――なぜ野田首相は金正恩に親書を手交しないのだろう―― 《2012-8.30 安倍晋三元総理大臣「知りたがり」生出演!》(デイリーモーション動画)
記事題名の「公式的な」の意味は、皆が同じように言っていることを言っているという意味である。
先ず8月29日、大阪市内開催の拉致被害者横田めぐみさん写真展を訪れた後、記者団の質問に答えた橋下大阪市長の“公式的な”発言。
《相手の嫌がることを=北朝鮮の拉致問題で-橋下大阪市長》(時事ドットコム/2012/08/29-19:25)
橋下市長(拉致問題に関する国政レベルの動きについて批判)「日本の国会議員を見ると、お坊ちゃんのきれい事をやっているようだ。
外交交渉には力が必要。そういう力を持っている国々との関係を密接にして、力を背景に交渉しないと物事は動かない」
多くの人間が同様に言っていることを言っているに過ぎない。
そして実際に経済制裁という「力」(=圧力)を背景に交渉しているが、成功していない。
非成功の唯一の理由は誰の目にも明らかであるように中国の存在である。中国が楯となって北朝鮮を守っている。北朝鮮の共産主義一党独裁体制が中国の安全保障上の地政学的カードとなっているからなのは今更説明するまでもない。
安全保障上の地政学的カードとなっている以上、中国は北朝鮮を自国の外交カードとして最大限に利用する。実際にも最大限利用している。
北朝鮮が民主化して韓国に吸収されるかして西欧諸国側に組み込まれた場合、背後の守りとなるロシアは別にして、正面の守りは裸同然の無防備となる。頼りとしていたミャンマーも民主化に走っている。
中国が望むのは北朝鮮が共産主義一党独裁体制を維持した状態で市場原理経済に向かい、中国の経済援助のもと、経済的に自立した万全な体制となることであろう。
そうなることは最終的には中国の財政負担の軽減と中国との連携を盤石とする北朝鮮独裁体制の安定化につながるが、北朝鮮を外交カードとして生かしておくためには核兵器保有の放棄は望まないのではないだろうか。
次に8月30日(2012年)、フジテレビ「知りたがり」に出演した安倍晋三元首相の拉致問題に関わる“公式的な”発言を主なところを拾って見てみる。
内閣官房副長官として小泉元首相と北朝鮮に渡り、5人の拉致被害者の帰国に道筋をつけたこと、5人の帰国を空港に出迎えたとき、横田夫妻が拉致被害者家族会の代表として記録しておくためにビデオカメラを回して5人を撮影した模様を説明。
安倍晋三「そこには横田めぐみさんの姿はなかった。ご両親が自身の手でめぐみさんを抱きしめるまで、私達の使命は終わらない。だが、10年経ってしまった。その使命を果たしていないというのは、申し訳ないと思う。
(拉致解決対策として)金正恩氏にリーダーが代わりましたね。ですから、一つの可能性は生まれてきたと思います」
伊藤利尋メインキャスター「体制が変わった。やはり圧力というのがキーワードになるでしょうか」
安倍晋三「金正恩氏はですね、金正日と何が違うか。それは5人生存、8人死亡と、こういう判断ですね、こういう判断をしたのは金正日ですが、金正恩氏の判断ではないですね。
あれは間違いです、ウソをついていましたと言っても、その判断をしたのは本人ではない。あるいは拉致作戦には金正恩氏は関わっていませんでした。
しかしそうは言っても、お父さんがやっていたことを否定しなければいけない。普通であればですね、(日朝が)普通に対話していたって、これは(5人生存、8人死亡)否定しない。
ですから、今の現状を守ることはできません。こうやって日本が要求している拉致の問題について答を出さなければ、あなたの政権、あなたの国は崩壊しますよ。
そこで思い切って大きな決断をしようという方向に促していく必要がありますね。そのためにはやっぱり圧力しかないんですね」
最後は今までやってきた「圧力」である。
「圧力と対話」と言いながら、「圧力」はアメリカに追随して有言実行できたが、「対話」を引き出す効果策に転換できないままにここまできてしまった。
「こうやって日本が要求している拉致の問題について答を出さなければ、あなたの政権、あなたの国は崩壊しますよ」と言っているが、既に触れたように北朝鮮の政権と国家崩壊の間際まで中国が手をこまねいて座視するわけはない。
そういった気配を感じ取ったっとき、中国は直接北朝鮮の国家経営に乗り出すはずだ。金正恩にしても、最高指導者の地位を維持していたいならの話だが、日本から、「あなたの政権、あなたの国は崩壊しますよ」と言われて、日本に縋るメンツよりも、なりふり構わずに中国に頼るメンツを優先させるのではないだろうか。
勿論、国家機密事項として公としない秘密裏の中国主導となるだろうが、例えその情報が国外に漏れたとしても、表向きは否定し続けるはずだ。
中国としたら、北朝鮮を外交カードとして生き返らせることだけが目的のはずだ。
但し逆に中国が先に民主化した場合、その望みは当面薄いが、北朝鮮は外交カードとしての価値を失うから、北朝鮮は孤立し、経済的な体制崩壊の危機は外に向かって暴発する危険性と裏合わせすることも考えられる。
と言うことは、現在の共産党一党独裁の中国は北朝鮮暴発の抑止力となっている側面も有していることになる。
民主化した中国に対して民主化できない北朝鮮の暴発の危険性は、民主化した中国の強力なリーダーシップのもと、北朝鮮の民主化を願うしかない。
現状に於いて北朝鮮に拉致問題解決を促すには北朝鮮に対して次の約束が必要となるのではないだろうか。
1.体制の保障
2.北朝鮮国家の名誉を守る
3.保有している核兵器の放棄は求めない
4.新規の核開発の凍結
5..拉致の責任及び処罰は求めない
6.拉致被害者には帰国後も北朝鮮で得た情報は口止めする
7.拉致被害者帰国後と共に国交正常化、そして戦争賠償と経済援助を行う
8.北朝鮮が政治的にも経済的にも安定し、政治的にも経済的にも西欧国家に開かれた国となった場
合、政治的にも経済的にも相互依存関係が進んで敵対国家が消滅、核兵器は必要なくなる。
9.必要なくなったと見做した時点で、核兵器の放棄を行う
以上の約束を北朝鮮が受け入れた場合、アメリカが北朝鮮の完全かつ検証可能な核開発計画放棄後に米朝関係の正常化、国交樹立、エネルギー支援、経済的支援等を約束しているが、日本はアメリカと協議し、北朝鮮が経済的・政治的安定後に核開発の放棄を求めるよう政策転換を促し、アメリカが承諾した場合、双方の約束の履行に移るとする。
経済発展によってのみ、為政者の威信と名誉は守られることを伝えるべきだろう。民主国家に於いて経済政策の失敗が指導者の交代を国民に求められる最大の要因となる。
経済発展を果たしたとき、金正日が提唱した故金日成国家主席生誕100年の2012年4月に思想大国・軍事大国・経済大国を実現して、「強盛大国の大門を開く」と国民に約束した国家目標が、生誕100年に間に合わなかったものの、約束を反故とせずに実現可能となるとことを伝える。。
当然、金正恩は指導者としての栄誉を獲得できることになる。
但し思想大国・軍事大国・経済大国のうち、軍事大国は経済発展の支援の代償として国力相応の軍事力を求めなければならない。
実際、国を開くことができれば、国力不相応の軍事力は必要なくなる。
核兵器放棄時、北朝鮮軍が反発を示すかもしれないが、経済発展によって金正恩が国民の支持を得た場合、軍と言えども反対はできないはずだ。
以上の提案が有効と考えるなら、野田首相は以上のことを親書に認(したた)め、説明役の特使に持たせて金正恩に直接手渡しする試みを行なってもいいはずだ。
有効でないというなら、それまでだが。
親書を手渡した当座は拒絶反応を示すかもしれない。例えそうであって、提案は頭に記憶され、現状以上に経済が困窮したとき、中国に依存するよりも、日本の支援によって金正恩自身が自らの手で失地を回復したいという指導者としての虚栄心と功名心に駆られることを期待した場合、日本の提案を真剣に考える可能性は否定できない。
父親金正日の名誉を守ることができるし、金正恩自身の名誉も守ることができるのである。「強盛大国の大門を開く」と国民に約束した国家事業を自分の代で実現できるかもしれないのである。