記者会見後半の記者との質疑で次のような遣り取りがあった。
若林河北新報記者「被災地は、人口流出が今も止まっていませんで、発災から3年となる今も縮みつつあるという状況にあります。この点に関する総理の受けとめというのをお聞かせいただきたいのが1点。
一方で、政府は復興を通じた新しい東北の創造というのを目指していらっしゃいます。東北地方への医学部新設などに向けた動きなどもありますけれども、こうした取組への意欲と今後のスケジュールの見通しをお聞かせいただきたいのですが」
安倍晋三「被災地を単に現状復旧するのではなく、震災復興を契機として、人口減少、高齢化、産業の空洞化等の課題を解決をしていくことが重要であると考えています。
私自身、昨年12月、宮城県で、地域の産学官の協力による未来の自動車交通システムの研究開発の様子を拝見いたしました。未来を見据えたこうした取組は東北の希望だというふうに感じました。
政府としては、我が国が世界のモデルとなるような、新しい東北の創造にしっかりと取り組んでいく考えであります。
以上であります」――
2011年1月から12月まで福島県人口は震災前の1月~3月は前月比で減少傾向にありながらも、200万人台を保っていたが、震災直後の4月と5月には前月比で約9千人減少し、7月時点で200万人の大台を割ったという。
そして現在、大震災の影響で特に原発事故の影響下にある福島を筆頭に被災3県の人口減少に歯止めが掛からないと次の記事が伝えている。《震災3年 人口13万人 減歯止めかからず》(NHK NEWS WEB/2014年3月11日 18時32分)
NHKが人口のデータを使い、震災前の平成23年3月1日から先月2月1日までの人口の増減を調査。
震災1年目8万5485減少。
震災2年目2万9247人減少。
震災3年目1万7478人減少
減少幅が小さくなってきているものの、人口減少に歯止めがかかっていないとしている。
この3年間の県別減少人数
福島県7万9601人減少
岩手県3万4636人減少
宮城県1万7973人減少
自治体別の人口の減少率
宮城県女川町28%
岩手県大槌町22%
宮城県山元町21%
宮城県南三陸町18%
岩手県陸前高田市16%
岩手県山田町13%
福島県浪江町10%
富岡町10%
双葉町10%
但し、〈一方、仙台市や盛岡市といった都市部や内陸部だけでなく、宮城県岩沼市のように津波の被害を受けた自治体でも防災集団移転の造成などが進んでいる地域では、3年目になって人口が増加に転じたところも出てきていて、被災地での二極化がより一層進んでいます。〉と解説している。
人口の県外流出が続いていながら、一方で県内地方から県内都市部・内陸部流出の二重の過疎化が発生している。
記事は災害公営住宅の建設遅れが人口流出の一因となっていると指摘している。
災害公営住宅約3万戸計画――完成3%(2月末時点)
防災集団移転先土地造成工事――完成10%(1月末時点)
岡田豊みずほ総合研究所主任研究員「被災地では若い人の雇用の場がなく、将来のまちづくりが分からない状況のため、今後も人口減少が進む可能性は高い。人口が減るところと増えるところの二極化が進んでいく なかで、東北全体で復興の在り方をどのように描いていくのか、前例にとらわれない形で抜本的に考え直していく必要がある」――
では、福島県のHPから、福島県の高齢化の状況を見てみる。
1965年(昭和40年)
福島県総人口約198万人
65歳以上人口約13万5千人
65歳以上人口割合
全国6.3%
福島県6.8%
75歳以上人口割合
全国2.0%
福島県1.9%
2010年(平成22年)
福島県総人口約20029万人
65歳以上人口約50万人
65歳以上人口割合
全国23.0%
福島県25.0%
75歳以上人口割合
全国11.1%
福島県13.5%
2014年(平成26年)
福島県総人口約194万人
65歳以上人口割合
全国25.4%
福島県27.2%
75歳以上人口割合
全国12.4%
福島県14.7%%
1965年(昭和40年)の福島県の65歳以上人口割合と75歳以上人口割合は全国の割合とさして変わりはなかったが、東日本大震災前年の2010年と2014年(平成26年)になると、2%前後の差が出てきている。人口減少と高齢化は労働力人口の減少を裏合わせとする。
安倍晋三はこのような人口減少と高齢化状況を跳ね返して新しい産業を創造し、「新しい東北の創造にしっかりと取り組んでいく」と宣言している。
だが、日本全体が人口減少と高齢化へと突き進んでいる。全体的な人口減少下で被災地に新しい産業を創造することによって産業の空洞化を防止し、被災地から流出した人口を取り戻したとしても、被災地の高齢化の状況は変わらないのだから、被災地以外から労働力人口を、それもより若い労働力人口を取り込んで高齢化を阻止しなければ、折角創造した新しい産業も維持できないことになる。
但し取り込んだ場合、それは被災地以外の自治体の人口減少と高齢化に輪をかけることになって、悪影響を他に及ぼす「新しい東北の創造」になりかねない。
いわば労働力人口減少を裏合わせとした人口減少と高齢化という縮んでいくパイを奪い合うようなもので、パイ自体をより良い方向に大きく修正する政策を打たなければ、「新しい東北の創造」は正当性を得ることはできないことになる。
そんなことはとっくの昔に誰もがそう思っていることだと言うだろうが、安倍晋三の記者会見の言葉はこの認識を欠いている。認識を欠いたまま、「被災地を単に現状復旧するのではなく、震災復興を契機として、人口減少、高齢化、産業の空洞化等の課題を解決をしていく」としていること自体が役に立たないという意味でウソだと指摘しているのである。
勿論、安倍政権は人口減少の歯止めを考えていないわけではない。安倍晋三は日本人優越意識からの外国人単純労働者受入れ解禁には否定的だが、高度人材と認定した外国人に限って日本での在留期間無期限化の在留資格付与には前向きの人材確保策を講じようとしている。
そしてもう一つの人材確保策。女性の積極的採用。
だが、これだけで日本の人口減少と高齢化の現状を食い止めることができるのだろうか。できないことは次の記事が証明している。
《移民受け入れなら1億人維持=年間20万人で-内閣府人口推計》(時事ドットコム/2014/02 /24-19:48)
内閣に2月24日(2014年)の試算公表。
「出生率回復ケース」
2015年から移民を毎年20万人受け入れると共に2030年に合計特殊出生率(女性が生涯に生む子供の数の推計)が2.07まで上昇すると仮定した場合。
2060年――1億989万人の人口
2110年――1億1404万人の人口
「出生率現状ケース」
移民を受け入れない場合。
2060年――8640万人の人口
2110年――4286 万人の人口
このような状況を想定した場合、安倍晋三の「被災地を単に現状復旧するのではなく、震災復興を契機として、人口減少、高齢化、産業の空洞化等の課題を解決」云々はまるきりのウソとなる。
企業は日本国内での人材確保を諦めて、ますます海外移転を加速させることになり、結果、「産業の空洞化」の課題解決は絵空事となる。
人口減少と高齢化はまた全体的な個人消費の低下を連動させる。いわば産業の空洞化は人口減少と高齢化と、それを受けた全体的な個人消費低下のトリプルパンチのダメージとして現れ、相互的に悪循環のスパイラルに陥ることになる。アベノミクスやその亜流にしても、ゆくゆくはこの悪循環のスパイラルに巻き込まれることになるだろう。
もし歴史修正主義者でもあり国家主義者でもある安倍晋三に全体と先を見る目があったなら、東日本大震災3周年を迎えるに当たっての大事な日に被災地復興に関してこのような役にも立たないウソをつくことはなかったろう。
そのような目を備えていなから、記者会見発言だけではなく、国会答弁も安請け合いの軽い言葉の羅列となる。
日本人の血は優秀だからとの理由で日本人だけに頼る国家主義的政策の破綻は既に目に見えている。だが、骨の髄にまで日本人優越意識を染み込ませている国家主義者である。経済政策は別にしてそろそろご退場を願わなければ、日本という国自体が持ちこたえることができなくなる。