野田・プーチン日露首脳会談/プーチンの領土問題解決「世論を刺激せず」が意味するところのもの

2012-09-09 11:10:20 | Weblog

 野田首相がアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で訪問中のロシア・ウラジオストクでプーチン大統領と日本時間9月8日正午過ぎから30分間余り会談。

 会談内容は日本側発表によるから、批判を受けそうな都合の悪い情報は隠蔽し、都合のいい情報のみを公開した場合、真相は藪の中ということも起こり得る。

 例えば最近の例では今年6月18日(2012年)メキシコで開催の20カ国・地域(G20)首脳会議の際、野田首相とプーチン露大統領が初の日露首脳会談を行った後、日本側は領土問題の交渉を再活性化させることで一致したと発表、野田首相の外交成果としたが、実際には両者共、「領土交渉の再活性化」という言葉を使っていなかったことが判明している。

 その時の「NHK NEWS WEB」記事(2011年6月19日 7時5分)が紹介している両者の発言。  

 プーチン「双方が受け入れ可能な解決策で決着させ、終止符を打ちたい」

 野田首相「解決しなければならない問題だ。これまでの諸合意、諸文書、法と正義の原則に照らして、実質的な協議を始めたい。『始め』の号令をかけたい」

 プーチン大統領は領土問題に「終止符を打ちたい」と言っているが、「双方が受け入れ可能な解決策」とは日露両国の国益にとっては二律背反をなすゆえに、国益が一致しない終止符ということになって、果たして実現可能なのだろうか。

 また、野田首相の「『始め』の号令をかけたい」は願望を述べた発言であって、「領土交渉の再活性化」を両者の合意のもと、宣言した発言ではない。

 要するに「領土交渉の再活性化」なる舞台設定は野田首相の外交得点を上げるためのお膳立てに過ぎなかったということなのだろう。

 では、今回の野田・プーチン首脳会談内容を見てみる。《北方領土問題 12月に首脳会談へ》NHK NEWS WEB/2012年9月8日 16時41分)

 先ず経済関係について。

 プーチン大統領「日ロ両国の貿易は拡大している。経済関係の強化のために、もう一歩、踏み出したい」

 野田首相「ロシアがアジア太平洋地域に関心を高く持つようになったことを歓迎している」

 私自身はロシアの言う領土交渉はロシアが日本からの経済協力の取り付けと経済関係のより強固な密接化を通したロシアの経済発展を目的としてバラ撒いている撒き餌に過ぎないのではないのかと疑っている。

 少なくとも現状は北方四島をロシアの領土としたまま、ロシアが望む方向に進んでいる。

 この状況に於けるロシアにとっての有利な点は露日の経済関係が密接化する程、経済的な相互依存関係も密接化し、政治とは無関係に後退不可能となるということである。

 後退した場合、両国の経済に深刻なダメージを与えることになる。特に日本はロシアの原油や天然ガス等のエネルギーに依存することになるだろうから、深刻度は強まることになる。

 この露日の経済的相互依存関係の極度の密接化による経済関係の後退不可能性とは、北方四島の帰属といった政治問題とは別に相手国の経済に対して相互に生殺与奪の権を握ることになるということでもあるはずだ。

 このことがブレーキとなって、北方四島の政治問題には手をつけることができなくなる可能性も生じる。

 いわば日本は北方四島問題が解決しないからといって、ロシアの経済から撤退することは不可能となる。

 ロシアが望むことであり、ロシアの狙い目はそこにある、最善の状況ということではないだろうか。

 だとすると、ロシア側は冷徹な計算に基づいた対日外交を展開していることになる。

 領土問題について。

 野田首相(メドベージェフ首相の今年7月3日の国後島訪問念頭に)「協力を進めるためには、国民感情への配慮が必要だ。

 最終的に領土問題を解決する必要性を確認し、静かで建設的な環境の下で、双方受け入れ可能な解決策を見つけるべく、首脳、外相、次官級で実質的議論を進めていきたい。年内12月をメドに、ロシアへの訪問を調整している」

 プーチン大統領「世論を刺激せず、静かな雰囲気の下で解決していきたい。野田総理大臣のロシア訪問を歓迎したい」

 記事解説。〈両首脳は、北方領土問題の解決に向けて、ことし秋に次官級の協議を行うとともに、12月をメドに野田総理大臣がロシアを訪問して、改めて首脳会談を行うことで一致し〉たと言う。

 その夜、記者会見に臨んだ。

 野田首相「プーチン大統領とは2回目の会談だったが、中身の濃い議論ができた。オホーツク海でのカニの密漁対策などで実質的な進展もあった。

 領土問題については、静かな環境でしっかり議論していこうと、改めて合意することができたので、外務事務次官、外務大臣などの協議を経て、最終的には、また大統領と直接、じっくりと議論して、お互いに納得のできる最終的な解決案を見い出していきたい」

 野田首相は「中身の濃い議論ができた」と自らの外交を評価し、「カニの密漁対策」や「領土問題」を成果の対象としている。

 プーチン大統領の方は、多分、露日の「経済関係の強化」のみに成果の対象を置こうとしているはずだ。

 この見方が間違っていないとしたら、野田首相側から言うと、同床異夢と言うことになりかねない。

 野田首相自身も、「双方受け入れ可能な解決策」に言及している。一国のリーダーであり、「決める政治」を標榜としている以上、どのような解決策があるのか、頭に創造していなければならない。

 何かあるはずだと漠然とした思いで「双方受け入れ可能な解決策」を言っているわけではあるまい。

 記事は次のように結んでいる。〈ロシアは、領土交渉を継続する姿勢を示しつつ、日本の自動車メーカーの誘致や、原油と天然ガスの輸出を増やすなど、日本との経済協力を進めて、立ち遅れたロシア極東の底上げにつなげたい考えです。〉――

 非常に示唆的な結びとなっている。

 プーチン大統領の「世論を刺激せず」の発言は、野田首相のメドベージェフ首相国後島訪問を念頭に置いた、「協力を進めるためには、国民感情への配慮が必要だ」に応じた言葉でもあるはずだが、国民感情や世論は何も日本国民だけのものではない。ロシア国民の感情や世論も計算に入れた「世論を刺激せず」であろう。

 問題はどちらの世論に重点を置いているかだが、断るまでもなく、それぞれが自国の世論に重点を置くことを責任としているはずである。

 北方領土問題に関してロシア国民の世論を刺激する材料は北方四島の返還を措いて他にないはずだ。北方四島返還に関わるロシア国民の世論調査を見てみる。《ロシア 領土返還反対が90%》NHK/2011年2月19日 6時5分)

 ロシア民間調査機関「レバダ・センター」の2月11日~13日、ロシア全土1600人対象、18日公表の調査だそうだ。

 北方領土の日本への返還について

 「賛成」―― 4%
 「反対」――90%

 「反対」の推移

 ソビエト崩壊直前の20年前の調査――67%
 愛国主義的な傾向が強まった2002年以降――80%台

 記事はこの傾向を、〈ロシアでは、今月7日の「北方領土の日」に、菅総理大臣がメドベージェフ大統領の国後島訪問について「許し難い暴挙だ」と述べたことや、東京のロシア大使館前で右翼団体によってロシアの国旗が落書きされたことが大きく伝えられ、こうした動きに対する反発の表れではないかとみられています。〉と解説しているが、何よりもロシア国民が大国としての自信を通り戻していることが背景にあるはずだ。

 プーチン大統領は90%か、変化があったとしても90%前後の北方四島返還反対のロシア世論に対して「世論を刺激せず」の配慮を何よりも示さなければならない。

 日本の世論に対する配慮のみだと考えるとしたら、甘い考えとしか言いようがない。

 当然、プーチン大統領が自身の政治的な地位の保全をも含めた利害からロシア国民の世論に配慮した場合、北方四島返還とは逆の方向に行動を取らざるを得ないことになる。

 このように疑いを進めていくと、野田首相の「中身の濃い議論ができた」はプーチン外交の冷徹さと比較して厳しい目、冷徹さを欠いた大甘の自己評価に見えてくる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする