安倍晋三の「地球儀を俯瞰する外交」、もしくは価値観外交は限界を弁えない宣伝先行外交

2013-10-05 08:48:55 | 政治


 
 口先だけの自信家安倍晋三が2013年7月25日から3日間の日程でマレーシア、シンガポール、フィリピンの東南アジア3カ国を訪問している。訪問最終日の9月27日、訪問最終国のフィリピン・マニラで内外記者会見を開いた。

 冒頭、次のように発言した。

 安倍晋三「地球儀を俯瞰する外交を、マレーシア、シンガポール、フィリピンの訪問から再開した。日本の国益はもとより、地域・世界の平和と繁栄に貢献する戦略的外交を進めていく」(首相官邸HP

 「地球儀を俯瞰する外交」とは、安倍晋三持論の「2国間関係だけを見るのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰する戦略的な外交」(MSN産経)のことらしいが、東南アジア3カ国訪問はその外交の再開だと宣伝している。御大層な外交を展開するようで、聞こえはいい。

 チャップリンの映画「独裁者」ではチャップリン演ずる独裁者ヒトラーが大きな地球儀の風船を手に乗せて持ち上げたり、足で蹴り上げて宙に浮かせたり、地球を弄ぶシーンが確かあったと思うが、安倍晋三の「地球儀を俯瞰する外交」とは、世界を地球儀に矮小化させたインスタント外交というわけではあるまい。
 
 安倍晋三は出発に先立って、羽田空港で記者たちに抱負を語っている。《首相 東南アジア3か国へ出発》NHK NEWS WEB/2013年7月25日 10時56分)

 安倍晋三「成長著しいASEAN・東南アジア諸国連合の活力を、日本の経済再生に取り込んでいきたい。自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有する国々との連携を強化をしたい」

 前日の9月24日には中国軍機が沖縄本島と宮古島間の公海上空を初めて通過している。

 安倍晋三「今までにない特異な行動で今後注視していきたい。今回の訪問を通じて、力による支配ではなく法による支配という秩序をしっかりと作っていくという認識を共有したい」――

 要するに「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値」を以てして、今回は3カ国だが、それらを共有する国々と経済や安全保障の分野、文化交流や人的交流で連携、共有せずに力の支配を目指していると見ている中国に対抗する、いわゆる中国包囲網の戦略を安倍外交の柱とするということなのだろう。

 問題は3カ国のみならず、訪問国が安倍晋三の「地球儀俯瞰外交」=中国包囲網にどれ程に協力するか、その協力が中国に対してどれ程に影響力を発揮することができるかどうかにかかることになる。

 安倍晋三の側から言うと、どれ程に協力させることができ、その協力が中国に対してどれ程の影響力を持たせることができるかどうかの戦略の有効性が問われることになる。

 最初の訪問国マレーシアについてのその有効性を見てみる。

 7月25日、安倍晋三はマレーシアのナジブ首相と会談している。《インフラ整備で協力確認 日・マレーシア首脳会談》日経電子版/2013/7/25 22:08)に次のような解説がある。

 〈安全保障分野では海上での防衛当局間の協力強化を確認。中国と南シナ海の領有権を巡る対立では、安倍首相が「すべての関係国が一方的な行動を慎むことを含め、国際法を順守すべきだ」と訴え、ナジブ首相も「同じ立場だ」と答えた。〉――

 ベトナムとフィリピンの間にあるスプラトリー諸島について、中国、台湾が全体の領有を主張し、ベトナム、マレーシア、フィリピン、ブルネイの4カ国が一部分の領有を主張、その他でも領有権争いが存在するということだが、安倍晋三はナジブ・マレーシア首相と会談して、中国を視野に入れた対抗策として安全保障分野での協力強化確認と領有権問題での「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値」に基づいた、いわば「力による支配ではなく法による支配という秩序」構成の「国際法順守」で意見の一致を見た。

 これが安倍晋三のマレーシアに対する戦略的な「地球儀俯瞰外交」というわけである。

 その効果の程を次の記事が伝えている。一昨日4日の発信だから、まだホットニュースの部類に入る。

 《中国とマレーシアが関係格上げで合意、2017年までに通商3倍に》ロイター/2013年10月4日 14:40)

 中国の習近平国家主席が10月4日、マレーシアのナジブ首相と会談、両国関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げすることで合意し、軍事面の協力強化と、マレーシアにとって中国は既に最大の貿易相手国となっていて両国間の昨年の輸出入合わせた貿易額1810億リンギ(約570億ドル)を2017年までに現在の3倍近い1600億ドルに拡大することを目指すことで一致したという。

 要するにマレーシアは安倍晋三が「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値」に基づいていないとしている中国と軍事面、経済面、その他に関しても包括的戦略的パートナーの関係に入ることを取り決めたことになる。

 このような中国とマレーシアの2国間関係は安倍晋三のマレーシアに対する価値観外交の中国に対する影響の有効性の喪失――中国包囲網の有効性喪失の証明以外の何ものでもないことを物語ることになる。

 安倍晋三がマレーシアと「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値」に基づいた安全保障分野での連携強化を確認し合い、マレーシアが安倍晋三が「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値」に基づいていないとしている中国と軍事面、経済面、その他に関しても包括的戦略的パートナーの関係を取る、このような日本とマレーシアと中国3国間の奇妙な三角関係を解くとしたら、マレーシアにとって日本との関係が中国に影響せず、中国との関係が日本に影響しないという認識でなければ成り立たないことになる。

 勿論、影響する場合もあるだろう。だが、すべてのケースで相互に影響するとは限らない多国間関係とはそれぞれに決定された関係性が2国間関係に於いては相対化されて導き出すことになる相互無関係性ということであろう。

 当然、「地球儀を俯瞰する外交」、もしくは価値観外交には限界を見なければならない。だが、安倍晋三は「地球儀を俯瞰する外交を、マレーシア、シンガポール、フィリピンの訪問から再開した。日本の国益はもとより、地域・世界の平和と繁栄に貢献する戦略的外交を進めていく」と、その絶対的有効性を宣言した。

 この矛盾、整合性の欠如は安倍晋三の客観的・合理的認識能力の程度から来ているはずだ。結果として、「地球儀を俯瞰する外交」にしても価値観外交にしても、それぞれの限界を弁えない宣伝先行の外交とすることになっている。

 安倍晋三の外交無能の所以がここにある。

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