安倍晋三の最低賃金上げ「10円以上」に見るアベノミクス賃金上昇好循環への裏切りと格差無視の政治体質

2013-07-12 09:50:15 | 政治


 
 安倍晋三が7月10日のテレビ朝日の番組で最低賃金引き上げについて第1次安倍政権下(2006年9月26日~2007年9月26日)で「10円以上上げた」と実績を強調。その上で2013年度改定でも同様の大幅引き上げが「十分に可能だと思う」との認識を示したと、7月10日付「時事ドットコム」が伝えている。

 具体的にはいくらなのか、《最低賃金2%超上げへ 10月実施方針 首相、秋に定昇増要請》MSN産経/2013.7.9 07:00)が伝えている。

 今年10月頃に予定している平成25年度改定に合わせて、〈安倍晋三政権が2%の物価上昇を目標に掲げていることを踏まえ、経済回復基調が幅広く国民に行き渡るよう2%を超える引き上げ案が浮上している。〉

 現在の最低賃金は全国平均で時給749円。2%超だと、平均15円超の引き上げになるという。

 749円+15円超=764円超。

 1日8時間働いとしても、764円超×8時間=6112円超

 〈6月に閣議決定した成長戦略では「すべての所得層での賃金上昇と企業収益向上の好循環を実現できるよう最低賃金の引き上げに努める」と明記〉してあるという。

 問題はあくまでもアベノミクスなる政策が「すべての所得層での賃金上昇と企業収益向上の好循環」を大々的に謳っている以上、最低賃金上げ幅が妥当かどうかである。

 政府高官「賃金や家計所得が増加しなければ消費の拡大は続かない。アベノミクスの成否に関わる重要な問題だ」――

 当たり前のことを当たり前に言っているに過ぎない。問題は15円超の上げ幅でいいのかである。

 記事解説。〈賃金の引き上げに向けて、政府は企業の内部留保が投資や賃金に回るよう誘導策も導入する方針だ。一方、経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)な中小企業からは2%の賃金引き上げにも激しい抵抗が予想されるため、中小企業の経営を過度に圧迫しない対応も慎重に検討していく。〉――

 秋までに中小企業の抵抗の壁を乗り越える紆余曲折が控えているにも関わらず、ここで打ち出したということは、アベノミクスが盛んに賃金上昇を謳いながら、現実には賃金上昇がなかなか進まない中で、あるいは円安・株高による企業収益は増える一方であるのに反して賃金上昇が一人取り残されている中で、アベノミクスが謳う賃金上昇は間違いのないことだと太鼓判を押す参院選対策でもあるだろう。

 アベノミクスと称している景気回復策は企業業績改善を出発点としている。それが雇用改善・賃金上昇へと発展、それを受けて消費者の消費マインドが上向き、消費拡大へと進み、消費拡大は物価高のインフレを招くが、その物価高がさらに企業業績を上向かせて従業員の雇用改善と賃金上昇へと還流してしていき、企業の業績改善と雇用改善・賃金上昇、さらに消費拡大が相互に好循環しながら一体的に雪ダルマ式に膨らんでいき、日本の経済は拡大、税収も増えるというシナリオを描いている。

 出発点の企業業績改善は日銀が打ち出した大胆な金融政策によって加速させられ、大企業の多くが勝利を勝ち取るゴールへの駆け込みを頭に描きつつ、現在のところ力強い走りを見せている。

 ではどのくらい企業業績が改善したのか、次の記事が教えてくれる。《アベノミクスで企業業績改善 12年度税収 43兆9000億円》SankeiBiz/2013.6.28 05:00)

 財務省がまとめた2012年度の最終的な一般会計税収は今年1月の補正予算時の見込みを約1兆3000億円上回り、43兆9000億円程度。 

 安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」による円安株高で企業業績が改善し、法人税収や株式の配当など所得税収が増えたのが要因。

 この43兆9000億円程度は08年度の約44兆3000億円以来、4年ぶりの高水準だそうだ。

 第2次安倍政権が発足したのは2012年度を4分の3も過ぎた2012年12月26日。それから2012年度末までの3ヶ月間で企業業績が格段に改善し、一般会計税収が今年1月の補正予算時の見込み額を約1兆3000億円上回ったというのだから、企業の利益は相当なものとなる。

 当然、この格段の企業業績は雇用改善・賃金上昇を次の到達点としていなければ、アベノミクス好循環の謳い文句に偽りあることになる。

 円安は第2次安倍内閣発足前の昨年2012年11月中旬以降、その政策への期待から円安・株高が進んでいる。それを日銀による異次元の金融緩和策が円安・株高を決定的なものとした。

 この傾向を受けて、財務省が統計を取らずとも、企業は順次自らの業績改善を把握できていたはずである。にも関わらず、今年2月の経団連、 日商、経済同友会の経済3団体に対する安倍政権の直接の賃上げ要請はベースアップに難色を示し、ボーナス等の一時金への対応にとどまっている。

 では、ボーナスはどの程度上がるのだろうか。

 安倍晋三はこのところの各テレビ局での党首討論で次のように発言している。

 「この夏のボーナス、64社、7%のボーナスが上がるんです」

 「大手でありますが、7%、あのバブル期以来の伸び率になっていきますから、私は必ず賃金は上がっていくと、このように確信をしております」――

 具体的には大企業の今年の夏のボーナス支給額は経団連の調査で前年比7.37%増の約84万円、これは2年ぶりのプラスだそうだが、安倍晋三が「64社」と言っていることは、2006年の経産省の統計だが、大企業数は中小企業約419・8万社(99.7%)に対して約1・2万社(0.3%)となっていて、そのうちの大企業「64社」は約1・2万社に対する0.5%に過ぎない。

 「64社」が間違いだとしても、経団連の参加会員数は日本の代表的な企業1300社を加えた1632社・団体だということだから、大企業数約1・2万社に対して13.6%に過ぎない。

 因みに第一生命経済研究所が2013年4月4日に発表した「2013年夏のボーナス予測」は次のように記述している。
  
 〈民間企業の2013年夏のボーナス支給額を前年比+0.7%(支給額:36万1千円)と予測する。2012年冬のボーナスは前年比▲1.5%と減少したが、今夏には増加に転じる見込みである。ボーナスの増加は、2010年夏以来6季振りのことになる。

 昨年末以降の景気回復や円安効果により企業収益が持ち直しつつあることや、企業の景況感が改善していることなどが背景にある。政府による賃上げ要請が一部影響した可能性もあるだろう。〉――

 大企業前年比7.37%増・約84万円に対して全体の前年比+0.7%・36万1千円は事情が全く以って違うということである。

 いわば安倍晋三は一般国民には、あるいは一般的な有権者には基準とはならない大企業のボーナスを持ち出して、企業業績改善を出発点として雇用改善・賃金上昇へと向かう好循環の間違いないことの証明とした。

 勿論大企業という上流の賃金上昇が下流に向かって少しずつ削られていきながら流れていけば問題はないが、アベノミクスの問題点は大企業の利益が果たして中小企業にも反映され、正規雇用者だけではなく、非正規雇用者をも含めた一般労働者にまでトリクルダウン(いわば再分配)されて好循環を辿るのかどうかにあるのだから、現時点ではその証明とはならない、単に大企業のボーナスのみを取り上げて、さも賃金上昇の好循環が機能しているかのように言うのはゴマ化しがあってこそ可能となる。

 このゴマ化しを安倍晋三に許しているのは長らく続いている正規雇用の減少傾向と非正規雇用の増加傾向、その結果としての3人に1人以上が非正規雇用者となっている身分格差・所得格差の現状が新規雇用にも反映、雇用自体にも格差が構成される状況を無視して、「政権が変わってから、前年度比で5月60万人、雇用が増えた」と単に数字だけの統計で自らの政策に矛盾のないことを誇ることのできる客観的認識能力の質であろう。

 いわば賃金上昇の波及にしても、新規雇用にしても、格差拡大の方向に進むのではなく、格差縮小の方向に進む性格の好循環でなければならないにも関わらず、その視点を一切欠いているということである。

 当然、安倍晋三は格差無視の政治体質をしていることになる。

 だからこそ、企業が2012年度に今年1月の補正予算時の見込みを約1兆3000億円も上回る43兆9000億円程度の税金を収めることができる程に利益を上げていることに対して、現行全国平均時給749円の最低賃金を秋に2%超程度の15円そこそこ上げる、格差無視の発想ができる。

 アベノミクスが賃金上昇の好循環を自信を持って謳っている以上、時給15円そこそこの増額は自らの自信に対する裏切りであり、いわば口程でもないということになり、数字だけの「60万人」の新規雇用を自己成果とすることができるところに現れている非正規雇用等の社会的弱者や社会の格差の無視が相互反映し合っている時給15円そこそこの最低賃金上げと言うこともできる。

 すべては安倍晋三という格差無視の政治体質の成せる技である。格差無視は国民よりも国家を上に置く国家主義者だからこそ可能とすることができる。

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