9月の民主党代表選に菅首相の対抗馬として小沢前幹事長擁立の党内の動きに閣僚から牽制する発言が相次いでいる。
岡田外相「一般論として選挙はやったほうがいいが、国のトップが何回も替わることは、国益上大きなマイナスだ。しかも菅総理大臣をわれわれが選んでからわずかしかたっておらず、しっかりと支えていきたい」(時事ドットコム)
「国のトップが何回も替わること」がなぜ、どういった理由で「国益上大きなマイナス」なのか、何ら述べていない。「国益」と言えば正当性を得るとしたら、「国益」なる言葉は水戸黄門の葵の印籠と化す。
官房機密費の億単位の支出も「国益」の名の下に行われている。「国益」を葵の印籠としている。「国益」だと言えば、常に正しいことになるのか。
岡田外相「最終的にはご本人の判断だ。ただ、これまで民主党は、起訴された議員に厳しい措置を科してきた。そういう感覚からすると、起訴される可能性のある方が代表・総理大臣になるということに違和感を感じている。民主党の立党の原点に返ったときに、小沢氏に『出てください』と言っている人たちは、どうなのかという感じでみている」(同時事ドットコム)
「起訴される可能性のある方」と言っているが。「可能性」はあくまでも「可能性」であって、決定事項ではない。「起訴」されたとしても、罪が確定するわけではない。岡田外相の発言は“推定無罪”を侵すものであろう。
蓮舫行政刷新相「民主党に求められているのはクリーンな政治だ。『政治とカネ』の問題をこれ以上起こしてほしくないという思いが昨年の政権交代につながった」(YOMIURI ONLINE)
「クリーンな政治」は確かに政治に於ける重大な価値観だが、小沢幹事長は現在のところ、疑わしきは罰せずの“推定無罪”の状況にある。
蓮舫議員は以前次のように発言している。
蓮舫「9月に代表選があること自体は歓迎したいが、もしここでまた代表・首相が代わるなら、(解散)総選挙が筋だ」
解散・総選挙に関して、6月半ばの記者会見で仙谷官房長官が答えている。
記者「民主党は野党時代に総理大臣が交代した場合は国民の信を問うべきだと主張してきたが、衆議院を解散する可能性はあるのか」
仙谷「わたしからどうこう言う筋合いのものではない。前段の話は、論理的にはそのように考えるが、論理的にそうだからと言って現実政治の中でそうするのかはまさに政治判断であり、総理大臣が考える話だ。どの時期にどのような問題提起をして、国民の信を問うかは、まさに高度な政治判断だ」(NHK)
この発言は蓮舫議員の「(解散)総選挙が筋だ」にも言えることであろう。
だが、仙谷官房長官の発言を正当ある発言とするなら、民主党は野党時代、「現実政治の中で」、解散・総選挙が「高度な政治判断」を要件とする場合もあることを考えもせずに、「総理大臣が交代した場合は国民の信を問うべきだと主張してきた」ことになって、その非合理性を同じ民主党に所属していながら、自身も同じことを言っていたかもしれない仙谷官房長官は間接的に批判したことになる。
渡部恒三元衆院副議長「たった1人が諸悪の元凶だから、この人がいなくなればすぐ挙党一致できる。党を分裂させている元凶が『挙党一致』なんて(言うのは)こっけいな話だ」(時事ドットコム)
渡部恒三元衆院副議長(国務大臣の訴追には首相の同意が必要とした憲法の規定を念頭に)「もし小沢(一郎前幹事長)氏が首相になれば、指揮権発動よりもっとひどい疑惑隠しになる。しばらく休んでいろというのが国民の声」(asahi.com)
確かに渡部恒三が言うように「しばらく休んでいろというのが国民の声」となっている。
昨日だかの『朝日』社説にも、就任わずか3カ月だ、参院選敗北の責任はあっても、実績を残すだけの時間が経っていない、退かなければならないほどの失政もない、民意も続投支持が多いと菅続投を支持しているが、続投の要件は唯一指導力であろう。リーダーシップの有無である。
指導力、リーダシップのない首相を長い任期を務めさせること程日本の政治に利益となると言えるというなら、就任わずか3カ月だは続投支持の正当な理由となる。
逆に指導力、リーダシップのない首相を長い任期を務めさせること程日本の政治に不利益となるが正当性ある言い分なら、就任わずか3カ月だは続投支持の正当な理由とはならず、短い任期で終えさせるべきとなる。
以前のブログで次のように書いた。
〈指導力のない政治家を首相という職にとどめておくのは国民に対する冒涜であるばかりか、(指導力を)必要として求められながら、求めに応じることができていないという点で逆説そのものを演じていることになるからだ。〉と。
昨8月21日、菅首相は京都市の新卒者を対象に就職支援を行う施設「京都ジョブパーク」を視察し、新卒者や施設の職員らと意見交換したと言う。《首相 “新卒者支援特命チームを》(NHK/10年8月21日 19時32分)
菅首相「ことし以上に来年の就職は厳しいといわれているので、省庁を超えて様々な活動ができるように特命チームをスタートさせる」
寺田総理大臣補佐官を中心に総理大臣官邸に省庁横断の特命チームを設置して新卒者の就職を支援していく考えを示したという。
政府が検討を進めている追加の経済対策については次のように発言している。
菅首相「今、関係閣僚から話を聞き、また日銀との間で、コミュニケーションを取っている。週明けには、そういういろんな意見をまとめて経済対策をとりまとめる段階に進めていきたい」
確かに新卒者の就職率の低下は特に新卒当事者にとっては切実な問題ではあるが、直接的には新卒者の問題ではあっても、根本的には「100年に一度の世界的な金融危機」から兎に角も脱して、上向きになった経済がここにきて円高等が原因となって足踏み状態となり、先行きの経済不安がもたらしていることが原因の雇用状況となっているはずである。
となれば、日本の景気を確実に回復させることが第一義であって、このことが解決しない限り、「新卒者支援特命チーム」を設置したとしても、名前が何であれ、望ましい状況に常に届かない不完全な対処療法で終わることになる。すべては景気回復の原因療法にかかっているといしなければならない。
いわば景気回復の原因療法とすべき政策の構築と実施を何よりも先に持ってきて、何よりもそのことに専念し、「新卒者支援特命チーム」等の設置は関係閣僚と協議し、責任者を決めて指示して機能させていく、そういう態勢を取ることで十分なはずである。
それを視察と称して自分からわざわざ新卒者対象の就職支援施設「京都ジョブパーク」に乗り込んで、記者会見に応じて、新卒者就職対策として、「省庁を超えて様々な活動ができるように特命チームをスタートさせる」と記者団に向かって宣言する。
一方、専念すべき原因療法としての追加経済対策は「週明けには」、「とりまとめる段階に進」む予定だとしているが、肝心要は原因療法の成否にかかっているのだから、視察する暇があるなら、21日の土曜日も次の日の22日の日曜日の休日もなく、関係閣僚及び日銀と協議し、一刻も早く満足のいく追加経済対策の構築にエネルギーを注ぐべきであろう。円高が進行している状況からしても、原因療法の取り掛かりはそれ程にも待ったなしのはずである。
だが、そうなっていない。「京都ジョブパーク」施設視察のNHK記事を読んで、偏見混じり、固定観念混じりなのか、菅首相に指導力欠如を決定的に見た感がした。
指導力、リーダーシップは合理的判断能力を基本として成り立たせる能力であるのだから、どうすべきなのかの判断を欠いていたなら、当然、指導力、リーダーシップも欠くことになる。
菅首相に指導力、リーダシップがあると見るか、ないと見るか、いずれにしても首相は指導力、リーダシップを基準として選ぶべきではないだろうか。