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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

潜水艦22隻体制へ防衛大綱改訂に盛り込み 忘れられている護衛艦定数

2010-10-25 23:52:37 | 防衛・安全保障

◆民主党政権の防衛への姿勢が問われる

 潜水艦22隻体制へ、この報道はちょっと本ブログでの掲載が遅れましたが、本日扱ってみたいと思います。

Img_8592  海上自衛隊は現在、16隻の潜水艦と2隻の練習潜水艦を運用しています。潜水艦は神戸に三菱と川崎の二つの造船所があり、建造には二年間を要するので二つの造船所に毎年一隻を発注し、毎年一隻が就役しているというのが現状です。就役した潜水艦は、潜水艦隊隷下にある横須賀基地と呉基地の二つの潜水隊群に配備され、16年間運用された上で練習潜水艦に種別変更され、2年間の練習潜水艦としての任務を終えると除籍され、解体されます。しかし、潜水艦は各国では24年程度は運用されるのが基本で、繰り返し潜航と浮上を繰り返すことで船体の高張鋼には負担はかかるものの、果たして除籍させなければならないほどなのか、もう少し海上自衛隊でも長く使う事は出来ないのか、という議論が広く為されていました。これについて、防衛大綱改訂により潜水艦定数を増強させることで防衛省は応えるようです、以下はCNNの引用。

Img_6941  海上自衛隊の潜水艦22隻態勢に増強へ 日本:2010.10.22 Fri posted at: 09:08 JST(CNN) 中国の海上活動が活発化するなか、日本の海上自衛隊の潜水艦が今後4年間で6隻追加され、現在の16隻から22隻になる見通しであることが明らかになった。日本の報道機関が21日付で伝えた。共同通信によると、これにより海上自衛隊の潜水艦配備数は「防衛計画の大綱」が策定された1976年以降最大となる。共同通信は、潜水艦増加の計画は海上自衛隊や防衛省の複数の関係者が匿名で明かしたとしており、2011~15年度の実施に向け今年12月に正式に取りまとめられる見通しだと伝えている。

Img_7808 共同通信によると、中国は約60隻の潜水艦を配備している。日中関係は9月に尖閣諸島沖で発生した中国漁船衝突事件で悪化したが、10月に入ってからは落ち着きをみせていた。しかし、読売新聞の20日の報道によると、中国政府は先頃、尖閣諸島沖に漁業監視船3隻を派遣した。同紙によると、管轄する農業省の高官は、「釣魚島(尖閣諸島の中国名)の海域に行って漁業活動を保護することは国家主権を守ることであり、漁民の合法的権益を保護するものだ」と述べたという。中国国内では、16日から19日にかけて日系の工場や店舗を標的としたデモが行われた。北京の日本大使館には治安部隊により非常線が張られたという。http://www.cnn.co.jp/world/30000632.html

Img_6309 潜水艦は増勢されるという方向のようなのですが、しかし同時にソマリア沖海賊対処任務や弾道ミサイル防衛など任務が増大傾向にある護衛艦の定数について、防衛大綱の改定ではどのような方向になるのか、という事が何処からも出ていないのですよね。もちろん、航空防衛能力についても戦闘機定数を現行定数のまま脅威の増大に対処するにはF-22戦闘機の導入が望まれていたのですが、これが不可能となった現在、導入が現実的に可能な航空機を現行定数の数を導入するだけで将来脅威に対処できるのか、陸上防衛についてもこれ以上重装備を削減することは国内の防衛産業維持を左右する状況になるのですけれども、大きすぎる海外装備に置き換えるべく全国すべての道路基盤を拡張して橋梁等を強化するような覚悟があるのか、等など。

Img_3347  戦車や戦闘機の話は別の機会に譲りますが、防衛大綱に護衛艦定数がどのように明記されるのか、というのは重大な問題です。はつゆき型護衛艦の除籍が本格化すれば、12隻を建造した、はつゆき型護衛艦の代替艦が必要になります一方、この建造の目途は財政難から立っていません。しかし、防衛大綱は日本が独立と主権を維持する上で必要な防衛力の水準を示すものですから、この枠内であれば財政難においても予算を確保する正当性が成り立つ訳です。日本の周辺情勢は緊迫化している旨、菅首相は昨日中央観閲式で訓示しているのですが、これに応えるために必要な措置を政治が怠っているようにも見えてきますし、南西諸島における日米関係と尖閣での不手際、日中外交での誤ったメッセージ、アフガニスタンへの支援発言の迷走による欧米からの不信感、以上で緊張緩和への努力は民主党政権下では自民党時代以下で、むしろ孤立化を促し、紛争を誘発するような外交政策に注力しているようにもみえます。

Img_6732_1  潜水艦の増勢というのは、財政難という状況下ではまだ使える可能性のある潜水艦の廃棄を取りやめるという方式で、予算を極力行使せずに防衛力を充実させる選択肢ですが、他方で、潜水艦と水上戦闘艦、つまり護衛艦では領海警備における運用は根本から異なります。潜水艦はその位置を秘匿する事を打撃力の重要な位置としているのですが、平時においては領海警備には先制攻撃を行わない以上、護衛艦によより排他的経済水域や領海に接近する外国艦船への警戒監視が重要になってくる訳で、潜水艦を増勢したからと言って、護衛艦の数を減らせる訳ではないのです。

Img_6272  とにかく、民主党政権下では、予算の削減を行い削減した予算を寄せ集めて今まで以上のバラマキ政策を行うという方策をとっていますので、どういった防衛政策を行うのかという事が不明確なのですが、それ以上に不明確なのは前の首相が在日米軍に抑止力があるという事を沖縄視察まで理解していなかったり、現在の首相が自衛隊の指揮官が自分である内閣総理大臣であって、同じ国会議員である防衛大臣が実は自衛官ではなかったのだという事に就任後に気付く、という状況にあります。果たして防衛装備品がどのように運用されるのか、そもそも自衛隊の能力はどういう限界があるのか、という事を正しく認識していないのではないか、そういう危惧さえあります。加えて、奄美大島豪雨災害では政府は全く無視の状態で、今回の空輸能力の限界、離島配置態勢の空白、輸送艦の即応体制という災害派遣と防衛出動に直結する問題にも無関心、危機管理が根本的に出来ないのではないか、という心配も。

Img_2976  とにかく、予算を減らす以外に確たる姿勢が見えないのですが、現状は来年度予算要求に護衛艦の新造が見送られた事で、あさぎり型護衛艦に延命改修を行い、護衛艦の不足を補う、という方向性です。延命改修は予算的には底まで能力向上など大規模な工事は行われないようなのですが、他方で改修を行っている期間、その護衛艦は造船所に入っている訳でしてやはり護衛艦の運用には響いてしまう訳です。また、これは急場しのぎでして、再来年度には、更に除籍される、はつゆき型護衛艦を考えれば2隻程度の新造が必要になってくるでしょう。

Img_8681  潜水艦を16隻から22隻へ、という話だけを見ますと自衛隊の防衛力が強化される、というように見えるのですが、他方でその他の装備は削減されるか造成、いや、元の水準に戻る、という表現が妥当でしょうか、そういう可能性はあるのか。日本は専守防衛という政策を撮っていますので、このブログでは幾度も繰り返したのですが、戦争、武力紛争となればいきなり本土決戦、かつての大戦で避けるべく全てのものを投げ出した本土決戦と直面しますし、そこには国民の生命財産が世界有数の密度で並んでいます。政治にも願いたいのですが、もっと関心を主権者が持つ必要もあるのでしょうね。

HARUNA

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コメント (10)
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