昨8月1日の朝日テレビ「サンデー・フロントライン」に枝野民主党幹事長が出演していた。国会議員削減等の各政策について問われると、「丁寧に説明して」、「謙虚に対応」、「協力できることは」、「色んなご意見を踏まえて」、「柔軟に」等々、「ねじれ国会」を踏まえた協力姿勢を次々と惜しげもなく打ち出していた。
参院選の敗因については、菅首相の消費税発言と枝野幹事長の選挙の結果が出ないうちの選挙選さ中にみんなの党との連携話を持ち出して、候補者の足を引っ張ったことも大きく影響したとされ、それについて反省しているとか、責任を感じているとかおっしゃっていたがとキャスターに問われると、次のようなことを言っていた。
枝野「(みんなの党に連携を持ちかけたと)そう受け取られたことに対しては反省しています(あるいは「責任を感じています」)。言ったことは、例え民主党が過半数を取ろうと、過半数を割ろうと、どの党とも協力できる党とは協力して政権運営していくということを言ったのであって、過半数を割ることを予測した話ではなかった。協力できる党の一つの例としてみんなの党を挙げたのだが、あの当時みんな党が、みんなの党がと騒いでいて、さもみんなの党と連携すると言ったかのように取られた。そのように受け取られたことに対しては反省しています(あるいは「責任を感じています」)」――
録画していない上に至って記憶力が生まれつき低出力なものだから正確には再現できないが、選挙結果がどうあれ、選挙後の政権運営の話をしたのであって、過半数を割ることを前提として連携話を打ち出したわけではないのだから、足を引っ張ったことにはならない、そう受け取られただけのことで、言ったことは間違っていないといったニュアンスのことを表情一つ変えずに堂々と言っていた。
元々信用できない男だなと思っていたが、これ程平気で詭弁を弄するとは新発見であった。しかも責任回避を図っている。堂々と詭弁を弄して責任回避を図るには人間が卑怯、傲慢にできていなければ不可能であろう。
野党が開催要求していた菅内閣の方針を質すための全閣僚出席の予算委員会を与党は強引に拒否、通常国会を6月16日に閉会、参院選を「6月24日公示・7月11日投開票」と決めたのは菅内閣発足でV字回復した支持率に信頼を置いて十分に選挙を戦えると踏んだからだろう。
いわば過半数獲得、少なくとも現有議席維持を前提とした選挙戦突入だった。過半数割れなど、与党も野党も国民もマスコミも誰も考えていなかったし、予想もしていなかったはずだ。
選挙に勝てると計算した過半数獲得、あるいは現有議席維持前提の選挙戦だったから、枝野幹事長の党執行部は小沢幹事長の「当選議員数2人以上選挙区・2人擁立」の戦術をそのままバトンタッチを受けた。
この一連の民主党の戦術を裏返すと、選挙に負けると計算した過半数割れ前提の選挙戦突入ではなかったということである。勝利を予測していたから(現有議席維持でも鳩山前内閣の散々の支持率からすると勝利に入るはずだ。)、予算委員会開催を要求した野党各党に協力する必要を感じなかった。今後とも協力する必要性を頭に描いていなかったからできた予算委員会開催拒否であったろう。
協力の必要性が待ち構えていたなら、誰が強硬な態度を取ることができただろうか。枝野が上記テレビ番組で言っていたように、「丁寧に説明して」、「謙虚に対応」、「協力できることは」、「色んなご意見を踏まえて」、「柔軟に」対応していたに違いない。現在のへりくだった低姿勢を見れば容易に想像がつく。
だが、菅首相の6月17日の消費税発言以来、各社世論調査で揃って内閣支持率を下げていき、参院選序盤情勢、さらに中盤情勢の世論調査でも内閣支持率の一層の下落と共に予想獲得議席数でも、過半数獲得微妙から、過半数割れ、40議席台と下げていった。
枝野幹事長のみんなの党連携発言は6月27日に行われた。《枝野氏の連携発言 波紋広がる》(NHK/10年6月28日 4時27分)
枝野「参議院選挙が終わったら、政策が一致したり、近い部分では、どの党とも協力できるところは協力できる。・・・・みんなの党とは、行政改革や公務員制度改革のかなりの部分で一致している。政策的な判断としては、いっしょにやっていただけると思う」
テレビ朝日の番組で言っていたように、「例え民主党が過半数を取ろうと」とは言っていない。あるいはこれに近い言葉も使っていない。
大体が、「いっしょにやっていただけると思う」は協力要請の発言であって、予算委員会開催を拒否した当時の民主党が自ら想定していた過半数獲得、あるいは現有議席維持が命じていた野党の協力を前提としない態度を変えるものであり、一般論から言っても、与野党の議席関係が逆転した状況下に必要となる、いわば過半数割れ前提の「「いっしょにやっていただけると思う」であり、「民主党が過半数を取ろうと、過半数を割ろうと」といった選挙結果に関係しない協力要請とは別次元の「いっしょにやっていただけると思う」であろう。
枝野発言を伝え聞いたのだろう。
みんなの党渡辺代表「民主党とどこが一致できるのか。公務員制度改革は、まるっきり別だ。郵政民営化も、われわれは完全民営化を主張している」
野党は特に選挙中は野党を批判して自己存在を際立たせることを自らの役目としている。与党は野党から集中砲火を浴びる立場にある。与野党がそういった関係性にあることの合理的判断を下すこともできずにみんなの党の名前を挙げて、選挙が終わらないうちから、「いっしょにやっていただけると思う」と過半数割れ前提の協力要請をした。
民主党内「みんなの党に限らず、政策ごとの連携を探るのは当然だ」
執行部としたら、過半数割れが色濃くなった状況下ではスムーズな国会運営を見据える必要上、当然な肯定だろう。枝野幹事長と同一歩調を取った。だが、選挙中でありながら、過半数割れを前提とした発言を行うことの問題点を何ら考慮していないことに何ら変わりはない。
国民新党下地幹事長「今は与党で過半数を超える議席を得ることを目指すべきで、選挙後の連携のあり方を模索する時期ではない」
民主党参院幹部「参議院で与党が過半数を取れないことを前提にしている発言で許されない。みんなの党は、郵政改革法案に反対しており、国民新党との関係を損ねることにもなる」――
「参議院で与党が過半数を取れないことを前提にしている」と言っている。
菅首相が消費税発言する前の選挙戦突入時は過半数獲得、あるいは現有議席維持を前提としていた。だから、野党の協力は必要ないと野党要求の通常国会での予算委員会開催を拒否、強引な参院選突入を図った。
だが、菅首相の6月17日の消費税発言を境に状況が変化していった。読売新聞社が菅首相が消費税発言をした6月17日の翌18日から20日にかけて実施した「参院選第2回継続全国世論調査(電話方式)」による菅内閣支持率は前回59%に対して55%。不支持率は32%(同27%)。政党支持率では、民主35%(前回38%)、自民15%(前回17%)。
民主、自民共に支持率を下げている、この世論の動向は票がみんなの党に流れていく序章だったのかもしれない。
菅首相が消費税発言をした6月17日の翌々日の19日、20日実施の朝日新聞社の全国世論調査(電話)では、内閣支持率は6月12、13日実施の前回59%から今回50%。参院比例区投票先では、民主36%(前回43%)、自民17%(同14%)、みんな5%(同4%)となっている。
ここでは自民党も比例区投票先で上げていて、民主党不利の状況を一層示している。
さらに朝日新聞社が6月24、25の両日実施、翌6月26日報道の参院選序盤情勢の世論調査によると(《民主、過半数微妙 50議席台前半か 朝日新聞序盤調査》(asahi.com/2010年6月26日5時4分)、
(1)民主は選挙区で伸び悩み、50議席台前半程度で、非改選62議席を合わせて単独過半数(122議
席)はきわめて微妙
(2)自民は1人区では民主と互角の戦いをしており、40議席台をうかがう
(3)みんなの党は選挙区、比例区合わせて10議席ものぞめる状況
このような世論動向下では与党が過半数を割る最悪の場合は想定できたとしても、「民主党が過半数取っても」と言える状況には全然なかった。当然過半数を割った場合の参院選後の政局運営の模索が必要となる。但しまだ選挙中であり、はっきりとした選挙結果が出ていないのだから、あくまでも水面下で行わなければならない。
だが、そういった必要とされる状況判断を行うだけの判断能力もなく、朝日世論調査報道26日の翌6月27日の枝野幹事長は、「参議院選挙が終わったら、政策が一致したり、近い部分では、どの党とも協力できるところは協力できる。・・・・みんなの党とは、行政改革や公務員制度改革のかなりの部分で一致している。政策的な判断としては、いっしょにやっていただけると思う」と発言。
状況を判断する能力を欠いていたとしても、この発言は当時の世論動向に符合させた発言であり、幹事長という党執行部の立場上からも符合の必要性に応じた発言でなければならない。当時の世論動向に符合した発言であることによって、発言内容に整合性が生じる。
いわば当時の世論動向に符合しない、テレビ番組で発言した「例え民主党が過半数を取ろうと、過半数を割ろうと」云々の前者の「例え民主党が過半数を取ろうと」という仮定は全く以ってあり得なかったということである。
詭弁を用いて自己責任を回避した。
再び言う。堂々と詭弁を弄して責任回避を図るには人間が卑怯、傲慢にできていなければ不可能であろう。