1月25日NHK「日曜討論」安倍晋三の邦人救出自衛隊派遣発言に見る矛盾と考えの甘さ

2015-01-27 09:39:56 | 政治


 1月25日(2015年)日曜日のNHK「日曜討論」で、安倍晋三が「イスラム国」が後藤健二さん解放の交換条件にヨルダンに拘束されている女性テロリストの釈放を要求したことについて、ヨルダンと連携・協力しながら対応に当っていきたいと事勿れなことを言ってから、今国会で控えている安全保障法制の整備に関連付けて自衛隊の海外邦人救出について次のように発言した。

 安倍晋三「現在ですね、政府の中に於いて法案の作成を精力的に進めている状況であります。えー、今回の法整備は切れ目のない安全保障法制を構築をしている。それによって国民の命と幸せな暮らしを守り抜いていくということです。

 例えばこのように海外で邦人が危害があったとき、その邦人を救出する。自衛隊が救出するための法律。えー、現在、そのために自衛隊が持てる力を十分に活かすことができません。

 そうしたことを含めて、そうした法制も含めて、えー、今回、法整備を先ず進めてまいります」――

 「政府の中に於いて法案の作成を精力的に進めている状況であります」とは次の記事が紹介していることに当たる。

 〈過激派組織「イスラム国」による日本人人質事件のようなケースが起きた場合に、作成中の新しい安保法案で自衛隊に何ができるのか、政府が検討作業〉を開始し、メディアや野党に問われた場合の想定問答集を作成したと、関係筋の話として、《人質事件に自衛隊派遣可能か、政府が新安保法制の想定問答集=関係筋》ロイター/2015年 01月 23日 18:00)が伝えている。  

 先ず自衛隊派遣の可能前提条件。

 「領域国の同意に基づく邦人救出などの警察的な行動」とする。
 「武力行使が伴わないこと」

 「国家に準じる組織が当該地域に存在しないこと」

 この「国家に準じる組織」について、〈日本人2人を拘束した今回のイスラム国が「国家に準じる組織」かどうかについては、現時点で「政府として判断していない」としている。〉と記事は解説している。

 自衛隊派遣の可能前提条件として「警察的な行動」に限定することと、「武力行使が伴わないこと」はイコールの条件となる。

 このことは安倍晋三が常々言い、2015年1月20日の首相官邸での内外記者会見で、「武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土・領海・領空へ派遣する、いわゆる『海外派遣』は、一般に憲法上許されないものと考えており、この考え方には一切変更はありません」と言っていることと合致する。

 つまり海外で身の危険の迫る危難に遭遇した邦人救出に関しても武力を行使せず、「警察的な行動」に限って許されるとする安全保障法制の整備内容ということになる。

 果して武力行使を伴わない、警察的な活動で邦人救出の役目を十二分に果たすことができると考えているのだろうか。

 一般的な犯罪を除いて(この場合は現地当該国の警察が解決に当たる。)本国に影響を及ぼす緊急事態に関しての海外在住邦人が遭遇する危難には二種類がある。

 一つは今回のようにテロ集団、その他に人質とされる例と、戦闘、あるいは戦争が突発して砲撃やミサイル着弾、銃撃戦等に見舞われて日就生活が破られ、生命・財産共に昼夜危険な状態に曝される場合である。

 但し後者の場合は身体そのものを拘束されているわけではないから、移動手段や周囲の状況との関係に影響されるが、危険な状況の合間を縫って当地の日本大使館に避難したり、危険区域から安全地帯に避難することも可能で、このことは難民の存在が証明しているが、比較的行動が自由であるはずである。

 このように比較的安全な場所に避難している邦人を安全な隣国や、あるいは危険を完全に払拭できる日本に帰還させるために派遣された自衛隊が武力行使を伴わずにそれら邦人を保護することは十分に可能であろう。

 だが、保護した場所から最寄りの港なり空港なりに、あるいは隣国避難のために陸路を取るにしても、移動の間、敵部隊から攻撃を受けない絶対的な保証があるのだろうか。

 2013年1月16日に発生したテロ集団によるアルジェリア人質拘束事件ではアルジェリア軍は人質とは交渉しないの姿勢の元、人命よりも制圧を優先させて、武装勢力が人質を乗せて逃走を謀った車両にヘリから攻撃を加え、人質諸共に武装勢力全員を殺している。

 テロ集団や敵勢力が他国軍隊が車列を組んで戦闘地外へ移動することを果たしてやすやすと見逃してくれるだろうか。戦闘地外への移動は逃走と見做し、戦闘地内への移動は、それが自国民保護を目的としていたとしても、邪魔者の存在と見做されるはずだ。

 いわば武力行使を伴わない警察的な行動を絶対的な予定調和とした邦人保護のための自衛隊海外派遣は、あるときは成功したとしても、常に成功するとは限らない危機管理に基づかなければならないはずだから、想定不可能だということである。

 だが、安倍晋三は一方で、「武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土・領海・領空へ派遣する、いわゆる『海外派遣』は、一般に憲法上許されないものと考えており、この考え方には一切変更はありません」と言いながら、「日曜討論」では、今回のテロ集団による邦人人質・身代金要求事件を例にして、自衛隊を派遣して邦人救出を謀ることのできる安全保障法制の整備を進めていると、常に武力行使せずにさも救出可能なようなことを言っている。

 特にテロ集団、その他に人質とされた場合の邦人救出は、それが「国家に準じる組織」ではなかったとしても、支配地域に人質を確保しているはずだから(それとも支配地域外の確保を期待しているのだろうか。)、敵勢力の中に飛び込むことになって、武力行使を伴わない警察的な行動での救出は困難を極めることになる。

 当然、救出を成功させるためには人質が監禁されている場所の周辺に配置されている敵勢力の武力迄含めて、それに優る武力の行使を自衛隊は必要としないわけにはいかない。

 成功しなかった場合、武力行使を伴わない警察的な行動を想定していながら、激しい戦闘の果てにミイラ取りがミイラとなって新たな人質に加えられる皮肉な結果も想定しなければならない。

 人質となるということはまだ生きていることの証明となるが、そこに戦闘が介在した結果なら、人質とすることはできない状態にさせられた自衛隊員が存在することになる。断るまでもなく戦死である。

 最悪の危機管理として戦死者を出すことも想定しなければならない。

 安倍晋三やその他が考えている法整備は運用面で想定しなければならない実際との間に矛盾があってはならないはずだが、安倍晋三の発言や政府が考えている新しい安全保障整備に関わる報道を見る限り、矛盾を見ない訳にはいかないし、考えが甘過ぎるように見える。

 安倍晋三やその他のホンネは「自衛隊が持てる力を十分に活かす」だけの武力を装備させて、その武力を無制限に思う存分に発揮させて邦人保護に向かわせたいと考えているが、憲法9条との兼ね合いで許されないことから生じている苦肉の法整備であり、矛盾ということなのだろう。

 運用時に矛盾が露わとなって派遣した自衛隊に却って自衛隊員の犠牲、その他の被害が出るなら、一内閣の憲法解釈による閣議決定ではなく、正々堂々と憲法を改正して、運用面での矛盾を限りなく払拭した法整備に取り組むべきだろう。

 1月24日にツイッターに投稿した文章である。

 〈集団的自衛権行使は国民自身に選択させるべき重大事案。国家権力と言えども、国民に断りなしに日本国憲法の規定外のことを決定する権利はない。国民がノーなら、国家もノー。国民がイエスとした場合のみ、国家はイエスとすることができる。安倍晋三はこのことを理解するだけの頭を持ち合わせていない。〉

 憲法改正で国民の選択を受けよということである。

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