北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:UH-X次期多用途ヘリコプターを考える⑧ 高性能ヘリコプター提案の背景

2014-07-03 23:58:22 | 先端軍事テクノロジー

◆中間報告、1:1代替の継続か否か 
 UH-Xに関する特集、間延びしてきましたので此処で一旦中間報告的な意味でまとめてみましょう。
Img_2103  統合機動防衛力、新防衛大綱に明示された陸上自衛隊の新しい運用戦略は、全国各地に同一編成の連隊戦闘団を配置させて全国に均衡な防衛基盤を配置する、という前提から離れて、平時には全国各地に駐屯する部隊が有事には警備管区を遠く離れて機動する、という態勢への転換を期したもの、従って、戦車を持たない旅団やヘリコプターの部隊間格差が平時に生じたとしても、其処が統合機動防衛力の主眼となるもので、有事の際には直ぐに必要な部隊を統合任務部隊に編入し機動させるので問題は無くなる、という。 
Gimg_6856  それならば、空中機動能力の位置づけはさらに重要になるわけで、特に管区を越えての機動力を考えれば広い日本の国土を防衛するには少数でも高性能な機体が必要になってくる、UH-X,完全に予算面から無理だけれども、NH-90かEC-725,40機でUH-1Jを100機、置き換えるという選択肢の合理性をちょっと算定中です、NH-90もEC-725も二機で一個小隊を空輸可能、軽輸送のほか軽車両の輸送も可能で、稼働率も兵站プログラムを逸脱しない限りかなり高い、が、両方とも一機あたり50億前後必要になる。 
Img_6960  すると、1:1で現行の定数を置き換える、という部分に拘るのか、否か。思い起こされるのは陸上自衛隊がかつてV-107をCH-47で代替した際に高性能化の代償として1:1で代替しなかったところです、AH-1SとAH-64Dもそうなる構想でした。そこで、量の輸送から質の輸送へ転換、多用途ヘリコプターを当面、方面航空隊に20機装備されているUH-1Jの後継機の面に特化して検討、特にAH-1S対戦車ヘリコプターの後継としてAH-64D/E戦闘ヘリコプターかEC-665戦闘ヘリコプターが導入された際に連携できる機種を想定し、航続距離と飛行能力に注目した結果、NH-90とEC-725を提示してみました。 
Hbimg_1180  高性能な機体の精鋭化、これは運用廃系の転換があります。大編隊のUH-1が一斉に中隊規模の兵員を降着させ、数派に分かれ一個大隊を空輸展開する、これがヴェトナム戦争時代のヘリボーン作戦で、日本でも映画の影響と自衛隊がUH-1を運用している関係でどうしてもこの印象が強いけれども、ヴェトナム戦争は来年で終戦40周年、この大量の機体を投入する戦術は半世紀近く前に構築された方式で、現代で強行すると大編隊はどうしても発見されやすく、携帯地対空ミサイルで大被害を受けかねない。 
Vimg_7999  UH-1Jですと、全天候輸送能力が限られるので有事の際は着上陸前の輸送を除けば後方輸送主体になり、この点はNH-90やEC-725にAW-101ならば戦闘地域に隣接する競合地域でも機体自衛装置と共に最小限の輸送は可能になるし、UH-1Jと違い軽車両を輸送可能、これは携帯SAMの脅威が競合地域に散在する場合、NH-90やEC-725とAW-101ならば競合地域から離れた地域に車両ごと人員輸送が可能だが、UH-1Jはバイク以上の車両は実用輸送出来ないので、徒歩兵員しか輸送できない、すると敵の近くまで飛ばなければならなくなる。 
Img_0560  実のところ、例えばヘリコプター隊を隷下に持つ第12旅団や第15旅団が、本部付のOH-6かLR-2のほか、ヘリコプターとUH-60JAとCH-60J/JAに統合しているところはまさにこの点にあると考えられ、例えばUH-60JAの8機とCH-47JAの8機からなるヘリコプター隊の整備費用を全てUH-1Jに充当したならば、50機近くのUH-1Jを取得できたわけですが、空輸できる人員は概ね同等で機数が増大した分、各方面へ展開できる機数や各連隊戦闘団に飛行隊を置けるという利点以上に、機体そのものが輸送できる装備の上限が厳しくなるという難点の方を重視し、UH-60JAとCH-47JAに集中した、といえるのかもしれません。
Uimg_2043  さて、多用途ヘリコプター、NH-90やEC-725を運用するならば、敵に近づかなくても部隊を展開できる、そして一機当たりの輸送能力が大きいのでUH-1では輸送できなかった重装備を輸送可能、車両化された81mm迫撃砲や技術研究本部が開発を進めるマイクロミサイルシステム、もちろん軽装甲機動車は輸送できないけれども現状でUH-60JAが高機動車を空輸しているのだから、高機動車の輸送は可能ということ、もともと陸上自衛隊は空中機動をかなり重視し、輸送ヘリコプター数などはその繁栄というべき規模がありますので、多少機数を精鋭化効率化したとしても総数では諸外国と比較し過度な僅少機数とはなりません。 
Iimg_0078  NH-90を8機配備した場合の同時輸送能力は160名・貨物37t、EC-725ならば232名・貨物46t、8機というのは旅団ヘリコプター隊、第12ヘリコプター隊と第15ヘリコプター隊の多用途ヘリコプター定数で、UH-1Jの現行方面ヘリコプター隊定数20機での空輸能力は220名・貨物36t、輸送能力はかなり差があるもUH-1Jと比べ機数が縮小しても対応しているといえるでしょう。それよりは運べる装備数と装備区分を多層化したほうが、単純な輸送量ではなく部隊が作戦行動を展開できる幅が広がる事でしょう。 
Img_9607  CH-47との運用の区分ですけれども、CH-47はCH-53等と並ぶ重輸送用のヘリコプターという位置づけで、93式近SAM,中距離多目的誘導弾、120mm重迫撃砲RT,軽装甲機動車、3t半/73式大型トラック、中型ドーザー、低空レーダ装置、在れば便利な装備を全部運べるものの機体が非常に大型で地形追随の匍匐飛行能力に限界があるほか、野戦整備性はNH-90とEC-725と比較した場合、かなり大きなものがあるので、このあたり棲み分けが出来る、重輸送ヘリコプターと多用途ヘリコプターの区分はこのあたりか、と。
Img_8454  高性能な機体を提示した背景にはこうした意図があったわけですが、必然的に1:1の代替は予算面から難しくなるわけです。無論、1:1で代替することは望ましいのは言うまでもありませんが、高性能な機体を導入し部隊数を整理したとしても部隊全般の機動力を高めるのか、機数を維持して部隊数も維持に繋げ、結果、基盤的防衛力維持に近い体制を維持するのか、という視点との比較になるのです。もっとも、多用途ヘリコプターの任務に連絡任務や観測任務等を含めるならば過度に大型の機体は使えないものとなりますので、併せて軽多用途ヘリコプター、連絡と観測用のヘリコプターが併せて必要になる事は言うまでもありません。

北大路機関:はるな

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