3月22日付(2014年)で各マスコミが今年1月から先月2月にかけて全国20歳以上男女1万人対象、約62%6186人回答の内閣府「社会意識に関する世論調査」で、61%が今の社会に満足している状況にあるとする趣旨の記事を流した。
まるで過去最多を更新中の生活保護受給者の問題も、若者の貧困問題も、年々増加していく非正規社員の問題も、どこかに消えてしまった印象を受けた。
《「今の社会に満足」は61% 去年より増加》(NHK NEWS WEB/2014年3月22日 18時00分)
今の社会に全体として「満足している」+「やや満足している」61%(昨年調査+7ポイント)
今の社会に全体として「あまり満足していない」+「満足していない」39%
前者はこの質問を調査に取り入れた平成21年以降で最多だそうだ。
社会の満足度とは違うが、今の日本の状況についてよい方向に向かっていると思う分野を複数回答で聞いた調査結果も記事は取り上げている。
「医療・福祉」28%
「科学技術」25%
「景気」22%
最後の「景気」に関しては、昨年の11%から倍増だそうだ。
悪い方向に向かっていると思う分野。
「外交」38%(平成10年にこの質問を取り入れてから初めてのトップ)
「国の財政」33
「雇用・労働条件」28%
内閣府「国民の社会に対する意識が、特に経済面で改善し、社会全体への満足感につながっている」――
他の記事も似たり寄ったりの論調となっている。世論調査で出た数字を基に報道することになるから、違いようがないのかもしれない。
だとしても、若者の貧困や非正規社員の増加、生活保護受給世帯の更新、若者の非婚、独居生活者の増加、介護離職等々の様々な問題を39%の〈今の社会に全体として「あまり満足していない」+「満足していない」〉という状況ですべて括(くく)ることができるのだろうか。
もしこの39%が、「全然満足していない」という回答を寄せたとしたなら、納得がいく。なぜなら、現在の日本社会が抱えている負の側面を「あまり満足していない」という状況まで加えた場合、どうしても違和感が生じるからだ。
記事発信の日付で内閣府のHPを覗いたが、まだ載せていいなかった。2、3日して見つけることができた。記事も世論調査の解釈次第で伝える姿を変えることになる。まるで報道がマジックを用いて、結果を変えているか、調査自体にマジックがあるように思えて、意図したものではないだろうが、一種の情報操作さえ感じる。
《社会意識に関する世論調査》(内閣府/2014年1月調査)の《調査結果の概要》、『図23 社会全体の満足度』」から見てみる。
今の社会に全体として「満足している」+「やや満足している」61%(実際は60.8%)の具体的な内訳は、「満足している」7.7%+「やや満足している」53.1%であって、「満足している」が圧倒的に少ない。
但し、今の社会に全体として「あまり満足していない」+「満足していない」39%(実際は38.7%)にしても、「満足していない」6.9%+「あまり満足していない」31.8%で、「満足していない」は合計39%のうちの約6分の1程度で収まっているから、全体としての不満足度はさして高くないことになる。
では、若者の貧困とか非婚とか、負の状況はどこへ行ってしまったのだろうか。
年代別の満足度・不満足度を見てみる。
「20~29歳」419人の「満足している」は4.3%で、全体の「満足している」7.7%をかなり下回っている。
「やや満足している」53.9%
「あまり満足していない」32.5%
「満足していない」8.4%
「満足していない」8.4%も、全体の「満足していない」6.9%を若干上回っている。
ではあっても、全体として見た場合、若者の満足度は不満足度を17ポイント上回っていて、決定的な不満足状態とはなっていない。
次に70歳上1481人を見てみる。
「満足している」12.4%
「やや満足している」54.8%
「あまり満足していない」25.7%
「満足していない」6.6%
70歳上の「満足している」12.4%は若者の「満足している」4.3%の3倍近くもあり、「満足していない」の6.6%も若者の「満足していない」8.4%よりも1.8ポイント下回っている。
70歳以上は社会的満足度に於いて若者を優に凌いでいることが分かる。
だが、問題は「やや満足している」の「やや」、「あまり満足していない」の「あまり」がどの程度なのかである。この言葉の解釈によって、満足度の姿を変えていくことになる。
「やや」という言葉を量的な意味でどう解釈しているか辞書で引いてみた。
【やや】「分量・程度が僅かであるさま」(『大辞林』三省堂)
とすると、「やや」いう言葉は「少しは」と訳すことができるはずだ。「やや満足している」は「少しは満足している」ということになって、満足はしているものの、その満足度は低い状態を指すことになる。
政治は高い満足度の国民生活の圧倒的多数化を目指しているのであって、満足度の低い国民生活の圧倒的多数化を目指しているわけではあるまい。
だが、そうはなっていない。いずれの場合も、「やや満足している」(=「少しは満足している」)の満足度の低い満足度が半数を超えている。
政治の目標から言うと、「やや満足している」は、後者の「あまり満足していない」+「満足していない」の枠に入れなければならない回答であるはずだ。満足している側に入れた場合、政治がそれで満足してしまう恐れが出てくる。
後者に入れた場合、国民の生活に関わる意識はかなり様相が違ってくる。
では、「あまり満足していない」の「あまり」の意味を見てみる。
【あまり】(下に打消しの言葉を伴って、)「程度が予想ほどではないさま。さほど。大して。あんまり」(『大辞林』三省堂)
と言うことは、「あまり満足していない」は「さほど満足しているわけではない」、あるいは「少ししか満足していない」という意味となるはずだ。つまり「満足していない」に限りなく近い満足度と言うことになる。
以上を纏めてみると、社会全体としての満足度は「満足している」7.7%のみで、「やや満足している」53.1%+「満足していない」6.9%+「あまり満足していない」31.8%となって、91.9%が不満足度の部類に入ることになる。
「20~29歳」若者の場合の満足度は「満足している」の4.3%のみで、「やや満足している」53.9%+「あまり満足していない」32.5%+「満足していない」8.4%=94.8%が不満足の部類に入る。
「70歳上」の場合、「満足している」12.4%は全体的に高い数値ではあるが、満足度はそれのみで、「やや満足している」54.8%+「あまり満足していない」25.7%+「満足していない」6.6%=87.1%が不満足度を占めることになる。
このような解釈をすると、この解釈から見えてくる光景は改めて言うまでもなく、格差拡大社会であって、アベノミクスの現在の答と言うことになる。
勿論、この解釈自体が言葉のマジックだと批判する向きもあるに違いない。言葉のマジックだとしたら、情報操作となる。
読者がこの解釈をどう解釈するかである。