2月22、23両日実施の産経新聞社とFNN合同世論調査は日本軍の従軍慰安婦強制連行を認めた1993年の「河野洋平官房長官談話」の見直し可否と安部内閣の作成過程再検証の賛否を問いている。
「見直すべきだ」――58.6%
「見直すべきだと思わない」――23.8%
「再検証すべきだ」――66.3%
「再検証すべきではない」は出ていない。
2月20日の河野談話作成に関わった石原信雄元官房副長官の「裏付け調査なし」、その他の国会証言と、その国会証言と多くの点で交錯する産経新聞の「河野談話」歴史捏造キャンペーンとでも言うべき運動が功を奏した世論調査数値に違いない。
2月20日の石原信雄元官房副長官の国会証言の骨子は次の3点だと、「MSN産経」記事が伝えている。
(1)日本軍や官憲が強制的に女性を募集したという客観的資料はない
(2)談話は韓国での元慰安婦16人への聞き取り調査に基づくが、裏付け調査はしていない
(3)談話は軍や官憲の直接的指示での募集(強制連行)を認めたわけではない
何人の従軍慰安婦が存在したのだろうか。「Wikipedia」に次のような記述がある。
日本軍総数をパラメータ(母数)とし、交代率を加味した計算法から割り出しだそうだ。
日本軍の強制連行はなかったとの立場を取る秦郁彦日本大学教授は、総数約2万人と推定。
日本軍の強制連行はあったとの立場を取る吉見義明歴史学者は、総数4万5000と推定。
民主党は8 - 20万人と推定。
『マンガ嫌韓流』の著者山野車輪等は、総数を4000人程度であり、また彼女らの中には、現在での何億円にもあたる報酬を受け取っているとしている。
「河野談話」の元となった内閣官房内閣外政審議室による1993年の日本軍慰安所に関する調査報告書――《いわゆる従軍慰安婦問題につ いて》には慰安婦の人数と慰安所所在地は次のように記されている。
慰安婦の人数について、〈発見されtら資料には慰安婦の総数を示すものはなく、また、これを推認させるに足る資料もないので、慰安婦総数を確定するのは困難である。しかし、上記のように長期に、かつ、広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したものと認められる。〉とのみ述べて、具体的な数値は示していないが、〈上記のように長期に〉の意味は、「慰安所が設置された時期」として、〈昭和7年にいわゆる上海事変が勃発した頃から同地の駐屯部隊のために慰安所が設置された旨の資料があり、その頃から終戦まで慰安所が存在していたとみられるが、その規模、地域的範囲は戦争の拡大とともに広がりを見せた。〉、上海事変勃発の昭和7年1月から昭和20年8月までの13年間の長期間と、その広がりは同報告書にあるように外地に於ける日本軍慰安所は〈中国、フィリピン、インドネシア、マレーシア(マラヤ)、タイ、ビルマ、ニューギニア、香港、マカオ及びフランス領インドシナ(当時)〉と広範囲に亘っていて、《アジア各地における終戦時日本軍の兵数》(社会実情データ図録 /2010年8月9日収録)によると、中国本土だけで終戦時に約112万人の日本軍兵士が駐留していて、未成年女子を含む現地インドネシア人女性を略取・ 誘拐同然で暴力的に連行して慰安婦に仕立てた、二番目に多いオランダ領インドネシアには約29万人の日本軍人が存在、外地総数で約334万5千人もいたのだから、マンガ家山野車輪等の総数4000人程度とした計算は日本軍の罪を限りなく軽くするための意図的な操作としか思えない。
最低限に見積もったとしても、日本軍の強制連行はなかったとの立場を取る以上、どうしても少なく見積りたい気持が働くに違いな秦郁彦が推定した総数約2万人を止むを得ない順当な数字だと見做さないわけにはいかない。
となると、日本政府が韓国で行った韓国人元慰安婦16人への聞き取り調査に対して裏付け調査は行っていなかったからと言って、従軍慰安婦総数約2万人-16人=約1万9984人全員が従軍慰安婦ではなかったと証拠立てることはできないし、また、日本軍や官憲が強制的に女性を連行したことを直接的に示す客観的資料は存在しなかったからと言って、そのことを以って日本軍占領インドネシアに於いてオランダ人未成年女子を含む若い女性をその収容所から日本軍兵士が強制的に連行し慰安婦とした罪に対してオランダ政府設立の裁判で死刑1人を含む判決を受けた歴史的事実や、インドネシア人元慰安婦に対する複数の聞き取り調査で暴力的な連行が立証されている事実が存在する以上、従軍慰安婦総数約2万人-16人=約1万9984人全員が日本軍の強制的関与なくして自発的意思のもと従軍慰安婦となったとする証拠とはならないはずだ。
資料のみが事実を根拠立てるわけではない。資料が存在しなくても、事実が存在する場合もあるし、事実に反した資料というものも存在する。
だとすると、2月22、23両日実施の産経新聞社とFNN合同世論調査での「河野談話」は「見直すべきだ」の58.6%は、2月20日の石原信雄元官房副長官国会証言の限られた事実を以って、あるいは石原証言の事実に加えて産経新聞の「河野談話」歴史捏造キャンペーンとでも言うべき運動が描き出した、それでも限られている事実を以って全体の事実とする多層的、もしくは総体的思考を欠いた短絡的反応と言わざるを得ない。
歴史修正主義者・国家主義者の安倍晋三はこのような58.6%の多層的もしくは総体的思考を欠いた短絡的反応に応じて「河野談話」作成過程再検証の動きに出た。
いわば安倍晋三自身が多層的もしくは総体的思考を欠いた短絡的反応に陥ったことを示したことになる。
このような多層的もしくは総体的思考を欠いた短絡的反応が一国のリーダーを筆頭として社会に支配的となったとき、戦前の日本のように右向け右といった単一価値が大手を振って罷り通る極めて危険な社会とならない保証はない。