竹中平蔵の「正社員をなくしましょう」発言は正規賃金の非正規賃金化を狙った安倍晋三同様の国家主義

2015-01-07 09:09:48 | 政治
                    


 竹中平蔵が2015年1月1日テレビ朝日の「朝まで生テレビ!元旦スペシャル」で「正社員はなくしましょう」と発言したとかで、今ネット上で批判やら擁護論やらが飛び交っている。

 番組のテーマは「激論!戦後70年日本はどんな国を目指すのか!」だったそうだ。

 年々の非正規雇用増加に批判が集中している中でのこのような発言だから、当然と言えば当然だが、具体的にどう発言したのか、動画にはアクセスできたが、歳のせいで年々の非正規雇用増加とは逆に年々体力と根気が減退傾向にあって、文字起こしするだけの意欲が湧かず、横着してそのうち出てくるかもしれないと期待していたら、発言個所を文字起こししたネットに悪運強く巡り合うことができた。恐れ多くも天下の竹中平蔵を向こうに回して自分なりにその発言の正当性を解釈して見ることにした。図々しさだけは歳と共に肥大していくようだ。

 全文参考引用。

 《竹中平蔵氏の「正社員をなくしましょう」はどんな流れで発せられたか?(文字起こし)》弁護士ドットコムニュース/2015年01月06日 18時10分)  

「正社員をなくしましょう」――。慶應義塾大学教授で、人材派遣のパソナグループ取締役会長をつとめる竹中平蔵氏が、テレビの討論番組でこのように発言したと、ネットメディアが報じ、大きな反響を呼んでいる。

問題の発言は、1月1日未明に放送されたテレビ朝日「朝まで生テレビ」で、非正規社員の待遇がテーマになったときに飛び出したとされる。翌1月2日、ライブドアのトピックスニュースが、その模様を紹介する記事を掲載。<竹中平蔵氏が非正規雇用について熱弁「正社員をなくしましょう」>という見出しをつけた。さらに1月4日には、ハフィントンポストが<竹中平蔵氏の「正社員をなくせばいい」発言に賛否>と報じた。

●ニュース記事の見出しと「問題発言」は微妙に違っていた


そのようなニュース報道を受け、ネットでは「相変わらずぶっとんでるな」「ふざけるな!」「竹中さんだから叩かれるけど、言ってることは正論だよ」などと、賛否両論の意見が沸き起こった。ライブドアの記事は、はてなブックマーク数が180以上、ツイート数が4000近くにのぼるなど、反響が広がっている(6日午後6時現在)。

これだけ関心を集めた竹中氏の「正社員をなくしましょう」発言は、どのような文脈で発せられたのだろうか。そんな疑問から「朝生」の問題のシーンを録画で確認してみると・・・たしかに、竹中氏は「正社員をなくしましょう」という言葉を口にしているのだが、その前後の言葉も聞くと、ニュース記事の見出しから受ける印象とは、少しニュアンスが違っているようだった。

竹中氏の発言を正確に再現すると、次のようになる。

「同一労働・同一賃金と言うんだったら、『正社員をなくしましょう』って、やっぱり、あなた、言わなきゃいけない」

この「あなた」というのは、それまでの議論の流れやテレビに映ったアングルから見て、民主党の辻元清美衆院議員だと考えられる。つまり、竹中氏は、討論のなかで「同一労働・同一賃金」を求める意見を表明していた辻元議員らに対して、「同一労働・同一賃金」と言うのであれば「正社員をなくしましょう」と言わなければならないですよ、と問いかけていたのだ。

では、なぜ「同一労働・同一賃金」と言うと「正社員をなくしましょう」と言わなければいけなくなるのか。竹中氏のロジックはどのようなものなのか。それを理解するには、問題発言の前後をもっとくわしくみる必要があるだろう。

というわけで、問題のシーンの前後の発言を文字起こしして、以下に紹介する。

●「正社員をなくしましょう」前後の竹中氏の発言

竹中平蔵氏(以下、竹中):みんな多様な働き方をしたいんです。いろんなアンケート調査があって、アンケート調査にバラつきがあるんですけれども、たとえば協会がやったアンケート調査によると、派遣でやっている人の7割は「当面派遣でやりたい」と言っています。厚労省が派遣についてやった調査では、「正社員に変わりたい」という人と「今の非正規のままのほうがいい」という人を比べると、実は「非正規」と答える人が多いんです。数字はね。

多様な働き方があるから、派遣でいるのが「なんか悪い」とか「かわいそうだ」とか、その前提はやっぱり捨ててほしい。それはケース・バイ・ケースだということ。正社員で雇われたい人もいますよ。でも、そうじゃない人も多いんだということをまず大前提にしてほしい。そしてもう一つ・・・。

田原総一朗氏(ジャーナリスト:以下、田原):本当かなぁ、それ。

竹中:本当なんですよ。田原さん、もう一つ大事なことがある。どうして派遣が増えたかというと、簡単なんですよ。日本の正規労働は世界の中で見て、異常に保護されているからなんですよ。

森永卓郎氏(経済アナリスト:以下、森永):それは違います。

竹中:1979年の東京高裁の判例で解雇の4要件が示された。要するに、同一労働・同一賃金と言うんだったら、「正社員をなくしましょう」って、やっぱり、あなた、言わなきゃいけない(編集部注:このとき竹中氏は、辻元氏のほうを見ていた)。全員を正社員にしようとしたから、大変なことになったんですよ。

田原:竹中さんの言った4要件はこれですよ(注:フリップを取り出す)。4要件というのは、人員削減の必要性。解雇回避の努力。人選の合理性。解雇手続の妥当性。4つないといけない。

竹中:実はそれが判例なので、非常に不明確だというところに問題があるんです。だから、大企業のように、訴訟リスク・・・これやると訴訟をされると思うところは、なかなか解雇できない。

田原:そして本当に(訴訟に)負ける。

竹中:そうです。一方で、「うちなんかは訴訟されるわけがない」と思っている中小企業は、平気で正社員といえども解雇しているんですよ。だからそのルールをきちんと・・・。

森永:竹中さんの言っている事実認識がすごく違うのは、実はOECDが雇用者保護の厳格性を綿密に調査して比較しているんですよ。さっき竹中さんがオランダモデルにしろと言ったんですけど、正社員の雇用保護の厳格性は、日本よりもオランダのほうが圧倒的に高いんですよ。つまり、ものすごく厳しいんですよ。解雇には、地方労働委員会の許可が必要なのですよ。ほとんど認められない・・。

竹中:日本の場合、中小企業にそれが適用されていないからなんですよ。だから、厳しいルールも必要なんです。ただ、今はルールが明確ではないということが重要なんです。それを明確化しようと言ったら、「解雇自由化」という議論に歪められるんですよ。

 先ず発言の順を追って、一つ一つ見てみるが、竹中平蔵の発言には情報隠蔽がある。

 「派遣でやっている人の7割は『当面派遣でやりたい』と言っています。厚労省が派遣についてやった調査では、『正社員に変わりたい』という人と『今の非正規のままのほうがいい』という人を比べると、実は『非正規』と答える人が多いんです。数字はね」の発言。

 《労働力調査(詳細集計)平成25年(2013年)平均(速報)結果の概要》(総務省統計局)には次のような記述がある。

 〈正規の職員・従業員は46万人減少,非正規の職員・従業員は93万人増加

 2013年平均の役員を除く雇用者は5201万人となり,前年に比べ47万人の増加となった。このうち正規の職員・従業員は3294万人と46万人の減少となった。一方,パート・アルバイト,派遣社員,契約社員などの非正規の職員・従業員は1906万人と93万人の増加となった。

 男女別にみると,男性は正規の職員・従業員が2267万人と33万人の減少,非正規の職員・従業員が610万人と44万人の増加となった。

 女性は正規の職員・従業員が1027万人と14万人の減少,非正規の職員・従業員が1296万人と49万人の増加となった。〉――

 では、非正規の職員・従業員が現職の雇用形態についた主な理由について。

●自分の都合のよい時間に働きたいから
  男性21.3%
  女性25.4%

●家計の補助・学費等を得たいから
  男性12.3%
  女性26.8%

●家事・育児・介護等と両立しやすいから
  男性0.7%
  女性15.9%
 
●通勤時間が短いから
  男性2.9%
  女性3.8%

●専門的な技能等をいかせるから
  男性11.9%
  女性5.6%

●正規の職員・従業員の仕事がないから
  男性30.6%
  女性14.1%

●その他
  男性20.3%
  女性8.4%  

 確かに男性の場合は「正規の職員・従業員の仕事がないから」と非正規の仕事に就いている割合は30.6%と最多であるが、全体としてみた場合、男女共に「派遣でやっている人の7割は『当面派遣でやりたい』」と竹中平蔵が言っていることはほぼ間違いない。

 だが、雇用形態に限っての統計を示したのみで、正規・非正規別賃金格差、男女別賃金格差、学歴別賃金格差についての情報は隠したままである。

 《平成25 年賃金構造基本統計調査(全国)の概況》(厚労省/平成26 年2月20 日)には次のような統計を示している。文飾は当方。   

 〈雇用形態別の賃金

 雇用形態別の賃金をみると、正社員・正職員314.7千円(年齢41.4歳、勤続12.9年)、正社員・正職員以外195.3千円(年齢45.5歳、勤続7.1年)となっている。

 男女別にみると、男性では、正社員・正職員340.4千円(前年比1.0%減)、正社員・正職員以外216.9千円(同0.7%減)、女性では、正社員・正職員251.8千円(同0.2%減)、正社員・正職員以外173.9千円(同0.5%減)となっている。
 
 年齢階級別にみると、正社員・正職員以外は、男女いずれも年齢階級が高くなっても賃金の上昇があまり見られない。

 正社員・正職員の賃金を100とすると、正社員・正職員以外の賃金は、男女計で62(前年62)、男性で64(同64)、女性で69(同69)となっている。


 なお、賃金格差が大きいのは、企業規模別では、大企業で55(同55)、主な産業別では、卸売業,小売業で58(同59)となっている。〉

 正規と非正規の生涯賃金格差は1億を超えるという統計もある。また非正規と未婚率の相関関係は低賃金が核となっている。学歴格差と経済格差の相関関係も統計上に現れている。

 こういった正規と非正規の生活環境格差の状況を考えると、「当面派遣でやりたい」という「7割」は仕事の内容との関係で低賃金、あるいは正規と非正規の賃金格差を良しとすることができる生活環境にあるか(例えば夫が正社員で、妻が非正規といった場合)、良しとすることはできないが、日本の雇用環境に於ける慣習として賃金格差を止むを得ず受け入れているか、そのどちらかといったところではないだろうか。

 そして後者の要請として同一労働・同一賃金が出てきた。この要請は「正規の職員・従業員の仕事がないから」の男性30.6%、女性14.1%だけではないはずだ。同一労働で男女遜色なく仕事を消化していながら、正規と非正規の賃金格差、男女賃金格差は厳然として存在するからだ。

 この同一労働・同一賃金の要請は非正規の正規化ではなく、非正規のままの正規との同一労働・同一賃金の形態を内容としている。

 だが、竹中平蔵は元々同一労働・同一賃金主張者であったらしく、「同一労働・同一賃金と言うんだったら、『正社員をなくしましょう』って、やっぱり、あなた、言わなきゃいけない。全員を正社員にしようとしたから、大変なことになったんですよ」と言っているところを見ると、自身の主張でもあり、正規の全員非正規化の形態を内容とすることになる。

 つまり正規賃金の非正規賃金化を内容とした同一労働・同一賃金を目指していることになる。

 もしこれが逆で。非正規賃金の正規賃金化を内容とした同一労働・同一賃金であったなら、雇用形態を非正規から全員正規に変えて、[全員正規にしましょう]と言ってもいいわけである。

 非正規の賃金レベルを伴わせた正規の非正規化となる。

 これ程の企業側に立った賃金抑制策はないだろう。国民の生活の豊かさよりも企業の力を豊かにして国力を増すことを狙った国家主義そのものの主張である。

 日本の労働者全員が経営に関係する人間を除いて非正規化させて非正規の賃金レベルで雇用することになったなら、結婚できない若者が急激に増え、人口減少と高齢化に拍車をかけない保証はない。

 経済力の低下が教育機会の減少を招いて学習能力の低下につながり、それがそのまま労働意欲の減退、労働力の低下となって現れて、労働生産性にマイナスの影響を与えないとも限らない。

 こういった金銭や精神状況下に置かれた全員非正規は国民の奴隷化とも形容できる。

 森永卓郎が「竹中さんがオランダモデルにしろと言った」と言っていることは、竹中平蔵がオランダ式の同一労働・同一賃金を目指すことを狙った「日本版オランダ革命"に取り組め」と題して講演している主張のことを指しているらしい。

 オランダでは全員が非正規なのか調べたところ、竹中平蔵と同じくオランダを参考に日本の労働者の正規雇用を非正規化することをテーマとした、《「全員非正規雇用」2012 黒田ゼミ 卒業論文全員非正規雇用》(山崎裕紀子/2012年1月13日)に、〈現状のオランダはパートタイマーと呼ばれる正規雇用待遇を受ける労働者層が半分を占める。〉との記述がある。  

 日本の40%近くから比べると、10%多く非正規化していることが分かる。但し「正規雇用待遇」となっている。

 具体的には、〈パートタイムは労働時間に関する以外はフルタイムと同等の働き方となった。オランダでは多くのパートタイム労働は期間の定めのない正規雇用であり、賃金、休暇、年金等において労働時間比に応じて均等な権利を持つ。

 つまり時間割単位で正規と同等の権利を得ている。

 果して竹中平蔵の「正社員をなくしましょう」の全員非正規化はオランダ式の非正規と同等の権利付与を狙った同一賃金・同一労働なのか、改めて見てみる。

 狙ったものかどうかはオランダの賃金が深く関わってくる。

 《最低賃金制をめぐる世界各国の動き》全労連/2008年7月)のページがオランダの最低賃金について記述している。   
 
 〈2.各国の最低賃金額の水準と引き上げの取り組みについて

 最低賃金の水準について、ILO報告の購買力平価の比較で見ると、発達した資本主義国のほとんどが1000ドル以上で、日本の倍近い。日本の最低賃金は月額換算(07年10月)12万円程度であるのに対し、ベルギー、フランス、オランダは20万円、イギリス、アイルランドは23万円、ルクセンブルグは25万円と、日本よりかなり高い。〉

 日本の最低賃金が2008年当時、全国平均時間単位687円、月額換算11万9309円であるのに対してオランダは21万1695円となっている。

 最低賃金が他の賃金の基準となる。ただでさえ賃金抑制経営のために非正規を年々増やし、人件費カットに動いている日本で、時間割で正規と同等の諸権利を与えるオランダ式導入は幻想に過ぎない

 オランダと日本のこの最低賃金格差からも、竹中平蔵の正規の非正規化が正規の賃金を伴った非正規化による同一労働・同一賃金ではなく、安倍晋三と同様により多く企業の利益を生もうとすることを狙った国家主義に立った正規の非正規賃金化であることを証明して余りある。

 つまり竹中平蔵は狡猾にも以上の情報を隠したまま、特に大企業の味方となったニセモノのオランダ式でしかない同一労働・同一賃金の「正社員をなくしましょう」を主張したに過ぎない。

 断るまでもなく、竹中平蔵は労働問題政策に関して安倍晋三のブレーンの一人となっている。

コメント (1)
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