ロシアのウラジオストクで開催のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議出席のため当地を訪れていた野田首相が首脳会議の全体会合開始前に尖閣諸島日本国有化方針で関係が険悪化、正式会談が見送られた中国の胡錦涛主席と非公式の立ち話で15分間言葉を交わしたという。どういった言葉を交わしたのか、「近いうちに一杯やりましょう」と野田首相が問いかけ、胡錦濤国家主席が「近いうちにとはいつのことなのか」と問い返したといった類いなのか、次の記事から見てみる。
《首相 日中関係は大局的観点で》(NHK NEWS WEB/2012年9月9日 16時9分)
この記事には書いてないが、野田首相が9月9日首脳会議閉幕後、記者団に明かした内容だという。
野田首相は先ず9月7日発生の中国南西部雲南省の地震被害についてお見舞いを述べた。
次いで沖縄県の尖閣諸島問題等を巡って悪化している日中関係について次のように話しかけたことを明かしている。
野田首相「中国の発展は、日本や、この地域にとってもチャンスだ。ことしは日中国交正常化から40年にあたることもあり、戦略的互恵関係を深化させたい。現在の情勢には、大局的な観点から対応したい」
記事が伝えている野田首相の15分間の立ち話での会話内容はこれだけである。他の記事も似たり寄ったりとなっている。
記事解説も、〈政府が尖閣諸島を国有化する方針を示して以降、日中両国の首脳が直接、会話したのは、今回が初めてです。〉と伝えているのみで、後は首脳会議の場で隣り合わせに席を取った李明博韓国大統領と交わした言葉を伝えて記事を締め括っているのみである。
野田首相「北朝鮮を巡る問題などもあり、日韓両国はしっかり連携していかなければならない。大局観に立った2国間関係を構築していこう」――
他の記事と照らし合わせてみても分かることだが、要するに李明博大統領に対してと同様に野田首相の方から胡錦涛主席に声をかけた。
そして野田首相は自分から話しかけた言葉だけを日本の記者団に対して情報公開したのみで、いわば国民に対する説明責任を果たしたのみで、野田首相のそれぞれに向けた話しかけに対して相手側がどのような言葉で応じたのか、賛意、もしくは同調を示したのか、反論したのか、野田首相は記者たちに明かさなかったことになる。
これは情報公開、あるいは国民に対する説明責任としては片一方に偏り過ぎていないだろうか。
胡錦涛主席が野田首相の話しかけに対してどう応じたのか、野田首相自身の口からではなく、日本のマスコミが中国のマスコミの胡錦涛発言報道を紹介することで知ることになる。
《尖閣:首相「大局的に対応」 胡主席、国有化の撤回要求》(毎日jp/2012年09月10日 13時12分)
先ず上記記事と同趣旨で野田首相が尖閣諸島国有化に関しての中国反発を視野に「大局的な観点から対応したい」と呼びかけたことを紹介。
次に中国国営通信機関新華社の報道を引用する形で野田首相の呼びかけに対する胡錦涛主席の応答を伝えている。
胡錦涛主席「日本側による島の購入はいかなる方式であっても不法、無効であり中国側は固く反対する。
日本側は事態の重大性を十分に認識すべきで、誤った決定をせず、中国と共に中日関係発展の大局を守るべきだ」
「MSN産経」記事によると、この胡錦涛発言は中国外務省が新華社を通じで公表したもので、その後、削除した記事と差し替えたが、再び復活したという。
なぜ野田首相は自分の発言だけではなく、問いかけに対して胡錦涛主席はこう答えたと公表をしなかったのだろうか。
また、記者たちは野田首相の問いかけに対して胡錦涛主席はどう答えたのか、その場で質問したのだろうか。
質問したのかどうか不明だが、何れにしても野田首相は自分の発言だけを記者たちに伝えて、胡錦涛発言を公表しなかった。
それとも、記者が問い質したのに対して、中国側が公表するだろうからと答えたのだろうか。
野田首相にとって、中国側の公表に任せるメリットが一つある。
胡錦涛主席が立ち話で口にしなかった言葉を報道機関を通じて、さもそのように話したかのように公表した場合、国家の信用問題に関わるから、ほぼ同じ言葉遣いで公表したことを前提とすると、胡錦涛主席の反応に対する野田首相の反応を隠すことができるメリットである。
特に胡錦涛主席の強い反発に野田首相が驚いて、満足に受け答えができなかったとしても、その失態を国民に知らせずに済む。
但し自身の不都合を知らせないというのは一種の情報操作に当たる。
我々国民が一番知りたいことは胡錦涛主席の反発に対して野田首相が即座にどのような言葉で日本の立場の正当性を伝えたかである。
その判断能力によって、外交を任せることができる首相であるかどうかが判定できるからである。
「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、中国の主張は受け入れることはできない。この問題で日中関係全般に悪影響を与えることは日中の政治・経済のみならず、世界の政治・経済の安定を欠く要因となりかねないために避けなければならない」とでも答えたのだろうか。
まさか相手に言わせっ放しで一切反論せず、ニタニタ笑いを浮かべて終わりにしたわけではあるまい。
あるいは顔を引きつらせてその場を過ごしてしまったというわけではあるまい。
我々は野田首相の主張に対する胡錦涛中国国家主席の反論を中国の報道を引用する形で日本の新聞で知ることができた。だが、胡錦涛主席の反論に対する野田首相の再主張を中国の報道からも日本の報道からも知ることができず、全て藪の中である。
野田首相の資質に関わる知りたいと欲している事実が知っている当事者である野田首相から一切伝えられない。
果たして自身の不都合を隠す情報操作はなかったのだろうか。