰まで視野に入れて自身を大連立の頭数の中に紛れ込ませ、その頭数の一人としての発言力、活動能力を高めようとしているのかもしれない。何しろ遠くまで見通す政治眼力の持主なのだから。
民主党とみんなの党の連携を阻止したい意志が現れた発言が、「みんなの党のようにデマゴーグ(大衆扇動家)の典型みたいな政党と組むと、国民が不幸だ」であろう。
何を以てして「デマゴーグ(大衆扇動家)の典型みたいな政党」なのか、その理由を番組の中で発言していたなら、マスコミは報じていただろうから、理由は言わなかったに違いない。政界切っての理論家だそうだから、自身の理論の中では「デマゴーグ(大衆扇動家)の典型みたいな政党」ということになっているのだろう。
それとも消費税増税の「どっこいしょ たちあがれ 日本」の利害に反してみんなの党が消費税増税絶対反対を掲げていることが「デマゴーグ(大衆扇動家)の典型みたいな政党」ということなのだろうか。
だとしたら、消費税増税反対を掲げている政党はすべて「デマゴーグ(大衆扇動家)の典型みたいな政党」ということになるが、何とも大雑把な政党区分けとなる。
「日本経済新聞電子版」記事の中で書いていた「民主は10人程度の少数政党に頼って振り回されてはいけない」の発言に当たる、同じ14日のテレビ朝日番組の発言として伝えると同時に民主党とみんなの党の連携阻止意志を言葉を違えて伝えている記事がある。《民主、自民の連立が一番いい=与謝野氏》(時事ドットコム/2010/07/14-11:08)
与謝野「民主党と自民党が政策調整して連立を組むのが一番いいことだ。少数政党というしっぽが犬を振り回してはいけない。・・・・連立がいいか、政策協議がいいか、部分連合がいいかは別にして、民主党と自民党がきっちり政策調整して、ものを決める体制をつくる(べきだ)」
大政党たる犬自身が小政党のシッポを振り回すのは構わないが、その逆であってはならないと主張している。みんなの党と民主党が連携した場合、少数政党のみんなの党が大政党の民主党を振り回す大小逆転現象を引き起こすとの警告である。
確かに民主党の方が人数からして多くの民意を受けている。だとしても民意をも逆転させる大小逆転現象を招いたとしても、すべては菅首相自身の身から出たサビである。犬がシッポに振り回されたときは、身から出たサビとして菅首相が責任を取る以外にあるまい。
但し、大小逆転は民主党と「どっこいしょ たちあがれ 日本」が連携しても同じ条件を担わない保証はどこにもない。それを悪だとするなら、小が大を兼ねる政界再編の頭数確保を目的とした少数政党の闘いもそれを狙った新党立ち上げも意味を成さなくなる。その出発点としての与党過半数割れも小政党に限って、価値を失わせる結果となる。比較大政党の自民党のみに価値が認められる過半数割れとなる。
ではなぜ、新党改革も「どっこいしょ たちあがれ 日本」も、みんなの党も与党過半数割れを訴えて参議院選挙を戦ったのだろうか。すべてが小が大を兼ねる政界再編を狙い、自分たちの党こそが、と、政界再編の一角に食い込んで自己存在証明を果たそうとしたからだろう。
与謝野は自身も小政党を立ち上げておきながら、言っていることはすべて矛盾する発言となっている。これも政界切っての理論家だからだろうか。
それともこの程度の認識能力、洞察能力しかないということなのだろうか。
大体が民主と自民が大連立して唯一巨大政党となった場合、内部では主導権争いの党内抗争は起きるだろうが、外に対しては敵が存在しないことになって、政党間の競争原理が麻痺し、その安全性に安住して好き勝手の横暴化する危険性と競争の力学が働かないことによる体質の官僚化、政策の停滞化を招く危険性を抱えることになりかねない。
与謝野のこの大連立願望にはこの視点が一切欠けている。