◆米レイセオン社へ輸出、カタール軍へ納入へ
政府は防衛装備移転三原則制定後初の防衛装備品輸出へ向け調整を進めている、とのこと。
輸出が検討されているのは、航空自衛隊が運用するアメリカ製のペトリオット地対空誘導弾システムで、射程100km程度の広域防空用地対空ミサイルです。この中で今回輸出されるのは三菱重工が航空自衛隊向けにライセンス生産を行っているミサイルシステムの維持部品や予備部品など。
元々、米陸軍の防空砲兵用に開発された地帯工ミサイルですが、航空自衛隊は高射群が運用していたナイキ地対空誘導弾の後継として導入を開始、三菱重工においてライセンス生産を開始、対航空機用のPAC-1とPAC-2を導入、PAC-2へ更新完了したうえで弾道ミサイル迎撃能力を有するPAC-3の導入も実施しています。
政府は、今回の輸出に際し、ペトリオットミサイルのメーカーであるレイセオン社に対し、ひとつ前の型式であるPAC-2の維持部品を供給、レイセオン社がペトリオットミサイルを導入したカタール軍に対して整備支援の形で供給することとなり、輸出後の管理はレイセオン社が実施する、とのこと。
この輸出は近く国家安全保障会議の関係閣僚会合において正式決定される方針と伝えられますが、
武器輸出三原則の拡大運用により事実上防衛装備品の武器に当たる装備品が輸出不能となっていた状況を改めた武器輸出新三原則というべき防衛装備移転三原則で初の事例となるでしょう。
PAC-2の部品輸出背景について、考えられるのはレイセオン社においてPAC-2維持部品の供給が縮小する、もしくは終了することを視野に、レイセオン社以外の維持部品供給を行う協力会社が必要となり、航空自衛隊向けとして一定期間以上をライセンス生産の経験があり、航空自衛隊が毎年実施するアメリカ国内での実射訓練での精度から品質に問題が無い、と判断されたため、というもの。
もちろん、民生品として輸出した製品が軍需転用されている事例や、通信機器に電装品などの基幹部品がそのまま軍需用に転用される事例は比較的多いため、武器輸出を軍需品としてみた場合、我が国はかなりの製品が諸外国で軍需品として転用されていることは広く知られている通り。
また、過去には、米軍のCH-46中型ヘリコプターが生産終了となったのちに、自衛隊向けへV-107としてライセンス生産を行っていた川崎重工がサウジアラビア国境警備隊やスウェーデン軍向けの機体として輸出した事例があり、昨年には海上自衛隊のUS-1A用プロペラを米軍のC-27輸送機用に輸出した事例などもありました。
加えて、現在インド政府との間で海上自衛隊の救難飛行艇US-2の輸出に関する交渉が最終段階で進められていますし、海上保安庁巡視艇や巡視船を武器扱いではないとの解釈の上で友好国へ供与した、という事例もあり、我が国として防衛装備品やそれに準じた装備の輸出は珍しい事例では必ずしもありません。
このほか、イギリスとの自走榴弾砲共同開発の検討など過去に実施されたことがあります。重要なのは、従来武器を輸出についてすべて自制の方向で臨む、が、その分量産効果の低下により割高の防衛装備品の調達に伴う財政負担を国民が甘受する、という視点に、結果論として合意を得られにくい状況となったところ、これが昨今の新方針へつながったものと考えられます。
この点で、防衛省の装備体系は基本的に長期間のライ線s縫生産や国産を進め、併せて予備や維持部品についての生産基盤を国内に確保することで高い稼働率を実現させ、必ずしも多数を装備せずとも稼働率の高さを以て確実な防衛力を整備するという、防衛力の基盤としてきました。
言い換えれば海外で生産終了となり維持部品が枯渇する状況であっても対応できるよう、という準備に他ならないもので、併せて海外においてもまだ運用可能な装備品の予備部品枯渇による早期退役の可能性に直面した際、日本からの供給を受けられるという選択肢は意義が大きく、この部品を日本から供給する、という行程を通じての潜在需要というものは比較的大きいのではないか、と言えるところ。
政府、中東カタール配備のペトリオットミサイルPAC2部品輸出を承認、これは初の事例となるのですけれども、併せて今後の防衛装備品の部品輸出や維持部品輸出についての先例となる可能性が高く、維持部品の継続調達の基盤構築は自衛隊の装備維持にも大きな意味を持つことから、今後の展開を見守りたいところです。
北大路機関:はるな
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