◆570㌧型掃海艇(平成20年度計画396号艇)
10月25日、海上自衛隊の新型掃海艇えのしま型の一番艇えのしま、がユニバーサル造船京浜工場において進水式を迎えました。当方、例によって足は運んでいませんが本日はその紹介。
艇番号は604、ひらしま型掃海艇に続く海上自衛隊の新しい掃海艇の誕生ですが、本型はこれまで木造船体により構成されてきた海上自衛隊掃海艇がFRP船体となった、記念すべき一番艇です。FRP船体はこれまでの木造船体と同じく磁気機雷に発見されにくい特性があるのですが、技術開発を開始したのが1973年、今日まで耐衝撃性の面で技術開発の余地があるとして掃海艇の船体には用いられてきませんでした。しかし、その目途が立ったという事で平成20年度掃海艇、570t型掃海艇はFRP船体を採用することになった訳です。FRPのサンドイッチ構造を採用しており、これまでと同じ能力を発揮できる一方木造船体よりも構造寿命が大きくなり、これまでの二倍に当たる30年の運用に耐える事が実現しました。
運用寿命が30年と大きくなった事は、言い換えればこれまでの半分のペースで建造したとしても現在の掃海艇部隊の規模を維持できる、という事になりますし、現在のペースでの建造が実現すれば、掃海艇勢力を二倍にする、という事にも繋がります。おそらくこの中間あたりで決着するのではないか、と考えているのですが。えのしま型掃海艇は、これまでの海上自衛隊掃海艇が機関銃か、20㍉機関砲を搭載していたのに対して、より射程の大きい30㍉機関砲を搭載している事にもう一つの特色があります。機関砲は、遠隔操作方式で安定砲架に搭載されているので、射撃は正確です。即ち、限定的な哨戒艇としての任務にも対応し得ることを意味しています。
海上自衛隊は、現在、尖閣諸島、朝鮮半島、台湾海峡などの周辺情勢の緊迫化に対して財政難を背景に艦艇数が縮小傾向にあり、またソマリア沖海賊対処任務を筆頭に海外での任務も負担となっています。こうしたなかで、護衛艦はかつて沿岸警備用に地方隊にも配備されていたのですが護衛艦隊に集約され、掃海艇と一部地方隊に配備されているミサイル艇が地方隊の水上部隊、ということになります。ここに掃海艇も限定的に哨戒任務に対処できる、ということは運用を柔軟化させる事にも繋がります。もっとも、運用期間が30年となることは、言い換えれば機雷の技術進歩に対応して掃海艇としての能力を維持するためには将来的に対機雷装備や掃海機具の換装を視野に入れてゆく必要があるので、一概に二倍の期間を運用できるという事なのだから現行と同数を維持するために所要建造費用が半分になる、ということにはならないのではありますが、ね。
えのしま型の就役は2012年となるようで、基準排水量570㌧、満載排水量660㌧、全長63㍍、全幅9.8㍍。搭載している二基のディーゼルエンジンにより2200馬力を発揮し、速力14ノットでの航行が可能です。対機雷戦装備やエンジン部分などは、ひらしま型掃海艇と基本的に同じで、遠隔操作式30㍉機関砲の搭載とFRP船体の採用が今回の技術的特色といえるでしょう。掃海隊群に配備され機動運用に充てられるのか、地方隊に配備されるのかは発表されていませんが、新しい日本の海の守りに期待したいですね。
HARUNA
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