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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

和歌山県沖に中国H-6爆撃機編隊出現!,北朝鮮ミサイル演習とロシアTu-95爆撃機列島周回

2017-08-28 20:00:12 | 防衛・安全保障
■日本列島周辺空域の緊張
 富士総合火力演習予行を撮影し終えた際、北朝鮮がミサイル三発を日本海に向け発射した事を知りました。撮影機材の準備中に中国爆撃機編隊和歌山沖出現の報道を聞いており、重ね重ねの緊張要素に驚かされました。

 今月24日木曜日、中国空軍のH-6爆撃機6機が紀伊半島沖へ進出しました。航空自衛隊は対領空侵犯措置任務として戦闘機を緊急発進させ対応しましたが、紀伊半島沖まで爆撃機が進出するのは極めて異例です。何故ならば、中国機が沖縄県や鹿児島県島嶼部等の南西諸島を越えて太平洋へ爆撃機を進出させる事は数年前まで稀有であり、それだけ衝撃です。

 H-6爆撃機6機は台湾海峡北部沿岸の福州方面から沖縄本島と宮古諸島の中間にある宮古水道方面を飛行し太平洋方面へ進出、沖縄本島奄美大島と大東島の中間水域上空を通過し、南九州日向灘沖を四国沖へ飛行、紀伊半島和歌山県の串本南方海域まで進出した後、旋回し、同じ経路を飛行、中国本土へと飛び去りました。領空侵犯事案へは至っていません。

 中国爆撃機がグアム方面へ初めて南西諸島中間を通過したのは2015年11月27日で、この際にはH-6爆撃機8機、TU-154情報収集機1機、Y-8情報収集機1機、Y-8早期警戒機1機、合計11機という規模でしたが、今回もH-6爆撃機の6機編隊という大きな編隊でした。この前日にはロシア軍の戦略爆撃機Tu-95の長距離飛行があり、緊急発進を行っています。

 和歌山県沖に進出したH-6爆撃機、機体そのものの原型機は1952年初飛行の旧型機ですが、エンジン改修や電子装置換装と改良型を開発し続けており、更にCJ-10A巡航ミサイルを搭載するミサイル爆撃機です。CJ-10Aは射程2500kmとされ6発搭載、H-6爆撃機の戦闘行動半径が3000kmを越え非常に大きく、最新型のH-6Kは現在も生産が継続されています。

 中国空軍幹部養成機関北京空軍指揮学院が2014年12月に発表した空軍長期戦略報告書では、制空権の確保に向けて偵察力や攻撃力を日本周辺も含め西太平洋まで広げると明記、新型戦略爆撃機や地上配備型迎撃システム等9種の戦略装備開発増強を発表しており、2015年のグアム方面進出から今回の紀伊半島沖進出は同じ延長線上にある事が分かります。

 ロシア機の日本海及び太平洋における飛行事案は、中国機の飛行前日に当たる8月23日に発生しました。ロシア空軍Tu-95爆撃機2機が日本海から太平洋に進出し、北海道から本州九州及び四国と沖縄南西諸島沖を飛行する長距離飛行を実施、航空自衛隊は対領空侵犯措置任務として戦闘機を緊急発進させ対応しました。Tu-92爆撃機は大型の戦略爆撃機です。

 Tu-95爆撃機は朝鮮半島の北部方面から日本海を島根県竹島西方空域を経由し、長崎県対馬東方海域上空を飛行し、壱岐北方空域を韓国済州方面へ飛び去りました。しかし、その暫く後、今度は宮古諸島北方空域を南下する経路を飛行し、そのまま宮古水道の沖縄本島沖を飛行、九州四国沖を飛行した後、伊豆大島南方海域を抜け、本州東北沖へ飛行しました。

 日本海から南シナ海を抜け太平洋上に出たTu-95爆撃機は東京と東北地方沖を北海道沖に飛行、襟裳岬沖で北方領土方面へ進路を変え、その後、国後島北方海域上空から樺太上空を抜け、ロシア本土へと戻ってゆきました。対馬海峡上空や伊豆大島南方海域を飛行しましたが、航法は正確で、狭水道上空を飛行しつつも領空侵犯事案には至っていません。

 北朝鮮が26日、北朝鮮東部より日本海へ向け、ロシア中国の爆撃機飛行に続く形で長距離ロケット弾実験を実施しました。0649時から0719時までの30分間に、短距離弾道ミサイル3発を発射し、内2発が250kmを飛翔、アメリカ太平洋軍の発表です。韓国側の分析では長距離ロケット弾であるとしています。前者には誘導装置があり、後者は無誘導です。

 250kmでは無誘導は厳しい。ブラジルが誇るASTROS-SS8-で80km、ロシア製BM-30ロケット発射装置用の2014年に完成した9A52-4タルナードは90kmの射程を有しますが、無誘導ロケットではこの当たりが限度で、自衛隊のMLRS等は無誘導では射程30kmで運用終了のM-26までであり、射程70kmのM-31はGPS誘導のミサイルとなっています。

 スカッドミサイルであった可能性があり、北朝鮮はグアムへのミサイル発射を宣言、アメリカと激しく対立していると同時に、グアムへのミサイル発射宣言後、我が国の島根県広島県及び高知県上空を弾道ミサイルが通過する事を通告し、航空自衛隊は万一の落下物に備え、中部地方よりペトリオットミサイルPAC-3迎撃部隊を展開させた最中の事でした。

 中国爆撃機編隊の紀伊半島沖初進出、ロシア軍爆撃機の日本列島周回飛行、北朝鮮の日本海への弾道ミサイルの可能性がある発射事案、先週一週間は緊張の連続でした。自衛隊緊急発進の回数が1100回を越えた事で安全保障面の懸念が強く関係者の間で認識された昨年度に続き、今度は脅威方面が従来想定しなかった広範囲へ及ぶ新しい問題と向き合わねばならない状況が現実となりつつあります。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (1)
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