北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

グアム狙う北朝鮮火星12弾道弾,観光地グアム国際空港年間発着旅客機37000便に迫る危険

2017-08-13 20:04:39 | 防衛・安全保障
■グアム八月ミサイル危機の影響
 北朝鮮がグアムへ新型中距離弾道弾火星12型を4発発射するとの声明を発表し、グアム八月ミサイル危機が勃発し四日が経ちました。グアムは在留邦人と渡航者も多数います。

 グアムへ北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合、グアム島の邦人保護を真剣に検討しなければなりません。グアム島の在留邦人は領事館届出者で4400名、更に年間75万の邦人観光客が訪れています。日帰り旅行地ではない為、訪問者の多くが数日間滞在します。グアム島内を照準するものでは現時点で無いとの事ですが、その緊張度は確実に増すでしょう。しかし、即座の脅威として、周辺海域へミサイルを照準するという事は飛行する旅客機へ危険が及ぶ事を意味する事を忘れてはなりません。

 グアム島はマリアナ諸島にあるアメリカ準州で、太平洋戦争では日本陸軍が上陸し占領しましたが、激戦の末19000名の戦死者を出し敗北に追い込まれた後、アメリカ陸軍航空隊の一大拠点となり、サイパン島と共に日本本土への戦略爆撃拠点となりました。そして戦略航空拠点として、東西冷戦下の朝鮮戦争やヴェトナム戦争等で機能し、今日に至ります。

 アンダーセン空軍基地はグアム島の象徴的な軍事施設で、北朝鮮がグアムに照準を合わせ恫喝を行うのはこの基地への牽制が大きなものです。アンダーセン基地は3500m滑走路2本を有する飛行場施設、第36航空団が展開しています。第36航空団は9000名を以て基地管理任務に当りますが、ロシアや中国からの距離が大きく戦闘機部隊等は常駐していません。しかし、第28爆撃航空団や第7爆撃航空団、第53航空団のB-1B戦略爆撃機がローテーションで常時展開し警戒する。

 北朝鮮の火星12型ミサイル発射計画に際し、最も懸念されるのは国際航空航路へのミサイル着弾による安全性の問題と観光業への打撃です。グアムは太平洋上の離島である為、基本、旅客機でなければ行く事が出来ません。続いて水深の深いアプラ港はクルーズ船寄港地として人気です。何れにせよ火星12型ミサイルの着弾想定海域を通る必要があるのです。

 グアム国際空港は3000m級滑走路2本を有する空の玄関口で、毎年37000便の旅客機が乗り入れ発着しています。サイパン等マリアナ諸島とを結ぶ小型旅客機以外にはワイドボディの緒方旅客機も多く乗り入れていまして、24時間空港でありユナイテッド航空や日本航空、大韓航空やチャイナエアライン等の毎日100便以上が発着している計算となる。ミサイル発射情報に応じ旅客機は空中退避かサイパン国際空港や自衛隊南鳥島飛行場へ退避しなければなりません。

 南洋の楽園として国際観光の一大拠点というグアム、アメリカ準州であるグアム島、その面積は549㎢となっていまして、グアム島の面積は沖縄本島の1206㎢の半分以下、対馬の696㎢よりも狭く、瀬戸内海最大の離島である淡路島の592㎢とほぼ同じ大きさです。日本からはハワイよりも近く、治安も安定し英語圏である為、ハワイと並び人気観光地です。

 グアム島の人口は16万2000名ですが年間観光客数は150万名を越えています。離島であり人口も限られる事から工業開発等は殆ど無く、連邦政府補助金と米軍施設関連公共事業に依存するほか、独自の産業として1990年代から強化しているのが、上掲の観光業です。夏休みのお盆の時期という事で日本からグアムへ旅行に行かれる方も多い時期ですが、こうした日本からの観光需要に加え、近年は中国や韓国からの観光客が急激に増大しているところ。

 観光業への悪影響はグアムに打撃を与え、ミサイル発射に伴う長期間の航空航路影響の可能性は看過できぬ問題です。弾道ミサイル発射に伴う旅客機への影響ですが、先日の北海道沖へのミサイル着弾に際し、東京発パリ行エールフランス機旅客機がミサイル弾道の数分前を飛行していたことが判明し、民間航空航路へのミサイル脅威が強く指摘されました。

 エールフランスやKLMオランダ航空は北朝鮮周辺空域の飛行回避経路を画定、これにより国際航空航路の所要時間は概ね10分から15分の飛行時間延長を余儀なくされています。また、先日の北朝鮮ミサイル事案に際してはロフテッド軌道による長い飛行時間中、スカイマーク等国内線旅客機が長時間離陸を見合わせていた事も報じられ影響は大きいのです。紛争への巻き添えといえば、ウクライナ東部紛争で撃墜されたマレーシア航空等の悲劇を思い出すところで、こうした悲劇の危険性は看過できません。

 日本が求められるグアムミサイル危機への対応は何か、SM-3により発射直後の弾道ミサイルを北朝鮮近海から撃墜する事でも、F-2支援戦闘機により北朝鮮周辺へのJDAM誘導爆弾を搭載しての示威飛行でも、アメリカの弾道ミサイル防護に当るイージス艦への給油支援でも無いでしょう。一番日本に求められるのはグアム周辺の旅客機保護ではないか、と。

 自衛隊はグアム周辺に硫黄島航空基地と南鳥島飛行場を有しています。ミサイル警報が発令されると同時にグアム国際空港への着陸中の旅客機は着陸を中断する必要があります。火星12弾道ミサイルと、グアムに配備されているアメリカの弾道ミサイル防衛用迎撃ミサイルTHAADによる迎撃の可能性が高まる為で、特にグアム近海ではなくグアムへラカする経路を採っているとレーダーにより標定判断された場合には迎撃が行われましょう。THAADは対弾道弾専用であり旅客機を五照準する可能性はありませんが、破片の危険性はあります。この為に着陸を一旦中止し退避せねばならない。

 硫黄島航空基地と南鳥島飛行場はグアムに近い飛行場です。マリアナ諸島にはグアム国際空港に加え、サイパン国際空港やテニアン国際空港、ロタ国際空港があります。しかしグアムとサイパンは200kmあり距離を感じるものの、サイパンとの弾道弾経路の重複という問題があり、これら自衛隊飛行場への旅客機大量緊急着陸の受け入れ準備が必要でしょう。

 南鳥島飛行場と硫黄島航空基地は一定の離隔距離があり、これだけ距離があれば、弾道ミサイルが再突入に失敗し、弾頭部分に併せミサイル本体部分が爆散した場合でもその破片被害から免れます。こうして安全性を確保出来る二つの飛行場は自衛隊が管理しており、これまで旅客機緊急着陸を受け入れた事例が多くあります。グアムへの旅客機の経路変更や引き返す場合には、日本本土の空港や大陸の空港施設まで器材トラブルや燃料不足等状況にて、代替飛行場として機能すると考える。

 北朝鮮のミサイル発射自粛を第一に期待したいところです。現段階ではミサイル発射命令は政権より出されておらず、北朝鮮戦略ミサイル軍が検討している事を北朝鮮メディアが繰り返し報じている段階です。発射中止は北朝鮮がアメリカの発射中止圧力に屈する構図を北朝鮮国内へ印象付ける事となりますが、発射さえ行わねば、まだ引き返す事は可能だ。

 国連経済制裁の緩和は、今回北朝鮮がグアムへのミサイル発射を宣言させた最大の要因でしょう。しかし、ミサイルでグアムを恫喝した場合でも、経済制裁解除は北朝鮮のミサイル開発と核開発を停止させなければ不可能です。そしてミサイル開発能力を誇示しアメリカより譲歩を引き出す事が開発の主眼ですが、日本海のみにミサイル発射を限定していた場合、肝心のアメリカへ圧力を掛けられない事が自明である以上、いつかはグアム方面や太平洋上へ弾道ミサイル実験を行う必要が生じる。

 経済制裁に北朝鮮が耐えきるか、ミサイル開発を停止させるか、という重要な分岐点に到達している北朝鮮ですが、此処は引き返せない。先日のミサイル実験により、北海道から弾道ミサイルの落下が見える程の近距離に落下した事で、国連加盟国大半の態度硬化を招き、現在の経済制裁は、既に引き返せないところまで到達した結果と云わざるを得ません。

 更なる経済制裁は中朝国境完全閉鎖、国境橋梁封鎖による物理的閉鎖措置ですが、現時点であれば中国政府は人道上物資搬送を含め中朝国境閉鎖へは踏み切らないでしょう。しかし、今回の経済制裁へ中国が賛同した異例の状況は北朝鮮を驚かせたことでしょうが、今回のグアムへのミサイル発射計画に対し、中国側は冷静を呼び掛けるだけで事実上の静観の姿勢を採っています。一方で、グアムへミサイルを発射したらば、グアムは前述の通り中国人観光客の渡航が多く、グアムへミサイル発射は中国の青島沖や台湾海峡方向へ発射した場合に準じて反発を招く。

 グアムは軍事基地であると同時に国際観光地です。民間航空航路へのミサイル脅威の影響という最大の要因は此処にありますが、この点は沖縄やハワイ、ニューカレドニアと同じですが、その背景には工業地や天然資源の無い離島に観光地としての空港や道路網等インフラを整備するには軍事基地という公共投資があって大きく前進するためといえます。こうした観光地、世界中の人々が散策する地域への平時のミサイル発射予告は、常軌を逸していると云わざるを得ないでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (1)
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