◆被災修理と車両減耗補填、次の震災への備え
防衛省は9月13日に東日本大震災復興第三次補正予算へ1620億円を要求したとのことです。少々古い話題ですが、先月29日付の朝雲新聞に詳細が出ていましたので転載します。
9/29日付 ニュース トップ 大震災3次補正予算 :施設や装備品の復旧と今後の備え1620億円要求 航空機 修理・取得630億円 車両など減耗分に360億円・・・ 防衛省は9月13日、東日本大震災の復旧復興に伴う政府の23年度第3次補正予算の要求分として約1620億円(契約ベース約4100億円)の内容をまとめ、与党部門会議に説明した。防衛省の3次補正要求は①施設や装備品等の復旧②活動に伴う減耗の回復と今後の活動への備えの充実③全国的な災害への対処能力の向上――を主な柱としている。 復旧関連経費では陸自多賀城、仙台、大和、霞目、霞ヶ浦各駐屯地の給水、電源などインフラの復旧、海自の大湊、八戸、横須賀各基地の護岸などの基地基盤の復旧、空自松島基地の復旧費などで約280億円(同380億円)。
被災した装備品等の復旧では、仙台空港近傍の会社で定期修理中、津波被害に遭った陸自のEC225LP特別輸送ヘリ1機と海自のT90練習機1機の取得のほか、空自松島基地で津波に遭った教育用F2B戦闘機18機のうち6機分のエンジン修理や関連器材、UH60J救難ヘリ1機分の取得など約630億円(同約1250億円)となっている。 損耗回復と今後の備えの充実関連経費では、災害派遣活動で減耗した装備品等の回復に約360億円(同約890億円)を計上。トラックなど各種車両の取得と損傷した化学防護車の更新(NBC偵察車)のほか、個人装具、業務用天幕などの各種需品器材、ヘリ映像伝送装置などの情報通信関連器材、線量計や化学防護衣などNBCテロ・災害対処器材の整備など。
また、海自のYS11M/MA輸送機3機の減耗回復のため新たな航空機を取得、輸送能力の向上を図るほか、空自のC1輸送機2機の減耗回復のためのC2次期輸送機2機の取得と航空機や艦船の維持整備のための部品の取得など。 今後の活動の充実関連では約210億円(同約1010億円)を計上。広域帯多目的無線機や衛星通信器材の整備、情報通信能力の向上のほか、放射線映像表示装置などの取得、原子力災害などへの対処能力の向上、特別機動船や航空関連器材の整備による部隊の機動力の向上、災害時の初動対応能力の向上、海中捜索用器材や人命救助セットの整備、津波災害などに対処する救助能力の向上など各種事業を進める。
全国的な災害対処能力の向上関連では、①原子力災害などへの対処能力向上に約10億円(同約80億円)で、無人機や無人車両の取得と陸自が装備する無人偵察機システムの原子力災害時に有効なセンサーの装備、遠隔操縦可能な施設作業システムなどの研究②災害派遣の際に活動拠点となる駐屯地・基地の整備にかかわる経費約130億円(同約430億円)で、本部庁舎等の耐震化の推進、非常用電源の確保など③その他約10億円(同約50億円)で後方支援用備品の整備や緊急登庁者支援備品の整備などを実施する。
http://www.asagumo-news.com/news/201109/110929/11092903.html
来年度防衛予算概算要求がだsだれたばかりではあるのですが、同時に概算要求を俯瞰した場合に災害派遣に関するものがあまり多くは盛り込まれていない、という印象でした。しかし、今回の補正予算で防衛予算の4%に匹敵する程度の復旧及び今後の災害派遣に関する要求がなされているようで、なるほど全体での対応、ということになるわけでした。あまり本題とは関係ありませんが、軍事費、という観点から見た場合、防衛費は微増と微減を繰り返している中で、補正予算というものはどういう位置づけに入れられるのか、軍事費の推移という観点から後輩に何かいい資料はないかと問われ各国比較する場合はどこまでが軍事費に含まれ、逆にどの程度までを本来軍事費に入れ、そして含めないべきなのかというものの指針が難しく、という話を少し思い出してしまいました。
既に一次補正予算と二次補正予算において要求を行っていますので、その延長上にある、ということになります。特に今回注目するのはメーカー定期整備中に被災した要人輸送ヘリコプターと練習機についての新規調達分でしょうか、本来は保険に掛けてあるのですがエンジンが取り外された状態での津波被害に被災した航空機は飛行に供すことのできる器材ではないとの観点から保険金は支払われませんでした。この論調では一機50億円程度といわれしかしその価格に電装品やエンジンが含まれていなかったということで物議を呼んだF-35は航空機ではなくなってしまうではないか、ということが言いたくはなるのですが、その減耗分の補てんは防衛予算ではなく補正予算のほうで認可される、ということになったわけです。
それならば修理費についてF-2Bの捻出も補正予算において行われるようですが、今回その六機分のエンジンなどの予算が盛り込まれています、こうしてみますと、さらに一歩進んで全損認定とされる12機の後継機にF-2Bは生産終了していますから別のF-Xについてその複座型を要求して戦闘機戦闘訓練課程用に充当、その分機種転換訓練は修理予定の6機を実戦部隊に回す形で第四航空団を再編してはどうか、とおもってしまいます。また、減耗分といいますと元々寿命が切迫していたRF-4偵察機が今回の災害派遣に伴う情報収集のための飛行で更に飛行寿命が切迫する状況に陥っていますので、後述する将来の災害派遣への備え、ということも踏まえF-Xに偵察能力が備わった航空機が選定されるのであれば、これをもって一個飛行隊分を要求する、という選択肢はあるやもしれません。この通りの話では、繰り返すことになるのですが今回の補正予算では将来の災害に備えた装備品調達が盛り込まれていることが大きな点となっています。
次の災害への備え、例えば原子力災害への対策の装備というものはどうしても原発事故は起こらないとの想定に基づいて対策訓練の実施さえも電力会社と政府からの難色により実施できない期間が長くあったわけですので、当然予算要求において財務省からも否定的な見解が示されていました。新しく装備されるNBC偵察車にしても師団に特殊武器防護隊が編成されている部隊には配備されるものの化学防護隊編成のままの部隊には配備されないということが守山での説明で知りましたので、原子力災害に対しては線量測定さえも危険が伴う部隊というものは少なくなく残っているわけであり、実際に事態が生じたのだからこそ増強しなければならない装備、というものは思い切って要求するという姿勢は無視してはならないでしょう。
一方で、今回の東日本大震災ではその発災時に定数20の東北方面航空隊にあってか同数8機を以て任務にあたっていました。メーカー定期整備と罪状予備機はほかにじゃ感あったようです画家同期としては少なすぎ、ヘリコプター部隊の増加に対して機体数を造成せずスクラップ&ビルド方式での編成を行っていたことが今回もう少し注目されるべき事案として挙げるべきでしょう。ヘリコプター用映像伝送装置などは盛り込まれているようですが、方面ヘリコプター隊への多用途ヘリコプター20機体制の充足と、師団旅団飛行隊への当初計画通りの多用途ヘリコプター配備を、この際思い切って補正予算でUH-1の大量取得、というものも考えてはどうか、定員割れしていることにより任務に限界をきたし、全力を発揮したとしても定数充足時の全力として想定される能力は発揮できなかったのですから、決断してはどうか、とも考えてしまうわけです。
このほか、無線などの通信確保に関する能力の充実と、そして無人航空機の導入による情報収取能力の強化が要求されており、こちらも本来は軍事機構に絶対必要とされる指揮系統維持のための通信確保、そして現代戦闘の結果を左右する情報優位の獲得という重要な措置を実現するために必要な部分とも重なるのですが、本土直接武力侵攻という状況以前に東日本大震災によりその能力の限界が指摘されたことを機会として、その能力限界を是正する、という点で考えてみると意味合いがわかってきます。
最後に一つ気になるのは補正予算でC-2輸送機二機が要求されている点です。C-2輸送機は来年度予算概算要求に二機が要求されていますが、今回の記事は第三次補正予算の扱いですので、防衛予算概算要求とは別枠で二機を要求し、概算要求の分とともに通れば一年間で四機を取得する、ということになるのでしょうか。ともあれ、防衛予算は自衛隊の規模に比して非常に少ない水準で推移してきたため、これまでは必要な装備であってもさらに優先する装備の取得のためにやむを得ず断念してきた部分を補てんすることができる機会となりました。そして自衛隊の規模は広大な国土に多くの災害危険地位を抱えつつ周辺国は冷戦時代と変化ないだけではなく地域的にはそれ以上の危険を有しているという、いわば内憂外患という状況にあります。多くの犠牲とともに多くの任務を果たした自衛隊には次の災害に備えるという、そしてその能力が最も重要な国家の防衛という任務を支える礎となるのですから、教訓を無為にしないよう要求する部分はしっかりとしてゆかなければなりません。
北大路機関:はるな
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