今朝のMY Twitter 〈大韓航空爆破犯人金賢姫が日本側の拉致解決に向けた証言獲得の目的に添って来日、拉致被害者家族らと面会の予定。滞在場所は鳩山前首相ならでは貢献できない、菅首相にはマネのできない前首相の別荘提供。尤も菅首相も在任中に蓄財に励み、いくらでも別荘を持てるようになれば貢献できる構図。〉
独裁者金正日命令のもと北朝鮮に拉致された日本人の一人田口八重子さんに日本人に成りすますための日本語教育を受けた大韓航空機爆破事件の実行犯北朝鮮スパイだった金賢姫が韓国から20日初来日。田口八重子さんの家族、その他の拉致被害者家族との面会と、拉致に関わる何らかの証言を得て、拉致解決につなげる狙いの今回の来日だそうだ。
結論を早々に言えば、例え今まで知られていない新しい証言を得ようとも、単にこういうことがあった、こういうことを見た等々の新しい事実の発見で終わり、拉致解決につながることもないし、つなげることもできないに違いない。
北朝鮮側からしたら、もはや北朝鮮に存在しない第三者となった者の証言はいつでも自由自在に否定できるからだ。実際、大韓航空機爆破事件の関与を否定しているし、金賢姫が北朝鮮のスパイであることも当然の措置として否定している。韓国哨戒艦攻撃と同じように既知の事実であったとしても、否定可能としているのである。極端なことを言うなら、日本側からしたら、自己満足で終わる訪日となりかねない。
VIP待遇である。政府チャーター機で来日。降り立った金賢姫は多くの警備員に物々しく守られ、黒塗りの高級車の一台に納まって、何台も連ねた車列で軽井沢の鳩山前首相の別荘に向かった。まさかここで鳩山前首相の出番が、別荘提供という形だが、あるとは思わなかった。首相としての才能評価に影響しない場面で大金持ちであることを改めて印象づけることに役立ったことだけは確かである。
今回の金賢姫来日要請主は拉致問題を担当する中井国家公安委員長。例の30歳代の銀座ホステスに議員宿舎のカードキーを渡していたとか、写真誌に彼女との“路上チュー”を撮られて、一時期有名人となった人物だが、女性スキャンダルをネタとしたマスコミの一大攻勢に沈むと思いきや、逞しくも撃退、今なお大臣の座に命永らえているシーラカンス的人物である。
《“拉致問題解明 前進できる”》(NHK/10年7月20日 15時36分)
20日の閣議後の記者会見。記事から中井国家公安委員長の発言を拾ってみる。
中井国家公安委員長「キム元死刑囚の希望や韓国政府の意向もあり、静かな環境で何日か過ごしていただき、お会いしていただく人にはお会いいただいてという感じでいる。来日まで約10か月かかったが、実現できたことは拉致問題の解明について前進できるものと考えている。どういう話をされるのか予測もつかないが、横田さんご夫妻にとっては、元気なめぐみさんのことを直接、見聞きした人に初めて会われるので一つの励ましにもなるだろうと考えている」
中井国家公安委員長「十数年前、あるいは二十数年前の出来事ながら、キム元死刑囚がいろいろなことを思い出すなかで、新しい証言が得られれば、これはまた大きな前進となると考えている」
滞在場所として鳩山前総理大臣の別荘を用意したことについて――
中井国家公安委員長「個人の家をお借りするかどうかも迷ったが、キム元死刑囚は飯塚耕一郎さんに食事を作ってあげたいと約束をされていた。この実行について考えなければならなかった」――
辞任後、世に埋もれがちだった鳩山前首相の存在を別荘という存在を通して世に再度知らしめた貢献だけは認めてやらなければならない。
確かにめぐみさんが北朝鮮でどういった生活を送っていたか、その一端でも知ることができることは両親にとって「一つの励ましにもなるだろう」。だが、両親にとって懐かしく思い出すよすがとなっても、シーラカンスが言うように、「拉致問題の解明について前進できるもの」と果してなるだろうか。
拉致解決前進の契機とならなければ、既に触れたように彼女と会った、こういった話を聞いた等々の自己満足で終わる。家族にしても拉致の解決が最重要の第一目的である以上、解決に少しでも役立つ面会となってこそ、自己満足を乗り越えることができる。
中井は金正日の元側近で、韓国に亡命した黄長(ファン・ジャンヨプ)元北朝鮮書記に対しても訪日要請を行い、訪米からの帰途、日本に立ち寄る形で4月6日に訪日させている。「拉致問題で何らかの進展になる」としていたが、その結末は、「(拉致新情報は)あったということではない」で終わっている。
黄長(ファン・ジャンヨプ)元北朝鮮書記にしても、何らかの拉致情報を持っていたなら、反金正日の立場を取っていた関係から、韓国政府を通して日本政府に伝えていただろうから、最初から分かっていた一部始終であり、元書記訪日当時、政府内からも、「中井氏のスタンドプレー」と見られていたのも当然の反響であったと言える。
そこで役者を金賢姫に代えたといったところなのだろう。
拉致解決は誰もが承知しているように、北朝鮮の「拉致は解決済み」のハードルを如何にクリアするか、その一点にかかっている。承知していないのは中井シーラカンスぐらいのものだろう。
「拉致は解決済み」である以上、日本側から拉致解決を迫っても、北朝鮮に存在しない第三者となった者の証言はいつでも自由自在に否定できることと相まって、これまでに既に同様の経過を見ていることからも分かるように平行線を辿るだけとなる。このことは新たに新証言を得ようが得まいが関係ない状況として立ち塞がっている。
いわば相手は「拉致は解決済み」をカードとしている。それに対して中井は日本側が乗り超えることができないまま立ち塞がっている状況を無視して、無視できる神経の持主だからだろう、訪日が「実現できたことは拉致問題の解明について前進できる」、あるいは「新しい証言が得られれば、これはまた大きな前進となる」を対抗可能カードとして持ち出した。
自らが手にしたカードが対抗可能と考える合理的判断に立った一連の黄長(ファン・ジャンヨプ)元北朝鮮書記と金賢姫に対する訪日招請だったわけである。
だが、朝のNHKテレビで田口八重子さんの兄の飯塚繁雄さんと八重子さんの長男の飯塚耕一郎さんが「新しい証言はなかった」と話していたことからすると、既に自らが手にしたカードから対抗可能性の多くを既に失ったようだ。
尤も新証言を得たとしても、状況は変わらないことは既に説明した。
北朝鮮の「拉致は解決済み」のカードを打ち破る唯一可能性ある日本側のカードは日本及び他の先進国の経済制裁によって北朝鮮が経済的にもはや国家を維持できない程の最悪の困窮に陥り、日本の経済援助に頼ってくるというシナリオの実現であろう。
そのとき、交換条件として拉致解決のカードを持ち出す。北朝鮮の「拉致は解決済み」のカードは国家崩壊を前にしてもやは効力を失っている。「拉致は解決済み」のカードをカードとして維持する理由はなくなるからだ。
だが、各国が対北朝鮮経済制裁を加えていても、北朝鮮崩壊による朝鮮半島の不安定化と中国領土への北朝鮮難民流入による混乱を嫌って、中国は北朝鮮を崩壊しない範囲で内々に経済援助を施している疑いが事実であって、経済制裁の効力を失わせて北朝鮮を生かしているとするなら、さらに韓国にしても北朝鮮の国家崩壊は対韓国攻撃を代償としない保証はなく、そこまでいかなくても難民流入は中国と条件をほぼ同じとし、その防衛策として最低限の人道援助を行って北朝鮮を崩壊しない程度に生かさざるを得ないだろうから、日本のシナリオは簡単にはカードとなり得ない性格を最初から宿命としていることになる。
国連安保理が昨年北朝鮮の2度目の核実験実施に対する制裁として武器禁輸の拡大などを盛り込んだ決議を採択したにも関わらず、その制裁を逃れて武器を密輸、外貨獲得の手段としていると国連の専門家パネルが7月17日に公表しているが、高額・効率な外貨獲得の道が閉ざされていないことも北朝鮮の国家崩壊の道のりはまだ先のことであることを証明している。
大体が金正日は国民を飢餓に追いやり、餓死させたとしても、ミサイルや核兵器の開発に国家の資金を投入する独裁者である。国民を犠牲にすることを厭わないという冷酷性はなおさらに他国民の犠牲も厭わない冷酷性をも証明する実態としてあり、その実態が容易に想像させる長距離ミサイルや核兵器を持った国が経済的に追いつめられて誘発する攻撃の危険性が逆に人道と称する援助を得る暗黙の威しとなっている面がある。
威しを有効なものとするためには、実験を繰返したり、攻撃の可能性を臭わせる危険な賭けを常に最新の状態に保たなければならない。韓国の哨戒艦攻撃も韓国攻撃の可能性を威しとした経済援助獲得の手段ではなかったろうか。威しが行過ぎて、威しを超える計算狂いが生じた?
権力が父親の金正日からジョンウンに父子継承されたなら、ジョンウンは権力継承の正統性を父親の金正日に置くことになって、父親を正義の存在として扱わざるを得ず、日本の経済援助が喉から手が出る程欲したとしても、拉致首謀者が金正日だと認めるわけにいかず、認めた場合、自身の権力の正当性をも失うことになるから、父親同様に拉致解決を経済援助と交換のカードとし得ず、拉致解決に向けた行動は父親と同じ制限を受けることになるに違いない。
権力の継承を順調に果たすことができ、その権力が安定した場合、拉致解決はさらに遠のくことになる。
結果として、日本政府は中井が懸命に演じていることと同様に拉致解決に何ら策を見い出せない無策を誤魔化すために、金賢姫訪日のような新証言を引き出すと称した儀式を繰返すことになるだろう。