自分の住む国がどんな国であっても、その国のために戦っていいわけではない。軍部ファシズム・天皇を神とした独裁国家のために戦うのは愚かな国民のすることで、戦前の日本がそうであった。
そうでないなら、キム・ジョンイル独裁体制の北朝鮮国家のために戦争した場合の北朝鮮国民を我々日本人にしても「国のために戦った」と、「正しいことをした」と価値づけなければならなくなる。
同じ戦うなら、国を基準とするのではなく、自由と民主主義の普遍的価値観のために戦うべきである。
同時多発テロ事件で崩壊したビル跡地近くに建設計画のイスラム教礼拝施設「モスク」でアメリカが揺れている。《同時テロ跡地のモスク建設にゴーサイン 計画始動へ》(CNN/2010.08.04)
イスラム系事業者が世界貿易センタービル近接地の1858年建築のビルを建て替えてイスラム礼拝所(モスク)を含むコミュニティー施設を建設するプロジェクトを立ち上げ、建て替え許可を求めたことに対してニューヨーク市の歴史的建造物保存委員会がそのビルを歴史的建造物に指定するかどうかを審議。
〈ビルが指定を受けた場合は取り壊しや外観の大幅な変更が禁じられ、施設建設のプロジェクトも見直しを迫られる。しかしこの日の採決では、全会一致で「指定せず」の結論が出た。これを受け、建設を計画するイスラム系事業者はただちにプロジェクトの始動を宣言した。〉
但し、〈プロジェクトに対しては、同時テロ犠牲者の遺族らへの配慮などから反対の声が続出。〉
その代表格が2008年大統領選で共和党副大統領候補だったペイリン前アラスカ州知事。
〈ツイッターで、ここにモスクを建てることは「不必要な挑発」であり、癒しの妨げになると呼び掛けた。一方、ブルームバーグ市長らは支持を表明していた。〉・・・・
オバマ大統領も建設支持を打ち出した。《米大統領:モスク建設支持 グラウンドゼロ近く》(毎日jp/2010年8月14日 18時52分)
ホワイトハウスでイスラム教徒のラマダン(断食)明けの夕食会を開催。席上、〈テロ犠牲者の遺族の苦しみは「想像を絶する」とし、モスク建設に反発が起きていることへの理解を示〉しつつ――
オバマ「宗教の自由に対する米国の誓約に揺るぎがあってはならない」
オバマ「米国では他のすべての人々と同じく、イスラム教徒にも宗教(の教え)を実践する権利がある」
但し記事はCNNの8月11日公表の世論調査を引用して、〈米国民の68%がモスク建設に反対し、賛成の29%を大きく上回っている。〉と書いていて、その反撥の強さを窺わせている。
記事が伝える米トリニティー大学の米国の宗教別人口推計(08年)は、成人のイスラム教徒人口は約135万人で、90年の約53万人に比べ倍以上に増加。全成人人口に占める割合は0.6%。一方、キリスト教徒の割合は86%から76%に低下というから、建設賛成の29%はイスラム教徒以外の者が大部分を占めることになる。
大統領の建設支持表明態度を記事は、〈大統領は夕食会で、モスク建設が市の法律に触れていない点にあえて言及。秋の中間選挙を控え、政治問題化させないための予防線を張ったとも言える。〉と解説している。
宗教の自由を訴える一方、ニューヨーク市の法律を持ち出したのは68%のモスク建設反対の国民を頭に置いた発言だと見ているわけである。
ニューヨークのブルームバーグ市長も建設支持の立場を取っている。《モスク建設 NY市長も支持》(NHK/10年8月17日 10時8分)
〈オバマ大統領の発言について「拍手を送りたい」と称賛したうえで〉――
ブルームバーグ市長「反対派によって建設が阻止されれば、アメリカは悲しい日を迎えることになるだろう」
それ程までに宗教の自由、思想・信教の自由は大切な価値観だとしている。
記事は最後に次のように結んでいる。〈モスク建設をめぐっては、ニューヨークだけでなくアメリカ各地で対立が起きており、テロによる心の傷あとと宗教の自由という複雑な問題が絡んで高い関心が集まっています。〉・・・・
建設反対が同時多発テロの跡地近くの建設であるために遺族の感情を刺激することが許せないということだけが理由ではなく、同時多発テロを起したイスラム教への元々の反撥が素地としてあることを窺わせる。
NHKのニュースでやっていたが、件の建物の中では金曜日ごとにイスラム教の礼拝が既に行われていたと言うことである。だが、建て替えて、それを正式にイスラム教のモスクとすることを許さない。
オバマ大統領は建設支持を打ち出したが、16日付の「毎日jp」記事は、《オバマ米大統領:NY・グラウンドゼロ近くのモスク建設計画、支持撤回》(2010年8月16日)と伝えている。
記事副題が〈中間選挙苦戦予想、深入り回避〉となっている。
やはり問題となったのは68%の建設反対の国民世論なのだろう。8月14日の発言だそうだ。
オバマ大統領「モスク建設を決定した見識について論評したのではない。今後もしない。建国以来の米国民の権利を論評した」
記事はこれを、〈一般論を述べただけだと支持を事実上撤回した。〉発言だと解説している。
バートン大統領副報道官「大統領は前言を撤回したのではない。すべての地域での計画に評価を示すのは大統領の仕事ではない」
「宗教の自由に対する米国の誓約に揺るぎがあってはならない」が「建国以来の米国民の権利を論評した」発言なら、イスラム教徒にも厳格に反映させて然るべき権利となる。
記事は、〈大統領は13日に「イスラム教徒にも宗教を実践する権利がある」としたうえで、モスク計画に触れ「それは祈りの場所を建設する権利を含む」と支持を明言していた。〉が、〈11月に控えた中間選挙で与党・民主党の苦戦が予想され、イスラム教徒との共存が政治問題化するのを避けようとしたとみられる。〉と支持撤回の背景を解説している。
オバマ大統領と同じ民主党に所属する米民主党のリード上院院内総務のモスク建設反対も一部のマスコミは選挙事情だとする見方をしている。
《モスク建設問題、全米レベルの争点に拡大》(MSN産経/(/2010.8.17 18:23)
リード「信教の自由は尊重するが、モスクはどこか別の場所に建てられるべきだと考える」
〈11月の中間選挙で再選を目指すリード氏は、民主党への支持が低迷する中で苦戦が伝えられており、選挙対策の面で大統領と一線を画すのが得策と判断した可能性もある。>・・・・
「別の場所」はテロ犠牲者遺族への配慮とはなり得るが、しかしモスク建設反対はニューヨークだけの問題ではなく、全米各地で起きている。「宗教の自由に対する米国の誓約」を譲歩することにならないだろうか。
他宗教に対する信教の自由の否定は自宗教の他宗教による信教の自由の否定を相互価値としなければならないはずだ。自らは許されるが、他は許されないとすることはできない。建設反対派はこのことを自覚すべきである。「宗教の自由に対する米国の誓約」を自ら放棄する行為であり、他宗教から同様の扱いを受けたとしても異議申し立てはできないことを承知しなければならない。
自由の否定に対する否定を誘発して否定と否定が対立した場合、最悪衝突した場合、相互に不寛容な孤立化と相互不信・相互憎悪への道を開く危険性をもたらしかねない。
これはビン・ラディンに代表されるイスラム過激派がキリスト教を含む西欧文明に対して自らを不寛容な状態に孤立化させて不信と憎悪を剥き出したことに西欧文明側がイスラム過激派を越えてイスラム文明一般に不信と憎悪を以って応える過剰な不寛容を示す。
既にアメリカ国民の分裂は始まりつつあるように見えるが、それが決定的な分裂となる予感がしないでもない。その予感とは、オバマ大統領は大統領になる前に、「リベラルのアメリカも保守のアメリカもなく、ただアメリカ合衆国があるだけだ。黒人のアメリカも白人のアメリカもラテン人のアメリカもアジア人のアメリカもなく、ただアメリカ合衆国があるだけだ」とかつて演説していたが、そこにイスラム教徒を想定していなかったわけはないだろうから、自分が意図した“アメリカ合衆国”に正反対に反した動きへ加速していく予感でもある。
絶対譲ることのできない思想・信教の自由を否定しようとする分からず屋が68%もアメリカにもいるということのように思えるが、そういうことを示してもいるということではないだろうか。