政局の手段と化した民自公3党合意「社会保障と税の一体改革」

2012-08-06 11:12:44 | Weblog

 ――自民・公明党の消費税増税案賛成は解散を勝ち取って政権復帰を果たす道具に過ぎない――

 元々谷垣自民党総裁は消費増税法案成立と引き換えに衆院解散を確約させる「話し合い解散」を求めていた。民主党内消費税増税反対派の動きと参院与野党ねじれ、そして野田内閣30%前後の支持率低迷を睨んでの戦術であったろう。

 野田政権からしたら、党内反対派と参院与野党逆転情勢から、自民党を与野党修正協議に引き入れ、社会保障制度改革で妥協してでも消費税増税案を成立させる決意でいた。

 だとしても自民党の解散要求に内閣支持率から言って、簡単には確約を与えることはできない。当然、解散についてはその場凌ぎに耐え、修正協議の合意を目指すことになる。

 対して公明党は消費増税法案否決・解散総選挙の構えを基本姿勢としていたが、選挙をするにしても自民党の協力を得なければ、勢力拡大は覚束ない事情を抱えていたため、当初拒否していた修正協議に自民党が応じると、公明党も土壇場になって参加を決めた。

 いわば自民党と同じく、解散を条件とした消費税増税案賛成・成立の戦術転換を図ったということなのだろう。

 こうして与・野党同床異夢の3党修正を開始、6月15日(2012年)、民主党、自由民主党、公明党の3党は「社会保障・税の一体改革に関する確認書」に合意、3党合意に基いて修正・追加された社会保障・税一体改革関連法案は6月26日、衆議院本会議に於いて賛成多数で可決、参議院に送付された。

 では、自民党が模索していた法案成立協力引き換えの衆院「話し合い解散」はどうなったのだろう。自民党の要求に屈して解散・総選挙に打って出たなら、勝ち目はないどころか、野田政権は2009年総選挙の歴史的勝利とは真逆の大惨敗さえ予定表に組み込んで置かなければならない状況に立たされているのである。

 7月2日、小沢元代表とそのグループが離党、新党「国民の生活が第一」を結成し、なお一層、総選挙を行った場合の党勢の縮小・衰退と政権を手放す事態が視野に入ってきた野田政権にしたら、いくら自公が参院で生殺与奪の権を握っているとは言え、消費税増税法案成立、ハイ、解散ですの確約とはいかない。

 解散回避の思いが参院採決先延ばしの戦術に出たに違いない。1日でも先延ばししていたなら、内閣支持率が少しでも上がるかもしれない、上がったなら、選挙に有利に働くと根拠のない一縷の望みを託して。

 先延ばしとは、自民党が求める8日採決、あるいは「お盆前採決」に対し8月20日以降採決の提案である。

 池口民主党参議院国会対策委員長「消費税率引き上げ法案などを、お盆前に採決することは難しい。党内に、法案への反対論がないと言えばうそになるし、自民・公明両党以外の各党が、早期採決に反対していることも考えないといけない。

 参議院の特別委員会で、今月16日と17日に質疑を行ったうえで、20日の週に採決したい」

 野田首相があれ程「不退転」を言い、「決める政治」を言っていながら、それらの決意に反して「決める」ことの先延ばし戦術に出た。

 但し自民党側には消費税増税法案参院賛成と引き換えに野田政権が解散に応じる確約を示さなければ、自民党側から野田政権を解散に追い込む奥の手がある。3党合意破棄、参院消費税法案反対である。

 8月1日、小泉進次郎自民党青年局長を始めとする若手衆院議員7人が党本部で谷垣禎一総裁と会い、3党合意破棄、参院法案否決を求めた。

 勿論谷垣総裁は直ちに応じなかったが、解散の確約がなければ、こういう手もあるんだぞという牽制の演出であろう。
 
 同じ8月1日に野田首相が支持母体である古賀連合会長と会談。平成25年度予算編成に意欲を示した。

 翌日の8月2日午後の谷垣自民総裁の記者会見。

 谷垣総裁「首相の足元の状況を見ると、来年度の予算編成なんておやりになる力はもう残っていない。足元をよくごらんになる必要がある。

 (民主党の求めに応じて自民、公明両党が予算編成にも協力するのかの質問に)俺にけんか売っているのかという気持ちを正直、持っている」(MSN産経

 いつまでも解散の確約をしない野田首相に対して相当に頭にきている。

 大体が野田首相が先延ばしを謀ったからといって、解散回避の展望が開けるわけではない。自民党が奥の手一歩手前でちらつかせている衆院で内閣不信任案、参院で問責決議案を提出した場合、どちらも可決される可能性は否定できない。

 但し、衆院で諸費税増税案その他に賛成をしておきながら、解散の確約がないからといって、衆院内閣不信任案、参院問責決議案を提出するというのはどこかおかしい。

 新党「国民の生活が第一」の小沢代表が批判したが、当然の反応であろう。

 8月2日、〈共産、社民、みんなの野党3党が国会内で幹事長・書記局長会談を開催、今国会での消費増税関連法案の成立を阻止するため、参院での法案採決の前に衆院に内閣不信任決議案を提出すべきだとの認識で一致、3党はこの後、共同提出を目指し、新党「国民の生活が第一」、きづななどに党首会談を呼び掛けた。〉(時事ドットコム

 翌3日午後、「国民の生活が第一」やみんなの党など野党7党の党首らが会談、消費税率引き上げ法案の成立を阻止するため、法案が採決される前の内閣不信任決議案提出に合意した。

 「MSN産経」記事は、自公を除く野党7党の内閣不信任決議案提出合意の、〈「陰の主役」は「国民の生活が第一」の小沢一郎代表だった。〉と書いている。

 消費税増税反対、その法案成立阻止の姿勢を主張していた以上、持てる政治力を駆使した当然の動きである。

 この野党7党の不信任案提出に自民党が内閣不信任案を出すまでもなく乗ったとしたら・・・・・。

 乗った場合の可決の可能性は野田首相の解散回避の是が非でもの欲求を打ち砕くことになる。
  
 いわば解散回避の前に不信任案提出回避を計らなければならなくなった。まさしくその場凌ぎの戦いとなっている。

 同じ8月3日の記者会見――

 城島民主党国対委員長「何が何でも20日以降だと言っているわけではない。自民党は『8日の採決だ』と言っているが、日程の協議をすることはやぶさかではない」(NHK NEWS WEB

 野田首相も呼応した。8月5日、広島県福山市で記者団に対して。

 野田首相「今の国会でいちばん大事な法案は社会保障と税の一体改革に関連する法案だ。自民党にも公明党にもご苦労をおかけしながらまとめたもので、しっかりと成立させることが最優先だ。

 お盆明けとかお盆の前とかいろいろな議論があるが、自民党や公明党もいろんな事情もあるだろうから、柔軟性をもって対応しようということで認識が一致した。

 (「国民の生活が第一」を始めとし他野党7党内閣不信任決議案共同提出の合意について)

 大事なことを先送りしないで『決められる政治』ができるのかという、大変、厳しい状況なので、当然、与党内がしっかりまとまり、心ある野党と連携しながら、粛々と否決するのがわれわれの姿勢だ」(NHK NEWS WEB

 先送りしない「決められる政治」と言いながら、先送りを図ったことを狡猾にもゴマカシている。

 そして同じ5日、自民党 独自に不信任案提出の動きに出た。

 これは野党7党内閣不信任決議案共同提出の動きに対して、それに乗るのではなく、逆の形を取るための動きであると同時に民主党に対するなおさらの牽制であろう。

 だが、野田首相が消費税増税法案参院可決、法案成立を優先して、自民党に対して解散を確約した場合、自民党は提出を見合わせるだろうし、野田首相側にしたら、内閣不信任案賛成可決という不名誉は回避可能となる。

 解散を確約しなければ、3党合意破棄、参院採決反対か内閣不信任案提出で内閣総辞職というわけにはいかず、解散せざるを得なくなり、どちらに転んでも同じ選択が待ち構えている。解散確約、「話し合い解散」に持っていった方が泥をかぶる量が少なくて済む。

 このように民自公の動きを見てくると、3党合意「社会保障と税の一体改革」は醜いばかりに政局の手段と化している。

 目的が政局手段と化すのは動機自体に怪しいものを含んでいるからだろう。言っている通りに社会保障の持続可能性、国民の安心、現役世代と将来世代の公平性の確立等を真に動機としていたなら、政局の手段とすることはできないはずだ。例え野党側が政局の手段としたとしても、不退転の野田首相は発言通り不退転を示すことによって相手の政局に乗ることはできないはずだ。

 公明党の山口代表はここに来て3党合意を尊重し成立を図るべきだと言っているが、元々は消費増税法案否決・解散総選挙の構えを基本姿勢としていたのである。それを選挙で自民党の力を必要とする手前、自民党に引きずられた。

 公明党の“不退転”も自民党の政局次第の無節操であることを既に証明済みである。

 そこにいくら美しい言葉を連ねて素晴らしい絵を描こうとも、「社会保障と税の一体改革」を政局の道具とするような野田政権、自民党、公明党に満足な「政治は結果責任」の実現を求めようがない。 

 最もこのような見方を間違っているという向きもあるだろうが、いずれは正体を曝すことになるに違いない。

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