24の国と地域で行ったOECD(経済協力開発機構)「国際成人力調査」で日本が「読解力」と「数的思考力」の2分野で首位を取ったというニュースを聞いて、大したものだなと思った。「読解力」と「数的思考力」と言うと、暗記教育で培うことになる従属性知識の応用を試されるのではなく、従属性知識に始まって、それを自身の創造性で発展させて培う自発性知識の応用を試されたと思ったからだ。
次の記事から、その実態を見てみる。
《大人の学力の調査で日本首位》(NHK NEWS WEB/2013年10月8日 18時24分)
〈学歴や職業にかかわらず得点が高い傾向にあり、分析を担当した国立教育政策研究所は、「義務教育で基礎・基本を重視してきた結果ではないか」と話してい〉るという。
だが、義務教育で得た「基礎・基本」(従属性知識)を目の前の問題(あるいは目の前の課題)に当てはめて答を見出す(あるいは解決する)能力と、「基礎・基本」から始まって、そこから自己独自の知識(自発性知識)を創り出して問題や課題を自ら見つけて答を見出す(あるいは解決する)能力とは自ずと異なる。
学校教育や職業訓練など人材育成の参考にしようとOECDが初めて実施したのだそうだ。16歳から65歳までのおよそ15万7000人が参加し、日本では無作為に選ばれた5000人余りが解答。
出題は「読解力」と「数的な思考力」と「ITを活用した問題解決力」の3分野。日本は「読解力」と「数学的な思考力」で平均得点を20点程上回ってトップ。
学歴別、職業別分析だと、世界的に学歴が高い程得点も高い傾向にあり、単純作業従事者よりも事務職、管理職、技術者と順に成績が良くなっているそうで、日本は学歴や職業による得点差が小さく、全体的に高い能力を持っていると分析されたとのこと。
例として最終学歴が「中学卒業」の日本人の「読解力」はアメリカやドイツなどの高校卒業者よりも高かったと説明している。安倍晋三、鼻が高いに違いない。
分析を担当した国立教育政策研究所の小桐間徳国際研究・協力部長の話。
小桐間徳国際研究・協力部長「早くから義務教育が普及し、読み書き計算の基礎・基本を重視してきた結果ではないか」――
「基礎・基本」を発展させた能力の高さを賞賛している。
一方、「ITを活用した問題解決力」は平均を上回ったものの10位。
国立教育政策研究所「パソコンを使い慣れておらず、問題に取りかかれない人が少なくなかったのではないか」――
さて、ここからが重要だが、記事ははごく一部しか明らかにされていないとしているテストの内容を伝えている。
文章を理解し利用する能力を見る「読解力」の問題。
〈例えば市民マラソン大会の開催を知らせるインターネットのホームページを読んで、主催者の電話番号を調べる場面が想定されています。
ページに並んでいる項目の中から「問い合わせ先」を選べば電話番号が分かることから、この項目をクリックするのが正解です。〉と解説しているから、電話番号を知るにはどのような操作がいいのかとでも聞いたのだろう。
これを以て「読解力」を問う問題と言えるのだろうか。これは多分に暗記知識(従属性知識)を問う分野であって、自発性知識を用いた読解力を試す分野とは異なる。
「数的な思考力」
値段や気温など生活に関わる数学的な知識や計算の能力を見るそうだ。
営業マンが車で出張した場合に会社から支払われる経費を問う問題。
走行距離1キロメートル当たり35円、食事代などとして1日当たり4000円支給される場合、146キロ走った日の出張にはいくら支払われるか。
正解。35円×146キロ=5110円+食事代4000円=9110円。
これで「数学的な思考力」とは言わずに、「数的な思考力」と名づけた意味が分かった。
要するに単純な計算式――数字の当てはめに過ぎない。まさしく「早くから義務教育が普及し、読み書き計算の基礎・基本を重視してきた結果」と言うことができる。
次のように解説している。〈また、「ITを活用した問題解決力」の問題では、電子メールの分類や表計算ソフトで情報を整理することができるかどうかなどが問われました。
いずれも知識の有無を見るのではなく、日常生活の様々な場面で情報を活用することができるかどうかを重視した問題だということです。〉云々。
この「情報の活用」と言っても、例題で見る限り、天気予報が3時頃から雨が降ると伝えていたから、会社の帰りに備えて傘を持って行こうといった程度の従属性の情報の活用に過ぎない。
与えられた情報を自分が持っている様々な情報を用いて解読し、解読した情報を自身の今後の行動や新たに手に入れた自身の知識として役立てるといった自発性の情報の活用とは異なる。
このような出題で「成人力」を計ることができるのだろうか。しかも「国際成人力」と、「国際」と銘打っているのだから、国際的に通用する成人力ということであるはずだ。
昨日(2013年10月10日)のTBSテレビ「ひるおび!」でも取り上げていて、問題を紹介していた。
それぞれの得票数を多い順に従って候補者名を書き入れた選挙結果から、「得票数が最も少なかった候補者は誰ですか」と「読解力」を問う出題や、「数的思考力」を問う問題では、縦5個、横7個で配列した饅頭の絵を見せて、「1箱に全部で105個の黒糖まんじゅうが入っています。この黒糖まんじゅうは1箱の中に何段重ねで箱詰めされていますか」と答を求めている出題例を紹介していたが、すべて暗記知識(従属性知識)の当てはめで片付く「成人力調査」となっている。
このことは教育方法や能力開発について研究しているという京都大学高等教育研究開発推進センターの松下佳代教授の解説が証明してくれる。
松下佳代教授「今回の調査では経済成長に必要な技術革新の力や政治参加に不可欠な批判的思考力を調べているわけではないので、この結果から“大人としての学力が世界一”とは言えないと思う。
一方で成績と職業との関連を見ると、高い能力を生かせるような仕事が不足している可能性があり、産業構造の転換など今後の政策課題としてさらに分析したほうがよい」――
「経済成長に必要な技術革新の力」にしても、「政治参加に不可欠な批判的思考力」にしても、暗記教育で培うことになる従属性知識の応用では育むことは不可能で、他者から与えられた情報を自身の判断・解釈を加えて自己所有の知識へと発展させていくプロセスを常に取る自発性知識の発動によって初めて可能となる能力であるはずである。
記事が、〈日本は学歴や職業による得点差が小さく、全体的に高い能力を持っていると分析された。〉と解説しているとおりに確かに学力の点で均質的ではあるが、長年の歴史的・伝統的な暗記教育が培うこととなった均質性であって、均質性とは無縁でなければならないそれぞれが独自であるべき自発性知識から見たら、素直には喜ぶことはできない「国際成人力調査」2分野トップの成績であり、「国際成人力」といったところではないだろうか。
そもそもから言って、均質性とは独自性の否定である。そこに独自性が数多く混じっていたなら、独自性は失われる。
私だったら、黒糖まんじゅうの質問などは、何でこれが「国際成人力」調査なんだとバカらしくなって、わざと間違えたのではないだろうか。