消費税増税法案が昨日8月10日(2012年)参院を賛成多数で通過、消費税増税法として成立することとなった。この通過・成立を記念してなのだろう、野田首相が10日午後、首相官邸で記者会見を開いた。
いくら記念しての記者会見であっても、シャンパンを注いだグラスを片手に持ち上げて、「乾杯」の音頭は取らなかった。
野田首相は消費税増税に関して「2つの」謝罪を行なっている。2つ目は経営苦しい「中小零細企業の皆様」に負担を強いることになる税だと正直に告白し、謝罪している。
尤も謝罪のすぐあとで、その負担を上回る国民の利益を並べて増税の正当性を訴える言葉を用意しているのだから、正直さもその程度である。
このブログでは1つ目の謝罪のみを取り上げる。
野田首相「消費税を引き上げるということ、国民の皆様に御負担をお願いするということは、2009年の総選挙で私ども民主党は勝利をさせていただきましたけれども、そのときのマニフェストには明記してございません。記載しておりませんでした。このことについては、深く国民の皆様にこの機会を利用してお詫びをさせていただきたいと思います」
マニフェストには書いてないことをやった、マニフェスト違反だったと、ここでも正直に謝罪している。
2014年4月8%、15年10月10%の消費税増税法を民自公大政翼賛的大多数で成立させてしまったのだから、ここでいくら謝罪しても最早後戻りはないと安心し切っての「お詫び」、謝罪であって、マニフェスト違反謝罪のこの正直さも些か怪しい。
真の正直さとは書いてないことをやることではなく、書いてから国民の承認を得て初めて手をつける姿勢のことを言うのであって、それが筋だからである。
いわば国民が求めていることはそういった筋の通ったプロセスであって、書いてないことを実現させてからの謝罪というプロセスではないはずである。
いくら理由をあげつらおうが、承認もなしの政策を実行してから、その未承認を謝罪するゴマカシがここにある。
野田首相が当初は消費税増税はマニフェスト違反ではないとの強弁を繰返していたことも、最早後戻りしないことの安心感からの記者会見の謝罪であることの証拠となる。
《谷垣「マニフェスト違反だ」野田「違反ではない」 国会で代表質問始まる》(ニコニコニュース/ 2012年1月26日(木)19時58分)
2012年1月26日午後の衆院本会議各党代表質問。
谷垣自民総裁「『マニフェストに書いてないからマニフェスト違反ではない』などというのは詭弁に過ぎず、特に憲法上の財産権の保障という国民の権利に直結する税の問題だけに、一体改革のマニフェスト違反は明らかだ。
総理はこれをどのように弁明するのか。当時の演説を撤回するのか、マニフェスト違反を正直に認めるのか」――
「当時の演説」とは、インターネット上に動画が出回っている、まだ野党時代だった野田首相が2009年8月に行った例の街頭演説のことである。
野田議員「マニフェスト、イギリスで始まりました。ルールがあるんです。書いてあることは命懸けで実行する。書いてないことはやらないんです。それがルールです。
書いてないことを平気でやる。これっておかしいと思いませんか。書いてあったことは4年間、何もやらないで、書いてないことは平気でやる。
それはマニフェストを語る資格がないというふうに、是非みなさん思っていただきたいと思います。
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シロアリがたかってるんです。それなのに、シロアリ退治しないで、今度は消費税引き上げるんですか?消費税の税収が20兆円になるなら、またシロアリがたかるかもしれません。 鳩山さんが4年間消費税を引き上げないと言ったのは、そこなんです」
「鳩山さんが4年間消費税を引き上げないと言ったのは、そこなんです」と言いながら、自分はマニフェストに「書いてないことはやらないんです。それがルールです」に反して消費税増税法の成立を実現させた。これを以て正直だとはとても言えない。
谷垣総裁の代表質問に対する野田首相の答弁。
野田首相「民主党が前回総選挙時に国民に対して約束したことは『衆議院の任期中には消費税の引き上げは行わない。引き上げを行う際には国民に信を問う』ということ。この方針は今でも変わらない。
今回の一体改革において、政府与党でとりまとめた素案では、第1弾の消費税の引き上げは2014年の4月を予定している。これは現在の衆議院議員の(2013年の)任期終了後だ。当然、引き上げの前には総選挙を行うことになる。従って、一体改革の実現が国民に対する裏切りとのご指摘は当たらないものと考えている」
ここにはゴマカシがある。
衆議院議員2013年8月29日任期満了以降の増税だから、マニフェストに書いてなくても違反にはならないと言っているが、消費税増税法を成立させてしまってから、国民の信を問うのと、成立させる前に、成立させたいからと国民の信を問うのとは似て非なるものである。
もし自民党も公明党も野党全体が消費税増税に反対であったなら、衆議院議員任期以降の総選挙で国民の信を問うという正当性はいくら「不退転」を売り物の野田首相でも用いることはできなかったろう。
少なくとも野党第2党の自民党が同じ10%の消費税増税をマニフェストに掲げていた。一旦上げてしまえば、次の総選挙で覆ることはあるまいという予定安心感から、衆議員任期4年以降の引き上げだから、マニフェスト違反ではないという正当性を打ち出すことができたはずだ。
参院での与野党逆転のねじれをも考慮して、その安心感をより確実・絶対とするために自民党との協議を必要とした。幸いなことに公明党が仲間外れされることを恐れて、あとから加わることになった。
2012年1月26日午後の衆院本会議各党代表質問翌日1月27日の参院本会議での中曽根弘文自民党参院議員会長の代表質問に対する答弁でも、谷垣総裁に対する答弁同様の趣旨で消費税増税はマニフェスト違反ではないと強弁している。
中曽根議員「首相は与野党協議で消費税増税を決めようと持ちかけているが、国会を軽視するやり方には乗らない。民主党内をまとめ、消費税増税をマニフェスト(政権公約)に明記し、衆院解散・総選挙で国民に信を問うべきだ」
野田首相「消費税の最終判断は(平成26年4付きの)引き上げ実施の半年前に行うことを想定しており、(次期衆院選後の)新しい政権が引き上げの最終判断を行う。マニフェスト違反ではない。社会保障と税の一体改革は先送りできない与野党共通の課題。やり抜くべきことをやり抜いた上で国民の判断を仰ぎたい」――
野田首相の強弁は例の如くのいつもの繰返しとなっていて驚きはしないが、中曽根議員の質問は見逃すことはできない。
首相の与野党協議で消費税増税を決める政治手法は「国会を軽視するやり方」だと批判している。
そういった国会軽視の政治手法には自民党は乗らない。「消費税増税をマニフェスト(政権公約)に明記し(てから)、衆院解散・総選挙で国民に信を問うべき」政治手法が正しい遣り方だと言っている。
だが、現実は自民党は民主党に対して提案した、消費税増税をマニフェストに掲げて選挙を戦うのが正しい遣り方だとした政治手法を免罪し、公明党と共に与野党協議の「国会を軽視するやり方」に乗った。
何のことはない、少なくとも自民党は「国会を軽視するやり方」だと承知していながら、与野党協議を舞台の陰謀劇を民自公3党で繰り広げたことになる。
民主党も民主党だが、自民党も自民党である。勿論、ここに公明党を加えなければならない。
約4ヶ月後の5月24日の衆院消費増税関連特別委員会で野田首相は初めて謝罪発言をしている。《増税提起は「公約違反」 首相、初めて認める 衆院委》(asahi.com/2012年5月25日0時14分)
記事の結びは次のように書いている。〈野田首相は国会審議で、税率を最初に引き上げる2014年4月は衆院議員の任期満了より後だという説明を繰り返してきたが、野党は「詭弁(きべん)だ」「詐欺だ」と批判してきた。首相の特別委への出席は、この日でひと区切りとなる。〉
要するに野党の激しい追及に妥協するために「お詫び」の言葉を用いたに過ぎない。消費税増税はマニフェスト違反だと明確に謝罪したわけではない。
逆に消費税増税を正当化している。
このことは野田首相の発言自体が証明している。
野田首相「2009年(の衆院選で)マニフェストに明記せず、口頭では任期中に上げないと国民に訴えた。選挙時に明確に方向性を打ち出していなかったことはお詫びする」――
「2009年(の衆院選で)マニフェストに明記せず、口頭では任期中に上げないと国民に訴えた」。それを4年間守るのがマニフェストに掲げたことの意味であり、守ってこそマニフェストの価値が生じる。
だが、そのことを無視して、「選挙時に明確に方向性を打ち出していなかった」ことは間違いだったとし、その間違いに「お詫び」をしている。
矛盾そのものの言い方だが、野田首相は合理的判断能力を全く欠いているから、その矛盾に気づかない。知らぬが仏の幸せ者である。
「選挙時に明確に(消費税増税の)方向性を打ち出して」いたとしたら、当然、マニフェストに明記してあり、その明記に従った行動となる。
いわばマニフェストに掲げた政治工程と選挙活動、及びその後の政治行動は主と従の相互対応関係にある。
だが、マニフェストには明記してなかったのである。明記してない以上、「選挙時に明確に方向性を打ち出」しようがなかったのであり、それがマニフェストに相互対応した正当な選挙活動なのだが、後になってから、そのこと自体が間違いだったとして、そのことに消費税増税の正当性を置いている。
いわば「打ち出し」ようもないことに「打ち出していなかった」と謝罪しているのである。
「お詫び」にもならない、ゴマカシそのものの矛盾である。野党のマニフェスト違反の追及に対して消費税増税を正当化するために詭弁を用いたに過ぎない。
もし野田首相が「不退転」を言い、「政治生命を賭ける」を言うなら、最初に解散して、消費税増税をマニフェストに明記してから、総選挙で民意を問う筋の通った、国会軽視にも民意軽視にもならない、堂々とした行動に出るべきだったろう。
堂々とした行動に出ることによって初めて、本当の意味での「不退転」となり、本当の意味での「政治生命を賭ける」となったはずである。
選挙期間中、自身の言葉の限りを尽くし、知恵の限りを尽くし、体力の限りを尽くして遊説の全国行脚に出かけ、国民の理解を獲ち取ってこそ、政治生命を掛けたことになる。
だが、実際に行ったことは詭弁を用いてマニフェスト違反ではないと消費税増税を正当化し、国会軽視・国民軽視の3党談合の陰謀で消費税増税の法律を成立させたに過ぎない。
「政治生命を賭ける」は見せかけに過ぎなかった。矛盾していようがいまいが詭弁とゴマカシを用い、解散という当てにもならないエサをぶら下げて、単に巧妙に立ちまわっただけである。
野田首相は昨日の消費税大増税法案成立記念記者会見で消費税税収はすべて社会保障に使うと約束している。
野田首相「今回、消費税の引き上げという形で国民の皆様に御負担をお願いいたしますが、その引き上げられた分は、増収分はすべて社会保障として国民の皆様に還元をされる。すべて社会保障として使われるということをお約束させていただきたいと思います」――
谷垣総裁の解散時期明示を要求條件とした社会保障と税の一体改革関連法案参院賛成の方針に対して、野田首相は8日午後7時半から谷垣自民総裁と国会内で党首会談、「近いうちに信を問う」を条件に参院賛成を獲ち取った。
だが、輿石民主党幹事長が、「来月には民主党代表選挙と自民党総裁選挙があり、2人とも交代することはないと思うが、仮に2人が交代すれば、2人の話は終わりだ。合意がまだ継続していると考えるならば、再度やればいい」(NHK NEWS WEB)と、代表選次第で変わるその有効性の限界説に言及したのに対して野田首相が次のように発言している。
《野田首相、後継者の解散権縛れず=「近いうち信問う」の合意-増税法案、午後成立》(時事ドットコム/2012/08/10-12:59)
新党「国民の生活が第一」の中村哲治参議員が代表選の結果、首相が退陣した際の合意の効力を質したのに対する答弁だそうだ。
野田首相「解散権はそのときの首相の判断だ。もし私が(民主党)代表でなくなった場合は、後の首相の解散権を縛れる話ではない。
公党の党首間の合意があったということはしっかり(後継者に)伝える」
言っていることが矛盾している。「公党の党首間の合意があったということはしっかり(後継者に)伝え」たとしても、「後の首相の解散権を縛れる話ではない」なら、言う意味はない。
例え野党の要求に応じて解散したとしても、野田首相の「近いうちに信を問う」確約(?)とは異なる本人の事情、政局からの解散になるだろうからである。
「後の首相の解散権を縛」ってこそ、次の後継者の事情、政局を超えて、野田首相の確約は生きてくる。
問題はこの確約の構図は消費税増税分の税収を「すべて社会保障として国民の皆様に還元」するとする野田首相の確約にも生かし得るということである。
いや、野田首相が総選挙の結果、次の首相の座を射止めたとしても、その可能性は限りなく低いが、野党時代は「マニフェストに書いてないことはやらないんだ」と言っていながら、首相になると書いてない消費税増税に走ったように、あるいは無能菅が野党時代、「沖縄には米海兵隊は要らない、米本土に帰って貰う」と言いながら、首相になると、「日本を取り巻く安全保障環境が変わった」と普天間基地の沖縄県内移転に走ったように、人間が変わらなくても政策を平気で変える前例からすると、次期首相が野田首相だったとしても、「すべて社会保障として国民の皆様に還元」は当てにはならないことになる。
筋の通った正々堂々とした政治行動で「政治生命を賭ける」消費税増税を実現させたのではなく、巧妙に立ちまわって実現させた巧妙さからしても、そう思って聞いておいた方が無難である。