安倍晋三のアベノミクス賃金上昇と企業収益向上好循環の自信に見る最低賃金千円としないことの矛盾

2013-07-26 09:14:10 | 政治



 以前にもアベノミクスと最低賃金について書いていて、似たような内容となるが、安倍晋三は参院選挙でアベノミクスの効果について散々に自慢していた。テレビの党首討論で、「実体経済は確実に良くなっています」と請け合っていた。

 アベノミクスは賃金上昇と企業収益向上の好循環を謳っている。上昇した賃金が消費に回り、その消費によって企業が収益を向上させ、利益を上げた企業がその利益を社員の報酬に反映させて賃金がなお一層上昇し、なお一層上昇した賃金がなおのこと消費に回り、その消費によって利益を上げた企業がなおなお一層社員の報酬に反映させて・・・・・といったとどまるところを知らない果てしない賃金上昇と企業収益向上の無限循環を描き出していた。

 円高を円安に切り替えることに成功したものの、賃金が上がらないうちに円安によって輸入生活物資や輸入燃料、輸入肥料等が高騰して一般生活者の生活を圧迫しだして、多分、焦ったのだろう、今年2月の経団連、 日商、経済同友会の経済3団体に対して直接の賃上げ要請を行ったが、団体は実体経済が動かないうちからのベースアップに難色を示し、ボーナス等の一時金で対応した。

 そして参院選前の2013年7月7日のフジテレビ「新報道2001」――

 安倍晋三「雇用市場がタイトになれば、間違いなく有効求人倍率がリーマンショック前に戻りましたね。段々、段々ですね、え、給料は上がっていきますし、この夏のボーナス、64社、7%のボーナスが上がるんです」――

 同じく2013年7月7日のNHK総合テレビ「日曜討論」――

 安倍晋三「この夏はですね、大手でありますが、7%、あのバブル期以来の伸び率になっていきますから、私は必ず賃金は上がっていくと、このように確信をしております」――

 どうも安倍晋三は大手企業のボーナス、もしくは賃金が上がりさえすればいいと考えているらしい。

 この大手企業「64社、7%のボーナス」について、《大手のボーナス7.37%増 自動車業界は突出14%超》asahi.com/2013年5月30日19時51分)が具体的に伝えている。

 経団連が5月30日発表した大手企業夏のボーナス第1回集計である。

 組合員平均で84万6376円。前年夏比でプラス7・37%の5万8060円増。これはバブル景気以来の伸び率で、増加は2年ぶり。

 但し、〈恩恵は自動車業界にかたよっている。〉と解説している。14・15%増の92万5859円。

 「時事ドットコム」記事によると、自動車や自動車部品の対米輸出が好調で、2013年上期(1~6月)の貿易統計速報(通関ベース)で2兆9423億円の黒字となったと書いているが、そのような実績に裏打ちされた自動車業界偏向のボーナス奮発ということなのだろう。

 この黒字は3期連続で前年同期を上回っているということだから、円安だけに頼った黒字ではなく、米国の景気回復に支えられた黒字でもあるはずだ。

 自動車業界に続いて東日本大震災の復興需要があるセメント業界が4・96%増となっているが、これもアベノミクス効果ではなく、被災がもたらした企業収益向上という皮肉な効果が結果となって現れているはずだ。

 2013年6月14日閣議決定した「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」は謳っている。

 〈持続的な経済成長に向けた最低賃金の引上げのための環境整備・全ての所得層での賃金上昇と企業収益向上の好循環を実現できるよう、今後の経済運営を見据え、最低賃金の引上げに努める。その際、中小企業・小規模事業者の生産性向上等のための支援を拡充する。〉

 〈全ての所得層での賃金上昇〉を約束していながら、大手企業の一部に限った「この夏のボーナス、64社、7%のボーナスが上がるんです」と、都合がいいだけの統計を抜き出して、全体で見た場合は不正確・不正直となる情報のタレ流しを行なってアベノミクス効果の宣伝ができるということは、安倍晋三の景気回復・経済成長が大企業に重点を置いた上から目線となっていることの証明であろう。

 だからこそ、「安倍政権になってですね、5月、前年同月比、60万人増えました」と、その中に非正規雇用が多く含まれていることを無視して、アベノミクス効果の一つに入れることができる。

 また、大企業に重点を置いた上から目線となっているからこそ、「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」が謳っている「最低賃金の引上げのための環境整備」にしても、円安によって最初に生活の打撃を受ける最低賃金生活者(中には夫婦共稼ぎで、妻は最低賃金で働いていても、夫が十分な賃金を得ている場合もあるが)を後回しにして、企業や商業者、経営者の上部団体である経団連、 日商、経済同友会の経済3団体に賃上げの要請ができる。

 いわば上が豊かになって、その利益が下に流れるのを待つ上から目線であって、上は上として扱い、それとは別に下の賃金を底上げして、その消費が一段上の賃金上昇に繋げていく、下も忘れない上下同時の賃上げ思考とはなっていない。

 安倍政権は物価上昇2%目標に対応させて最低賃金2%超の引き上げを今年10月頃に予定している平成25年度最低賃金改定に合わせて引き上げる方針だということだが、何も10月改定を待つまでもなく前倒ししてもいいわけで、そうしないで2月に経済3団体に賃上げの要請をしていながら、8カ月遅れること10月実施予定ということは、上下同時というわけではなく、「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」に「最低賃金の引上げのための環境整備・全ての所得層での賃金上昇と企業収益向上の好循環」と書いていることに対してあくまでも後付けの下に対する配慮ということになる。

 もし安倍晋三がアベノミクスが描いている賃金上昇と企業収益向上の好循環に自信があるなら、最低賃金上げが中小企業の経営を圧迫することがあっても、その圧迫は好循環がそのうち吸収することになる予定的調和でなければならない。

 現在の最低賃金は全国平均で時給749円。2%超だと、平均15円超の引き上げになるそうだが、それが全国一律時給1000円の最低賃金上げであっても、そのコスト上昇を好循環が吸収するまでの間政府が何らかの支援を行うか、中小企業が大手企業と下請け関係にある場合は、大手企業は260兆円の内部留保があるということだから、中小企業が最低賃金を上げることによって人件費に余分にかかるコストを下請製品単価に反映することを許す何らかの措置を取ることで、経営圧迫を回避できる。

 また、時給1000円と上げ幅が大きい場合、元の時給を750円とすると、1日6時間働いて1500円の昇給、1カ月20日労働としても、30000円の上乗せ収入は預金に全額回すケースもあるだろうが、一般的には消費に回す余地を大きくするはずで、より上の段階の賃金と消費をも押し上げいく、下からの好循環が期待できないわけではない。

 上からだけではなく、下からの好循環のレールに乗ったなら、中小企業の経営圧迫は上下からの吸収の力が働く。

 どう考えてみても、最低賃金を時給平均749円から平均で15円程度引き上げる予定だということはアベノミクスが謳っている、消費行動を介在させた賃金上昇と企業収益向上好循環の自信に矛盾する、下からの目線を欠いた、上からの目線により重点を置いた措置に見えて仕方がない。

 参院選挙の各テレビ局の党首討論や街頭演説で見せたアベノミクス効果の自信の大きからか判断したら、最低賃金時給1000円でなければ、妥当性を見い出すことはできない。

 大企業に重点置き、その利益が下に流れるのを待つ上から目線がアベノミクスの本質だということなら、賃金上昇と企業収益向上の好循環にしても上に重点を置いた発想ということになって、どうもそれが確かなことのように見えるが、10月の平成25年度最低賃金改定に合わせて前倒ししないことからも、高々最低賃金平均2%程度上げは下への目線も忘れていないことを示す後付けのアリバイ作りの疑いが出てくる。

 上から目線を主とし、下から目線を疎かにしたら、いくら景気を回復したとしても、小泉内閣・第1次安倍内閣時代の「戦後最長景気」のときの大企業は軒並み戦後最高益を得ていながら、賃金も上がらない、消費も増えない実感なき景気の二の舞となる恐れが出てくる。

 参考までに――

 2013年7月12日、当ブログ記事――《安倍晋三の最低賃金上げ「10円以上」に見るアベノミクス賃金上昇好循環への裏切りと格差無視の政治体質 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》

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