安倍晋三の日・ASEAN特別首脳会議全体会合で見せた外交能力の成果

2013-12-17 05:04:38 | 政治



 2013年12月13日から15日までの3日間の日・ASEAN特別首脳会議で日本の安倍晋三は中国に対して欠席裁判を行った。

 最初に断っておくが、中国の肩を持つわけではない。中国の人権活動家や民主化活動家に対する人権抑圧には目に余るものがある。日本はそのことを批判し、共産党一党独裁からの脱却と民主化を促すべきだろう。内政干渉との反論に対しては、基本的人権は人類共通の普遍的価値であって、そうである以上、人権問題に国境は存在しない、それゆえ内政干渉には当たらないと堂々と主張すべきだろう。

 また尖閣の領有権問題に関しては、民主党政権及び現在の安倍政権が日本の立場として持している「領土問題は存在しない」という姿勢で領有権問題は話し合わないとするのではなく、日本固有の領土という立場で、その根拠を示して議論を以って戦うべきだと考えている。

 右翼の軍国主義者安倍晋三は中国が参加しない日・ASEAN特別首脳会議を利用してASEAN諸国を味方に引き入れ、数の力で中国に対して優位に立ち、中国に圧力をかけようと欲した。

 だが、その狙いは失敗した。日・ASEAN特別首脳会議共同声明文言に中国の防空識別圏設定は安全保障上の「脅威」とする主張を取り入れさせようとしたが、ASEAN諸国に対中配慮が働いて、受け入れられなかったとマスコミは伝えている。

 要するに欠席裁判で中国を有罪としようとしたが、失敗した。ASEAN諸国は日本の対中批判に加担することを断ったということである。

 大体がこのことは首脳会議が開催される前から分かっていたことである。ASEANの大国ベトナムのズン首相は日・ASEAN特別首脳会議出席のための日本訪問前の12月10、NHKのインタビューに応じて、中国の防空識別圏設定によって生じた日中対立について、「双方が国際法に基づき平和的な解決方法を見いだすことを望む」(NHK NEWS WEB)と日中直接の話し合いによる解決を求めていたのである。

 ということは、当事者同士の話し合いの解決こそを有効な方法だと見做していて、一方の当事者が不在な場所での解決は無効としていたことになる。

 同じASEANの大国であるインドネシアのユドヨノ大統領にしても、日・ASEAN特別首脳会議出席で来日、12月13日会議開催当日の会議開催前に都内で講演、「日本と中国が良好な関係を築くことが、東南アジアの将来にとっても極めて重要だ」(NHK NEWS WEB)と、日中直接の話し合いによる問題解決を通した日中関係改善を求めている。

 中国と関係が深いカンボジアのフン・セン首相にしても、日・ASEAN特別首脳会議を前にした12月3日のプノンペンの私邸での共同通信などとの会見で同じ趣旨の発言を行っている。

 フン・セン首相「(日中対立について)双方が政治的決断を誤れば、予想もつかない深刻な結果につながる。最大限の自制が必要だ。

 ASEANにとって日中は重要な経済パートナーであり、対立で最も致命的な影響を受けるのはASEANだ

 (防空識別圏設定について)日中間の緊張や対決はASEANの懸念となる」(MSN産経

 発言は日中双方への自制の必要性、関係改善を求めるもので、中国批判を窺わせる言葉は一つもない。どちらか一方に加担することの拒否サインであろう。

 いわば対立は好まない、迷惑だと内心の声は訴えていた。ホンネは日中双方からの経済的果実の収穫の破綻を恐れている辺りにあると見ることもできる。

 安倍晋三はこういった発言を情報とし、意味するところを認識していたはずだ。だが、日・ASEAN特別首脳会議前の中国が出席しない各国首脳との会談で「力による現状の一方的変更」を執拗に批判し続けた。

 勿論、12月14日午前の日・ASEAN特別首脳会議全体会合でも、同じ執拗な発言を繰返している。

 安倍晋三「一方的な行為により現状を変えようとする動き、自由な飛行を基礎とする国際航空秩序に制限を加えようとする動きは強い懸念材料だ」(時事ドットコム

 そして執拗な批判の成果は共同声明に現れることになる。

 共同声明「自由で安全な海洋航行及び飛行:我々は、日本とASEANの連結性の強化がもたらす利益を認識し、空と海での繋がりに関する協力を強化することに合意した。

 我々はまた、1982年のUNCLOSを含む国際法の普遍的な原則並びに国際民間航空機関(ICAO)による関連の基準及び推奨される慣行に従って、上空飛行の自由及び民間航空の安全を確保するための協力を強化することに合意した」――

 共同声明には「防空識別圏」の言葉は一言もなく、また「中国」の言葉も、〈日本は、南シナ海における行動規範に関するASEANと中国の公式な協議を歓迎した。〉とする文言以外何もなく、当然、中国の防空識別圏設定に対する“脅威”の訴えも“懸念”の訴えも取り入れられることもなく、国際法や国際慣行に従った上空飛行の自由及び民間航空の安全確保協力強化の合意を謳うにとどまった。

 要するに防空識別圏や領有権問題を含めた中国の“脅威”も、あるいは“脅威”を一段と弱めた“懸念”もASEAN各国には共有されることはなかった。

 “脅威”、あるいは“懸念”は安倍晋三一人のみの問題意識にとどまった。つまりは日・ASEAN特別首脳会議全体会合という場では安倍晋三の問題意識は宙に浮いた形となった。

 これが右翼の軍国主義者安倍晋三が精一杯の外交能力をフル回転して獲ち得た成果である。

 勿論、自信過剰なだけの安倍晋三は自らの成果の実質に気づかない。12月13日《首相官邸記者会見》

 安倍晋三「今や世界の成長センターとなったASEANがさらに発展をしていくためには、力ではなく法が支配する、自由で安全な海と空が不可欠であります。これに対し、現在、一方的な行為により東シナ海、そして南シナ海の現状を変えようとする動き、自由な飛行を基礎とする国際航空秩序に制限を加えようとする動きが見られます。この地域の緊張が高まっていくことは、誰の利益にもなりません。我々はこのような動きを強く懸念をしています。恐らく、多くのASEANの国々の首脳の皆さんもその懸念を共有していることと思います」――

 日中対立が及ぼすかもしれない様々な懸念はASEAN各国の共有するところとなっているが、日本の安倍晋三の中国批判、あるいは対中包囲網意識は何ら共有されなかった。

 にも関わらず共有されたとする認識は相変わらず合理性を欠く内容となっている。

 安倍晋三は日・ASEAN特別首脳会議全体会合で5年間で2兆円規模のODA=政府開発援助実施と2015年ASEAN経済共同体発足準備基金に1億ドル(約103億円)の拠出を表明したということだが、巨額のカネを出すことについてが唯一の外交成果といったところだろう。

 反論の機会を与えない欠席裁判は当然のことだが、中国の反発を招いた。

 中国外務省の洪磊・副報道局長談話「日本の指導者が国際会議を利用し、悪意を持って中国を中傷する言論を発表したことに強烈な不満を表明する」(時事ドットコム)――

 安倍晋三は中国も出席したASEAN首脳会談で「飛行の自由」を言うべきだったろう。反論の機会を与えることによって、公平性が確保できるだけではなく、真の外交能力は遠回しの間接的批判ではなく、直接的な議論を闘わせることによってこそ、その成果を測ることができるからである。

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