普天間問題が相変わらず“先送り”と“変更”の迷走を続けている。移設の二大テーマである「沖縄の負担軽減」と「普天間の危険除去」を偽りとする迷走以外の何ものでもない。口を開けば「一日も早い沖縄の負担軽減」と「一日も早い普天間の危険除去」と言ってきたことが空耳と化す。確か、負担軽減と危険除去は待ったなしだとも言っていたはずだ。
「国外、最低でも県外」がまさかの自民党政権案の辺野古に戻って、その正当化のように環境に負荷を与える埋立て方式ではなく、より環境型の杭打ち桟橋方式だと持ち出した。
だが、米側から杭打ち桟橋方式は敵の攻撃に弱く、一旦桟橋が破壊されたなら修復に時間がかかる、波をかぶると使用不能に陥るといった難点を指摘され撤回。
撤回の理由はただそれだけではない。《辺野古「埋め立て」に回帰 「くい打ち桟橋」方式は断念》(asahi.com/2010年7月15日3時5分)
杭打ち桟橋方式は鳩山前首相が在任中に持ち出した案だが、その建設費を防衛省が試算。従来計画の約4千億円を大きく上回る1兆円超。工期も長期化、14年の完成期限に間に合わず、大幅に遅れる。
要するに建設費・工期とも前以て試算して予算上と期日上の実現性を考慮せずに杭打ち桟橋方式を埋立てよりも環境に優しいからと持ち出した。何という無計画性に立った杭打ち桟橋方式のアイデアだったのだろう。
あくまでも環境優先で金額的には1兆円かかろうと2兆円かかろうと構わなかったとしていたとしも、工期は譲ることのできない条件のはずだ。アイデアは常に実現可能性の検討を加えた確固たる内容を備えていなければならないはずだが、そうではなかった。
結果的に言ってきた環境配慮がすべてウソになり、辺野古案だけが残ることとなった。辺野古に戻すけれども、滑走路建設は環境型とするとした条件が消えたなら、辺野古に戻す理由は大分なくなるはずだが、辺野古だけは残した。
辺野古移設の場合の従来の日米合意の滑走路は「V字案」であった。ここに来て、日本政府は滑走路1本の「Ⅰ(アイ)字案」を持ち出して、「V字案」と共に検討する複数案を日米両国で作成する報告書に併記する方針だと言う。
但し、アメリカ側は従来どおり「V字案」を主張しているそうだが、日本の主張が通れば、滑走路1本の「Ⅰ字案」となる。現在のところ、どちらの案で決着するか当然のことだが、可能性は別にして不明である。
この普天間に代る日米検討の代替施設2案について、日本政府が工事の規模や環境への影響などを比較した試算結果を明らかにしたという。《Ⅰ字案なら埋め立て25%減 政府、辺野古V字案と比較》(asahi.com/2010年8月3日15時2分)
〈日本側が主張する滑走路1本の「Ⅰ字案」は、従来の日米合意の「V字案」に比べて埋め立て面積で25%、必要な土砂量で10%少なくできるという。〉――
埋め立てに伴うサンゴの消失面積
「V字案」――6.9ヘクタール
「Ⅰ字案」――5.5ヘクタール
絶滅危惧種指定のジュゴン生息に必要な藻場の消失面積
「V字案」――78.1ヘクタール
「Ⅰ字案」――67ヘクタール
環境型の杭打ち桟橋方式は断念したものの、環境配慮重視は忘れていなかった。徒に辺野古のみを残しわけではないということなのだろうか。
記事は、〈今回の試算は、日本側が推すⅠ字案の優位性を示す狙いもあるようだ。〉と解説しているが、滑走路2本よりも1本の方が土砂埋立て量も土砂埋め立て面積も少なく済むのは当然である。建設費も安く上がる。工期も短く済む。
但し「V字案」と比較した場合のその実現可能性である。記事は次のように書いている。
〈ただⅠ字案は、工事の規模が比較的小さい一方で、米軍機が視界が悪いときなどに計器飛行で離陸する際の飛行経路が内陸部のリゾート施設の上空を通るため、地元の理解を得るのが難しいとみられている。米側は事故などで片方の滑走路が使えなくなっても離着陸ができるV字案を有力視している。 〉
「Ⅰ字案」の場合、普天間の危険除去が辺野古の危険となって身代わりする危険性が生じることになる。このことに対して環境により優しいのだから、我慢しろと言うのだろうか。万が一、天候不順の悪化した視界の下、墜落事故でも起きたなら、日本政府は言い訳が効かないだろう。
普通の感覚の実現可能性からしたら、「Ⅰ字案」はより環境型と言えたとしても、「V字案」よりも住民に対する危険性の点で見劣りがするように思える。
ではなぜ日本政府は「Ⅰ字案」を持ち出したのだろうか。「V字案」と比較していくら環境型だと言っても、軍事的実用性に欠けるからと断念に追い込まれたなら、杭打ち桟橋方式断念を前科とする、その再犯に当たることになる。
その犯行動機が問題となるが、杭打ち桟橋方式の場合は滑走路建設は埋立てではなく、より環境に優しいことを自民党政権案の辺野古案回帰の正当理由として持ち出し、断念して辺野古案のみを残した。
同じ形式の犯行動機だと考えると、最終的に残るのは「V字案」のみだから、「V字案」を残すためが犯行動機の「Ⅰ字案」であり、その断念と言うことになる。
いわば環境重視、より環境に優しい案を模索したという努力の痕跡を残して、それを以て「V字案」を正当理由とする犯行ではないだろうか。あるいは迷走を繰返した上で自民党案を丸呑みすることの正当理由とする。
色々と努力したが、唯一残されたのが「V字案」しかなかったと最終的に「V字案」を納得させるためのゴマカシなら、自分たちを追い詰めるだけだろう。ゴマカシはいつかは現れるし、ゴマカシからは満足な結果を生まない。
政府は8月末まで決着と日米合意していた滑走路の位置、形式、工法等の決定を「V字案」と「Ⅰ字案」の報告書への両論併記にとどめて、11月の沖縄県知事選以降に先送りする方針でいたということだが、菅首相は8月2日夜、記者団に決着時期の先送りを自ら認めたという。
《普天間決着、期限設けず=先送り認める-首相》(時事ドットコム/2010/08/02-21:21)
菅首相「いつまでにこうする、こうなるということは、誠心誠意やっていくという以上のことは言えない状況だ」――
菅首相「日米での合意を踏まえ、同時に沖縄の負担軽減をできる限り図っていく。この基本姿勢でこの問題に臨んでいく。沖縄の頭越しで決着するようなことは考えていない」――
「誠心誠意やっていく」と言っているが、「いつまでにこうする、こうなるということは」皆目見当がつかない程度の「誠心誠意」にしかなっていない。譬えるなら、誠心誠意おカネはきちんと返すつもりです。しかし「いつまでにこうする、こうなるということは」はっきり言えませんと同じ程度の誠心誠意だということである。
自分から強力に働きかけて望ましい状況をつくり出すのではなく、決着・決定を状況次第の他力本願としているからだろう。11月の沖縄県知事選で辺野古移設容認派の知事が当選するのを淡い期待を抱いて待つ。
だが、反対派の知事当選となったなら、最悪の事態となり、先送りした意味を失う。
また先送りは普天間移設の二大テーマである「沖縄の負担軽減」と「普天間の危険除去」を先送りすることでもあり、「一日も早い沖縄の負担軽減、普天間の危険除去」と盛んに言っていた自分たちの言葉を半ばウソとすることでもある。
菅首相は何も気づかず、何も考えずに、「いつまでにこうする、こうなるということは」云々と自分たちの都合を言っているに過ぎない。
それとも9月の民主党代表選を実際は問題とした先送りなのだろうか。代表選前にゴタゴタが生じて指導力が問題視されたなら、代表選に悪影響を及ぼす。代表選以降なら、2年間は安泰だから、自身の進退に直接の影響はない。
菅首相が「いつまでにこうする、こうなるということは」云々と記者団に話したのは8月2日夜。下地国民新党幹事長が3日午後の記者会見で名護市辺野古周辺への移設は困難と指摘した上で普天間移設の抜本的見直しを求めたと言う。
《普天間移設、抜本見直しを=下地氏》(時事ドットコム/2010/08/03-20:29)
下地幹事長「抜本的に全部を見直すと日米で合意しない限り、この問題の解決はあり得ない」
菅首相が普天間問題の決着を11月の同県知事選以降に先送りする考えを示したことについて――
下地幹事長「選挙後、何かが変わるというのは根拠がない。選挙をして(移設先が)決まることはない」
県知事選で辺野古移設容認派が当選することを、溺れる者藁にも縋る思いで期待しているということもあるに違いない。当選したなら、途端に、「民意だ、民意だ」と鬼の首でも獲ったかのように小躍りすることだろう。名護市長選で反対派が当選したときは、「必ずしも民意ではない」と言ったいたことはケロッと忘れて。
だとしても、普天間の「危険除去」、「沖縄の負担軽減」を半ば偽りとする先送りの連続となっていることに変わりはない。この上最終的に「V字案」で決着となったら、言っていた「環境保護」を丸きりのウソとすることになる。
多分、辺野古で決着がつきさえすれば、政治家にとってはどうでもいいことなのかもしれない。