■実録:弾道ミサイル防衛戦
現在、中国四国地方へ北朝鮮ミサイル落下の可能性へ備え、ミサイル防衛部隊が展開していますが、万一の際に実際にはどのように迎撃が行われるのでしょうか。
北朝鮮弾道ミサイルが日本上空を通過してグアムを狙う。ミサイルが日本上空通過の際にミサイルから切り離されたブースター部分等が落下する可能性や、大気圏外に出る際の摩擦熱によりミサイルが分解し本土へ落下の危険があり、懸念が現実となった際は国民保護法に基づきJアラートを発する。ピンときません、そこで過去の歴史をみてみましょう。
1991年1月18日、8発のスカッドミサイルが突如イスラエルに落下しました。これはイラク軍が隣国ヨルダンを越えてイスラエルへスカッドミサイルを撃ち込んだもの。当時イラクは隣国クウェートを武力併合し、国連安保理による制裁と撤兵要求を受けていました。そこでイラクは無関係なイスラエルを攻撃、第五次中東戦争を誘発させようとしたのです。
イラクがイスラエルを攻撃した思惑は、クウェート占領によるイラクと国際社会の対立、という構図を、イスラエルが報復にイラクを攻撃する事で中東の反イスラエル諸国を巻き込み、中東とイスラエル及び欧米、という対立構造に転化させようとしたものです。アメリカは第五次中東戦争を回避する為、在欧ミサイル迎撃部隊をイスラエルに派遣しました。
スカッドミサイルはイラク国内のシリア国境付近から500km先のイスラエル事実上の首都テルアビブと港湾都市ハイファを狙い発射、宇宙空間へ最高高度150kmの放物線を描き落下します。アメリカ軍はこのミサイル探知に赤道上36000km静止衛星軌道上に展開させる弾道ミサイル監視用DSP衛星を用いました、ソ連の核攻撃を警戒するための人工衛星です。
DSP衛星には2000個の赤外線センサーが搭載されており、地球上から大気圏外に高熱を発し飛翔するあらゆる物体の赤外線を探知します。この情報はオーストラリア国内の米軍衛星中継通信基地を経て、サウジアラビアのアメリカ軍中央軍総司令部へ送信、ここからイスラエルへ展開した迎撃ミサイル部隊へ送信、部隊は着弾5分前に警報受信できました。
アメリカ軍がイスラエルへ展開させたのはペトリオットPAC-2地対空ミサイルです。射程100kmの対航空機用ミサイルですが、高速で飛来する弾道ミサイルに感知し爆破する新型シーカーを搭載し、限定的ですが弾道ミサイルを迎撃できるものでした。この1991年当時には弾道ミサイルに直撃し撃墜する現行のペトリオットPAC-3はまだ開発されていません。
スカッドミサイルは150kmを頂点とし、放物線を描いて落下します。この速度はマッハ6からマッハ7に達し、秒速2.5kmという高速で接近します。ペトリオットミサイルの射撃管制レーダーMPQ-53はフューズドアレイレーダーにより高度80kmの距離で落下する弾道ミサイルを検知します、DSP衛星の情報に基づき飛来方向と時機は判明しているもの。
ペトリオットPAC-2地対空ミサイルは射撃管制レーダーMPQ-53が発見した目標は射撃要員2名が乗車するECSシェルターへ通知され半自動で射撃管制装置AN/MSQ-104により情報処理し、正確な座標を標定します。同時にMPQ-53は目標を追尾、このミサイルの情報は指揮下のミサイル発射装置へAN/MRC-137無線中継装置を通じ瞬時に送られます。
この間僅か十秒、M-901発射機からMIM-104ペトリオットミサイルが発射されます。しかし、一瞬の時間ではありますが、それ以上に弾道ミサイルは高速でMIM-104ペトリオットミサイルが発射された瞬間には、既に高度30kmまで落下しているのです。ペトリオットミサイルは万全を期して、一発のスカッドミサイルへ二発が発射、高速で上昇してゆく。
MIM-104ペトリオットミサイルはマッハ5で急上昇してゆきます。落下するスカッドミサイルは当初マッハ7の極超音速ですが大気圏再突入の空気摩擦により僅かに減速しマッハ6へ、しかし相対速度はマッハ11という。しかし、重力に逆らって上昇するペトリオットよりも重力に従って落下するスカッドの方が早く、高度4km、即ち4000m上空で会的する。
PAC-2は対航空機用として目標付近でさく裂し、大量の破片と爆風により航空機を破壊するものです。これは揚力により飛行する航空機や巡航ミサイルを撃墜するには最適の方策ですが、落下する弾道ミサイル付近でさく裂したとしても、結局は落ちてくる。しかし、弾頭機能不随に追い込めば地上での爆発を回避できますし、落下位置を逸らせるでしょう。
スカッドミサイルの威力は大したことはありません、と識者が述べた場合でも直撃地域では看過できない被害をもたらします。イスラエルのテルアビブ住宅街へ落下したスカッドは半径100mの集合住宅や民家を全壊させ住民を殺傷すると共に、300m以内に爆風被害による負傷者を出しました。弾道ミサイルの威力は爆弾テロ等とは破格に違う脅威なのです。
ペトリオットミサイルとスカッドミサイルの高度4000mでの空中決戦は、少なくともイスラエル軍がイラク攻撃へ踏み切る事だけは回避する政治的役割を果たしました。一方で直撃しなければ破壊できないとして、やはり対航空機用と対巡航ミサイル用の地対空ミサイルを弾道ミサイル迎撃へ転用する事の難しさを端的に示し、これがPAC-3開発へ繋がる。
イラク国内のスカッドミサイルは、アメリカイギリスとサウジアラビア主導の多国籍軍が膨大な航空戦力による徹底した爆撃と、特殊部隊のイラク国内浸透によるスカッドミサイル部隊への直接攻撃により徐々に縮小しましたが、1991年の湾岸戦争ではイラク軍はイスラエルとサウジアラビア等へ88発のスカッドミサイルを発射、その都度緊張が走りました。
ペトリオットミサイルは158発が発射されています。これは明らかに人口密集地域外に落下するスカッドミサイルは迎撃されなかった為ですが、イラク軍は大量の化学兵器を保有し、その一部はイランイラク戦争において使用されていました。化学兵器が内蔵されていないか、スカッドミサイルの迎撃任務は戦争全般で、非常な緊張を強いられたとの事です。
北大路機関:はるな くらま
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現在、中国四国地方へ北朝鮮ミサイル落下の可能性へ備え、ミサイル防衛部隊が展開していますが、万一の際に実際にはどのように迎撃が行われるのでしょうか。
北朝鮮弾道ミサイルが日本上空を通過してグアムを狙う。ミサイルが日本上空通過の際にミサイルから切り離されたブースター部分等が落下する可能性や、大気圏外に出る際の摩擦熱によりミサイルが分解し本土へ落下の危険があり、懸念が現実となった際は国民保護法に基づきJアラートを発する。ピンときません、そこで過去の歴史をみてみましょう。
1991年1月18日、8発のスカッドミサイルが突如イスラエルに落下しました。これはイラク軍が隣国ヨルダンを越えてイスラエルへスカッドミサイルを撃ち込んだもの。当時イラクは隣国クウェートを武力併合し、国連安保理による制裁と撤兵要求を受けていました。そこでイラクは無関係なイスラエルを攻撃、第五次中東戦争を誘発させようとしたのです。
イラクがイスラエルを攻撃した思惑は、クウェート占領によるイラクと国際社会の対立、という構図を、イスラエルが報復にイラクを攻撃する事で中東の反イスラエル諸国を巻き込み、中東とイスラエル及び欧米、という対立構造に転化させようとしたものです。アメリカは第五次中東戦争を回避する為、在欧ミサイル迎撃部隊をイスラエルに派遣しました。
スカッドミサイルはイラク国内のシリア国境付近から500km先のイスラエル事実上の首都テルアビブと港湾都市ハイファを狙い発射、宇宙空間へ最高高度150kmの放物線を描き落下します。アメリカ軍はこのミサイル探知に赤道上36000km静止衛星軌道上に展開させる弾道ミサイル監視用DSP衛星を用いました、ソ連の核攻撃を警戒するための人工衛星です。
DSP衛星には2000個の赤外線センサーが搭載されており、地球上から大気圏外に高熱を発し飛翔するあらゆる物体の赤外線を探知します。この情報はオーストラリア国内の米軍衛星中継通信基地を経て、サウジアラビアのアメリカ軍中央軍総司令部へ送信、ここからイスラエルへ展開した迎撃ミサイル部隊へ送信、部隊は着弾5分前に警報受信できました。
アメリカ軍がイスラエルへ展開させたのはペトリオットPAC-2地対空ミサイルです。射程100kmの対航空機用ミサイルですが、高速で飛来する弾道ミサイルに感知し爆破する新型シーカーを搭載し、限定的ですが弾道ミサイルを迎撃できるものでした。この1991年当時には弾道ミサイルに直撃し撃墜する現行のペトリオットPAC-3はまだ開発されていません。
スカッドミサイルは150kmを頂点とし、放物線を描いて落下します。この速度はマッハ6からマッハ7に達し、秒速2.5kmという高速で接近します。ペトリオットミサイルの射撃管制レーダーMPQ-53はフューズドアレイレーダーにより高度80kmの距離で落下する弾道ミサイルを検知します、DSP衛星の情報に基づき飛来方向と時機は判明しているもの。
ペトリオットPAC-2地対空ミサイルは射撃管制レーダーMPQ-53が発見した目標は射撃要員2名が乗車するECSシェルターへ通知され半自動で射撃管制装置AN/MSQ-104により情報処理し、正確な座標を標定します。同時にMPQ-53は目標を追尾、このミサイルの情報は指揮下のミサイル発射装置へAN/MRC-137無線中継装置を通じ瞬時に送られます。
この間僅か十秒、M-901発射機からMIM-104ペトリオットミサイルが発射されます。しかし、一瞬の時間ではありますが、それ以上に弾道ミサイルは高速でMIM-104ペトリオットミサイルが発射された瞬間には、既に高度30kmまで落下しているのです。ペトリオットミサイルは万全を期して、一発のスカッドミサイルへ二発が発射、高速で上昇してゆく。
MIM-104ペトリオットミサイルはマッハ5で急上昇してゆきます。落下するスカッドミサイルは当初マッハ7の極超音速ですが大気圏再突入の空気摩擦により僅かに減速しマッハ6へ、しかし相対速度はマッハ11という。しかし、重力に逆らって上昇するペトリオットよりも重力に従って落下するスカッドの方が早く、高度4km、即ち4000m上空で会的する。
PAC-2は対航空機用として目標付近でさく裂し、大量の破片と爆風により航空機を破壊するものです。これは揚力により飛行する航空機や巡航ミサイルを撃墜するには最適の方策ですが、落下する弾道ミサイル付近でさく裂したとしても、結局は落ちてくる。しかし、弾頭機能不随に追い込めば地上での爆発を回避できますし、落下位置を逸らせるでしょう。
スカッドミサイルの威力は大したことはありません、と識者が述べた場合でも直撃地域では看過できない被害をもたらします。イスラエルのテルアビブ住宅街へ落下したスカッドは半径100mの集合住宅や民家を全壊させ住民を殺傷すると共に、300m以内に爆風被害による負傷者を出しました。弾道ミサイルの威力は爆弾テロ等とは破格に違う脅威なのです。
ペトリオットミサイルとスカッドミサイルの高度4000mでの空中決戦は、少なくともイスラエル軍がイラク攻撃へ踏み切る事だけは回避する政治的役割を果たしました。一方で直撃しなければ破壊できないとして、やはり対航空機用と対巡航ミサイル用の地対空ミサイルを弾道ミサイル迎撃へ転用する事の難しさを端的に示し、これがPAC-3開発へ繋がる。
イラク国内のスカッドミサイルは、アメリカイギリスとサウジアラビア主導の多国籍軍が膨大な航空戦力による徹底した爆撃と、特殊部隊のイラク国内浸透によるスカッドミサイル部隊への直接攻撃により徐々に縮小しましたが、1991年の湾岸戦争ではイラク軍はイスラエルとサウジアラビア等へ88発のスカッドミサイルを発射、その都度緊張が走りました。
ペトリオットミサイルは158発が発射されています。これは明らかに人口密集地域外に落下するスカッドミサイルは迎撃されなかった為ですが、イラク軍は大量の化学兵器を保有し、その一部はイランイラク戦争において使用されていました。化学兵器が内蔵されていないか、スカッドミサイルの迎撃任務は戦争全般で、非常な緊張を強いられたとの事です。
北大路機関:はるな くらま
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