安倍晋三の賃金が上がるよりも株価が上がった方が資産効果があるとする国会答弁に見る国家主義思想

2014-11-05 09:14:34 | Weblog


 安倍晋三が11月4日の参院予算委員会で桜井充民主党議員の質問に対する国会答弁で、一般国民のことを考えない、国家の在り様にのみ目を向けた国家主義思想を露わにした国会答弁を展開していた。尤も今に始まったことではなく、例の如くといった感じだが、あまりにも国家主義思想が象徴的に現れていたので、ブログにしてみることにした。

 桜井充「総理は前原(誠司民主党議員)さんとの衆議院での質疑に於いて、こうおっしゃってるんですが、要するに賃金が上がるよりも株価が上がった方が経済に対する影響は大きいんだと、そういうふうに総理はですね、前原大臣のところで答えていらっしゃるんですが、本当にそう思ってらっしゃるんですか」

 安倍晋三「経済学者がですね、分析する資産効果として申し上げたわけでございます。資産効果としてはいわば賃金が上がった場合ですね、賃金が上がっていくというのはまさに所々(しょしょ)の勤労者にとって1年間一生懸命頑張った結果でありますから、その支出については当然、慎重に考えていくわけでございますが、えー、株価についてはですね、株価が上がったものに対しましてはですね、これはすぐに消費に回る傾向が、分析の結果、高いというのが事実であります。

 いわば資産効果としての意味について私は申し上げたわけであります。資産効果として、えー、株価が(賃金の上昇よりも効果が)高いというのは多くの経済学者が指摘しているところではないかと思います」

 桜井充「総理、じゃあ、ちょっとお伺いしますが、株を持っている人っていうのは国民全体で何%ぐらいだとお思いですか」

 安倍晋三「株を持っている人と言えば、直(じか)に株を持っている、しかし投資信託の形で持っている方もおられるでしょうし、事実また年金もまた株でまさに運用もされているわけでございます(場内が騒がしくなる)。

 同時にですね、すみません、静かにして頂けますか。同時にですね、同時に今私が申し上げましたのは、経済に於けるマクロの話をお話をさせて頂いているわけでありまして、いわば資産効果として、いわばそれは大きな影響を及ぼすということでありますから、その中に於いて株を持っている人がお金を使い始めれば、それは回っていく。

 おカネというのは回っていくわけでありまして、それは様々な物を買えば、そういう物を作ってる人に利益をもたらせる。経済はそういうものでありますから、一つのところだけを総括してそれを持っている人しか利益を得ないといういう考え方が基本的に私は間違っているのではないかと、これはまさに経済の原則と言ってもいいわけでありますが、おカネは回っていく。

 その中で資産効果、資産効果というのはですね、例えば消費喚起をする。あるいはデフレから脱却していく。そして大きな成果を上げていくのは事実であります。そして申し上げますが、我々が政権を取って、この政策(アベノミクス)を進めてから、この政策を進めてからですね、え、まさに国民の、いわば一般の消費が景気を引っ張ったのは事実であります。

 景気を引っ張ったのが消費であったのは事実でありますし、その上に於いて資産効果がある程度の役割を果たしたというのが分析、多くの方の分析ではないかと、こう思うわけであります」

 桜井充「これは国民のみなさんが判断してくださることだと思いますが、一方でアベノミクスの副作用で苦しんでいらっしゃる方もいるので、そのことについて理解していただきたいのです」

 この遣り取りの最後に桜井充が「もう少し国民のことを考えて政権運営をしていただきたいという意味で申し上げてるんですよ」と忠告しているが、そもそもからして安倍晋三は経済政策でも教育政策でも、歴史認識に於いても、国家という大枠の構えが立派な装いを備えさえすれば良しとする国家主義の思想に立っていて、国家の構えにさして影響しない中身の矛盾やマイナス面は小さい問題としてしているのだから、ないものねだりの忠告だと気づかなければならない。

 個人よりも国家をより重視する国家主義思想の持ち主だから、実態は正規社員が減少し、非正規社員が増加して、賃金が減少傾向を辿っていることを無視して、数値を上げて求人倍率が増えた、雇用が増えたと言うことができる。実質賃金が減っているにも関わらず、賃金が増えたと言うことができる。

 桜井充との質疑もまさに国家重視そのものの展開となっている。

 安倍晋三は宣(のたまわ)っている。賃金が上がっても、1年頑張った結果だから、支出に慎重になって、大して消費には回らない。だが、株で儲ければ、儲けた分、直ちに消費にまわる。だから、経済効果として賃金が上がるよりも株価が上がる方がいい。個人の側から言っても、賃金の上昇分の金額よりも株価が上がった分の金額の方が資産効果として上だと。

 「経済学者が指摘している」と言っているが、経済学者が指摘したことを単に紹介しているのではなく、その指摘に添う政策を行っているのだから、安倍晋三自身の考えとなっている。

 確かに黒田日銀の異次元の金融緩和政策以後、円安・株高の急激な進行によって、先ず高額商品に消費が集まった。まだ賃金が上がっていない時だから、株で儲けることができた人間のたカネが、多分、今まで消費欲求を抑えていた反動もあってのことだろう、高額商品の購入に集中することになった。そのお陰で、売上が低迷していた百貨店が高額商品の販売増で息を吹き返した。

 このこと自体が一般庶民には関係のない状況であった。

 しかも、賃金が上がっても、消費税増税や円安を受けた輸入価格の上昇等で実質賃金が目減りして、個人消費は低迷したままである。内閣府試算によると、天候不順の影響もあるが、7月から9月の個人消費が2000億円から7000億円程度押し下げたと見ているという。

 いわば「すぐに消費に回る傾向」がある株価上昇による儲けだけでは、資産効果はあったかもしれないが、消費効果は上がらず、個人消費が約6割を占めるGDPの数値改善にも向かわず、結果として経済効果もなかったことになる。

 だが、安倍晋三は賃金が上がるよりも株価が上がった方が資産効果があり、その資産が消費に向かう効果は賃金が上がるよりも経済効果として上だと言っている。

 このことを言い換えると、株に縁のない一般国民の存在を国家経済への影響という点で重視していないということになる。

 にも関わらず、安倍晋三は経済界に賃金上げを迫っている。この矛盾を解くには一般国民の利益を考えてではなく、あくまでも個人消費を上げて、国家経済という大枠を確かなものとするための利益と考えているからという答しか見い出すことはできない。何しろ賃金上昇よりも株価の上昇を重視しているのだから。

 このことは桜井充の次の質問、「株を持っているのは国民全体で何%ぐらいか」が証明する。

 この大多数を無視して株価の上昇を優先させている。

 安倍晋三の悪い癖だが、質問に対して正直に応えない。正直に答えていたなら、国家主義が露わになって都合が悪いからだろう。

 いくら投資信託であっても、株を持つということは一定の金額のカネを一定期間寝かすことを意味する。そうする余裕のある国民がどれ程いるのだろうか。

 株価が上がっても個人消費回復の決定打足り得ていないことの裏を返すと、株所有者はごく少数派で、株を持つ余裕のない国民の方が大多数と言うことになるはずである。

 但し安倍晋三は国家主義者思想の持ち主であるから、こういった状況を何とも思っていない。「年金もまた株でまさに運用もされているわけでございます」と言っているところに最も象徴的に国家主義が現れている。

 株で年金を運用し、株価が上がれば、資産運用収益を上げることができて、国家は余裕を持って年金の支払に応ずることができる。だが、個人に支払われる年金は支払った保険料や支払い年数に応じて、その一定額が決まるのであって、株価と連動しているわけではない。

 いわば国家だけのことを考えた発言に過ぎない。安倍晋三の国家主義思想、ここに極まれりの言葉となっている。

 消費税が上がり、円安が追い打ちをかけてなお物価が上がって、生活に不安を抱えている年金生活者の話をよく聞く。そのような年金生活者にとって、年金が株で運用されているといったことはさして意味は成さない。

 だが、安倍晋三にとっては大いに意味を成している。国家優先の国家主義者だからである。

 安倍晋三が掲げる「女性の活躍」も同じ線上にある。女性一人ひとりの幸せを願って政策を掲げているのではなく、国家のトータルの経済指標を高くするために過ぎない。だから、女性の雇用の中身が非正規だろうと何だろうと構わずに数値目標だけを言い募り、達成度は何%だと言うことができる。

 安倍晋三は「おカネは回っていく」と言っているが、2002年1月から景気回復過程に入り、2007年10月までの、最後の1年間は第1安倍内閣と重なった戦後最長景気時代は各企業が軒並み戦後最高益を記録しながら、企業の利益は国民に還元されず、結果、個人消費は伸びず、実感なき景気を言われて、上から下への富の再分配を意味するトリクルダウンの時代が終わったと言われている。

 「おカネは回っていく」とは限らないということである。円安によって各企業が内部留保を増やしながら、政府の要請を受けてしか賃上げに応ずることができなかった。企業の主体的なトリクルダウンというわけではない。企業自体が自分たちが利益を上げればいいという国家主義に陥っている。

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