安倍晋三の遠回りに遠回りを重ねた上での対中国譲歩の末の日中首脳会談実現で予想される新たな困難

2014-11-09 09:35:36 | Weblog


 11月7日、外務省が日中関係の改善に向けた合意文書を発表した。これを受けたマスコミが来週10月10、11日の北京開催のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて日中首脳会談を行うことが固まったとか、会談を行う方向とか伝えている。まだ正式に決まったわけではなく、首脳会談を行う方向で会談のテーマや形式などを巡る詰めの調整を進めているということらしい。

 安倍晋三はかねがね「互いに前提条件を付けず胸襟を開いて話し合うべきだ」、あるいは「課題があるからこそ、首脳レベルを含めて対話すべきであり、大局的な見地から未来志向の協力関係を発展させたい。対話のドアは常にオープンであり、中国側にも同じ対応を取って貰いたい」等発言、中国側の行動を促す姿勢を見せ、その一方で諸外国を訪問、中国の尖閣諸島海域での行動について、「力による現状変更には強く反対する。法の支配の下に中国を取り込むことが重要だ」と中国を牽制、各国首脳の同意を求める行脚を続けた。

 いわば中国の神経を逆撫でし、反発を承知の上で、強気の態度を取っていた。

 当然、「前提条件をつけるな」、「日本側の対話のドアは常にオープンだ」と宣告していたのだから、中国側からの首脳会談申し込みを待っているばかりだと思っていた。

 ところが谷内国家安全保障局局長を11月6日、中国に派遣。10月10・11日のAPEC首脳会議に合わせた動きだとマスコミが報じた。

 そして菅官房長官の谷内局長北京派遣に関連した同10月6日の記者会見。

 菅官房長官「世界第2位の経済大国、3位の経済大国の首脳が形式はどうあっても胸襟を開いて本音ベースで話すことは極めて大事だ」(NHK NEWS WEB

 記事解説は、〈首脳会談の実現に期待を示しました。〉となっているが、首脳会談開催に向けた交渉のための派遣だと分かる。

 谷内局長は福田元首相が7月末(2014年)に北京を訪問して、習近平中国国家主席と極秘会談した際、同席している。福田元首相は10月29日(2014年)にも北京を訪問、習近平国家主席と会談している。

 そして11月6日の今回の谷内局長の中国への派遣。

 以上の経緯からすると、「前提条件をつけるな」、「日本側の対話のドアは常にオープンだ」と宣告して中国側からの働きを待つ姿勢でいたのを方向転換して、少なくとも今年7月から10月10・11日のAPEC開催を睨んで日本側から中国側に対して首脳会談の開催を呼びかる逆のコースを取ったことになる。

 これまでの数々の宣告を自分から無にして逆のコースを取ったということは何らかの譲歩を伴うはずだ。いわば宣告通りに自身の態度を毅然と持していたなら、何ら譲歩は必要ではなかったが、一旦決めた自らの態度を放棄したのである。

 安倍晋三は、「前の政権では、過度に軋轢を恐れるあまり、領土・領海・領空を犯す行為に対して、当然行うべき警戒・警備の手法に極度の縛りがかけられていた。相手方に誤ったメッセージを送ることになり、不測の事態を招く結果になると判断したので、安倍内閣が発足した直後から、前の政権の方針を根本から見直し、冷静かつ毅然とした対応を行う方針を示した」と国会で答弁、「冷静かつ毅然とした対応」を対中外交の基本姿勢としていたにも関わらずである。

 但し安倍晋三は譲歩を否定している。周囲に話した言葉だそうだ。

 安倍晋三「こっちは首脳会談実現を焦っていない。APECで各国首脳を招く立場の中国が日本の首脳と会わないとなれば、国際的評価を落とすのは中国の方だ」(産経ニュース/2014.11.8 10:00) 

 相当な自信である。首脳会談が必要なら中国側から働きかけろと言わんばかりの数々の宣告を行っていたときの自信と変わらない。

 果たして何ら譲歩をしなかったのか、政府発表の日中関係改善に向けた日中合意書から読み解いてみたいと思う。文飾は当方。

 《日中関係の改善に向けた話合い》外務省HP/平成26年11月7日)

〈日中関係の改善に向け,これまで両国政府間で静かな話し合いを続けてきたが,今般,以下の諸点につき意見の一致をみた。

1 双方は,日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し,日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した。

2 双方は,歴史を直視し,未来に向かうという精神に従い,両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた。

3 双方は,尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し,対話と協議を通じて,情勢の悪化を防ぐとともに,危機管理メカニズムを構築し,不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた。

4 双方は,様々な多国間・二国間のチャンネルを活用して,政治・外交・安保対話を徐々に再開し,政治的相互信頼関係の構築に努めることにつき意見の一致をみた。〉(以上)

 先ず尖閣諸島に関して。歴代日本政府は「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であることは明らかである」とし、故に「尖閣諸島に関して領土問題は存在しない」という態度を一貫して取り続けてきた。

 つまり領土問題は存在しないのだから、中国政府が「有している」「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国固有の領土である」とする「異なる見解」に見向きもしなかった。

 だが、合意文書で、「異なる見解を有していると認識」したということは、中国側の「釣魚島は中国固有の領土である」とする主張を日本側の「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であることは明らかである」とする主張に対して「異なる見解」として「認識」したことになる。

 これを譲歩でなくて、何と表現したらいいのだろうか。

 「異なる見解」を具体的に説明すると、日本は尖閣諸島を日本固有の領土とし、実効支配しているものの、中国が主張する領有権ではなく、領有権の主張が存在することを認めた。いわば領有権の主張に関して日中双方の主張を並立させたことになる。

 勿論、中国側の領有権主張の正当性を認めた場合、領有権そのものを認めることになる。

 「領土問題は存在しない」としてきた従来の主張を翻して、「存在する」と譲歩したのである。

 2に歴史認識に関わる〈双方は,歴史を直視し,未来に向かうという精神に従い,両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた。〉としている言及は安倍晋三の靖国神社参拝に対するものなのかどうなのかという問題について、安倍晋三は10月7日夜出演のBSフジ番組「プライムニュース」で発言している。

 司会「この『歴史』が靖国参拝問題に当たるとしたら、靖国参拝をしないことを約束してほしいという中国側に対して日本側はきちっと答えを出さずに、その問題で日中双方に考え方・認識のズレがあるということを確認して、今後の会談に臨む、今後の2日間の話し合いに臨む、こういう理解で宜しいでしょうか」

 安倍晋三「これは個別の問題を含むものでは全くないです」――

 中国側は日中首脳会談開催の条件として安倍晋三に対して尖閣諸島を巡って領有権問題が存在することと再び靖国神社に参拝しないことを明確にするよう求めていた。靖国参拝は単なる参拝ではなく、戦前日本国家を肯定する儀式であって、歴史認識に関わる問題である。「歴史を直視し」が靖国参拝問題を含まないはずはない。

 にも関わらず、安倍晋三は靖国参拝という「個別問題は含んでいない」としている。明らかに目眩まし以外の何ものでもない。

 このことは、「両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」という合意に現れている。「両国関係に影響する政治的困難」の一つが安倍晋三の靖国参拝であった。それを「克服することで若干の認識の一致をみた」のである。

 靖国参拝に関して何らかの取り決めがあったと見るべきだろう。取り決めは安倍晋三の譲歩なくして成り立たない。密約紛いの取り引きを認めたなら、その不甲斐なさが批判されて支持率に関係するから、苦労して「若干」という表現を譲歩の交換として獲ち取ったといったところが正体であるはずだ。

 いわば「若干の認識の一致」という言葉の裏には中国側が要求しているそれなりの行動の約束――譲歩がなければならない。

 以上が合意文書からの解釈だが、歴史認識に関して安倍晋三が靖国神社という個別問題は含んでいないとしていることに対して中国側が直ちに反論していることがこの解釈の傍証となる。

 《合意は「首相の靖国参拝束縛」=尖閣で日本の譲歩強調-中国紙》時事ドットコム/2014/11/08-11:23)  

 環球時報「靖国神社に言及していないが、『政治的障害を克服する』(で合意したこと)は明らかに安倍(首相)の靖国参拝を束縛したものだ。

 (尖閣諸島に関して)双方が釣魚島に対して異なる主張が存在することを認めた。これは日本政府が過去に態度表明したことのないものだ。

 日本はこれまで、中国との釣魚島問題に関する話し合いを一貫して拒絶し、釣魚島の主権に関して『争いは存在しない』と公言。双方は釣魚島海域での行動で意思疎通できずに危機をはらんでいた。現在、日本は危機管理メカニズム構築に関して中国と協議したいと望んでおり、これは釣魚島海域で『新たな現実』が形成されたと宣告するに等しいものだ

 記事は、環球時報が中国共産党機関紙・人民日報系だと解説している。中国政府の見解を伝えたと見るべきだろう。合意文書の表現とは裏腹に日本側は多くのことを譲歩し、約束をした。

 靖国参拝に関しては安倍晋三が在任中控えれば、片付く問題だが、尖閣問題で領土問題が存在するとした以上、少なくとも中国側が「釣魚島海域で『新たな現実』が形成された」と解釈している以上、それ相応の解決策を中国側と協議し、何らかの合意を見ずに一歩でも誤ると、言葉ではゴマカスことのできない新たな危険性を抱えることになりかねない。

 如何に実効支配という現実を守って、協議のテーブル上で中国側の主張をどのようにしてかわすかにかかってくる。

 安倍晋三が政権を獲ってから中国に首脳会談を働きかけるまで約1年半。遠回りに遠回りを重ねた末に国民に様々に情報を隠さなければならない到達点となっていること自体が安倍晋三の外交能力を疑わせて、危うさを感じないわけにはいかない。

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