安倍晋三の発言には色々とウソがあるから、誤魔化されてはいけない。要注意である。
7月3日の日本記者クラブでの9党党首討論で、小沢一郎生活の党代表の雇用問題に関わる質問に対する安倍晋三の答弁は公的機関が発表した統計を用いて自らの経済政策の成果を誇っているが、統計の内容を問わずに表面的な数字の提示のみで終わらせた、ウソとなる成果の誇示に過ぎないことを明らかにしたいと思う。
この討論会は制限時間のある一問一答形式で、主張と反論を戦わせる形式となっていないところに欠点がある。勿論、制限時間内の一問一答形式としなければ、いくら時間があっても時間が足りなくなる恐れが100%生じることになることからの形式なのは理解できるが、物足りない感じが付き纏うこととなった。
小沢一郎生活の党代表は雇用と医療の2点を質問したが、医療の問題は省略して、雇用の問題に限定する。
小沢一郎生活の党代表「安倍総理に2点お伺いしたいと思います。小泉政権のもとで雇用制度が改変されまして、今日では非正規の社員が35%を占めていると言われております。
これがですね、国民所得の減少の大きさ、大きな要因ではないかと思ってますし、えー、また、生活を不安定なもとしている最大の要因じゃないかと思っています。
ところが、こうした中で限定社員ちゅうな言葉を使ってですね、この非正規社員の枠組をさらに拡大しようとしていると聞いております。
この点について総理のお考えを聞きたいと思います」
安倍晋三「先ずね、雇用について言えば、えー、安倍政権になってですね、5月、前年同月比、60万人増えました。そしてですね、えー、いわゆる有効求人倍率、0.9になりましたね。これはリーマンショック前に戻りました。
我々の政策によって、(声を強めて)明らかに実体経済が良くなって、雇用にもいい影響が出てきました。そして雇用市場がタイト(=不足)になって来れば正社員は増えていきます。
事実、正社員、4月2万人求人が増えています。ですから、間違いなく、これはまだ半年間で、このような数字が出ていますから、これを続けていけば、必ず皆さんに実感していただけるだろうと、こう、オー、確信しております。
そしてもうひとつ、限定社員については、これは働き方で限定、様々なバリエーションを持った働き方をですね、えー、これに経営者側と雇用者、えー、被雇用者がですね、え、これは色々と相談しながら、決めていこうということであります」(以上)
さすがに安倍晋三、相変わらずウソを交えて、事実らしさを装う名人である。
安倍晋三が言っている「安倍政権になってですね、5月、前年同月比、60万人増えました」も、「有効求人倍率、0.9になりました」も、有効求人倍率が5年前の「リーマンショック前に戻りました」も、ウソも隠しもない真正な(神聖な?)事実である。
そのことは認めなければならない。
総務省統計局2013年6月28日公表の、《労働力調査(基本集計)平成25年(2013年)5月分》が安倍晋三の言っていることが真正な(神聖な)事実であることを証明している。
〈雇用者数は5554万人。前年同月に比べ60万人の増加〉――
但し、「雇用者」とは、「会社員・工員・公務員・団体職員・個人商店の従業員・住み込みの家事手伝い・日々雇用されている人・パートタイムやアルバイトなど、会社・団体・個人や官公庁に雇用されている人で、会社の社長・取締役・監査役,団体・公益法人や独立行政法人の理事・監事などの役員でない人」を言う。
要するに非正規社員として雇用される可能性のある職種も多く含んでいる。「安倍政権になってですね、、5月、前年同月比、60万人増えました」と言っても、60万人が60万人正規社員として採用されたわけではなく、非正規社員としての採用の割合が多ければ、60万人雇用増の陰で格差社会が拡大していない保証はない。
その割合次第で、単純に「60万人増えました」と成果として誇ることのできない数字となる。そうだとしたなら、統計の表面的な提示というマジックを使うことで、成果にウソを紛れ込ませていたことになる。
《労働力調査(基本集計)平成25年(2013年)5月分(速報))》(総務省統計局/2013年年6月28日)が雇用の実態を教えている。
〈4 雇用形態
正規の職員・従業員は3323万人。
非正規の職員・従業員は1891万人。
非正規の職員・従業員のうち,パートは916万人。
アルバイトは380万人。労働者派遣事業所の派遣社員は116万人。契約社員は276万人。嘱託は117万人。
雇用者(役員を除く)に占める非正規の職員・従業員の割合は36.3%〉――
非正規雇用の割合は小沢一郎生活の党代表が言っていた35%よりも多く36.3%で、非正規雇用は年々増加傾向にあることを踏まえて置かなければならない。
単純計算で60万人雇用増のうち36.3%の非正規雇用の割合を当てはめると、21万7800人の非正規雇用となる。正規雇用は38万2200人。正規雇用から非正規雇用の差はたったの16万4400人。
では、正規雇用・非正規雇用共にどのくらいの増加傾向にあるのか、非正規の割合がどのくらい増えたのか、《労働力調査(詳細集計)(平成25年(2013年)1~3月期平均(速報))》(総務省統計局2013年5月14日公表)を見てみる。
〈正規の職員・従業員は3281万人と,前年同期に比べ53万人の減少。2期ぶりの減少。
非正規の職員・従業員は1870万人と,前年同期に比べ65万人の増加
雇用者(役員を除く)に占める非正規の職員・従業員の割合は36.3%と,前年同期に比べ1.2ポイントの上昇。2期ぶりの上昇〉――
1~3月期の雇用者(役員を除く)に占める非正規の職員・従業員の前年同期比1.2ポイント上昇だと伝えている割合36.3%は5月統計と変わらないものの、「2013年1~3月期」の正規雇用者は前年「2012年1~3月期」比で53万人の減少に対して「2013年1~3月期」の非正規雇用者は前年「2012年1~3月期」比で65万人の増加ということは、安倍晋三が「安倍政権になってですね、5月、前年同月比、60万人増えました」と成果を誇示していることを相殺して余りあることになる。
このような実態を隠して、統計が示している数字を表面的に把えて自らの政治の成果だと誇る。ウソつきもいいとこでる。
当然、「雇用市場がタイト(=不足)になって来れば正社員は増えていきます」と言っていることも、「事実、正社員、4月2万人求人が増えています」と言っていることも、実際には正社員ばかりが増えているわけではなく、また全体として正社員数が減少して、非正規雇用が増加一途では正確な実態を反映した言葉とは決して言えず、一国の総理大臣の発言である以上、正確でないことは許されるはずもなく、その分、ウソをついていることと同じになる。
60万人の新規雇用の中に正規雇用が非正規雇用を上回っていたとしても、雇用全体から見て、非正規雇用者が無視できない数で存在したのでは国民の生活の姿として、さらには社会の姿として決して健全とは言えないはずだ。
非正規雇用者の非婚率の高まりにも影響しているし、当然、出産数=少子高齢化にも影響することになる。
尤も国家主義者の安倍晋三からしたら、国民生活よりも国家の成り立ちを優先する立場上、国家及び国家経済を支える大企業の雇用の中身が正規だろうと非正規だろうと、利益を上げさえすれば健全と考えているだろうから、そのような健全を以って国家の質の基準とし、その基準を以って社会の質・国民生活の質を代用させているはずだ。
もしそうではなく、国民主体の視線でいたなら、国民生活に影響を与える自身の政策に対する自己評価なのだから、統計の表面的な解釈・操作というウソを用いずに深く内容にまで踏み込んで吟味し、正確な情報を伝える姿勢を示していたはずだ。
だが、逆になっていた。
「有効求人倍率0.9」にしても、すべてが正規雇用のみに向けた有効求人倍率ではなく、非正規雇用率や非正規雇用数が反映した倍率ということになる。 「有効求人倍率0.9」の非正規雇用率36.3%が非正規雇用に向けた有効求人倍率と言えるはずだ。
小沢一郎生活の党代表が言っているように小泉政権時代から格差が一層拡大し、安倍第1次内各時代にその格差政策を引き継ぎ、それ以来、非正規雇用数の年々の増加が象徴する格差拡大の一途を辿ってきた。
このような実態に目を向けずに、統計の表面のみに視線を向けて、「有効求人倍率、0.9になりましたね。これはリーマンショック前に戻りました」と自らの政治を誇っている。
これをウソと言わずに、何と言ったらいいのだろうか。
また、仕事や勤務地、労働時間等を契約で限定し、正社員と非正規社員の中間に位置するという「限定社員制度」のメリットを言っているが、企業側に何らかのメリットとなる制度でなければ、わざわざ新しい雇用形態を設ける必要性は生じないはずだ。
つまり、企業側が非正規雇用者を不況時の便利な雇用調整弁として利用したように、「限定社員制度」を設けることによって国内競争力を維持することができる、国際競争力を維持することができるといったメリットがあるからそこの限定社員制度であろう。
このメリットについて、次の記事が伝えている。《正社員より緩い解雇ルールを 限定正社員で規制改革骨子》(47NEWS/2013/05/14 00:38 【共同通信】)
〈政府の規制改革会議の雇用ワーキンググループ(座長・鶴光太郎慶応大大学院教授)が近くまとめる雇用改革の骨子案が13日、明らかになった。職種や勤務地、労働時間が限られる「限定正社員」の解雇ルールの整備を求めることが柱で、正社員よりも解雇条件を緩和することを目指す。
政府は、限定正社員の普及を目指している。特定の職種や勤務地がなくなり人員削減が必要になった場合を想定して解雇ルールを定め、企業に限定正社員導入を促すのが狙い。ただ雇用の不安定化につながりかねず、労働組合などから反発も予想される。〉云々――
この限定社員制度は解雇規制を緩和して衰退産業から成長産業に人材を移して労働市場を流動化させ、経済を活性化させることも狙いとしているという。
要するに「限定正社員制度」の導入と併せた「解雇ルール」であって、企業のメリットに軸足を置いた政策であることが分かる。労働者は解雇を恐れて企業の言いなりに口答えもせずに労働に励むようになるだろう。
但しこの解雇ルールの導入は評判が悪く、金銭を支払う代わりに解雇できる「金銭解決」を含めて見送る方向だという。評判を恐れて撤回ということは当然、参院選への悪影響を恐れたからだろう。
撤回したとしても、安倍晋三は解雇ルールを導入したい衝動は持ち続けることになる。参院選大勝、衆参安定多数確保ということになれば、再び解雇ルールの導入を持ち出すに違いない。
かつての小泉・安倍第1次内閣時代も労働規制の緩和による人件費の抑圧で日本は戦後最長景気を手に入れ、大企業は軒並み戦後最高益を得るに至ったが、その利益は内部留保に回り、賃金には回らず、個人所得と個人消費は伸び悩み、実感なき景気と言われた。
再びその時代と同じ道を歩もうととしている。
安倍晋三は統計の数字の裏に隠されて事実を話さずに自分に都合のいい統計だけを取り出して自らの政策を誇るのだから、安倍晋三ははっきり言って、ウソつきである。