安倍晋三の対中外交、「条件をつけることなく」と中国に注文する合理性欠如のご都合主義

2013-07-28 07:52:28 | 政治


 
 田中均元外務審議官が7月26日(2013年)、日本記者クラブで講演、再び安倍対中外交を批判した。《「価値外交」を批判=田中均元外務審議官》時事ドットコム/2013年7月26日(金)16時36分)

 田中元外務審議官「中国をいかに建設的な形で巻き込んで変えていくかが(対中外交の)戦略の目的だ。『価値外交』と言って疎外するのは目的にかなうのか。

 中国国民が『(尖閣諸島を)日本が実効支配しているのはおかしい』と捉えだし、中国政府がコントロールできなくなった。今の緊張(度)を下げるしかない」――

 要するに中国以外の各国を回って価値観外交を訴えている安倍対中外交は一人の主婦が自分の価値観を押し通そうとして思い通りにならない近所の主婦に対する面白くない感情を晴らすために近所の別の主婦たちのところに回って、自分の価値観こそが正しい、相手の価値観は間違っていると訴えて同意を得て満足しているような外交に過ぎない。

 いくら周囲の同意を得ても、肝心な相手との価値感の違いは解消できるわけではない。

 テレビ番組で、「13回、海外に出張した、海の自由を守るために力による支配ではなく、法による支配を訴えた」と、さも正しい外交を行なっているかのように発言していたが、それで中国との関係が進展したわけではないのだから、対中外交に限って言うと、時間とカネのムダ遣いをしたに過ぎないことに気づいていない。 

 価値感の違いを理由に関係を遮断する道を選択するか、遮断できずに関係が必要なら、価値感の違いを乗り越える道を模索するか、いずれかに決めなければならないはずだが、相変わらず自らの価値観に同意してくれる近所の主婦のところを回って、同意を以って自身の対中外交としている。

 要するに中国に対して直接的な働きかけを行って有効とするのではなく、間接的な働きかけをするだけで、対中外交を全うさせている。

 にも関わらず、谷内内閣官房参与や谷口内閣審議官を中国に派遣するのは、日本の外交の顔である安倍晋三自身が一方で近所を回って対中包囲網を見せかけていながら、その一方で当事者に話し合いをしようと申し込むのだから、双方が簡単に満足する形で成立する種類の話し合いならいいが、そうでなければ、安倍自身の直接的な言動と矛盾することになって、相手に警戒と不信感を植え付ける助けとしかならないはずだ。

 安倍晋三は7月25日から3日間の日程でマレーシア、シンガポール、フィリピンの東南アジア3カ国を訪問している。「2国間関係だけを見るのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰する戦略的な外交を展開する」(MSN産経)と、相変わらず言うことだけは勇ましい。

 特別な相反する利害を抱えていない二国関係なら、「世界全体を俯瞰」した長期的・全体的展望に立った行動のための知恵・想像力(=戦略)は外交に役立つこともあるだろうが、抱えている場合の二国関係なら、それぞれの国がそれぞれに自国の利害を楯とした長期的・全体的展望に立った行動を見せることになるから、その行動を生み出す知恵・想像力にしても自国利害に左右されて、「世界全体を俯瞰」した戦略性は殆どの場合、利害の埒外に置かれて役立たないことになる。

 このことは「価値観外交」そのものが証明している。価値感を異にする中国に対して価値観外交は尖閣問題の解決に何ら役に立っていないし、価値感を同じくする韓国に対してであっても、竹島という領土問題に関しても、歴史認識問題にしても、何ら解決の糧にはなっていない。

 所詮、「地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰する戦略的な外交を展開」は安倍晋三特有の奇麗事に過ぎない。

 7月27日、安倍晋三は訪問先のフィリピンで記者会見を開いている。自明の理でしかないが、価値感の違いを理由に関係を遮断できるわけはなく、価値感をひと先ず脇に置いて、対話を進める姿勢を示している。

 但し、安倍晋三らしい合理性を欠いた条件づけを行なっている。

 《首相 早期に日中首脳会談実現》NHK NEWS WEB/2013年7月27日 17時57分)

 安倍晋三「(中国は)隣国だからこそ、さまざまな問題が生じるが、切っても切れない関係であることを双方が認識し、お互いに努力していくことが重要だ。これこそが戦略的互恵関係であり、私の原点はここにある。中国も、その原点に立ち戻ってほしい。

 先ずはお互いが胸襟を開いて、話し合いをしていくことが大切で、外交当局間の対話を進めるよう私から指示している。条件をつけることなく、なるべく早く外相・首脳レベルの会合を持ちたい」――

 「条件をつけることなく」は中国に対する「条件はつけるな」という注文であろう。日本側は「尖閣諸島に領土問題は存在しない」を基本姿勢としている。要するに中国側に対して中国とは尖閣諸島を領土問題として話し合わないを条件として突きつけている。

 もし日本側が「条件をつけることなく」の姿勢を取るということであったなら、領土問題の存在を認めることになり、この大きな政策変換は国民に説明しなければならない事実として扱わなければならないはずだが、何らの説明もないのだから、日本側から「条件をつけることなく」ではないはずだ。

 中国が尖閣諸島問題で日本に突きつけている条件は、

 〈1〉日本政府が領土問題の存在を認める
 〈2〉日中双方が問題を「棚上げ」する――の二つである。

 この条件の突きつけに対して安倍晋三は7月21日夜の日本テレビで次のように発言している。

 安倍晋三「問題があるからこそ対話をしていく必要性は高まっていく。対話のドアは開いていると申し上げている。中国側も対応していただきたい。こちら側が条件を呑まなければ首脳会談をやらない、という姿勢自体は少しおかしい」――(asahi.com

 安倍晋三が言っている「こちら側が条件を呑まなければ首脳会談をやらない、という姿勢自体は少しおかしい」と批判している意味は、日本側が条件を呑まなくても、首脳会談を開催すべきだということになる。

 では、日本側が中国側に突きつけている「尖閣諸島に領土問題は存在しない」の条件を中国側が呑まなくても、首脳会談を開催するという姿勢を示すことができ、示すことによって首脳会談開催が実現可能となっただろうか。

 ノーである。中国側にとって尖閣諸島に関わる領土問題を議論しない首脳会談は意味が無いからである。

 要するに、「こちら側が条件を呑まなければ首脳会談をやらない、という姿勢自体」は何も中国だけの姿勢ではなく、お互い様の姿勢であるはずだ。安倍晋三は自分の都合だけを言ったに過ぎない。

 中国側に対する“条件をつけるな”(=「条件をつけることなく」)にしても、「尖閣諸島に領土問題は存在しない」を日本側の覆す意志のない絶対の条件として突きつけていながらの相手に対す“条件をつけるな”(=「条件をつけることなく」)なのだから、これ程の合理性を欠いた自己都合、ご都合主義はない。

 問題は、双方が採ることになる「条件を呑まなければ首脳会談をやらない、という姿勢自体」ではなく、双方が主張するそれぞれの国益に絡んだ、それゆえになかなかに譲ることのできない条件にお互いがどう歩み寄って、どう整合性をつけて首脳会談につなげていくかの、長期的・全体的展望に立った行動のための知恵・想像力(=戦略)を如何に構築していくかであって、安倍晋三にはその視点もその姿勢もなく、日本側の条件は絶対としながら、中国側には「条件をつけることなく」と棚上げを求める、合理性を欠いた自己都合、ご都合主義に寄り掛かった外交を専ら安倍対中外交としている。

 その程度の外交能力しかないということなのだろう。だから、田中均外務審議官に再三に亘ってその外交姿勢に対して批判を受けることになる。

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