北朝鮮に娘めぐみさんを拉致された横田夫妻が3月10日から14日の日程でモンゴル首都・ウランバートルを訪れ、孫娘ウンギョン(以前はヘギョンと名乗っていた)さんと面会したという。
これは北朝鮮からのどのようなサインなのだろうか。いくつかの記事から、探ってみる。
《【横田さん孫面会】関係改善急ぐ北政府、拉致解決の本気度見極め》(MSN産経/2014.3.16 22:42)
孫娘ヘギョンさんはウンギョンに名前が変わっている。これも何かのサインが含まれているのだろうか。
記事は冒頭で、〈日本政府は、北朝鮮が横田めぐみさんの娘、キム・ウンギョンさんを第三国に連れ出す形でめぐみさんの両親の滋さん、早紀江さん夫妻との面会に同意したことを、日本との関係改善を急ぐ動きと受け止めている。〉と解説している。
政府は北朝鮮の関係改善を欲しているサインだと解析していることになる。
北朝鮮はこれまで横田夫妻に対して北朝鮮に渡航するよう求めてきたが、日本側が拒否。理由は、
日本政府関係者「北朝鮮でウンギョンさんと会えば、めぐみさんの死を受け入れたことになり、拉致事件の幕引きに利用されかねない」――
「NHK NEWS WEB」記事によると、横田滋さん自身が北朝鮮で面会するのを警戒していたことになっている。
横田滋さん「監視下に置かれた状況では本当のことを話せるわけもなく、北朝鮮当局は再びウンギョンさんに『母親は死んだ』と、同じことを言わせようとするはずだ」
このような解釈だと、モンゴルでは北朝鮮の監視が解かれた状況となるということになるが、誰かを人質に取っていれば、監視は遠隔操作が可能となるし、付き添いの形で行動を共にし、横田夫妻の面会にも同席した北朝鮮当局者自身が監視者の役目を負っているはずだから、監視はどこであろうと付き纏わせることができる。
尤も横田夫妻は百も承知の上で、自分たちの年齢を考えて面会に応じたのだろう。
但し北朝鮮側はめぐみさんの死去に改めて言及したと記事は伝えている。
政府関係者「新たな拉致被害者の帰国につながるのかは、より慎重に見極めなければならない」
安倍晋三がかねがね言っている、金正恩に対して「拉致解決という大きな決断をしようという方向に促していく必要がある。そのためにはやっぱり圧力しかない」が未だ効果を上げていないことになる。
別の「MSN産経」記事が北朝鮮側の従来の死亡の主張を受ける形でのウンギョンさんの発言を伝えている。
ウンギョンさん「私が言っていることは本当です。信じてください」――
2002年の北朝鮮が拉致を認めた日朝首脳会談のあとの日本政府調査団に対する彼女の発言。
ウンギョンさん「母親は自分が幼稚園のときに亡くなった」(NHK NEWS WEB)
「母は私が幼稚園のときに亡くなったと言ったことは本当のことです。信じてください」ということになる。
今回の面会について重村智計(としみつ)・早稲田大教授(68)と李英和(リ・ヨン ファ)・関西大教授(59)の発言を「MSN産経」が別々の記事で伝えている。
重村智計教授「今回の面会は、北朝鮮が中国との関係悪化で追い詰められ、日本との関係改善に乗り出さないと国が崩壊する、と生き残りをかけ歩み寄った結果だろ う。本気度は、1月のベトナムでの日朝極秘会談に、朝鮮労働党直属機関で権力のある『国家安全保衛部』当局者が出席したことからも読み取れる。拉致問題解決へ展望が開ける可能性も出てきた。日本政府は、今後も核やミサイル問題も含めた米国との協調を崩さず、関係改善は北朝鮮側の姿勢にかかっている、という強い態度が必要だ」――
この解説だと安倍政権の圧力が功を奏しているように見える。但し拉致解決を交換条件とした関係改善につながるかどうかにかかっているが、めぐみさんの娘のウンギョンさんに再びめぐみさんの死を言わせたところを見ると、その死が事実か、事実ではなく生存しているとしても、死を事実と見せかけて、めぐみさん以外の拉致被害者の解決で以って日朝関係改善に持っていく思惑を窺い取ることができないでもない。
李英和教授「北朝鮮としては、関係が悪化した中国に石油や食糧の輸出を早く再開してもらうため 『だったら日本と仲良くするよ』という挑発姿勢を見せる戦略の一つで、残念ながら拉致問題を全面解決する決断までしたものではないだろう。めぐみさん問題の進展につながる話題までは出ていないのではないか。 ただ、1年以上途絶えている政府間正式協議が再開されれば、 拉致解決の糸口となる。日本政府は今回の面会は外交駆け引きの結果だと理解しつつも、このチャンスを生かしてほしい」――
政府間正式協議再開を条件に拉致解決の可能性を言っているが、それがめぐさんまでを含めた解決可能性なのかの言及はない。
横田夫妻との面会ではウンギョンさんの夫とされる男性と娘と見られる生後まもない女の赤ちゃんが同席していたことが関係者への取材で分かったと「NHK NEWS WEB」記事伝えていた。
2002年の小泉訪朝時には15歳の中学生だったウンギョンさんが現在26歳になっていて、結婚して子どもを設けた。めぐみさんの子どもとして生まれて、北朝鮮の生活者として26年の歳月かそこらを重ねて結婚し、母親と同じように自分も子どもを持った。
そこに日本の生活を送ってきたのではない、北朝鮮の生活を送ってきた消すことのできない確固とした痕跡を見ることができる。北朝鮮側は夫と生後間もない女の子を同席させることで、北朝鮮での生活の歴史を見せようとしたのではないだろうか。
日本という国や日本人であることはもう関係はない。北朝鮮という国で北朝鮮人として生き、生活しているという歴史の突きつけ――北朝鮮化のサインを突きつけたのではないだろうか。
この解釈が間違っていないとしたら、横田めぐみさんは生存していたとしても、北朝鮮側は死を事実とする態度を変えることはないように思える。当然、拉致問題の解決があったとしても、めぐみさん抜きの解決となる恐れが出てくる。
めぐみさん抜きの最悪の解決となったとしても、生存さえしていたなら、めぐみさん一家の北朝鮮での生活までが消え去るわけではない。生き、生存していることを信じるしかない。