自分の住む国がどんな国であっても、その国のために戦っていいわけではない。戦前の日本がそうであったように軍部ファシズム・天皇を神とした独裁国家のために戦うのは愚かな国民のすることであろう。
そうでないなら、キム・ジョンイル独裁体制の北朝鮮国家のために戦争した場合の北朝鮮国民を我々日本人にしても「国のために戦った」と、「正しいことをした」と価値づけなければならなくなる。
同じ戦うなら、国を基準とするのではなく、自由と民主主義の普遍的価値観のために戦うべきである。
政務調査費とは地方議会議員が政策に関わる調査・研究等の活動のために支給する費用のことを言う。政策とは世の中を良くするための政治上の各種プランのことを言うはずである。
世の中を悪くするための政策と言うものは国政に於いても地方政治に於いても存在しない。存在したなら、政治は世の中を悪くすることが目的となってしまう。
だが、実際は全体として見た場合、現在の日本の社会が示しているように政治は本来の唯一の目的である世の中を良くすることに役立っていない。結果的に世の中を悪くすることに役立ってきたとしか言いようがない程に矛盾と不公平、不公正に覆われた社会となっている。
多分、政治家は国政に関わる者も地方政治に関わる者も悪戦苦闘の格闘を行っているに違いない。世の中を良くしようとする目的を出発点としながら、走り終えてみたら、世の中はちっとも良くなっていない、却って悪くなってしまっている。こんなはずではない、我々は責任を果たさなければならないと。
日々悶々として、夜も満足に眠れないのではないのか。だから政治家はみな、ギョロギョロに痩せ、でっぷりと太っている者など一人としていない。
当然、政務調査費に関しては世の中を良くするための政策づくりの調査・研究等の活動のために、いわば社会益を目的に使途を厳格に定め、そのような目的に外れない結果――真正なる社会益を導くべく、常に適正な支出を図るべく身を削るような努力をしているはずだ。
この点については官房機密費に関しても同じことが言える。世の中を良くするため、国を良くするための、いわば国益を目的に情報収集、各種策動を行うために使途を厳格に定め、そのような目的に外れない結果――真正なる国益を導くべく、常に適正な支出を図る身を削るような努力をしているはずだ。
その効果なのだろう、地方社会を良くするための政策づくりの調査・研究等の活動を目的に厳格なまでに適正な支出が行われていた政務調査費の一例を挙げている記事がある。
《政務調査費ですし・うな丼… 佐賀・自民県議総会の昼食》(asahi.com/2010年8月16日8時11分)
〈佐賀県議会の自民党県議団(30人)が2009年度、議員団総会の昼食代として、政務調査費から計約60万円〉を支出していたという内容。
記事は収支報告書に添付された領収書から割り出した昼食の種類と値段まで具体的に伝えている。
▽昨年4月3日、うなぎ屋からうな丼30人分(計4万5千円)
▽同5月21日、旅館から1500円の弁当30個
▽今年2月16日、すし屋から弁当23人分(計2万5080円)、日本料理屋から弁当7人分(計1万857
円)など――
但し、佐賀〈県議会事務局によると、議員団総会の昼食代は「会議費」に当たり、政務調査費でまかなうことが認められている。〉という。
自民党県議団の堀田一治会長「公的な場所に来て、公的な話をした際の昼食代なので、常識、良識の範囲内だと思っている」
それにしても1500円のうな丼が議員総会の昼食とは、パーティ、宴会の類なら理解できるが、一般常識を離れて豪勢である。
堀田会長の話はどこかで聞いた。官房機密費を国益の名の下、議員の海外視察旅行の餞別に使ったり、背広代に使ったり、野党対策に使ったり、批判を封じてヨイショするだけの評論家づくりに評論家にカネを配ったりを“国益”とするのと同じ構図を成す正当化の弁ではないだろうか。
「公的な場所に来て、公的な話をした」を口実に弁当だけ食べることも否定できないからだ。これまでも政務調査費は世の中を良くするためどころか、自分のためになるだけの推理小説、官能小説、マンガ、観光ガイド、戦車プラモデルのカタログ等々に使われているのである。弁当だけ食べることはないと言うなら、その証拠に会議録を残しておくべきだろう。選挙民に正しい使われ方をしたかどうかの判断に供するために。社会を良くするための政策づくりの調査・研究等の活動であったと理解して貰うために。
官房機密費にしても、領収書がどうしても貰えないというなら、支出明細だけは残しておくべきである。正しい使われ方をした証拠を残しておくためにも。そして何年かのちの公表とする。国民に対して正しい使われ方をしたかどうかの判断の材料として提供するために。国益に添った使い方だったのかどうかの判定材料に。
記事は同様のケースとして、福岡県議会での09年度の民主・県政クラブのすしやうな重に計約50万円、自民党県議団がうな重や料亭の弁当に計約44万円の政務調査費からの支出を伝えている。
そして、自民党佐賀県議団堀田一治会長の「公的な場所に来て、公的な話をした際の昼食代なので、常識、良識の範囲内だと思っている」の正当化の弁に反して、名古屋地裁が昨年3月、名古屋市議会の自民党市議団が02年度に総会などの際に政務調査費から昼食代約57万円を支出したことを不当と訴えた裁判で、「公金を充てるべきではない」との判断を示し、名古屋高裁も支持。市議団は昨年10月、全額を自主返還した例を挙げている。
不正を働く余地があり、それを政治家自らが断ち切ることができていない以上、疑わしき例は自ら無罪を証明すべきだろう。その一例が政務調査費で昼食代を賄った場合の議員団総会等の会議録の提出である。これだけ社会を良くする活動に適合した議論が行われていましたと証明するために。
社民党福岡市議が2009年度の政務調査費で推理小説や観光ガイド本などを購入していた事例を伝えている《政務調査費で推理小説や観光ガイド 福岡市議が出馬断念》(asahi.com/2010年7月24日5時5分)は本人の反省の弁と具体的に何を購入したかを載せている。
木村幾久議員(58)「以前から政務調査に関係ない本を買っていた。市民に申し訳ない」
〈■木村議員が購入した本
松本清張「棲息分布―長篇ミステリー傑作選」上下巻▽西村京太郎「韓国新幹線を追え」「急行もがみ殺人事件」▽森村誠一「海の斜光」「路」▽北方謙三「そして彼が死んだ」▽城山三郎「硫黄島に死す」▽森川哲郎「秘録 帝銀事件」▽「山陰 鳥取・松江・萩 ’10(マップルマガジン)」 〉
木村議員の反省の弁と購入本から浮かんでくることは、例え政務調査に関する著作物を何冊か購入していたとしても、政務調査費支出の本来の目的である、社会を良くするための政策づくりの調査・研究等の活動を如何に怠っていたか、その姿であろう。
怠っていなかったなら、否応もなしにその方面の活動のためにのみ支出されていたはずだからだ。政務調査に関する著作物を何冊か購入していたとしても、何冊か購入しないと格好が悪いからという体裁上の購入で、読みもしないで放置してあると疑われても仕方あるまい。
如何に政務調査に必要な本の購入と見せかけたか、その手口がまた心憎い。
〈09年度、政調費1万6765円を使って23冊を購入〉、〈添付した15枚の領収書はいずれもレジから打ち出されたレシートで書名は記されていない。代わりに8枚に「教育関係」、3枚に「経済関係」、別の3枚に「福祉関係」、1枚に「環境関係」と手書きで添えていた。 〉――
木村市議は小学校教諭出身で3期目だという。
木村市議「子どもたちにうそをつくなと教えてきたが、自らが守れなかった。来春も立候補する予定で支援者と話を進めてきていたが、責任を取って取りやめる。残された任期は全うしたい」
元教育者であった。元教師ではなくても、大人は人格の一部に子どもに対する教育者としての一面を抱えているはずである。その一面まで、教師を辞めて市議に転出した時点で元教師であることまで忘れて、捨て去ってしまったのだろうか。
社会を良くするため、国を良くするためを口実とした政治家たちの社会益行為、国益行為に不正が入り込む余地を潜ませている。いわば官房機密費と政務調査費はその使途に関して双子の状況にあると言える。
如何に不正がないか。正しい支出が行われているか、国民に示す責任は政治家側にあるはずである。