厚生労働省の2013年度予算は2012年度当初予算比2・9%増の30兆266億円で、初めて30兆円を超える概算要求額となったという。
どのような内容か、《30兆円の大台突破 医療イノベーションに411億円 厚労省平成25年度概算要求》(MSN産経/2012.9.5 10:28)から見てみる。
1 医療・環境等3分野対象の予算上乗せ要求が認められている特別重点・重点枠での要求計1088
億円計上。
人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた創薬の研究支援など「医療イノベーション」の推進に41
1億円計上
再生医療実用化、革新的医薬品開発を世界に先駆けて行う医療イノベーション推進が柱で、臨床
研究中核病院を新規7カ所整備、がんや難病治療法の開発支援等を盛り込む。
2 保育所待機児童解消に4612億円計上(2012年度当初予算比7・2%増)
受入れ児童数約7万人拡大
保育ママ、1万人から1万3千人へと拡大
延長保育58万人から60万2千人へと拡大
病児・病後児保育を延べ143万7千人から延べ171万8千人へと拡大
3 生活保護受給者や社会的孤立者への支援策に142億円計上
就労支援や家計相談を行う総合相談窓口のモデル事業実施。
現金給付」が原則の生活保護の住宅扶助費は自治体が家賃を直接大家に納入、住居を提供する
代理納付の積極的活用への予算も要求
等々であるらしい。
問題は、「世界に先駆けて行う」と謳った「医療イノベーション推進」事業である。
果たして医薬品に関して、あるいは新薬創出に関して、現実に「世界に先駆けて」いる状況にあるのだろうか。
確かに日本は世界第3位の「オリジン新薬数」を数える新薬創出国となっている。だが、2008年新薬創出第1の米国の49に対して日本は12である。第2位イギリスの16に対しても4の差をつけられている。
「ピカ新(特許を伴うピカピカの新薬)」の開発には10年100億円以上の時間と費用が掛かると言わているそうだが、4の差はそれぞれの開発年数と開発資金を足し算すると、40年・400億円の差と言うこともできる。
4の差でも決して小さくはないはずで、アメリカに対する45の差は圧倒的で、まさに足元にも及ばない状況にある。
インターネットで調べた医薬品の貿易収支を見てみる。
医薬品輸出額
2005年34億ドル――2011年45億ドル(1.3倍増)
医薬品輸入額
2005年83億ドル――2011年216億ドル(2.6倍増)
貿易収支
2005年49億ドル赤字――2011年171億ドル(3.5倍マイナス増)
医薬品の最大輸入国はドイツで、アメリカは第2位となっているが、ガン細胞だけを狙い撃ちにする分子標的薬は2000年以降、日本発のガン分子標的治療薬は創出されていないそうで、圧倒的に外国産ということらしい。
以上見てきた新薬創出に関わる諸々の創造性欠如はスーパーコンピュター「京」が補ってくれるわけではあるまい。コンピューターは計算を早くするが、基本的には開発や発明、経営に関わる人間の創造性の代用をするわけではない。
こういった日本医薬品状況にあるにも関わらず、「世界に先駆けて行う」と謳って、「医療イノベーション推進」事業に411億円を、その全てを再生医療実用化や革新的医薬品開発等にかけるわけではないだろうが、計上している。
「世界に先駆けて行う」と謳いながら、そうはなっていない現状を急激に変革するだけの力を持っていない日本の実力を素直に考えた場合、世界に先駆けるといった実力不相応の思い上がった考えに取り憑かれるのではなく、世界と共に医療イノベーションに取り組む姿勢に方向転換した方が懸命ではないだろうか。
例えば世界の大学・研究機関・ベンチャー企業に共同研究を提案・募集する。だからと言って、日本国内に共同研究の拠点施設を設けるのではなく、各拠点と対等の関係でテレビ会議システム等を活用して、随時会議や研究報告等を行う。
このメリットは改めて言うまでもなく、開発期間の短縮・開発資金の軽減ばかりか、ガンその他の難病を抱える患者により早い時間に朗報をもたらす機会となるはずである。
さらに日本人研究者に外国人頭脳と交わり、その考え方・発想・創造性等々を学ぶ体験機会となって、何らかの好ましい影響を与えるはずである。
研究・開発の国別タテ割り状況を排除、世界をステージとしてこそ、貧しい発展途上国の5歳以下の子供1000人当たりの 死亡率200(5人に1人の死亡)を早急に改善させる力ともなり得るのではないだろうか。
こういった発想は日本の国益とならず、実威力が伴わなくても、やはり「世界に先駆けて行う」と謳って、大金の予算をかけ、「医療イノベーション推進」事業の推進に邁進するのが日本の国益ということなのだろうか。