安倍晋三と菅官房長官の「村山談話」部分否定から「安倍戦後70年談話」着地に向けた様々な陰謀駆使

2015-01-12 09:46:56 | 政治


 前々から発言していたことだが、安倍晋三が今年1月5日の年頭記者会見で「安倍戦後70年談話」作成に改めて言及したことに対して今年が戦後70年が当たるたことと、8月の敗戦記念日に合わせて発表するとしていることから、差し迫ったこととして俄に注目を集めるようになった。

 果たしてどんな内容になるのか。村山談話をどの程度引き継ぐのか。菅官房長官記者会見でも、安倍晋三のテレビ番組出演の際にも、両者に質問する機会を得た多くがそのことを引き出そうと質問している。

 しかし答は決まっている。安倍晋三は年頭記者会見で、「安倍内閣としては、村山談話を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいます」と発言しているが、国会答弁などで村山談話が「我が国はかつて、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」と、戦前の日本の戦争の結果として提示した歴史認識に関しては、「安倍内閣は歴代の内閣の立場と同じであります」と同意していものの、結果を成した原因として村山談話が示した肝心の歴史認識である「国策の誤り」、「植民地支配と侵略」に関しては一言も「引き継いでいます」とも、「同じ立場です」とも言っていないからだが、このことについて2015年1月6日の当ブログ記事――《安倍晋三が目指す「戦後70年安倍談話」の「先の大戦への反省」の正体によって決まる全体の正体 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に書いた。    

 安倍晋三は戦前の日本の戦争を侵略戦争とも植民地支配を目的としていたことも認めていないのである。いわば「村山談話」を引き継ぎようがない。安倍晋三の1月5日年頭記者会見に始まって昨日1月10までの談話に関わる流れを見ていると、「村山談話」の中の自身にはない歴史認識を如何に引き継がずに「安倍戦後70年談話」へと着地させるか、腐心している様子を窺うことができ、答は決まっていることに尚一層の確信を持った。

 安倍晋三が戦前の日本の戦争を侵略戦争と認めていない根拠として、「特に侵略という定義については、これは学界的にも国際的にも定まっていないと言ってもいいんだろうと思うわけでございますし、それは国と国との関係において、どちら側から見るかということにおいて違うわけでございます」とした国会答弁を挙げてきたが、もう一つ、周知の事実だが、例を挙げてみる。

 第1次安倍内閣の2007年8月23日、3日間の日程でインドを訪問中の安倍晋三は極東国際軍事裁判(東京裁判)でインド代表判事を務めた故ラダビノード・パール判事の長男と面会している。

 パール判事は東京裁判で被告全員を無罪と主張し、日本の戦争を一方的な侵略戦争とは断定できないとの立場を取っていた。

 要するに安倍晋三のパール判事長男との面会は日本の戦前の戦争が侵略戦争ではなかったこと、東京裁判が不当な裁判であったことを示す一種のデモンストレーション(=言葉には出さない論証行為)だった。

 にも関わらず、「村山談話」を「全体として内閣として引く継ぐ」と言い続けてきた。「村山談話」の「国策の誤り」、「植民地支配と侵略」を自身の歴史認識通りに否定したなら、国内に於いてだけではなく、アメリカやその他国際社会に於いても政治問題化することを恐れていたからだろう。

 当然、「村山談話」から「安倍戦後70年談話」へと、多少は仕方がないとしても、殊更な政治問題化を巧みに避けて着地させるにはそれなりの陰謀が必要となる。改めて1月5日年頭記者会見から昨日1月10までの談話に関わる流れを振返ってみる。

 安倍晋三が1月10日に祖父岸信介元首相が晩年を過ごした静岡県御殿場市の「東山旧岸邸」を訪問しているし、翌日の1月11日に静岡県小山町の墓地を訪れて、両者の遺骨が分骨されている墓参りをしたことも、「安倍戦後70年談話」と無関係ではあるまい。

 特に安倍晋三は、戦前の大日本帝国の時代を官僚及び閣僚として生き、A級戦犯被疑者として3年半拘留、その後不起訴のまま無罪放免された岸信介の膝に抱かれて、幼少期を過ごしている。安倍晋三の戦前日本への回帰精神、あるいは復古精神を見ると、岸信介から戦前日本人の精神を語り継がれなかったはずはない。

 この記事を読んだ時ツイッターに次のように投稿した。《安倍晋三、岸信介の亡霊を介して戦前大日本帝国の精神を改めて自らに吹き込んだとうことか。戦前の日本を取戻すことに粉骨砕身している自らの精神をピッカピカに磨き立てるために。》――

 戦前の日本の戦争を「国策の誤り」、「植民地支配と侵略」の戦争であると認めない安倍晋三にとって、そのような戦前と戦後をつなぐ人物が岸信介であり、自らの歴史認識の正当性を証明する人物に置いていたとしても不思議はない。

 いわば墓参り自体が「安倍戦後70年談話」の内容を提示する一種のデモンストレーション(=言葉には出さない論証行為)と言うことができる。

 安倍晋三の1月5日の年頭記者会見の発言を受けて、米国務省のサキ報道官が1月5日の定例会見で発言している。

 サキ報道官「これまでに村山富市元首相と河野洋平元官房長官が(談話で)示した謝罪が、近隣諸国との関係を改善するための重要な区切りだったというのが我々の見解だ。

 (日本には)過去に公表された談話がある。それ以上のコメントはない。日本が引き続き周辺国と平和的な対話を通じ、歴史をめぐる懸案を解決することを望む」(NHK NEWS WEB

 記事の解説を待たずとも、言っていることは明瞭である。「それ以上のコメントはない」と「村山談話」と「河野談話」に最終・最高評価を与えているのだから、読みようによっては、「安倍戦後70年談話」など必要ないと拒絶反応を示しているとも解釈できる。

 このサキ報道官の発言に対する日本側の反応。

 1月6日の閣議後記者会見。

 菅官房長官「安倍内閣としては、『村山談話を含めて歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体としては引き継いでいる』とずっと言ってきている。日本の歴史認識はアメリカにも説明しており、十分理解していると思う。

 安倍総理大臣が記者会見で申し上げたとおり、政権としては、先の大戦への反省、戦後の平和国家としての歩み、今後、日本として、アジア太平洋地域や世界のために、さらに、どのような貢献を果たしていくか、未来志向の新たな談話にしたい。

 これから安倍総理大臣と相談しながら、有識者の方を選定して、皆さんの意見を伺いながら、戦後80年、90年、100年に向けて、日本がどのような国になっていくのか、しかるべきタイミングで世界に発信できるよう、英知を結集して考えていきたい」(NHK NEWS WEB

 「日本の歴史認識はアメリカにも説明しており、十分理解していると思う」と言っていることは、「村山談話を含めて歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体としては引き継いでいる」といった単なる抽象的な姿勢の説明にとどまらず、いくらこれから有識者会議を設置するとしても、「皆さんの意見を伺いながら」であって、あくまでも安倍晋三の歴史認識が中心となる以上、「安倍戦後70年談話」の具体的な輪郭ぐらいは説明していなければ、「十分理解していると思う」と言うことにはならない。

 果たしてそこまで説明していて、アメリカ側が「それ以上のコメントはない」と拒絶反応を示しているのか、説明せずに理解を得ているとしているのか、後者なら、そこに誤魔化そうとする陰謀を潜ませていることになる。

 例え「安倍戦後70年談話」が有識者の多数意見で決まることだとしても、有識者の選定自体がNHKの経営委員を安倍晋三のお友達で固めて、それらお友達の賛成多数を以って安倍晋三のお友達のNHK会長を選任したのと同じ手を使って、一人二人安倍晋三と歴史認識の異なるメンバーを紛れ込ませたとしても、歴史認識を同じくする多数派を形成できる数の有識者を集めたなら、それを以て安倍晋三の歴史認識と何ら変わらない有識者の多数意見だとする陰謀も可能となる。

 アメリカ側は1月6日の記者会見で菅官房長官が言葉のそれぞれに潜ませた陰謀のうちどの陰謀にどのように誤魔化されたのか、いわばどの陰謀が功を奏したのか、サキ報道官は1月6日の記者会見で前の発言に見せた態度を変えている。

 サキ報道官「歴史問題と日本の戦後の平和への貢献に関する前向きなメッセージであり、歓迎する。この地域の国々の強固で建設的な関係は平和と安定をもたらし、アメリカにとっても利益となる」
 
 要するに菅官房長官の記者会見発言を「歴史問題と日本の戦後の平和への貢献に関する前向きなメッセージ」だとした。当然、「安倍戦後70年談話」にしても、「前向きなメッセージ」になると受け止めたことになる。

 そのような前向きなメッセージを以って地域の国々との建設的な関係の構築を望んだ。

 果して当方の解釈通りに菅官房長官が1月6日の記者会見でそれぞれの言葉に陰謀を潜ませたのか、その陰謀にアメリカがころっと誤魔化されたのか、そのいずれかは1月9日の菅官房長官のBSフジ番組出演での発言が証明することになる。

 《「侵略」などの文言変更も=菅長官》時事ドットコム/2015/01/09-22:40)

 司会者「新談話では『植民地支配と侵略』『反省』という言葉は残すのか」

 菅官房長官「同じものをやるんだったら、新たに談話を出す必要はない」――

  ここでやっと正体を現した。安倍晋三の歴史認識の正体でもある。談話を出した段階で正体が露見するよりも、小出しにして方向性を出していた方が誤魔化しの印象を薄めることができる。これまでの発言がこのための陰謀と解釈できることになる。

 この発言にアメリカがどう反応するのか、反応しないのか。

 例えアメリカが反発しても、その他国際社会一般が反発を示したとしても、これまで通りに言葉の陰謀で巧みにかわしていくことになるはずだ。8月15日に合わせた発表時にアメリカとの関係が険悪になることも予想されるが、例え険悪化しても、2013年12月26日の第2次安倍政権発足1年の靖国神社参拝がアメリカの反発を買ったものの、「不戦の誓いをしたのだ」と、その言葉を嵐を凌ぐのための陰謀としたのと同様、様々な陰謀の言葉を駆使して凌いでいくだろう。

 アメリがが安全保障上も経済的にも日本という国を最大限に必要としていることを知っているからだ。

 だが、その必要性は日本という国の存在を対象としているのであって、安倍内閣そのものを対象としているわけではない。国民はこのことを考えなければならない。

 
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