自分の住む国がどんな国であっても、その国のために戦っていいわけではない。軍部ファシズム・天皇を神とした独裁国家のために戦うのは愚かな国民のすることで、戦前の日本がそうであった。
そうでないなら、キム・ジョンイル独裁体制の北朝鮮国家のために戦争した場合の北朝鮮国民を我々日本人にしても「国のために戦った」と、「正しいことをした」と価値づけなければならなくなる。
同じ戦うなら、国を基準とするのではなく、自由と民主主義の普遍的価値観のために戦うべきである。
大阪の市民グループ「政治資金オンブズマン」のメンバーが小泉政権時の平成17年(2005年)から18年(2006年)にかけて支出された官房機密費の使い道を示す領収書などを公開するよう国に求める訴えを大阪地裁に起している。
《“使途の公開は国益害する”》(NHK/10年8月13日 18時35分)
平成18年から官房機密費の事務を取り扱う内閣現職の責任者千代(ちしろ)幹也内閣総務官が8月13日証人として出廷。
千代証人「裁判長、国内外の難しい政策課題を解決するために情報を収集したり、協力を依頼したりするための必要経費であって、日付や金額も含めて領収書などが公開されると相手が類推されてしまい、信頼関係が崩れる可能性があり、国益を害することになります。情報を公開しない国の判断は正しいものと信じております」(少々脚色)
「情報を公開しない国の判断」も脚色すると、「情報を隠す国の判断」となる。
原告の上脇博之神戸学院大学大学院教授がインタビューに答えている。
上脇教授「日付や金額を公開することが国益を害するとは常識的に考えられない。全面非開示とした国の判断を裁判所が認めるとは思えず、勝訴が出ると思う」
《機密費「公開あり得ない」 現職官僚、異例の法廷証言》(47NEWS/2010/08/13 18:10 【共同通信】)
〈千代氏は安倍晋三官房長官時代の2006年7月から長官を補佐する内閣総務官を務め、機密費の管理などを担当。機密費をめぐり現職官僚が法廷で証言するのは異例。〉
〈千代氏は事前に提出した陳述書の内容に沿って質問に答えた。〉
千代「裁判長、重要政策に適切に対処するには各方面の『生きた情報』が不可欠なのです。生きた政治には生きた情報。日本社会には本音と建前があり、相手の体面を保ちながら本音を理解するのが何が何でも重要なんです。裁判長、そのためには、氏名などの情報が将来明らかにされないことが保障されなくてはなりません。裁判長、個別の支払額が明らかになれば、他人と比較して金額が低かった協力者が内閣を見限って情報を暴露する恐れがあります。これは絶対避けなければなりません」(少々脚色)
「個別の支払額が明らかになれば、他人と比較して金額が低かった協力者が内閣を見限って情報を暴露する恐れがあります」とは、情報提供者には「国益のため」の口実は通じず、カネの額しか通じないということを言っていることになる。
国益の体現者が国益をクスリにもしていない手合いを相手にしているとは何とも情けない図である。
いわば情報提供者は国益のために情報を売るのではなく、純粋にカネのために情報を売る。国益を目的に情報提供を求めているのに対して相手はカネが目的で情報提供する。「国益のためだ、金の多い少ないではない」とタンカを切る類の人間が相手ではない。
一方は国益を旗印とし、一方はカネを旗印としている。そのミスマッチのご苦労は絶えないに違いない。
国益の重要性を知っている者にとっては、金額・使途を含めた官房機密費の非公開性・秘匿性は理解できるはずだ。何と言っても国益のためなのだから。戦前、国民のためと言って、国民を散々に戦場に駆り立てた。官房機密費の場合、国益のためと言って、年間億単位のカネを惜しげもなく駆り出していく。
官房機密費の性格を端的に言うと、国益になること以外には使わない、国益になることにのみ使うと言うことになる。情報提供者に渡すとき目には見えないが、万札の一枚一枚に「国益」というスタンプが押してあるといっても過言ではない、そう譬えてもいい程に“国益のため”を染み付かせた支払い行為となっているに違いない。
但し、相手はカネの額、札束の厚さを問題とする。
今年の4月30日に小渕内閣で1998年から99年にかけて官房長官を務め、現在議員を引退している野中広務が官房機密費の国益性について話している。
野中広務「首相の部屋に月1千万円、野党工作などのため自民党の国会対策委員長に月500万円、参院幹事長にも月500万円程度、評論家や当時の野党議員らにも配っていた。毎月5千万~7千万円くらいは使っていた」
野中広務「前の官房長官から引き継いだノートに、政治評論家も含め、ここにはこれだけ持って行けと書いてあった。持って行って断られたのは、田原総一朗さん1人。与野党問わず、何かにつけて機密費を無心されたこともあった。政治家から評論家になった人が、『家を新築したから3千万円、祝いをくれ』と小渕(恵三)総理に電話してきたこともあった。野党議員に多かったが、『北朝鮮に行くからあいさつに行きたい』というのもあった。やはり(官房機密費を渡して)おかねばという人と、こんな悪い癖がついているのは絶対ダメだと断った人もいる」
新党大地代表であり、衆院外務委員長の鈴木宗男が7月21日の民放番組のインタビューで野中広務と同様に官房機密費の国益性について語っている。
《「沖縄知事選に機密費使用」 “宗男証言”に官房長官「ノーコメント」》(MSN産経/2010.7.22 12:20)
記事は、小渕内閣の官房副長官を務めていた〈平成10年(1998年)の沖縄県知事選で、現職・大田昌秀氏を破った稲嶺恵一氏の陣営に機密費から3億円が渡されたと語っている。〉と書いている。
対して仙谷官房長官が7月20日の記者会見で記者から、〈「事実確認をするか」と問われたのに対し、「ノーコメント」と明言を避けた。〉という。
官房機密費の絶対外れることのない国益性を信じて、「ノーコメント」と答えたに違いない。
大田昌秀氏は米軍基地反対派に属していて、普天間基地移設問題では県外移設を主張していた。当時の自民党政権にとっては都合の悪い存在だった。都合の悪い奴は排除しろとばかりに対抗馬に3億円を渡して、知事選の資金援助とした。そして成功した。
もうかなり以前からマスコミによって海外に出張する政治家への餞別、与野党議員に対する背広代やパーティー券購入等の国会対策に充てられていたことが報道されていたことと野中広務や鈴木宗男の機密費の国益性についての話からすると、国益のためと言うよりも、「国益のため」を口実に時の政権維持のためにカネをバラ撒いているように見えてくる。
尤も政権担当者にしたら、自分の政権が維持されることが国益と信じているのだろうが、実質は政権維持が目的のカネのバラ撒きに過ぎない。
特に知事選勝敗の帰趨にまで億のカネを使って関与するのは、その実効性の如何に関わらず、政権自らにとっては国益かもしれないが、国益の名を以てしても許すことはできない民主主義を歪める行過ぎたカネのバラ撒きであろう。
要するに国益の名の下に国益に相当しないカネのバラ撒きもあり得るということである。それを国益と名前をつけた口実で隠す。「公開すると国益を害する」ことになるわけだ。