◆訓練定期化か?対米韓軍事挑発が目的か?
本日0120時頃、北朝鮮西部より短距離弾道弾が複数発発射されました。
防衛省では警戒監視活動を強化しているとのこと。発射された弾道弾は共に日本海に落下したものとみられ、射程から短射程弾道弾であるスカッドC型と考えられています。このほか、北朝鮮は日本海において射程120kmの地対艦ミサイルシルクワーム等の発射訓練を定期的に実施しています。
スカッドC,これは最大射程500km程度で、イージス艦やペトリオットミサイル部隊が展開し、所謂ミサイル破壊措置命令発令で有名となったテポドンミサイル派生型とは別物です。射程から、我が国の主要部を狙う事は出来ませんが、在韓米軍や韓国軍後方策源地等を射程に収める弾道弾で、北朝鮮においても比較的多数が備蓄されているとおもわれるもの。
公海上に落下していますが、公海上では漁船や船舶航行など、また旅客機の飛行経路も存在するため、ミサイル発射試験やミサイル訓練を実施する際には演習海域を設定し注意を促すのですが、今回も過去の事例と同じく危険海域設定等は行われていません。
北朝鮮による弾道ミサイル発射は先月29日と今月9日に続くものです。本日のミサイル発射は0120時から0130時にかけ、 北朝鮮南西部の開城付近より北東に向け発射されたもので、防衛省では木原防衛大臣政務官を議長としての緊急幹部会議を開催し対応を話し合いました。
ただ、注意を要するのは前述の通り我が国国内の報道では弾道ミサイルが発射された、という部分が軸として報じられているものの、対日戦や在日米軍基地を狙う準中距離弾道弾ノドンよりも射程が短いスカッドミサイルで、スカッドミサイルは韓国軍の後方拠点や在韓米軍施設を狙うもの。
今回の訓練は米韓への軍事挑発が目的の一つと言えるでしょう。また、朴政権下での日韓関係の悪化に際し、北朝鮮の軍事圧力に対して、日韓が外交上共同歩調を取りにくい状況を受けての韓国側への政治的ゆさぶりもミサイル訓練を実施した一つの目的と言えるかもしれません。
スカッドミサイルは旧ソ連が設計開発したもので、もともと戦域内、軍団規模での火力支援を目的とした短距離弾道弾、移動式発射装置に搭載し戦線後方で行動し、数百km以内の目標に対し、火力支援や攪乱攻撃を行います。主として、港湾など交通拠点や物資集積所に前線飛行場を狙います。
スカッドCの弾頭重量は600kg、重量にして航空機に搭載される750ポンド爆弾の2倍程度です。このほか、北朝鮮が独自に開発したスカッドERは弾頭重量900kg程度となっています。このミサイルの脅威度は、威力ではなく、弾道ミサイルとして、一旦100km程度の高高度の上昇すると自由落下し極超音速に加速する、つまり迎撃しても落ちてくるものは落ちてくるという弾道ミサイルの特性があります。
短距離弾道弾は自衛隊の装備体系にないため、一種異質なものと受け止められがちではありますが、米軍では空軍のF-16戦闘機や海兵隊のAV-8にF/A-18C等が行う航空阻止任務が担っている分野で、逆に開発国の旧ソ連軍は第二次大戦中に航空優勢を喪失し航空支援を受けられない状況を多く経験したため発達したもの。
スカッドシリーズは旧ソ連により友好国へ多数が供与されており、湾岸戦争では供与を受けたイラク軍が100発程度を隣国サウジアラビアやイラクに発射しましたが、ソ連もアフガニスタン侵攻に際し2000発を発射しています。射程からは、軍団直轄の203mm重砲で届かない目標を狙う装備、ともいえるでしょう。
ただ、北朝鮮はスカッドミサイルを分解しデッドコピーの生産や、これらの開発と生産など技術蓄積を行った上で、拡大改良型といえる中距離弾道ミサイルノドンを開発しているため、一概に射程が届かないものとして対岸の火事を眺めるが如く楽観視する事は出来ないのですけれども。
他方で、北朝鮮は我が国周辺部で実施したミサイル実験に伴う国連安保理決議1695号により、弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止させることが求められ、弾道ミサイルに転用可能な実験を宇宙開発を含め禁止が盛り込まれていますが、旧ソ連により原型が開発されたスカッドのみを使用している、というのはある種の自制、というところなのでしょうか。
9日のミサイル発射は0400時よりやはり北朝鮮南西部の開城付近より2発が発射されておりスカッドミサイルによるものと考えられています。先月29日の発射は0500時頃に朝鮮半島東岸の元山付近より発射、こちらもスカッドミサイルによるものと考えられています。
なお、今回を含め三回にわたるミサイル発射は、共に船舶航空機への被害の情報はありません。今後、こうした訓練が恒常化してゆくのか、また、我が国を射程とする中射程弾道弾の強化と実験恒常化に繋がるのかが、我が国として最も注視するべき点、といえるでしょう。
北大路機関:はるな
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