10月5日、川崎市で拉致家族会主催の「拉致被害者家族を支援するかわさき市民のつどい」で出席者の一人、古屋圭司拉致問題担当相の発言として、安倍晋三が9月29日に東京都内の私邸でモンゴルのエルべグドルジ大統領と会談した際、拉致問題解決への協力を要請したことを明らかにしたと「時事ドットコム」が伝えている。
安倍晋三は拉致問題についての日本の立場や、自身の決意を伝えたという。
日本の立場とは拉致解決なしに日朝国交正常化も経済援助もないといった決まり文句を、決意に関して言うと、要するに「拉致問題は安倍内閣で解決する」とこれまた例の如くの決まり文句を述べたということなのだろう。
日本の立場と決意から、一向に前へと進んでいない。
逆説すると、あるのは日本の立場と決意を述べるだけで終わっているということになる。
集い終了後、記者たちに答えている。
古屋圭司「モンゴルとしても最大限、協力しなければいけないと、しっかり感じ取っていただいたと思う」――
前々から言っていることだが、すべては北朝鮮当局を拉致議論のテーブルに直接的に引き出すことができる日本側の条件に掛かっているのであって、いわばその条件を日本側が譲歩しない形で如何に提示し、北朝鮮に如何に飲ますことができるかの日本の北朝鮮に対する外交能力が問題となっているはずだが、その条件に関してはモンゴルが北朝鮮と国交があろうがあるまいが、モンゴルには関与できない事柄であるはずだ。
にも関わらず、モンゴルに協力を要請する。
安倍晋三は既に今年の3月30日、31日と2日間の日程でモンゴルを訪問している。このときの共同記者会見を次の記事が伝えている。
《日モンゴル首脳会見要旨》(時事ドットコム/2013/03/30-23:57)
記者「北朝鮮によるミサイル発射や核実験、拉致問題については」
アルタンホヤグ首相「モンゴルは北朝鮮と友好関係を保っている国として、(北朝鮮との)話し合いをウランバートルで開催する用意があることを伝えた。モンゴルは2月の北朝鮮の核実験に対する国連安保理決議を守っていくと伝えた」――
要するにモンゴルは日本と北朝鮮の話し合いの場を首都ウランバートルにセットすると言っているだけのことで、モンゴル自身が北朝鮮に対して拉致解決を進めるよう直接申し入れるとは言っていない。
記者「北朝鮮や中国に関し、会談でどのような話があったか」
安倍晋三「北朝鮮に対する日本の立場を首相と大統領に説明した。北朝鮮が国際社会に対して取っている挑発的な行為は断じて許すことはできない。安保理決議を実行していくことが重要だ。拉致問題は極めて重視しており、安倍政権で解決していく決意だ。モンゴル政府からはわが国に対する理解と支持の表明があった」――
発言から分かることは、安倍晋三が9月29日に東京都内の私邸でモンゴルのエルべグドルジ大統領と会談して日本の立場や自身の決意を伝えたと古屋圭司が10月5日の拉致家族会主催の集会で明らかにしたことを安倍晋三は今年3月30日、31日のモンゴル訪問で既に同じことをしていたということである。
いわば2013年3月30日、31日に関して言うと、モンゴルに対して拉致解決協力要請と日本の立場や自身の決意を述べるという成果を手に入れただけであったことを意味し、9月29日の機会に3月30日、31日の機会と同じことの繰返しを演じただけであったということになる。
当然、両者間に何ら成果も進展もなかった。
モンゴルの側から言うと、日本の拉致問題協力要請に対して安倍晋三が話す日本の立場や決意を聞く以外、何のお役にも立つことはなかったことになる。
拉致問題の進展が北朝鮮当局を拉致議論のテーブルに如何に引き出すか、そのことの日本側の条件に掛かっている以上、モンゴルは今後共、何のお役にも立つことはないだろう。
実は古屋拉致担当相は今年7月10日に行われた6月の大統領選再選のエルベグドルジ大統領の就任式出席のためにモンゴルを特使として訪問としている。
7月11日夕方、帰国して成田空港到着後の対記者発言。
古屋圭司「北朝鮮による拉致問題について、日本の基本的なスタンスを伝えたのに対し、エルベグドルジ大統領は『全面的に協力したい』と答えた。
拉致問題を解決するため、日本は世界各国と協力関係を構築しているが、北朝鮮と国交のあるモンゴルからも力強い支援の言葉を頂けたことは成果があった」(NHK NEWS WEB)――
「日本の基本的なスタンス」と言っていることは安倍首相が言っている「日本の立場」と同じ意味内容のことであろう。そしてエルベグドルジ大統領が「全面的に協力したい」と答えたことを成果だと位置づけている。
成果は一つの進展を意味するのは断るまでもないことであって、その進展は次なる何らかの発展を見なければ、いわば一つの進展のままとどまっていたのでは成果としての意味を失う。
だが、7月11日には「北朝鮮と国交のあるモンゴルからも力強い支援の言葉を頂けたことは成果があった」と、モンゴルに対する拉致解決協力要請は一つの進展だと言っていたにも関わらず、約3カ月後の10月5日には「モンゴルとしても最大限、協力しなければいけないと、しっかり感じ取っていただいたと思う」と、以前言っていた成果に何ら進展がないことを言い、前言との矛盾に何も気づいていない、外交能力に致命的な記憶力と認識能力の程度を示している。
また、安倍晋三が今年の3月30日、31日のモンゴル訪問の機会にモンゴル首相に拉致解決の協力を要請し、日本の立場と自身の決意を述べたことは情報として常に頭の中に認識していなければならないにも関わらず、9月29日のモンゴルのエルべグドルジ大統領の訪日の際、安倍晋三の私邸で会談、安倍晋三が拉致解決の協力要請と拉致問題についての日本の立場や自身の決意を伝えたとその会談内容を紹介したが、このような紹介にしても、半年前から何ら進展がないことによって同じことの繰返しとなる同じ場面だと認識することができない外交無能力を同じく曝け出している。
要するに安倍晋三と古屋圭司共々、何ら進展のない同じことの繰返しを演じていながら、同じことの繰返しだと認識できない外交無能力をコンビさながらに曝け出していたということである。
譬えるなら、同じところを回る昔の壊れたレコード盤が同じ歌の一節を繰返すのに似た、そういった域を出ない外交を展開していると言うことができるはずだ。