今朝(10月18日)のNHKテレビニュースが伊豆大島・大島町を襲った台風26号の大雨のために大規模な土砂災害が発生、死者が22人に達したと伝えていた。安否不明者は27人。
このように多くの死者と安否不明者を出したのは大島町が避難勧告も避難指示も出さなかったことが原因している可能性をマスコミは伝えている。
大島町長は島に戻った10月16日夜と翌日の17日午前に記者会見しているが、16日の記者会見は後で取り上げるが、17日午前の記者会見で避難勧告も避難指示も出さなかったことが多くの被害者を出した原因の可能性に触れている。
大島町町「避難指示や勧告を出していれば住民が助かったかもしれず、お詫びしなくてはならない」(NHK NEWS WEB)――
なぜ出さなかったのかは大島町長が出張に出かけていたことも関係しているようだ。出かけた日は台風が大島町を襲った10月16日真夜中の前日、10月15日である。
台風情報よりも出張を優先させたのではないかと疑った。
いつもの小汚い勘繰りに過ぎないだろうが、それなりの基本的な根拠を言うと、台風、それが低気圧であったとしても、最近の傾向として通過地域のどこかが豪雨と呼ばれる大雨に襲われて、河川の氾濫、土石流、洪水等々の危険に見舞われ、それが災害化するのはもはや常識化しつつあるということである。
当然、気象庁からその手の予報が出たなら、進路に当たる地域の自治体は細心・最大の警戒心を払って刻々の状況の変化を見守らなければならない。
特に自治体の長は住民の生命・財産を守る役目を担っている。自治体が備えている危険のレベルに応じた対策をいつでも発動できるように状況の変化に関わる情報の収集に力を注いで、変化に合わせた対応を的確に取ることができる態勢を取っていなければならない。
自治体の長が不在の場合は、長に代わる誰かにその役目を託さなければならない。
それが一応は予想しなければならない災害に対する危機管理であり、実際に危険が迫った場合は危険のレベルに応じて予想していた危機管理を実行していかなければならない。
だが、気象庁が既に大型台風の予報を出し、大島町がその進路にまともに当たるにも関わらず、大島町長は10月15日の朝、出張に出た。
気象庁予報部が平成25年10月15日05時12分に発表した、《平成25年 台風第26号に関する情報 第14号》から、「台風の現況」と伊豆諸島に関係する箇所を見てみる。
[台風の現況]
〈大型で強い台風第26号は、15日3時には南大東島の東約260キロにあって、1時間におよそ25キロの速さで北北西へ進んでいます。〉で始まって、
中心気圧 940ヘクトパスカル
中心付近最大風速 40メートル
最大瞬間風速 60メートル
中心から半径220キロ以内 風速25メートル以上
「台風の現況」は、〈台風第26号は今後も強い勢力を保ったまま日本の南を北上し、暴風域を伴って16日には東日本太平洋側にかなり接近する見込みです。台風は16日夜までには、北海道の南東海上で温帯低気圧にかわるでしょう。〉で結んでいる。
16日にかけて予想される最大風速(最大瞬間風速)
伊豆諸島35メートル(50メートル)
16日6時までの24時間に予想される降水量
伊豆諸島 300ミリ
〈低い土地の浸水、土砂災害、河川の増水やはん濫に警戒してください。〉――
大島町長が主張に出かけた時間が気象庁予報部が「台風第26号に関する情報」を発表した10月15日05時12分より前なのか後なのかは分からないが、10月11日3時にマリアナ諸島付近で台風が発生して、10月14日の時点で大型で非常に強い台風に発達したことを伝えていて、「今年最大級の台風襲来」と、その危険性が表現され、中部地方から東北方面に向けて太平洋岸に沿って北上する進路が既に示されていた。
当たり前のことを言わなければならないが、伊豆諸島の中に大島は入っていて、伊豆諸島最大の面積を持つ。
10月14日気象庁発表の台風26号進路の10月16日午前9時の予想地点から大島町は台風の中心から東方向のかなり近い場所に位置している。
10月14日時点でこのような予報が出ているにも関わらず、翌日の10月15日、大島町長は出張に出た。副町長は前日14日に主張に出ていて、不在。
大島町長がもし台風情報よりも出張を優先させたのでなければ、大雨に襲われた場合、進路に当たる地域のどこかが災害化する最近の傾向としてある常識を弁えていなかったことになり、危機管理上、問題となる。
常識を弁えていながら、もし出張を優先させていたなら、危機管理上の最近の常識は出張優先の障害となる。当然、その常識を振り払って、出張に出たことになる。
次の記事が大島町長が避難勧告を出さなかった理由を伝えている。《大島町長 夜間だったので避難勧告出さず》(NHK NEWS WEB/2013年10月16日 21時26分)
10月15日午後4時、大島町長は出張先で総務課長から「かなりの雨が予想される」と電話連絡を受け、〈町役場で体制を取ることを決めた〉と解説している。
何の「体制」なのか、説明はない。避難勧告も避難指示も出さなかったのだから、収集・把握した情報次第でいつでも避難勧告や避難指示を発令できる態勢を取ることのできる「体制」の構築を伝えたわけではなかった。
10月16日午前3時15分、〈再び総務課長から電話があり、町内のホテルの1階に水が流れ込んでいるという報告を受けて、深刻な事態が発生していると認識した〉――
だが、この「深刻な事態」は大雨に襲われた場合、進路に当たる地域のどこかが災害化する最近の傾向としてある常識から言って、大島町が台風26号の進路に当たっていて、気象庁が10月15日05時12分に台風情報を発表、発表から16日6時までの24時間に予想される降水量が伊豆諸島で300ミリと予報していた時点で、危機管理上、予想しなければならなかったはずだ。
出張から戻った10月16日夜の記者会見。
大島町町「大島は火山島で、『川』というよりも『沢』が島内にいくつも流れていて、すぐに水位が上昇し危険な状態になる。加えて夜間だったことから、当時、避難勧告を出すという認識は持っていなかった。さらに、一部の沢が氾濫し始めているという情報が入っていたので、無理に避難をさせれば、さらに被害を増やしてしまうと考えた。このため、総務課長から電話があったときも、避難勧告を出せという指示や判断は行わなかった。
(出張について)行こうか行くことをやめようか悩んだが、私の認識に甘さがあった。
これまで町が取ってきた防災対策に過信があった点や、私の認識不足があったことは否定できない。今後の教訓としたい」――
多くの死者を出してから、「今後の教訓としたい」と言う責任感は軽過ぎる。
大体が言っていることに矛盾がある。島内にいくつも流れている沢が「すぐに水位が上昇し危険な状態になる」ことを認識していたなら、10月15日午後4時に総務課長から「かなりの雨が予想される」と電話連絡を受けた時点で、気象庁発表の台風情報、あるいは報道番組が伝える台風情報と併せて万が一の危険性を想定して明るい内にその危険性回避の行動を指示していなければ、町民の生命・財産を預かる危機管理責任者としての務めを果たしていないことになる。
だが、「すぐに水位が上昇し危険な状態になる」ことを認識していながら、明るい内の時間を利用せず、暗くなるままに任せて、一部の沢の氾濫が始まっても、暗い中を「無理に避難をさせれば、さらに被害を増やしてしまうと考え」て、何もしなかった。
その結果の今朝の時点での死者が22人、安否不明者は27人ということであるはずだ。
記事は、猪瀬東京都知事の10月16日記者会見での大島町の危機管理対応(正確に言うと、危機管理無対応)についての発言を伝えている。
猪瀬知事「1時間に120ミリの雨が一挙に降り、あのような土石流に発展するとは予想できない」
記事解説。〈今回の災害が危機管理ができる範囲を超え、予期できなかったという考えを示しました。〉――
猪瀬都知事にしても自治体の長でありながら、最近の台風や低気圧が時に気象台の観測が始まって以来といった豪雨を伴って、予想もしない様々な大きは被害をもたらし、それが常識化しつつあるという危機管理とは無縁であるようだ。
自治体の長である以上、自然災害に於けるこのような常識化しつつある傾向を危機管理上の認識としていなければならない。
当然、大島町長は大島町が台風の進路に当たると分かった10月14日の時点で出張を断念、誰か代理を出して、万が一の危険に備えた危機管理の陣頭指揮に当たらなければならなかった。
それが例えムダに終わることになったとしても。自然災害対応の危機管理がムダに終わること程、幸せなことはない。
だが、そうしなかった以上、台風情報よりも、あるいは危機管理よりも出張を優先させたと疑われても仕方はあるまい。自治体の長であることを免れるわけにはいかないのだから。