野田首相の竹島・尖閣日本固有領土学校教育は自律性排除の短絡的全体主義発想

2012-08-28 10:19:18 | Weblog

 野田首相が8月27日午前の参院予算委で竹島・尖閣を日本の領土だと教える学校教育の必要性に言及したという。

 《【参院予算委】野田首相「わが国固有の領土と教育現場で伝えていく」 竹島、尖閣の歴史教育強化》MSN産経/2012.8.27 11:15)

 野田首相「竹島、尖閣はわが国の固有の領土であると、きちっと教育の現場で子供たちに伝えないといけない。

 相手国の主張の根拠のなさも合わせて伝える努力をしなければいけないので、態勢の整備に努めていきたい」 

 記事は松原国家公安委員長が、〈日本の官憲による慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の河野洋平官房長官(当時)による「河野談話」の在り方に関し「談話発表当時の石原信雄官房副長官が『日本側のデータに強制連行を裏付けるものはない』と述べていることなどを踏まえ、閣僚間で議論すべきだと提案したい」と述べた。〉とする紹介も併せ伝えている。

 確かに竹島・尖閣は日本の領土ではないと主張する日本人が増えたら、外交交渉はやりにくくなるが、かくまでもマスコミがテレビで、ワイドショー番組も含めて、どのチャンネルを回してもといった状態で各局共に連日報道していて、氾濫状況を呈出しているのである。

 そういった情報を親を含めた大人が単に鵜呑みにするのではなく、あるいはみんなが日本の領土と言っているから、自分も日本の領土だと言っていれば間違いはないからと考えもなく大勢に流されるのではなく、自ら考え、判断すべき問題であって、親を含めた大人がそういった自ら考え、判断する思考習慣を備えていたなら、自ずと子供たちも自分から考え、判断する習慣を受け継いで、自身で決定するはずである。

 だが、教育現場で児童・生徒に竹島・尖閣は日本の領土だと教えることは、最初からそのように教え込むことを単一の目的とした教育となり、そのような目的に添うことが児童・生徒の役割となって、そこに竹島・尖閣は日本の領土だと教師・大人が提供する知識・情報に対する機械的な受容(=暗記)が生じる危険性が入り込むことになる。

 機械的な知識・情報の受容(=暗記)は考えるプロセスをそこに置かないことによって成り立つ。いわば自分で考え、判断する自律的思考性を却って阻害することになって、知識・情報の機械的従属人間だけを生産することになり、機械的従属人間の対極にある、生産性向上や新規産業創出、あるいは新技術創出に寄与する自律的・創造的人間の育成を逆に抑制することになって、全体的な国力増強にマイナスとなるはずだ。

 また、国の教えをそのまま正しいと記憶させる教育は戦前の日本が経験したことであり、戦後中国の対日愛国教育と本質のところで通底する。

 国の意に添う考えの児童・生徒が育つことは国にとって満足であろうが、このような教育の何よりもの問題点は基本的には個人の考え・主張を国家の考え・主張に規制する全体主義に則っているということである。

 日本人が殆ど一人残らずと言っていい程に同じ考え・主張に立って、全体主義教育は完成する。

 竹島・尖閣が日本固有の領土だとする考え・主張に日本人が一人残らず立ってどこが悪いと声を上げる者もいるだろうが、あくまでもそういった考え・主張に立つまでのプロセスが問題となる。

 自らの考え・判断に立った自律性に基づいた結論であるのか、国の教えに機械的に従ったままの自律性なき結論であるのかの違いである。

 国の教えに機械的に従った考え・判断の正当化は中国の愛国教育も正当化しなければ整合性を失うことになる。

 大体が領土問題が起きたからといって、児童・生徒に教育をして、日本の領土だという考えを持たせるというのは短絡的なツケ焼刃に過ぎない。問題は政治家の外交交渉術であろう。自分たちの無能を児童・生徒に対する教育に託すというのは一種の責任放棄であり、責任不作為に当たる。

 機械的教育によって国民に同じ声を持たせるというのはデモを通して政府の意思を伝えるという政府動員のデモと大して変わらない。

 野田首相が竹島・尖閣を日本の領土だと教える教育の必要性を感じたのは保守の側に位置する人間として、殆どの児童・生徒に「竹島は日本の固有の領土である」、「尖閣諸島は日本固有の領土である」と同じことを言って欲しい全体主義についつい駆られたからだろう。

 8月10日(2012年)日本テレビ放送の「ネプ&イモトの世界番付」で教育について興味深い遣り取りがあった。

 学習塾に通う国ランキング

 1位 ベトナム    90・6%
 2位 ギリシャ    86.4%
 3位 インドネシア 78.3%  

 11位 日本     47.3%
 最下位 フランス 1.8%

 ネプチューンのリーダー名倉潤が世界の学習塾事情について出演の外国人タレントにそれぞれ聞いた。

 ベトナム女性「ベトナムは経済が発展していて、物凄く教育の競争が激しくなっている。幼稚園をやめさせて、塾に通わせている親もいる」

 番組解説「受験戦争が加熱している」

 韓国男性1「塾に行っている学生は成績が高く、塾の先生は学校のテストに出そうな予想問題を準備して、みんな成績が高い」

 韓国男性2「予想問題が本当に試験に出たら、予想が当たるということで、その塾が物凄く流行る」

 タイ男性「タイも塾が多い。有名な大学に何々塾から何人入ったといった新聞記事が毎年載ったりする」

 アジアの学習塾事情は同じアジアに位置しているからなのか、日本のそれと似通っている。

 イギリス男性「イギリスは家庭教師はいるけども、塾へ行くこと自体は滅多にない。日本の教育自体が詰め込む教育じゃないですか。勉強が足りないんだったら、本当に意味が分からないんですよ。塾に行くこと自体」

 パックン(ハーバード卒)「アメリカはやっぱり自分の考えていることをうまく表現しなければいけない。アメリカの試験はそういうのがメインですよ。色々なことを知っているのじゃなくて、あなたはどう思っているのか。

 これができると、後々凄い有利になるんですよ。日本の教育は確かにデータは一杯習得するんだけど、自己主張ができない、交渉ができない、議論ができない。

 だから、日本はいつも外交で圧倒されちゃうんですよ

 番組解説「主張できない日本人は世界でも有名。常に協調を大事にする文化が裏目に出ているようです」

 次の文字がキャプションで表示される。 

 影の仕切りは米・中

 存在感、日本は薄く

 首相、影薄く


 パックンは日本の教育は詰め込みの暗記教育だと言っている。沢山のデーター(知識・情報)は持っていて色々なこと知っているが、それは機械的なデーター(知識・情報)で終わっていて、自分の考えを持っていないと。

 自己主張も交渉事も議論も、「どう思っているのか」の自分の考え・判断が基本だと。

 個々のデーター(知識・情報)を結びつけて新たなデーター(知識・情報)を創造する教育性には無縁だと。

 データー(知識・情報)の結びつけと発展・創造は自身の考えがあって初めて可能となり、自分なりの考えを原動力とする。

 次の警句もパックンの説を裏付けている。

 「国際会議を成功させるコツは、インド人を黙らせて、日本人を喋らせること」

 この警句は2006年12月28日当グログ記事――《アイルランド人の「知と個性」が映し出す改正教育基本法の「国を愛する」 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で用いた。 

 その時次のように自分の考えを述べた。

 〈「国際会議を成功させるこつは、インド人を黙らせて、日本人を喋らせること」という冗談はまさに的を射た本質的な日本人論となっている。

 「会議」は常に何らかの“決定”を目的としている。〝決定〟を目的としない会議は会議とは言えない。その「会議」が一度打ち合わせたことを確認する集まりであったとしても、その確認した事柄が最終決定事項となり、そこには“決定”が絡んでくる。日本の閣議が議論らしい議論もなく、単なる顔合わせで終わることがあるということだが、日本だから許される“決定”不在の、会議とは言えない時間潰しであろう。

 「会議」の“決定”に向けて議論に加わらないことは、“決定”の内容如何を問わずに無条件の従属を専らとすることを意味する。それを可能としているのは日本人が行動様式としている上が下を従わせ、下が上に従う権威主義を下地とした従属性以外にあるまい。おとなしく従う日本人というわけである。だからこそ「ものを言う日本人」が求められたりしたのだろう。

 「国際会議を成功させる」ために「インド人を黙らせて、日本人を喋らせ」たとしても、“従属”に慣らされている日本人は他人の議論の焼き直しや機会的な積み重ねといった新たな〝“従属”を展開するのが精々で、創造的な議論は望めないのではないだろうか。言われているところの戦略性の欠如は創造的議論の欠如の言い替えであろう。〉・・・・・・

 自己主張という点で、状況は現在も変わらないようである。領土問題が起きたからといって、野田首相のように学校で領土教育を行うといった全体主義に駆られた短絡的・単細胞的発想ではなく、自己主張できる日本人教育が日本の経済にとっても政治にとっても外交にとっても、より国益に適うはずだ。

 そのためには大量の機械的データー(知識・情報)取得の暗記教育を脱却して、自律性に則った自己主張・交渉・議論可能な、パックンの警告の逆を行く思考教育に向かわなければならないだろう。

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