台風26号に伴う土石流で10月23日未明時点で死者29人、行方不明18人の被害を出した東京都大島町(伊豆大島)が、気象庁と都が「土砂災害警戒情報」の運用を始めた2008年から今年4月までの計7回、同情報を出していたにも関わらず、町が避難勧告の対応を取ったことが一度もなかったと次の記事が伝えている。
《大島町:土砂災害情報あったのに 避難勧告一度も出さず》(毎日jp/2013年10月22日 02時38分)
土砂災害警戒情報は東京都には08年2月に導入。大島町対象の警戒情報は今回の土石流発生前の3回を除けば08年6月~13年4月までに計7回発令。
記事解説。〈気象庁が「土石流が起こりやすく多くの災害が発生するレベル」と定める1時間降水量50ミリに迫る雨量を観測していたケースもあり、台風など大雨に対する警戒の認識が以前から脆弱(ぜいじゃく)だった実態が浮かんだ。〉――
記事は、〈気象庁の記録では、警戒情報を出した後に、土砂災害につながる激しい雨が降るケースが多〉いと書いているが、「土砂災害警戒情報」を出すについては前以て雨量を予測するからだろう。
土砂災害が予測される激しい大雨が降り出してから「土砂災害警戒情報」を出したのでは意味はない。
大島町に発令された「土砂災害警戒情報」発令から大雨が降るまでの時間と観測降水量。
2008年9月20日――発表約2時間後・1時間降水量47ミリ
2009年8月11日――発表約1時間後・1時間降水量48.5ミリ
東日本大震災の際は地震発生から津波到達まで最短で30分、岩手県大船渡市で約30分後に3・2メートル以上の津波が襲ったということだから、大地震が発生したなら、揺れが収まってから30分以内を目安に高台等に避難できるように心掛けることを慣習化しなければならないように、大島町の場合、過去の例で最短で発表約1時間後ということなら、それが4時間後、5時間後となるケースがあったとしても、「土砂災害警戒情報」が発令されたなら、自治体自身は例え土砂災害が発生しなくても、最低限直ちに避難勧告を発令して、住民に警戒を呼びかけると同時に、当初は最短の発表約1時間後を目安に、1時間が経過したなら、順次時間を伸ばして大雨が去るまで、あるいは山からの絞り水が土砂崩れに影響する可能性も考慮するなら、雨脚が弱まった以降もハイレベルの警戒を心掛けることを慣習化 なければならないことになる。
だが、大島町は2008年から今年4月までの計7回の「土砂災害警戒情報」の発令に対して避難勧告等の対応を一度も取らなかった。但し土砂災害も一度も発生しなかった。
東京都建設局「大島町に警戒情報が出された過去7回で土砂災害が発生した記録は残っていない」(下線部分解説文を会話体に直す。)
町幹部(警戒情報を重視していなかった事実を認めた上で)「島の土壌は水はけが良く、これまでの大雨でも被害は下水溝が詰まって土のうを積んだ程度。土砂災害が発生するとは予測していなかった」――
だが、10月16日に台風26号が襲った今回は最初の「土砂災害警戒情報」(10月15日午後6時05分)発令から約6時間後の2回目の「土砂災害警戒情報」(10月16日午前0時10分)発表時には1時間降水量が52ミリとなった。
3回目の「土砂災害警戒情報」(10月16日午前2時35分)発表時には、「雨による大規模災害発生の恐れが強く、厳重な警戒が必要」とされる1時間降水量80ミリを超える92ミリ。
その14分後の10月16日午前2時49分、元町地区の住民から「家の中に泥が流れ込んできた」と署に通報があったと「MSN産経」が伝えているが、それが最初の土石流だとしたなら、1回目の「土砂災害警戒情報」から8時間44分後の遅い土石流の発生ということになるが、1時間降水量92ミリの大雨が降り続いていた以上、最大限の警戒は続けなければならなかった。
だが、気象庁が10月14日夕方には、「台風26号は強い勢力のまま、水曜日の日中に東海から関東に最接近」と警告予報し、10月15日5時12分には、大型で強い台風第26号が10月16日には東日本太平洋側にかなり接近する恐れがあり、15日から16日にかけて西日本から北日本では広い範囲で暴風や高波、大雨に対する厳重な警戒が必要であることを呼びかけ、伊豆諸島に於ける10月16日にかけて予想される最大風速(最大瞬間風速)を35メートル(50メートル)、10月16日6時までの24時間に予想される降水量を300ミリと予報していたにも関わらず、「土砂災害警戒情報」発令のケースも想定せず、刻々の情勢・情報の変化を追うこともせず、大島町長は10月15日朝、出張に発ち、町の幹部や防災担当者は10月15日午後6時半頃までに帰宅、町役場はカラッポとなって、10月16日午前0時頃に出勤して来た総務課長が東京都が送信した「土砂災害警戒情報」のファクスに気づきながら、夜間だったという理由で避難勧告や避難指示を出す対応を取らなかった。
避難勧告や避難指示を出さなければならない場合は夜間であろうと何であろうと時間を選ばないはずだから、夜間だったという理由は後付けの自己正当化に過ぎず、上記記事を読むと、実際は大島町が過去7回の「土砂災害警戒情報」の発令に対して避難勧告を一度も出したことがないことと同様の今回の対応であることから判断すると、過去いずれの「土砂災害警戒情報」発令の場合も土石流が発生せず、避難勧告を出さずに済んだことを教訓としてしまって無対応を慣習化することになり、今回の無対応を当たり前としたということではないだろうか。
結果として、大島町は知らず知らずのうちに「土砂災害警戒情報」をオオカミ少年としていた。何ら危機感のない形式的な報告程度と見做していた。
だから、台風接近下、刻々の情勢・情報の変化を追うこともせずに全員が町役場から帰宅することができ、東京都からの「土砂災害警戒情報」発令を知らせるファクスに気づいても、夜間であろうとなかろうと関係なしに放置することができた。
「土砂災害警戒情報」を何ら危機感を感じないオオカミ少年としていたことの結果が、少年一人が狼に食べられてしまう被害で終わらずに10月23日未明時点で死者29人、行方不明18人の被害を出すことになった。
最後に喰らうこととなったそのツケは取り返しがつかないゆえに大きい。
大島町は台風被害の事後処理が終わらない内に気象庁の予報で台風27号のコースの予報円内に置かれることとなり、その備えとして避難所での生活が難しい高齢者や障害者の島外への一時的避難を考慮し、打診に入った。
10月21日の発言。
大島町長「町民の命を守る使命を最大限に果たしたい。町内での避難所の確保に万全を期すとともに、自力での避難が難しい人については、安全確認が取れるまで島の外に避難してもらうことを考えている」(NHK NEWS WEB)――
「町民の命を守る使命を最大限に果たしたい」は台風26号の襲来前に言わなければならないことで、死者29人、行方不明18人の惨状を前にして聞くと、その言葉は虚しく響く。
すべての事態処理後、「土砂災害警戒情報」をオオカミ少年としていたことの責任を取らなければならないだろう。