安倍晋三の企業は国内競争のみならず、国際競争を生き抜いているという視点なき消費税増税決定記者会見

2013-10-02 05:30:41 | 政治



 ごくごく当たり前のことを言うが、企業活動のグローバル化が激化した今日、企業の国内競争力確保、さらに海外に向かった場合の国際競争力確保の一大条件は安価な人件費となっている。中国が1992年の小平主導の改革・開放経済以降、この安価な人件費を武器に海外投資を招き、日本を抜き、世界第2位の経済大国にのし上がったことが競争力確保の一大条件であることを決定づけた。

 勿論、高い技術力は必要である。だが、最後の勝負はモノ・サービスの単価の安さであり、技術開発のための投資が高額となって、高い技術力を確保しても、価格の点でも高いものとなった技術がモノ・サービスの単価の安さを実現するための障害となった場合、安価な人件費は欠かすことのできない絶対条件と化す。

 企業経営の一大条件である安価な人件費はバブル崩壊やリーマン・ショック、ヨロッパの金融危機、その他を経験して、万が一突然襲ってくるかもしれない似たような経済災害・金融災害に対する備えとしても、より確固たる絶対条件と化しているはずだ。

 もう一つ、企業が競争を生き抜くための条件は法人税等の負担しなければならない各種税金が安いことであろう。

 安倍晋三が昨10月1日、夕方の6時から消費税増税決定と併せて消費税増税によって景気が腰折れしないための経済対策を発表する記者会見を開いた。

 《首相官邸HP》から見てみる。

 先ず「冒頭発言」から、。

 安倍晋三「今般とりまとめた経済政策パッケージは、目先の経済を押し上げるだけの一過性の対策ではありません。社会保障の充実や安定などのためにお願いする負担を緩和しながら、同時に将来にわたって投資を促進し、賃金を上昇させ、雇用を拡大する。まさに未来への投資です。企業収益の増加が賃金上昇、雇用拡大につながり、消費を押し上げることを通じて、さらなる企業収益につながっていく、経済の好循環をつくるための投資を進めます。

 研究開発を促し、設備投資を後押しして、未来の成長と雇用につなげます。事業再編を促して、企業体質を変え、新たなベンチャーの起業を応援することで、持続的な活力を生み出します。

 実効税率が国際的に高い水準にある我が国の法人税、我が国の持続的な成長に向けて、国際競争に打ち勝ち、世界から日本に投資を呼び込むためには、法人税について真剣に検討を進めねばなりません。さらに、収益を賃金として従業員に還元する企業には税制で支援します。政労使の連携も深めながら、成長の成果を若者や女性を含めて、雇用拡大、そして賃金上昇につなげていきます。

 加えて、足元の経済成長を賃金上昇につなげることを前提に、復興特別法人税の1年前倒しでの廃止について検討いたします。もちろん、25兆円の復興財源を確保することは大前提です。同時に、所得の低い方々に対して1人1万円の給付を行います。住宅については、住宅ローン減税の大幅拡充、給付措置の創設を行い、消費税引上げによる負担を軽減することも決定いたしました」――

 安倍晋三は企業活動を活発化し、収益を上げるために法人税減税の検討と「復興特別法人税の1年前倒しでの廃止について検討」を約束し、さらに「今般とりまとめた経済政策パッケージ」で各種投資促進を図って企業収益の増加を策し、「企業収益の増加が賃金上昇、雇用拡大につながり、消費を押し上げることを通じて、さらなる企業収益につながっていく、経済の好循環をつくる」と国民向け――というよりも、より企業向けに力強く約束している。

 だが、この「好循環」は、それが国内に於ける一般化した傾向となった場合、国内競争力に関しては同じ条件となって問題は生じないが、少なくとも国際競争力に於いて、その競争力確保の一大条件となっている安価な人件費志向に逆らうこととなって、国内生産のモノ・サービスの国際競争力自体を弱めることになる。

 この国際競争力弱体化を円安が相殺してくれるとしても、一旦上げた賃金は固定化するのに対して為替相場は常に変動して、常に力強い味方となる保証はない。

 企業は果たして企業収益を素直に賃金上昇に循環させていくのだろうか。

 2008年9月のリーマンショック以前の、小泉時代(2001年4月26日~2006年9月26日)と第1次安倍時代(2006年9月26日~2007年9月26日)と重なった2002年2月から2007年10月まで続いた「戦後最長景気」で大企業は軒並み戦後最高益を得たが、その企業収益の多くを内部留保にまわして一般労働者に賃金として目に見える形で還元しなかった。

 この傾向は現在も続いている。大企業は260兆円もの内部留保を抱えていながら、一向に賃金に回さない。

 安倍晋三はこの原因を記者会見の質疑応答でデフレだからと言っている。

 原NHK記者「総理、NHKの原と申します。

 国民負担増が言われる中で、今回の経済政策パッケージにつきましては、法人優先だという指摘もあります。総理はただいま、企業収益の増加によって賃金と雇用の拡大を目指すとおっしゃいましたけれども、具体的にどのように実現するお考えでしょうか」

 安倍晋三「まず、法人対個人、そういう考え方を私はとりません。

 今、多くの個人は法人で仕事をして、収入を得ているわけでありまして、会社で働き、給料を得て、暮らしを立てています。企業の収益が伸びていけば、雇用が増えていきますし、さらに賃金が増えていけば、家計も潤っていくわけであります。

 しかし、長いデフレの間に、企業は投資や従業員への還元を行わずに、ずっとお金を貯め込んできたという状況が続きました。だからこそ、デフレからの脱却であります。

 つまり、企業にとって投資をしたり、あるいはしっかりと従業員に還元していかなければ、逆に企業が損をしていくという時代に私たちは変えていきます。その上において、我々は企業が国際経済の中で、グローバルな経済の中で競争力を持ち、勝ち抜き、雇用を確保し、雇用をつくり、そしてさらに賃金を上げていくという状況をつくらなければならないと思っています」――

 NHK記者は好循環実現の具体策を聞いた。答は具体策でも何でもない。こうすればこうなるといった能書きの類いでしかない。

 「企業の収益が伸びていけば、雇用が増えていきますし、さらに賃金が増えていけば、家計も潤っていくわけであります」と言っているが、この循環構造は雇用を除いて戦後最長景気時代以降、何ら機能しなかった。無効そのもののこうすればこうなるであった。

 確かに景気が回復し、企業活動が活発化すると、雇用は増えた。だが、その大半は景気が悪化し、企業活動が鈍化すると簡単に首切りができる雇用調整弁としての非正規雇用であった。非正規雇用は国内競争力確保及び国際競争力確保の一大条件である安価な人件費で雇用を満たすことができる。

 安倍晋三は雇用と賃金が増えなかった原因は「長いデフレ」だと言っている。

 「長いデフレの間に、企業は投資や従業員への還元を行わずに、ずっとお金を貯め込んできたという状況が続きました。だからこそ、デフレからの脱却であります」――

 しかしこの発言は企業活動を国内競争に限った発言であって、国際競争をも戦っているという視点を全く欠いている。日本の大手企業はアジアやアメリカ、そ他の地域の国々に工場を構えるなどの積極的な投資を行い、高い収益を上げている。

 アメリカに対してはその巨大市場を狙って、アジアの国々に対してはその市場のみならず、国際競争力確保の一大条件となる安価な人件費を手中にし、その安価な人件費によって投資を相殺する安価なモノ・サービスの提供を狙って。

 人口減少、少子高齢化に伴う労働力人口の減少によって消費のパイが縮小していく傾向にある日本に於いて企業活動の主戦場は国内であるよりも国外を舞台とする趨勢にあるはずだ。

 いわば経済政策は人口政策でもあるが、経済政策を優先し、人口政策を従としている。

 となると、「企業にとって投資をしたり、あるいはしっかりと従業員に還元していかなければ、逆に企業が損をしていくという時代に私たちは変えていきます」は、企業の国内競争に限った場合は有効とすることができても、逆に企業活動の主戦場を国内から国外へと向けさせる力ともなりかねない。

 安倍晋三は記者会見の中で一度だけ、「国際競争力」という言葉を使っている。

 安倍晋三「15年間も続いてきた、こびりついたこのデフレマインドを払拭をすること。そう簡単なことではないと私は認識をしているのです。だからこそ、この至難のわざではありますが、私たちは、だからこそ、今、つかんだチャンスを逃してはならない。その中で、企業が国際競争力に打ち勝つ中において収益を上げ、さらには政労使の対話の場もつくりまして、そこで賃金という形でなるべく早く従業員に還元をし、そしてそれが消費に回っていけば好循環に入って、そういう状況をつくらなければならないと、こう思っているわけでありまして、この三本の矢によって、まさに日本経済は回復をしていき、そして、額に汗して働く人々に経済成長の実感を全国津々浦々にお届けしていきたいと、こう考えています」――

 国内のデフレを払拭すれば、企業が国際競争力に打ち勝つことができるようなことを言っている。

 確かにグローバル化時代に於いて企業は国内競争ばかりか、国際競争に打ち勝ってこそ、存続可能となる。国内競争に於いて賃金上昇を条件としなければならなくなったとしても、それが国際競争を縛るわけではない。

 企業存続のために却って国際競争を活かす道を選択しかねない。

 企業活動のグローバル化が利益再配分の中に目に見える形の賃金上昇を欠いても生き残ることのできる企業の怪物化が進行している。

 この怪物化とは勿論、自らの存続のみを考え、一般生活者の生活を考えないという意味である。

 アベノミクスはこの怪物化に打ち勝たなければならないが、その前に企業が国内競争のみならず、国際競争を生き抜いているという視点をしっかり持った上で、企業収益を賃金アップという形の還元に求めてもなお、企業が自らの活動の主戦場を国内から国外へと舞台を移さない政策を講じなければ、責任を果たしたとは言えないはずだ。

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