世論調査で内閣支持率をまた下げた。《内閣支持続落45%、比例投票先・民主3割切る》(YOMIURI ONLINE2010年7月5日00時07分)
読売新聞社の2~4日実施の参院選の第4回継続全国世論調査(電話方式)。前回調査は6月25~27日実施
内閣支持率
菅内閣を支持する――45%(前回調査50%)
支持しない――39%(前回調査37%)
参院比例選投票先
民主党に投票する――28%(前回31%)
自民党に投票する――16%(前回15%)
選挙区選投票先
民主に投票する――32%(前回33%)
自民に投票する――19%(前回16%)
財政再建や社会保障制度を維持するために消費税増税は必要か
必要――65%(同64%)
菅首相は十分に説明しているか
十分に説明しているとは思わない人――89%(同88%)
政党支持率
民主党――34%(前回37%)
自民党――18%(前回17%)
無党派――33%(同31%)
もう一つ、朝日新聞社3、4日実施の全国世論調査(電話)。《内閣支持率下落39%、不支持40% 朝日新聞世論調査》(asahi.com/2010年7月4日22時46分)
前回調査は6月26、27日。
内閣支持率
菅内閣を支持する――39%(前回調査48%)
支持しない――40%(前回調査29%)
参院比例選投票先
民主党に投票する――30%(前回39%)
自民党に投票する――17%(前回15%)
消費税増税に賛成か
賛成――39%(前回調査49%)
反対――48%(前回調査44%)
消費税反対者の内閣支持率
支持する ――30%(前回調査36%)
支持しない――50%(前回調査37%)
記事は、〈消費増税反対の人の離反が顕著だ。〉と解説。全体的に消費税が関係した支持動向ということか。
参院選で議席を伸ばして欲しい政党
民主党――26%(前回調査40%)
自民党――20%(前回調査17%)
みんな――10%(前回調査 7%)
連立を組むとしたらどの党がよいか
みんな――15%
自民党―― 8%
社民党―― 8%
国民新―― 6%
政党支持
民主党――30%(前回調査37%)
自民党――15%(前回調査14%)――
菅首相がマニフェストに掲げた「強い経済・強い財政・強い社会保障」の政策目標達成手段の主要な一つとして提示した消費税増税の一幕が招いた一つの、だが民主党にとっても、菅内閣にとっても無視できない上にダメージとなりかねない大きな結末である。
問題はその提示方法である。
6月17日発表の「2010参院選マニフェスト」には「早期に結論を得ることをめざして、消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始します」としか書いてない。
だが、発表記者会見の菅首相自らのマニフェスト解説発言の中では消費税増税に触れている。最初に「強い経済・強い財政・強い社会保障」を言い、日本の財政の状況が債務残高がGDP比で180%超、この水準で国債発行を続けていくと、あと数年、3年4年という数年の間にはGDP比で200%を超えることが確実だと、日本の危機的財政状況を提示した。
これは一般国民に対して、特に中低所得層に対して生活をしていく上での一つの不安材料を提供したことになる。
続いて、あの“ギリシャの威し”である。「ギリシャの財政破綻から始まるヨーロッパの動揺は問題が決して対岸の火事ではなくて、我が国自身が財政再建を取り組まなければ、例えばIMFといった国際機関が我が国の主権と言うべき財政運営に、それこそ箸の上げ下ろしまでコントロールするようなことにもなりかねない。過去に於いて多くの国が、そういう経験をし、社会が非常に荒んだということもあるわけでございます」と、ギリシャの我が国への二の舞を印象づけた。
これも生活に対する不安材料の提供に当たる。いわば菅首相は不安材料から入っていった。
ギリシャの二の舞に陥らないために他国に頼らない、自分たちの力で「強い経済・強い財政・強い社会保障」を実現しなければならない。そして、「こういう道筋に持っていくために消費税について、これまでも議論を長くタブー視する傾向が政治の社会でありましたが、ここでは思い切ってですね、このマニフェスト、今申し上げたような形で書かせていただいたところであります」と、消費税増税を切り出している。
そのあとで、「今年度内、2010年度内にそのあるべき税収やあるいは逆進性対策を含む消費費税に関する改革案を取りまとめていきたい、今年度中の取り纏めを目指していきたいと考えております」と発言することで、「逆進性対策」と「今年度中の取り纏め」を考えているのであって、すぐ上げるわけではないと一応の安心材料を提供しているが、「逆進性」に関しては具体像を提示しているわけではなく、「今年度中の取り纏め」は「今年度中」の既定路線としていることの提示となって、実際には明確な安心材料とはなっていない。
続けて発言した、「併せて超党派の幅広い合意を目指す努力を行っていきたいと思います」は消費税増税の既定路線の再確認でしかなく、「当面の税率については自由民主党のが提案されている10%を一つの参考とさせていただきたいと考えております」は、具体的な「逆進性対策」を提示しないままの具体的な税率の提示となっているから、国民の多くは、特に中低所得層はそのまま+5%計算で生活への影響を予測したと考えられないこともない。
すべてが明確な安心材料を提示しないままの、逆に不安材料のみ提示した消費税増税となっている。
この6月17日マニフェスト発表記者会見での菅首相の消費税発言を受けた「朝日」と「読売」の共に6月21日付世論調査では、
「朝日」――増税率「10%」に関しては、「評価する」42%、「評価しない」46%
「読売」――「10%」発言を、「評価する」48%、「評価しない」44%となっているが、「評価」は税率が10%に上がっても生活に困らない層、「評価しない」は生活に困る層と見ることもできる。それが「朝日」の場合、大きく増税「反対」に振れたとみることができる。
やはり、マニフェスト発表以降の菅首相の言動が災いしたと見る以外にない。
マニフェストでは、「新たな政策の財源は、既存予算の削減または収入増によって捻出することを原則とします」と書いてはあるものの、散々言ってきたムダ削減については一言も触れず、捻出財源で予算をできる限り賄うとする以外、不足の場合は消費税増税をお願いするかもしれないとも言っていない。
マニフェスト発表記者会見で触れた消費税増税が影響して世論調査で支持率を下げると、6月21日に記者会見を開催。本人は消費税増税の正当化理由とするためと思ってのことだろうが、ここでも“ギリシャの威し”を用いている。
「こうした経済成長を支えるためには、強い財政が必要であります。日本の現状は、多くの方が御承知のように、債務残高がGDP比で180%を超えているわけであります。これ以上借金を増やすことが本当に可能なのか、あのギリシャの例を引くまでもありませんが、財政が破綻したときには、多くの人の生活が破綻し、多くの社会保障が、多くの面で破綻するわけでありまして、そういった意味では、強い財政は成長にとっても社会保障にとってもなくてはならない大きな要素であることは、言うまでもありません」――
国民は赤字国債を発行しないことには国家予算を組み立てることができないことを情報としている。それを「これ以上借金を増やすことが本当に可能なのか」と不安を煽り、“ギリシャの威し”を再度持ち出して、「多くの人の生活が破綻し、多くの社会保障が多くの面で破綻するわけでありまして」と不安を煽る。これは消費税を上げるぞ、消費税を上げるぞと声高に言っているのと同じ不安材料の提示の先行そのものに当たる。
そのため、次いで安心材料の提示を心がけたとしても、心がけただけの安心材料とはならない。
「そこで、この強い財政をつくり出すためにまず、第一にやらなければいけないことは、まさに無駄の削減ということであります。この間、こうした無駄の削減について手を緩めているのかというような御指摘も一部ありましたけれども、決してそうではありません。その証拠といっては恐縮ですが、その証拠には、このための事業仕分けに最も強力な閣僚を配置した。つまり、蓮舫さんにこの責任者になっていただいたこと、更には公務員人件費の削減には、玄葉政調会長を担当大臣となっていただいたこと、また、国会議員の衆議院80名、参議院40名の削減などは、これは政党間の議論が中心になりますので、枝野幹事長に特にこの問題を取り組んでいただく、こういう形で、徹底した無駄の削減は、まさにこれからが本番だと、そういった意気込みで取り組んでまいらなければならない」――
マニフェスト記者会見では触れていないことを支持率を下げてから持ち出したのだから、批判をかわす狙いをそこに見た国民も少なくないのではないだろうか。
09年11月に行った平成22年度予算の事業仕分け第1弾は目標額3兆円に対して事業の削減総額は6900億円。財源捻出効果1.7兆円の実績。2010年5月の公益法人など70法人・82事業を対象とした第2弾は、事業廃止により削減できる国費は約40億円の額で終わっていて、事業仕分けが限定的な効果しかない印象(=情報)を与えていることも、「ムダ削減」発言が安心材料とはならず、批判をかわす狙いだと受け止められても仕方のない証明とはなる。
菅首相は自党の参院選候補者の応援演説でも、不安材料となる“ギリシャの威し”を発し続けた。《低所得者 消費税分全額還付も》(NHK/10年6月30日 17時10分)
菅首相はカナダ開催のサミットから帰国後、6月30日から参議院選挙の全国遊説を再開。この日青森市、秋田市、山形市の順で街頭演説している。
青森市での街頭演説――
菅首相「あの総理大臣も、この総理大臣も、消費税を言って選挙で負けたので、選挙が終わってからにしたほうがいいと言う人もいる。しかし、ギリシャのように、財政破綻したら、まずいちばん弱い立場の人に被害が出る」
菅首相「消費税の話をしないで済むなら、話をしないまま、選挙に入りたいと思ったが、選挙が終わってから『いや実は』と言ったら、やっぱりおかしい。選挙が終わったら、正面からほかの党の人たちとも話をしようと言っている」――
このNHK記事は青森市内の街頭演説での年収に応じた消費税額分の税還付発言に触れず、秋田市の街頭演説で触れる内容の記事となっているが、今までの例からしても話の順番からしても、“ギリシャの威し”に続いた安心材料提示の税還付であろう。
秋田市内での税還付発言――
菅首相「年収が300万円とか350万円以下の人は、かかった消費税分は全額還付をするというやり方もある。あるいは食料品などの税率は低いままにしておくというやり方もある」――
しかし、青森市では「年収200万円とか300万円」、秋田市では「年収が300万円とか350万円以下」、山形市では「年収300万~400万円以下の人」と遊説場所によって還付対象の年収が違って、厚生労働省の「平成21年国民生活基礎調査」、「所得金額階級別にみた世帯数の相対度数分布」を見ると、400万円以下だと46.5%の世帯が該当することになり、テレビ・新聞も消費税を増税する意味を失うと伝えている。
自身の発言が新聞・テレビの解説付きでたちまち情報として全国に流れる、時として世界の至る場所に流れる情報化社会だということを厳しく認識していないらしい。認識が甘いということなのだろう。
折角税還付という安心材料を提示していながら、不安材料を提示した後の安心材料の提示である上に街頭演説の場所ごとに還付対象の年収に違いがあったのでは、与えた印象はいい加減、発言がブレている、無計画、信用できないといった負の印象を与えたとしても不思議はない。
それ以後、菅首相が還付対象の年収水準を口にしなくなったことも、あれは何だったのか、やはり議論した上での発言ではなかったのだ、じっくりと考えた上での発言ではなかったのだと多くの国民の不信を招いたに違いない。
だが、消費税そのものについての発言はやめることはできず、やめたなら、ブレている、トーンダウンだ、これ以上選挙に悪影響を与えることはできないと悟ったから口を噤むことにしたのかとマスコミから叩かれるのは分かりきっているから、同じ発言を続けざるを得ないが、別の不安材料を提示することになった。
《首相“ねじれでは物事決まらず”》(NHK/10年7月2日 18時32分)
7月2日の福井市の街頭演説――
菅首相「財政が破たんすれば、まじめに生活している人たちの社会保障が破壊される。そうしないために、選挙が終わったあと与野党を超えて話し合いをしようと申し上げている。・・・・借金をこれ以上増やさないための話し合いをしようとしたら、自分は知らないと、こんな無責任な政党に、いつの間に自民党や公明党はなってしまったのか。悪いのはどちらという話を超えて、政権交代した今だからこそ、先を見通した相談を始めたい」
菅首相「野党が躍進するような結果になったら、また参議院がねじれ構造になり、物事が決まらなくなる。日本は失われた20年を25年、30年に延ばしてしまうことになる」――
国民は例え民主党が参院選で敗れて「ねじれ構造」になったとしても、野党のどこかと連立を組めば、「物事が決まらなくなる」ことはない、「日本は失われた20年を25年、30年に延ばしてしまうことにな」らないという知識を情報として持っている。
それが「朝日」の世論調査の「連立を組むとしたらどの党がよいか」に現れたそれぞれの数値であろう。
菅首相の「ねじれ構造」発言が効果はなかったということは逆にその言動に不信を与えたことになる。言動に対する不信は政権担当能力への不信に直結する不安材料の提供に相当する。
昨4日日曜日、テレビ討論番組での党首討論で自民党以外の野党は消費税増税に反対した。自民党以外例え少数野党であっても、消費税増税反対で口を揃えて一大合唱すれば、国民向けの大きな情報となる。
しかも、公務員の給与カットとか国会議員の定数削減とか、無駄の削減、景気の回復が先と、菅首相と言っていることはほぼ同じだが、安心材料の提示を先にしている。
自民党の谷垣総裁の場合は、民主党のマニフェストをムダ遣い、バラマキであり、10%では追いつかない、自民党党案の10%以上の増税が必要だと印象付けて、差別化を図る作戦に出ている。
こう見てくると、菅首相は安心材料を上まわる不安材料を日本全国にバラ撒く独り相撲を取っていたことになる。
党首討論で菅首相は所得税の最高税率の引き上げや法人税の課税対象の拡大を検討する考えを表明したということだが、不安材料を先に提示してしまったあとでは、「オオカミ少年」と同じで、何も信用されまい。
その結末が「朝日」の世論調査での消費税増税に対する有権者の賛成・反対の逆転であり、「読売」の「財政再建や社会保障制度を維持するために消費税増税は必要か」で必要を65%とつけていながら、「菅首相は十分に説明しているか」では、「十分に説明しているとは思わない人」が89%のねじれた受け止めということではないだろうか。
悪い調査結果に菅首相は一人貢献してきた。
要するに消費税増税の提示の仕方が稚拙だったと言うことではないのか。自分では良かれと思って参考とした、“ギリシャの威し”を口にすればする程逆効果を生み、超党派協議を訴えれば訴える程、逆効果となったということではないのか。
いくら超党派協議を呼びかけたとしても、政策を実際に推進・実行する中心は政権党の民主党である。多数を占めている以上、民主党の意見が優先されるし、呼びかけられる野党から見た場合、手柄を先取りされる協議とならない保証はない。
消費税をどう提示するか、国民の消費税に対する考え方を読み取る自らの認識能力にかかっていたはずである。だが、読み取る能力に甘さがあるから、提示能力をも欠くこととなった。
“イラ菅”、“逃げ菅”と名誉ある称号を戴いているが、認識の甘さからすると、“甘菅”の称号をも付け加えなければいけないようだ。