ウクライナ情勢を巡ってオランダで3月24日夜(日本時間3月25日未明)開催のG7=先進7カ国首脳会合後の対記者団発言。《首相 G7で協調行動で一致》(NHK NEWS WEB/2014年3 月25日 5 時37分)
安倍晋三「今回の会合では、ロシアへの対応、ことし6月のロシアのソチでのG8サミット=主要国首脳会議の取り扱い、ウクラナ支援を中心に濃密な議論を行った。
私から『力を背景にした現状変更は断固として許すことはできない。この問題はウクライナの問題にとどまらず、 特にアジアなど国際社会全体の問題だ』と申し上げた。私の考え方に対し複数の国から強い賛同の意見が表明された。今後も対話を継続し、この問題を平和的外交的に解決していくべきだ。
G7として、このたびの違法なロシアの行動を非難し、今後、協調して行動していくことで一致した。ソチのG8サミットには参加しないこと。そして同じ時期にベルギーのブリュッセルでG7の会議を開き、ウクライナ問題を中心に議論していくことを決定した。さらにウクライナ支援について、国際経済、世界経済、そしてウクライナの経済の安定のためにG7で一致団結していくことで一致した」――
記事付属の動画での安倍晋三自身の発言は次のようになっている。
安倍晋三「ロシアへの対応でありますが、私から、力を背景とした現状変更は断固として許すことはできない。そしてこの問題はウクライナの問題にとどまらず、 特にアジアなど国際社会全体の問題であると申し上げました。私の考え方に対して、ま、複数の国々から強い賛同の意見が表明されました。そして今後もですね、 対話を継続し、この問題を平和的外交的に解決していくべきだとこのように述べました」――
「私から、力を背景とした現状変更は断固として許すことはできない」と「申し上げた」。その主張に対して「複数の国々から強い賛同の意見が表明され」たと言うことになる。
要するに安倍晋三はロシアへのクリミア編入は「力を背景とした現状変更」だとする非難を自身から最初に言い出して、「複数の国々から強い賛同の意見が表明され」たのは自身の議論のリードによるものだとのニュアンスで自画自賛している。
但し「力を背景とした現状変更」に対する原状回復は「対話を継続し、この問題を平和的外交的に解決していくべきだ」と、議論のリードの割には、いわば自画自賛の割には遥かにトーンダウンしている。
なぜなら、対話は継続されるだろうが、もはや「平和的外交的」解決策の選択肢はないからだ。
いや、このような選択肢は力の信奉者プーチンに対しては最初からなかった。欧米の対ロシア制裁が実効性を挙げて経済的・政治的に追い詰めることが原状回復の唯一の解決策となることは誰の目にも明らかである。制裁を手段とした解決策は欧米は勿論、日本にしても経済的な打撃を受ける可能性から、到底、「平和的外交的」解決策とは決して言えない。
いわば話し合いという意味での「平和的外交的」解決策が有効であるなら、プーチンはロシア軍をクリミアに送り込み、それを増派させることもしなかっただろうし、ロシアの伝統的な軍事社会集団「コサック」のメンバーまでも送り込むといった念入りなこともしなかったろう。
ロシア6月開催予定の主要国(G8)首脳会議へのG7参加中止は「平和的外交的」解決策が絶望的であることからの一つの制裁であろう。
要するに、「平和的外交的」解決策がプーチンに対してもはや決定的に無効な状況下で、安倍晋三が「私から、力を背景とした現状変更は断固として許すことはできない」と議論をリードした以上、日本が制裁の点でもリードすることが整合性ある態度となるはずだが、相変わらず直接的な対ロシア制裁の点では腰が引けた状態で、無効でしかない「平和的外交的」解決策を口にするのみとなっているのだから、議論のリードが、実際に行ったとしても、如何に形ばかりなのかが分かろうというもので、当然、非難は口先だけ、ハッタリでしかない自画自賛ということになる。
大体が欧米は「現状変更は断固として許すことはできない」という意思表示を制裁という具体的な形で既に実際行動に移しているのである。
右派親ロ派のヤヌコーヴィチ政権に対する激しい反政府デモを経て、最高議会による2014年2月22日の大統領解任決議によって大統領はロシアに逃亡、政権崩壊を受けて、プーチンは3月1日、ロシア系住民保護を理由にウクライナへのロシア軍投入の承認を上院に求め、同3月1日、ロシア上院はクリミアへの軍事介入を承認。プーチンはクリミア半島内のロシア系住民保護を名目に軍事介入を開始。
これ以前から、ロシア軍と分からない装備で既にクリミア自治共和国に軍を進めていたという情報もある。
アメリカはオバマ大統領とプーチンとの電話会談や外相会議等を経て、いわば「平和的外交的」解決の話し合い・模索を経て、3月7日、オバマ大統領はクリミア自治共和国制圧に向けた軍の活動活発化を見せているロシアに対して政府高官へのビザ発給制限などの制裁を発動している。
そして3月16日のクリミアでロシアへの編入の是非を問う住民投票が実施されたことを受けて、翌日の3月17日、オバマ大統領はロシア政府高官らの資産凍結と渡航禁止の第2弾目となる制裁発動に踏み切った。
さらに4日後の3月20日午前、オバマ米大統領がホワイトハウスで声明を読み上げ、ロシアがクリミア編入の既成事実化を進めた場合、対象を一連の行動に関与したロシア政府高官ら20人と関連する銀行を含めてロシアの主要産業への制裁を可能にする大統領令に署名したと発表。
EUも3月6 日の渡航の際の査証 (ビザ)免除などに関するEU とロシアの交渉凍結決定にひき続いて、アメリカの追加制裁に追随、3月20日、クリミア併合に関係したロシア人とウクライナ人合わせて12人対象の資産凍結や渡航禁止といった追加制裁措置を決定している。
これらの制裁はクリミアのロシア編入はウクライナ憲法と国際法に対する明らかな違反であって、「ウクライナの主権と領土の一体性尊重」の立場からの実際行動であって、いわば安倍晋三がG7の場で議論をリードしたと自画自賛している、「私から、力を背景とした現状変更は断固として許すことはできない」と「申し上げた」意思表示に相当する。
実効的な実際行動に既に移している欧米に対する安倍晋三の実効的な実際行動を伴わせることのない議論のリード、自画自賛ということになる。
欧米の制裁が既に実効性を上げていることはロシア経済発展省の3月24日の発表が証明してくれる。今年1月から3月までの第1四半期で投資家がロシア国外に資金を引き上げるなどした海外への資本流出が最大で700億ドル近く、日本円にして7兆1600億円余りになるという見通しを示したと「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。
さらに別の「NHK NEWS WEB」記事が、世界銀行が3月26日、クリミア編入によってロシアと欧米各国との対立が長引いた場合、貿易などを対象にする制裁強化が行われなくても、ロシアの企業が投資に必要な資金を海外から確保するのが難しくなると指摘、投資の急激な落ち込みによって、今年のロシアの成長率が去年12月の予想のプラス2.2%よりも大幅に下がり、マイナス1.8%になるとの見通しを示している。
勿論、既に触れたように欧米も日本もその影響を受けるが、オバマ大統領は追加制裁の声明発表時に、「新たな制裁で、ロシア経済だけでなく、世界経済も打撃を受ける恐れがある」(日経電子版)と、その影響を既に覚悟している。
オバマ大統領の制裁に現れているこの意志強固な「ウクライナの主権と領土の一体性尊重」の絶対性から見た場合、安倍晋三の「私から、力を背景とした現状変更は断固として許すことはできない」と「申し上げた」議論のリード、自画自賛からは絶対性のカケラも探すことはできない。
自画自賛の自己宣伝だけは一人前のようである。