大畠民主党幹事長が10月24日、民主党本部で定例記者会見を開き、汚染水対策に関して恒久的な対策の検討に入るべきをそうしなかったことを謝罪した。
「NHK NEWS WEB」記事や「YOMIURI ONLINE」記事、その他が伝えているが、《「民主党として大いに反省」現在の汚染水問題招いた陸側遮水壁見送りで大畠幹事長》(民主党HP/2013年10月24日)に拠ることにした。
2011年8月17日の統合対策室「事故収束に向けた道筋(ロードマップ)進捗状況報告」
1~4号機の既設護岸前面に遮水壁を設置する工事に着手することをステップ2の目標として挙げる記述の図面中に海側・陸側遮水壁が共に記載されていた。
2011年11月17日の統合対策室「事故収束に向けた道筋(ロードマップ)進捗状況報告」
2011年10月26日の東電「海側遮水壁の工事着手および陸側遮水壁の検討結果について」の報告で「陸側遮水壁については再度検討・判断する」としたことを受けて、「陸側については、設置した場合の効果や影響について総合的に検討し、現時点においては、海側のみで対応することが適当と結論」づけて、陸側遮水壁工事の見送るを承認した。
大畠幹事長「当時は原子炉の冷温停止、いかにして使用済み燃料や溶け落ちた燃料を冷却するかに全力を挙げており、地下水の問題については錯綜する状況だったろうと私も実感している。
現在の状況を考えると、12月16日に冷温停止に達したときに応急的な対策から恒久的な対策に切り換える検討に入るべきだった。その点については民主党政権として大いに反省すべきであるし、汚染水問題を大変申し訳なく感じる」
民主党として野党に転じた今後も汚染水問題、福島第1原発事故対策に全力で取り組んでいく」(下線部分解説文を会話体に直す。)
東電の10月26日の報告には、「海側遮水壁の工事着手」となっている。
但し、陸側を見送り、海側のみの工事に結論づけた東電の決定を野田政権が了承した経緯についてはこの記事にも添付の「『遮水壁』等に関する事実調査結果」pdf記事にも何も触れていない。
この経緯については馬淵民主党選対委員長が9月18日午前の党会合で、陸側遮水壁工事によって新たに1000億円の債務が加わることになることから、多額の費用負担による経営破綻を懸念した東電側の意向を当時の野田政権が受け入れたからだと明らかにしている。
馬淵氏選対委員長「総理大臣官邸などの判断で発表は取りやめたが、東京電力は遅滞なく計画を進めることを約束していた。にもかかわらず、その後、工事が進まなかった」(NHK NEWS WEB)(下線部分解説文を会話体に直す。)
この事実は同じ日に当時経産相だった海江田民主党代表も追認している。
海江田代表「あの時点では間違っていなかった。東電が破綻すれば、被災者への賠償はどうなる、ということを考えねばならない。
(国費を投入しての遮水壁設置について)『東電に責任を取らせるべきだ』という当時の世論では難しかった」(YOMIURI ONLINE)
東電は債務問題を陸側遮水壁工事見送りの理由としているが、原子炉のメルトダウンした核燃料を冷却する循環冷却水が放射能に汚染されて地下に漏れ、地下水と混じって汚染水と化す危険なプロセスの既に始まっている可能性を識者やマスコミが指摘していながら、なかなか認めなかった危機感のなさが自らに許した陸側遮水壁工事の見送りでもあったはずだ。
経済産業省原子力安全・保安院解析による福島第1原発各号機メルトダウンは次のようになっている。《保安院 1号機メルトダウンは5時間後》(NHK NEWS WEB/2011年6月6日 21:10更新)から。
1号機――地震発生から約5時間後
2号機――地震発生から約80時間後の3月14日午後10時50分頃
3号機――地震発生から約79時間後の3月14日午後10時10分頃
これがただのメルトダウン(炉心溶融)ではなかった。
2011年5月25日公表の東京電力解析――
1号機――地震発生から18時間後に格納容器に直径3センチ相当の穴
50時間後以降に直径7センチ相当に拡大の可能性
2号機――地震発生から約21時間後に格納容器に直径10センチ相当の穴
3月15日に圧力抑制室=サプレッションプールで爆発音があった以降、圧力抑制室に直径10センチ相
当の穴が開いた可能性
東京電力「あくまで解析で出た結果で、実際にこうした大きさの穴が開いているかどうかは分からない」(NHK NEWS WEB)
危機管理が最悪の事態を想定してそのことに備えることである以上、実際に大きな穴が開いたと仮定して、対策を取るべきだが、そうはしなかった。
東電のこのような危機管理意識の希薄さ――危機感のなさは以後も続く。
東電は2011年3月31日、1号機の建屋近くにある地下水の排水設備の水から原発敷地境界の法定限界値の約1万倍の濃度にあたる1立方センチ当たり430ベクレルの放射性ヨウ素131を検出したと発表している。
《福島第一、地下水も放射能汚染 限界値の1万倍のヨウ素》(asahi.com/2011年4月1日1時36分)
地下水の排水設備とは、記事によると、建物が地下水の浮力で動かないようにポンプで地下水をくみ上げて側溝に排水する仕組みの設備だという。
当然、地下水が放射能に汚染されている危険性を疑わなければならない。
東電「タービン建屋などの高濃度の汚染水がしみ出したのではなく、放射能を含むちりが雨水でしみこんだと考えられる」――
要するに建屋からの汚染水の漏出を否定している。この否定は地下水の放射能汚染の否定へとつながっていく。当然、メルトダウンした核燃料を冷却するための循環冷却水が放射能に汚染されて、それが地下に漏れ、放射能に汚染された地下水(=汚染水)となっている可能性の立場を取らず、「放射能を含むむちりが雨水でしみこんだ」地下水(=汚染水)の可能性を取っているために、そのような可能性からの危機管理対応となる。いわば、前者の可能性に手を回さない対策となる。
問題はメルトダウンした核燃料を冷却する循環冷却水が放射能に汚染されて地下に漏れ、地下水と混じって汚染水と化す場合の経路である。
東電が2011年5月25日に1号機と2号機の格納容器に直径7センチから直径10センチの穴が開いている可能性を解析していながら、「あくまで解析で出た結果で、実際にこうした大きさの穴が開いているかどうかは分からない」としていた判断に対して政府が2011年6月8日国際原子力機関(IAEA)に提出した報告書では、破損した1~3号機の原子炉圧力容器の底部から溶融した核燃料が漏れ出し、格納容器内に堆積している可能性を指摘している。
汚染した冷却水が地下水と混入して汚染水化している場合の考えられる経路の一つは、東電が2011年3月31日に1号機の建屋近くにある地下水の排水設備の水から原発敷地境界の法定限界値の約1万倍の濃度にあたる1立方センチ当たり430ベクレルの放射性ヨウ素131を検出した事実と併せてメルトスルーした核燃料が格納容器底部を貫通、格納容器底部を覆って保護している厚さ最大で2.6メートル、最小1.02メートルのコンクリートとコンクリートを下部で支える鋼鉄板は共に高熱には弱い性質があり、溶融か亀裂か、何らかの破損個所を生じさせて、核燃料を冷却する循環冷却水が地下に漏れて、地下水と混入する経路である。
勿論、現在のところ、汚染水の地下水との混入がコンクリートと鋼鉄板からの経路を取っているのかどうかは不明である。だが、危機管理上、どのような経路であっても、汚染水が地下水に混入しているケースを想定しなければならなかったはずだ。
政府が国際原子力機関(IAEA)に報告書を提出した2011年6月8日から18日経過の2011年10月26日東電発表の、大畠民主党幹事長が謝罪で触れている、「海側遮水壁の工事着手および陸側遮水壁の検討結果について」を見ると、汚染水の地下水への混入自体を想定していない。
当然、経路は考慮の範囲外に置いている。
〈海洋汚染の拡大防止については、第一義的には建屋内滞留水を地下水へ流出させないことが重要であり、遮水壁は万が一このような事態が生じた場合においても、汚染地下水の海洋への流出を防止するための対策と位置付けることが適当です。このため、建屋内滞留水の流出リスクを増大させるような対策は回避すべきであると考えております。〉――
〈第一義的には建屋内滞留水を地下水へ流出させないことが重要であり〉と、その時点では地下水への流出の事態はないとしている。
この東電発表の10日前の6月16日、小出裕章京大原子炉実験所助教授があさひテレビの番組で冷却水の地下水への混入の危険性を訴えている。
《風知草:株価より汚染防止だ=山田孝男》(毎日jp/2011年6月20日)
山田孝男とは毎日新聞社の編集者らしい。
小出助教授「東京電力の発表を見る限り、福島原発の原子炉は、ドロドロに溶けた核燃料が、圧力鍋のような容器の底を破ってコンクリートの土台にめり込み、地下へ沈みつつある。一刻も早く周辺の土中深く壁をめぐらせて地下ダムを築き、放射性物質に汚染された地下水の海洋流出を食い止めねばならない」――
ここで言っている地下ダムとは、〈ところが、さらに取材すると、東電の反対で計画が宙に浮いている実態がわかった。原発担当の馬淵澄夫首相補佐官は小出助教と同じ危機感を抱き、地下ダム建設の発表を求めたが、東電が抵抗している。
理由は資金だ。ダム建設に1000億円かかる。国が支払う保証はない。公表して東電の債務増と受け取られれば株価がまた下がり、株主総会を乗り切れぬというのである。〉と解説し、さらに、〈筆者の手もとに、東電が政府に示した記者発表の対処方針と応答要領の写しがある。6月13日付で表題は「『地下バウンダリ』プレスについて」。バウンダリ(boundary)は境界壁、つまり地下ダムだ。プレスは記者発表をさしている。〉と書いているから、陸側遮水壁のことを指すはずだ。
要するに小出助教授は汚染水の地下への漏出による地下水との混入の経路として、原子炉の格納容器の底部を保護しているコンクリートから地下への経路の危険性を懸念していた。
だが、東電はこの時点に於いても、どのような経路であったとしても、汚染冷却水の地下への流出と地下水への混入の危険性に対する危機感を持っていなかった。地下水から放射性物質が検出されても、放射能を含むちりが雨水でしみこんだ程度のことだとしていた。
東電は2011年11月30日になって、メルトダウンした核燃料が鋼鉄の原子炉の底を突き破って相当量が格納容器に落下、容器の底のコンクリートを溶かして最大で65センチの浸食が推定されるとする解析結果を公表している。
但し、コンクリートと鋼鉄板からの汚染水の流出が確認されたわけではない。
そして2012年となり、2012年6月20日、東電は《福島原子力事故調査報告書》を公表している。
〈タービン建屋には、3月11日に発生した大津波による海水が流入していたものの、その溜まり水は低線量であった。3月24日に確認された高線量の水は、原子炉冷却のために注水していた水が原子炉から格納容器へ漏えいし、更に、原子炉建屋を経由して隣接するタービン建屋地下階に流出したものであり、その過程において高濃度の汚染水(Cs-137で2.3×106Bq/cm3)になったものと推定された。1,2号機についてもタービン建屋に滞留している水の放射能濃度を測定した結果、3号機と同様に高濃度の汚染水であることが判明した。
・・・・・・
地下水を経由した海洋汚染の防止対策
現時点では、建屋内の滞留水の水位は地下水の水位と同程度であり、地中へ大量に流出することはないと考えられるが、今後、滞留水が地中へ漏出し、海洋汚染を拡大させる可能性は否定できない。このため、1~4号機の既設護岸の前面に、原子炉建屋周りの難透水層の透水係数と同程度となる10-6cm/secの遮水性を有する鋼管矢板による遮水壁(海側)を設置するとともに、遮水壁(海側)と既設護岸との間に地下水ドレンを設置し、地下水が海洋に漏れ出さないように管理する計画である。遮水壁(海側)の延長は約800m、鋼管矢板の長さは22~24mで、下部の難透水層まで根入れする計画である。(H23/10/28から開始し、工期は約2年の予定である)〉――
冷却水が原子炉、さらに原子炉圧力容器から漏れて、タービン建屋地下階への流出を認めているものの、「現時点では、建屋内の滞留水の水位は地下水の水位と同程度であり、地中へ大量に流出することはないと考えられるが」と、汚染した冷却水のタービン建屋地下階を経た地中への大量流出を否定しているが、その理由として「建屋内の滞留水の水位」と「地下水の水位と同程度」としていること自体が、建屋と地下水がある地下とがつながっていることを認めていることになる。
いわば決して地下へと漏れてもいない、地下水と混入してもいないとは否定出来ないことになる。
当然、地下水の流入とその圧力を抑制するための陸側の遮水壁の設置工事を同時に進める計画を立てなければならなかった。だが、債務問題を恐れて、危機感もなく先送りした。
債務問題への危機感の方が強かったということである。あるいは債務問題への危機感を優先させた。
2013年4月、地下の貯水槽から高濃度の放射性物質を含む汚染水の水漏れが見つかった。
東電は2013年4月6日、〈漏れた量の推定を約120トン、漏れた放射能は約7100億ベクレルと発表。事故前の年間排出上限の約3倍の量。2011年12月に政府が事故収束宣言して以来最大という。遮水シートの継ぎ目部分などから現在も地中に漏れ続けているとみられ、地下水と混じり合っている可能性もある。 〉(asahi.com)
尾野昌之東電原子力・立地本部・本部長代理「海への流出は今のところない」(同asahi.com)
建屋から海水取水口や排出口を経て、直接港湾内への流出はなくても、マスコミが可能性を指摘している地下水との混入が事実と仮定した場合、建屋周辺以外の場所からの海への流出の可能性は否定できないはずだが、一切ないとう趣旨の発言となっている。
これも危機感のなさの一つの例となる。
2013年5月になって、混入の事実を裏付けることになる。
2号機の海側にある放射能濃度観測用の井戸の地下水から高い濃度の放射性物質が検出された。いわば地下水自体の放射能汚染が判明した。
但し東電は東電専用港湾内の海水の放射性物質の濃度が上昇したにも関わらず、汚染水の港湾内への流出を認めなかった。
2013年、7月22日になって、放射能濃度観測用の井戸の地下水が海の潮位と連動して上下していることが判明、東京電力は汚染水の港湾内への流出が続いていたことを初めて認めた。
経路として当然考えられる場所は高濃度の放射性物質を含む汚染水の水漏れが見つかった地下の貯水槽であろう。
勿論、未だ確かめようがなく、それゆえに経路ではないと完全には証明しきれない格納容器底部を保護しているコンクリートと鋼鉄板の何らかの破損個所を通した汚染水の地下への経路を取った地下水との混入の可能性を否定することはできない。
要は疑うことである。疑うことが危機意識を強めて、危機意識に応じた危機管理で対応することになる。
このことは台風26号襲来時の伊豆大島の大島町にも言えるはずである。
だが、東電は終始強い危機意識で対応することはなかった。東電の危機意識のなさが民主党政権の危機意識のなさに伝染し、汚染水対策を東電任せにした安倍内閣の危機意識のなさに伝染した。
右翼の軍国主義者安倍晋三がアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催のIIOC総会で日本時間2013年9月7日夜のオリンピック東京招致最終プレゼンテーションで「フクシマの汚染水は完全にコントロールされている」と、実際の状況とは異なることを言ってしまったものだから、帰国してから、「東電任せにせずに、国が前面に出て」と約束、危機意識がなかったことを露呈することになった。