北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

東部ウクライナ上空マレーシア航空MH17便ボーイング777-200ER型旅客機撃墜事件

2014-07-19 23:38:34 | 防衛・安全保障

◆墜落現場はロシア国境から40km地点

 2014年7月17日、オランダのスキポール空港を離陸しマレーシアのクアラルンプールへ向かったマレーシア航空MH17便ボーイング777-200ERがウクライナ上空で消息を絶ちました。

Jimg_3521  ボーイング777-200ER型旅客機、我が国でも日本航空や全日空が国内線主要路線や国際線の主力旅客機として運用し、世界中で運用されている傑作ワイドボディ双発旅客機で、航空自衛隊の次期政府専用機としても導入が決定している航空機です。

Db_img_9747 機体はウクライナ東部のドネツク州グラボベ村に墜落、ロシア国境から約40kmの距離に或る村に墜落したものとされ、上空で破損し機体の多くの残骸が発見されています。乗員乗客は283名の乗客と乗員15名が登場していましたが、全員生還が絶望視されています。

Db_img_9750 MH17便はウクライナ空域上を高度10058m(33000ft)の高高度を飛行中、西欧夏時間1415時にロシアウクライナ国境から50kmの位置にて消息を絶った、とのこと。MH17便の墜落の瞬間などは周辺住民により目撃されていまして、直後の映像などが報じられています。

Db_img_9741 MH17便が飛行していた東部ウクライナ上空ですが、同地域はウクライナ政変後に親ロシア派の勢力圏となっており、一部で戦闘が続いています、が、危険な空域ではありません。事実、撃墜事案発生の同時刻にはシンガポール航空がSQ351便として同型機ボーイング777-200ERを25km離れた空域で飛行させていますし、エアインディアAI113便もボーイング787型機をSQ351便と同距離の空域で飛行させていました。

Dgimg_3425 ただし、東部ウクライナ上空は緊張状態にあり一部航空会社では万一に供え念のため迂回航路を飛行する事例もあったとされています。MH17便を運航していたマレーシア航空は、欧州とマレーシアの最短経路という事もあり、燃料費節約の意味を含め飛行していたとのこと。

D_b_img_9702 今回の疑問は、いったい誰が撃墜したのか、という事です。ウクライナ政府は親ロシア派の武装勢力が撃墜したと主張し、ロシア政府はウクライナ側が撃墜した可能性を指摘しています。親ロシア派の武装勢力が、という論調が報道では大きく扱われているのですが、MH17便は前述の通り高度10058m(33000ft)の高高度を飛行、撃墜は容易ではありません。

Himg_2667 武装勢力による航空機攻撃と言いますと肩に担いで個人で運用出来る携帯地対空誘導弾、所謂MANPADSを想像する方が多いでしょうが、有効射高は精々3000m、MH17便の飛行高度10058m(33000ft)へは届きません、もともとMANPADSは低空に飛来する攻撃機やヘリコプターに対する装備ですので、10000m級の高高度は想定外であるわけです。

Gimg_5925 我が国の自衛隊は多数の地対空誘導弾を装備していますが、高度10000m以上の上空を往く目標へ対処できる装備は、陸上自衛隊のホーク改善Ⅲ型、03式中距離地対空誘導弾、航空自衛隊のペトリオットミサイルPAC-2とPAC-3のみです。そして、これらの装備は個々人での運用は不可能で、索敵と脅威評価に数十人、照準と射撃に数十人、補給に数十人、システム化しなければ対応できません。

Iimg_9311  今回の撃墜事件では、SA-17グリズリー/9K37ブークミサイルが使用されたという分析が幾つかの報道機関で為されています、旧ソ連製のミサイルでロシア軍とウクライナ軍が使用、海上自衛隊のスタンダードSM-1と形状や射程等が似たミサイルです。そしてソ連でも艦載の艦対空ミサイルとして開発されました。

Img_0921  SA-17グリズリー/9K37ブークミサイルは元々関西洋、射程は33kmで有効射高25km、というもの。どの国でも、10000mの高高度、10kmといえば京都駅から大津駅や比叡山の距離ですが、これだけの高度を往く目標の彼我敵味方を識別し対処するには、システム化された警戒部隊と防空部隊の協力が必要です。それでは誰が撃ったのか。

Abimg_5467 正直なところ、武装勢力の手に余るものがあります。仮に入手したとしても、索敵と識別、照準と射撃、整備と補給、これら三分野の専門要員を一定人数揃える必要があります。ウクライナ政府は、MH17便墜落地点近くでウクライナ軍機が2機撃墜されていると発表していますが。

Dimg_9923 この発表ですが、ウクライナ政府によっての機種は発表されず、3000m以下を飛行していた輸送機やヘリコプターが攻撃されたのか、高高度を往く戦闘機が狙われたのかも発表していません。ロシア側から武器が供給されている可能性を示唆し、事実ウクライナ軍からの強奪や寝返りでは説明しにくい装備なども一部地域で散見されるのですが、MANPADSならばともかく中射程の地対空ミサイルを供与することは考えにくい。

Himg_3061  こういいます根拠は、ウクライナ空軍が中距離地対空誘導弾の装備が無ければ対応できないような装備を投入していないためです。そして高度10000mから攻撃する手段はウクライナ空軍はかつて旧ソ連よりTu-95爆撃機やTu-22M超音速爆撃機、Tu-160超音速戦略爆撃機を少数継承しましたが、ロシアへ返還するか用途廃止としていますので、現状在りません。

Eimg_9071 親ロシア派を警戒するために米軍の電子偵察機や無人機がウクライナ政府の支援要請を受け飛行していた可能性も考えられなくはないのですが、そんなものが飛行していれば、情報収集能力の高さとともに政治的な大きな問題ですので発射位置を米軍が発見し発表しているでしょう。

Gimg_7807  ウクライナ政府の報道は票としてロシア軍が極秘裏に東部ウクライナ領内に地対空ミサイル部隊を展開させた可能性があり、同型ミサイルの証拠写真がある、と示されたものがありますが、前述のとおり地対空ミサイルで、中距離を射程とするものの装備は大きく嵩張り、持ち込める斧なのか、と共に仮に持ち込めるとして、持ち込む意味があるのか、と。

Dgimg_3160 SA-17のような中距離地対空誘導弾は持ち込むには大きすぎますし、ウクライナ空軍を相手とするには性能が大きすぎ、ロシア側が持ち込んだという事実上の軍事介入が露呈した場合の政治的リスクと比較すれば無理を通して国境を越える危険にみ合いません、なにより万一持ち込んだミサイルがウクライナ軍特殊部隊により鹵獲されたならば、これまで部隊を展開させていないというロシア側の主張を根底から覆す事となりますから。

Img_4310  他方、ウクライナ政府は自国軍の車両デポから武装勢力により奪取されたT-64主力戦車をロシア地上部隊侵攻と勘違いし報道したことがあります、アメリカの報道関係者が74式戦車をT-62と見間違えた方がいるそうですからT-64とT-80を見間違えることはあると思いますが、兎に角ことは重大ですので確認が必要です。

Dg_img_3519  武装勢力がウクライナ軍のSA-17を奪取し運用した可能性が指摘されていますが、前述の通り武装勢力に一定数のSA-17を運用可能な人員が確保され集団行動をとっているのか、採っているとすれば武装勢力の統制が正規軍並のものとなっていることを意味しますし、このあたりの検証も必要でしょう。

Eimg_6025 さて、凡そ300名もの人命が一度に奪われた今回の事態、この原因を究明し責任者を処罰しなければなりません、この為には現場の検証が何よりも重要となるのですが当該地域は親ロシア派武装勢力の勢力圏であり、調査は容易ではありません。ウクライナ政府支援下での米ロ共同やウクライナにOSCEとロシアを交えた、国連中心の調査団派遣など原因究明が求められます。

北大路機関:はるな

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コメント (7)
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