◆最大の問題は沖縄の自衛隊基地不足
第二次大戦の沖縄戦では日本側が航空部隊の沖縄配置を出し惜しみした事で多大な沖縄県民の犠牲とともに大敗を喫しました。沖縄戦の反省を活かすならば、航空部隊の沖縄配置強化を検討するべきでしょう。
東西冷戦下、日本は北方の防衛に全力を傾注してきたのですが、今後は北方の脅威が再興するなかで、南西方面を第一に考えてゆかなければならない模様です。東千歳の第7師団機甲師団化を行ったように、島嶼部防衛ではヘリコプターが主力となりますので北熊本の第8師団を空中機動師団化、護衛艦隊のヘリコプター搭載護衛艦への固定翼機搭載とヘリコプター搭載護衛艦の数的充実を考えてゆかなければならないのかな、と思うとともにもう一つ、南西諸島の防空というものをかなり真剣に考えなければならないでしょう。そんななかでE-2Cを沖縄に配備、という話が市ヶ谷から聞こえてまいりました。
毎日新聞が配信した琉球新報の記事を最初に引用してみます。航空自衛隊:東シナ海「監視充実を」 西方重視の体制へ・・・ 【東京】外薗健一朗航空幕長は8日の会見で、現在も三沢基地(青森県)のE2C早期警戒機などを一時展開させて実施している東シナ海での空中の警戒監視の今後について「充実していくことかと思う」と述べ、警戒監視を強化すべきだとの認識を示した。自衛隊の西方重視の体制強化が陸上自衛隊だけでなく、航空自衛隊にも広がる実態が表面化した格好だ。東シナ海の海上の警戒監視は海上自衛隊のP3Cが担っている。
現在空自が持つ空中警戒機の那覇基地への恒常的配備については「E2Cを西方に展開するかは、防衛大綱・中期防で議論されるべきものだ。ただ時宜に応じて那覇への展開や活動はこれまでもやってきた」と述べ、年内に策定予定の新防衛大綱に向けて議論されるとの見通しを示した。 空自には空中監視機能として三沢のE2Cと、浜松基地(静岡県)のE767早期警戒管制機(AWACS)がある。両機とも米軍との合同演習や東シナ海の警戒監視の目的で、たびたび那覇基地に飛来している。(琉球新報)2010年10月9日http://mainichi.jp/area/okinawa/news/20101009rky00m010007000c.html
今回の記事で少々驚いたのは、琉球新報という防衛や安全保障に対して批判的と言いますか、沖縄への防衛力配備に反対する記事を多く載せられる、いわゆる進歩的、といいますか、平和主義第一といいますか、そういう新聞がこうした記事を載せたうえで、論調にっ範的な内容が含まれていない、という事でしょうか。ううむ、こちらが平和を望んでも、相手が来た場合には結局第二次沖縄戦となるのですし、無防備平和都市宣言を行って占領されても、占領軍が駐留すればその時点で防守都市になってしまうので、奪還作戦を行えば結局数日か数カ月遅れて第二次沖縄戦、となっていくわけで、この危険性を認識した、という事なのでしょうか。
こうした南西諸島警戒強化という案なのですが、しかしこれを実際に行う、という事は実はかなり難しい点があります、それは航空自衛隊那覇基地の面積です。早期警戒機E-2Cは1976年のMiG25函館亡命事件を契機に低空侵入機に対する地上のレーダー警戒網の限界が指摘されまして、冷戦時代、ソ連軍の北海道侵攻を想定した空中警戒機として導入されたのですが、文字通り虎の子でしたので、三沢基地でミサイル攻撃や航空攻撃から機体を防護する航空掩体、いわゆるシェルターに収容されて運用されていました。これがかなり場所を取るものでして、那覇基地では面積が不足するように考えられます。
東シナ海空中警戒態勢を強化 空自幕僚長 会見で表明・・・政治 2010年10月10日 09時42分 【東京】外薗健一朗航空幕僚長は8日の会見で、南西諸島の警戒監視について「東シナ海の空中からの機能を充実していく」と述べ、現在必要に応じて本土から那覇基地に展開しているE2C早期警戒機やE767空中警戒管制機(AWACS)の態勢を強化していく考えを示した。 南西諸島の先島地域をめぐっては、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件を受けて、警戒態勢を強めるよう求める意見が与野党や沖縄側から出ている。
外薗空幕長は、E2Cを那覇基地に常駐配備するかは、新しい防衛計画の大綱や中期防衛力整備計画を策定する中で議論されるべきことだと指摘。「一番大きな要素は警戒監視機能の強化、発揮という観点だ」と述べた。 防衛省関係者によると、宮古島には空自の最西端のレーダーサイトがあるが、レーダーは直進性があるため水平線より向こう側には到達できない。そのため、仮に尖閣諸島や与那国島付近の高度が低い空域に航空機が侵入してきても探知できないという。http://www.okinawatimes.co.jp/article/2010-10-10_11025/◆
沖縄タイムズもこのように報じています。E-767はボーイング767型旅客機を基本とした早期警戒管制機で、10時間ほど飛べまして、高空目標であれば1000km先の目標まで発見できるというAPY-2レーダーを搭載していますので、配備されている浜松基地を起点として運用します。他方で、E-2Cは空母艦載機ですので、長時間は飛行できません、そこで第一線基地へ進出して運用します。両方とも航空自衛隊が運用しているのですが、沖縄には配備されておらず、海上自衛隊のP-3C哨戒機が洋上哨戒を行うべく航空隊を配置しているだけです。
しかし、基地が足りない。E-2Cを置く場所は前述の通りありません。航空自衛隊の滑走路のある基地は那覇基地だけ、しかし海上自衛隊の名は航空基地と共用ですし、陸上自衛隊の那覇駐屯地に所属するヘリコプター部隊とも共用、そしてこの飛行場自体がが民間と自衛隊の共用で、これ以上拡張する余地が無いばかりか、民間空港の発着枠が不足していて、どうするのか、いっそのこと物凄く高い管制塔を建築して別空港のような位置に空港を拡張するべきか、どうしようか、という話になっているのです。
普天間基地、確か八月末までに代替飛行場の工法を決定する日米合意があったと記憶するのですが、これは今回置いておきまして、米軍が移るのならば普天間基地を第15旅団の那覇駐屯地を支える普天間駐屯地として、少し寄せてもらうことで場所を捻出するか、海兵隊飛行場反対の理由が事故の危険性という事にあるのならば、航空自衛隊のE-2Cは運用開始から20年以上を経つのに重大事故は皆無ですので、安全性を強調してE-2Cの運用飛行場として航空自衛隊普天間基地とする、かなり無理はありますが真剣に検討するべきかもしれません。
警戒管制のみでしたら、レーダーは電波の直進性という関係から水平線のむこうの航空機は察知できないのですが、電離層に電波を反射させて水平線の向こう側を警戒するOTHレーダーという技術があります。防衛庁時代に喜界島へ設置しようとしたことがあるこのレーダー、電離層の反射を利用する為大まかな位置しか把握できず、しかも通常のレーダーのように全周囲を警戒する事は出来ないのですが、かなり遠くまで電波が到達するので喜界島に配置することで極東ソ連軍を警戒できるとのことでした。これを小笠原諸島に配置して、という選択肢があるかもしれませんね。
警戒監視は重要、という内容で沖縄タイムズも記事を作成しています。しかし、警戒監視を行っても、戦闘機が那覇基地の一個飛行隊約20機しかないのが難点で、航空団に格上げして40機体制に強化する必要があると思うのですが、ね。参考までに福岡から那覇まで直線距離にして859km、那覇から台北までが629km、この中間部分に西表島と宮古島に石垣島が並んでいます、尖閣諸島は西表島と宮古島を底辺に正三角形を描くとその頂点に位置します。那覇から上海までの直線距離が838km。九州から増援を、というのはかなり厳しい距離にあります。
領空への接近を迅速に発見できたとしても、要撃機が対処できなければ何ともなりません、しかし要撃機を増強しようにも基地面積の限界がありまして、これを何とかしなければ沖縄の安全も維持が難しくなる訳です。宮古島や下地島へ基地を建設して戦闘機を配備しては、という声もあるようですが、中国本土から500km以下の距離にあります。北海道を見ますと、冷戦時代、千歳に第2航空団の精鋭を展開させていますが、旭川飛行場への戦闘機部隊展開は行いませんでした、ソ連に近すぎて緊急発進が間に合わないからです。千歳でさえも近いので基地防空隊を大幅に増強して対処していました。
宮古島や下地島を航空基地化する場合、弾道ミサイルや航空攻撃に真っ先に曝されるので、航空機は全て掩体運用、主要な指揮所や装備品格納庫は地下に配備し、かなりの数の高射機関砲と地対空ミサイルを配置する必要が出てくるでしょう、基地機能維持のための施設隊も必要です。千歳基地には2500名の隊員が勤務していますが、宮古島や下地島へ戦闘機を配置する場合、基地機能維持のためにはこれほどではないにしてもかなりの人数が必要になるはずです。航空自衛隊の定員や装備定数を大きく見直す必要があり、生半可な覚悟で行えるものではありません。
普天間基地移設問題は現在、棚上げに近い状態にあり、しかし基地問題と言えば沖縄、という構図が出来上がっている以上、自衛隊も多数が配置されていそうな錯覚があるのですが、沖縄の米軍駐留負担といいますか、米軍基地は多いのですけれども、実は自衛隊の基地はあまり多くなく、正確にはかなり少ない状況です。嘉手納基地の米空軍部隊は規模としてはかなり大きいのですが、これは米軍の極東地域における戦略拠点としての基地でして、前線飛行場ではありません。そして、この前線飛行場ですが、ここは日本領土と領域なので日本が担わなければならない分野です。どうするべきか、真剣な議論が必要、と言えるでしょう。
HARUNA
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)